ヒューマンライツの
学びから
自分ごととして
とらえた社会問題

掲載日 2021/4/23
No.75
時事通信社仙台支社編集部
法学部卒業
村上 顕也

OVERTURE

大学での学びのフィールドは、キャンパス内のみならず、海外留学やインターンシップ、ボランティアを通じて世界中に広がっています。
ヒューマン・ライツコースでの学びを通して、ジャーナリストを志した村上さんは、通信社の記者として報道の現場で活躍しています。

※2022年度 法学部ヒューマンライツ学科設置予定(設置届出中)

読む人の心に残る
記事を目指して

現在は時事通信社の記者として仙台支社に所属し、主に地域等のニュースの取材や記事執筆に携わっています。宮城県で起きた大きな事件や出来事を県外の報道機関へ配信したり、また自治体に対して行政関連の詳細な情報を提供したりするなど、契約先が求める専門性の高いニュースを配信しています。通信社は、自社サイトやネットニュースなどで一般の方へも情報をお届けしていますが、新聞社やテレビ局が利用するニュースを配信する卸問屋としての役割もあります。

取材相手として接する機会が一番多い機関は警察で、事件や事故などが起これば速やかに電話をかけたり警察署や現場に出かけたりしますし、県庁や市役所など行政の担当者にも頻繁に取材を行っています。いつ何が起こるか分からないのでなかなか県外へ出られず、休日でも大きな出来事があれば取材で走り回っています。2021年の2月13日、宮城県で最大震度6強を観測した地震が発生したのも休日の深夜でしたが、自宅から情報が集まる宮城県の県警本部に駆け付けて各地の状況を確認し、翌朝には被害が大きかった地域に取材に向かいました。緊張感を伴う大変な仕事ですが、大学時代から報道を志していたのでやりがいは大きく、分かりやすい言葉で事実をきちんと伝え、読む人の心に残る記事を書くよう心がけています。

取材時に撮影した写真(時事)
掲載記事:地元町議会、再稼働容認 女川原発2号機―宮城

胸に刺さった恩師の言葉でヒューマン・ライツコースへ

元々政治や法律といった分野への関心が高く、またグローバル化がさらに進むことも視野に入れ、国際色豊かで英語教育が充実している青山学院大学の法学部に入学しました。
授業の中で最も印象に残っているのは1年次に受講した「ヒューマン・ライツの現場A・B」という科目です。人権に関わる社会問題を描いたドキュメンタリー映像の視聴を通して、戦争や貧困、過労死といった目を覆いたくなるような現実を目の当たりにしました。高校までとは次元の異なる内容で、今までの自分の認識を一気に覆されたように思いました。特に孤独死の回は、偶然にも私が通っていた高校の近隣で起きた出来事を扱っており、「すぐそばで、こんなことが……」と受けた大きな衝撃は忘れられません。自分の無知を痛感すると同時に、こうした問題を解決するには何をすべきか真剣に考えを巡らせました。

この「ヒューマン・ライツの現場A」の初回で、大石泰彦先生がおっしゃった「問題意識を持てば人間、何でもできる。その問題意識を見つけるのがヒューマン・ライツコースだ」という言葉が深く胸に突き刺さりました。入学したばかりで修学コースを何にするか迷っている最中でしたが、先生の熱意に打たれ、ヒューマン・ライツコースで学びを深めることを決意しました。
3年次から始まるゼミナールでは大石先生のもとでメディア法を学び、表現の自由やメディア倫理の研究を通して人権に関する知識を深めました。先生の教えが人生に多大な影響を及ぼし、ジャーナリストの道へ進むきっかけをつくってくれたのだと感じています。

大石ゼミナール(本人前列中央)

※2022年度 法学部ヒューマンライツ学科設置予定(設置届出中)

学内で底上げした英語力、留学で身についた国際感覚

3年次後期から4年次前期までの約1年間は、協定校留学の制度を利用してアメリカのフロリダ大学で学び、ジャーナリズムや政治の授業を履修しました。この留学を通して、英語力が格段に向上したのはもちろんのこと、ジャーナリズムの本場アメリカでの学びは大きな収穫となり、同じ志を持つ学生たちとの交流も刺激的で、彼らの多様性にも驚かされました。寮にはLGBTであることを平然とカミングアウトしている友人もいて、日本人との意識の違いを肌で感じ、視野を広げられたと思います。渡米以前は当たり前に思っていた自分の感覚が国際的にはズレていると気づくことも多く、初めて自分を客観的に見つめられた素晴らしい機会となりました。

フロリダ大学留学時の仲間たち(本人中列中央)

協定校留学は、単位認定制度により4年間で卒業できるメリットがありますが、その資格条件をクリアするには高い英語力や学力が求められます。そのため2年次には、ネイティブスピーカーの先生による少人数クラスの、オーラル・イングリッシュの授業や英語能力試験対策講座などの科目も積極的に履修し、語学力の底上げを徹底しました。また、留学生と直接会話ができるチャットルームも活用していたので、英語力を向上させる環境には恵まれていたと思います。
青山学院大学卒業後は一時、製造業界で人事の仕事をしていましたが、大学での学びを生かしたいという思いが強まり、ステップアップを目指してスコットランドのエジンバラ大学法科大学院に入学してヒューマンライツを専攻しました。弁護士や国連職員を目指す人、国の省庁から派遣された人など、多方面での活躍を志す学生たちと世界の人権問題について考えながら、自分がその解決に役立つ道はやはりジャーナリズムだと再確認できました。この留学で法学修士を取得後、2019年に帰国してから時事通信社に入社し、仙台支社に配属されて現在に至ります。

記者として根底に持つ
ヒューマンライツの精神

仙台という土地柄、東日本大震災に関する取材も多く行いますが、わざわざ時間を割いてつらい過去を思い出していただく以上、取材に応じて良かったと感じてもらえるよう、相手に寄り添う姿勢を大切にしています。先日、東日本大震災に関する取材をした方から「私の思いがギュッと詰まった温かい記事でした。ありがとうございます」というメッセージをいただき、私も胸が熱くなりました。
一方で、遠くにいる人がニュースを自分ごととして捉える難しさも痛感しています。私自身、東日本大震災当時は東京に住んでいましたが、実際にこの目で見た被災地は、想像していたものとは全く異なっていました。その体験があったからこそ、取材を受けた方の気持ちを無駄にしないためにも、何が最良かしっかり考えながら情報を発信しています。

東日本大震災やそれに伴う原子力発電所の事故を受け、被災された多くの方々の人権が侵害され、その状況は今なお続いています。ヒューマンライツと言うと、どこか他人ごとのようにも思われがちですが、災害や事故がいつ誰に降りかかってもおかしくないように、実は社会に広く潜むとても身近な問題です。報道を通じて社会問題を伝えながら、それが決して他人ごとではないと感じてもらい、民主主義の力で状況を改善する手助けができれば。その思いを胸に、分かりやすく正確で、少しでも身近に感じてもらえるニュースをお届けできるようこれからも努めていきます。

村上さんの1日

  1. AM 8:00

    起床。
    朝食を取りながら録画していたニュースや各紙の朝刊を確認。

  2. AM 10:00

    所属している宮城県の県庁と県警の記者クラブに出社。
    プレスリリースや1日の予定を確認し、県警の幹部に会って新たに発生した事件事故や捜査の状況を質問する。

  3. AM 11:30

    お昼を食べながらテレビ各社の昼のニュースを確認。

  4. PM 1:00

    裁判所の記者クラブに向かい、裁判期日の確認や裁判傍聴をする。

  5. PM 3:00

    県内の自治体が主催するイベントや会見を取材する。

  6. PM 5:30

    県庁の記者クラブに戻る。
    県内の新型コロナウイルスの新規感染者数を確認し、本社に報告。クラスターの発生などがあれば担当課に適宜確認を取る。

  7. PM 6:30

    明日の予定や原稿の確認をして帰宅。
    帰宅後は、取材先や同業他社の友人と情報交換をしたり、近所のジムで汗を流したりと自由に過ごす。

卒業した学部

法学部

“AOYAMA LAW”の通称をもつ青山学院大学の法学部は、弁護士、検察官、裁判官などの法曹を目指すだけでなく、青山学院の建学の精神に立脚しつつ、人間的素養と法学的基礎を備えて社会の多様なニーズを識別し、複雑な事象の科学的分析を行える応用力を身に付けます。社会で必要とされる能力を発揮して自らの道を切り拓くことができる人材を育成します。そして、この人材育成のプロセスを通じて、法的な課題・紛争を客観的に分析して的確かつ公正な判断を行うだけでなく、その判断と理由について他者と理解を共有し、課題・紛争を解決に導くことのできる能力の養成を重視しています。

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青山学院チャットルーム

青山学院チャットルームは、青山学院大学に在籍する留学生が担当する「チャットリーダー」と、外国語(英語・中国語・韓国語等)によるコミュニケーションを通じて、国際交流ができる場です。グループや1対1で、チャットリーダーとお互いの文化や生活などについての会話を楽しみながら、いろいろな発見や学びを得ることができます。
留学生向けとして、日本語チャットルームも開催しています。

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