申教授からの
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申 惠丰
本ゼミナール(ゼミ)がテーマとする「国際人権法」とは、国際法の中でも人権保障を対象としたものです。第二次世界大戦の惨禍に対する反省を背景として生まれたもので、日本も多くの人権条約を批准しています。
Q.ゼミの研究内容と、その分野を学ぶ意義について教えてください。
ゼミの研究テーマは「国際人権法を国内でどう活かすか」というものです。人権保障に関する国際法(主に、国際人権規約、女性差別撤廃条約、人種差別撤廃条約などの人権条約)を、日本国内の人権問題解決のためにどのように活かすことができるか、ということを研究しています。
日々の暮らしや報道の上でも性差別や人種差別といった問題を目にすることがよくあります。これらの人権問題について考えるときには、これまで当たり前とされてきた考え方にとらわれず、国際社会が築いてきた普遍的な人権基準に照らして考える視点がとても大事です。
例えば昨今は選択的夫婦別姓を認めるべきではないかということが話題となっていますが、夫婦別姓を認めていない国は世界の中で日本だけで、かつ、圧倒的に女性が不利益を被っています。こうした知識があるかどうかによっても物事の判断は変わってくるのではないでしょうか。
これまで合理的な理由もなく因習的に人権を損なわれて苦しんできた人たちも、普遍的な視点を得ることで本来の人権を取り戻すことができるようになります。そのための支えとなるのが「国際人権法」なのです。
Q.ゼミでの具体的な学習はどのように行われていますか。
3年次の前期では、研究の導入として国際人権法の予備知識を習得するためにレクチャーを行います。同時に各自で参考文献を読み込んで、自らの研究テーマについての問題意識を持ってもらいます。次に学生の関心に沿ったテーマでディベートを行い、議論の組み立てや口頭発表の力を伸ばしていきます。2020年度は「死刑制度」、「ヘイトスピーチ規制」がディベートのテーマとなりました。後期では学生自身が選んだテーマに沿ってグループ発表を行います。
3年次にゼミ合宿も行います。2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で実施できませんでしたが、例年は学生の希望に沿って合宿先を決めたのち、その地で学ぶにふさわしいテーマを盛り込んで現地研修を行います。カンボジアではポルポト政権時代に拷問が行われていた収容所、タイではタマサート大学、韓国では憲法裁判所や、日本の植民地時代に拷問が行われていた西大門刑務所博物館、などを訪問しました。ゼミ生は学びだけでなく、親睦を深めることにも全力で取り組み、「ゼミ合宿が一番の思い出」という学生も多いようです。
4年次にはいよいよ卒業論文に取り組みます。当初は執筆に不安を持つ学生もいますが、テーマ決めから実際の執筆まで順を追って指導を進めていきますので、どの学生も最後は立派な論文を書き上げて卒業していきます。
Q.学生にメッセージをお願いします。
学生には、社会に羽ばたく前の予行演習の場としてゼミを最大限に生かしてほしいと思っています。失敗を恐れず主体的に取り組むことで、発表や執筆、チームワークなどの力が目覚ましく伸びていきます。
国際人権法は「国際」の名を冠しているとはいえ、国内法と重なる「人権問題」を扱うという意味で、身近な分野です。人権問題に関心のある方は広く歓迎しますので、ぜひ一緒に勉強していきましょう。
学生の
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千葉・私立市原中央高等学校出身
幼稚園時代をマレーシアで過ごした私にとって、外国人の存在は幼い頃から身近に感じられました。高校ではUNICEF(国際児童基金)やJICA(国際協力機構)の研修を受け、国内外の人権についてより深く学びたいという思いが生まれました。
申先生のゼミでは、「多民族共生社会のための外国人労働者に対する人権保障―国の法的義務及び企業の人権デューディリジェンスの観点から―」をテーマに卒業論文を作成しました。少子高齢化が進む日本では、今後さらに外国人労働者の労働力が必要となります。そうした状況を背景に、外国人技能実習制度の適正な運用や実習生の人権保護などについて研究しました。卒業後はグローバルな視点で社会に貢献することを目標に、金融の分野に進む予定です。
ゼミの中で特に印象的だったのは、ディベート学習です。人権問題には決まった答えがないからこそ考え方も多様であり、意見が異なったときにも互いを受け入れる姿勢が必要であると学びました。
ゼミ合宿では韓国の憲法裁判所や西大門刑務所を訪れ、日本と韓国の文化や法制度の違いを学びました。これにより、自国の歴史などをしっかりと学ぶことの大切さなどを感じました。中身の濃い研修スケジュールの合間を縫っての街歩きやディナークルーズは、楽しい思い出です。
このゼミには海外にも興味を持つ人が多く、国際的で個性豊かな雰囲気です。さまざまな考え方を持つ仲間と話し合い、共に研究できるというゼミならではの経験を通じて、皆さんもぜひ、本当にやりたいことや学びたいことを見つけてください。
学生の
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東京・私立東京都市大学等々力高等学校出身
私がヒューマン・ライツコースを選んだきっかけとしては、海外での子どもの人権侵害について書かれた本『レンタルチャイルド―神に弄ばれる貧しき子供たち―』(石井光太著)との出会いがあります。本の内容に衝撃を受けた私は、国内法だけではなく国際法も学べる申先生のゼミで、より広い視野を持って人権問題について学びたいと考えました。
申先生のゼミに入ってから、今日の日本で問題となっているヘイトスピーチや女性への差別、子どもの人権侵害など国内の人権問題について目を向けるようになりました。私たちは誰もが人権を侵害し、逆に侵害されてしまう可能性もあります。一人一人が日常生活の中で少しずつでも意識して、偏見や差別に基づく発言やインターネットへの書き込みをやめることが、人権問題解決の第一歩になるのではないかと感じました。
人権問題を深く学んでいくと、現行法では対処しきれない問題が出てきたり、新制度を発案しても費用面から実現が難しいといった壁にぶつかったりと、問題の難しさを痛感します。しかし、私自身が自らの権利のために努力できるのであれば、他の困っている人のためにも同じように頑張りたい、自分ごととして捉えていきたい、という思いで日々学びに向かっています。
プレゼミ(ゼミで必要とされる知識や基本的な技能等を身に付けるための入門演習)では子どもの人権について研究し、現在は雇用における女性差別に関する問題を研究しています。男女平等の促進を図るためにできることはなにか、女性差別撤廃条約と照らし合わせながら、より現実的で具体的な案を考えていきたいです。
法学部
“AOYAMA LAW”の通称をもつ青山学院大学の法学部は、弁護士、検察官、裁判官などの法曹を目指すだけでなく、青山学院の建学の精神に立脚しつつ、人間的素養と法学的基礎を備えて社会の多様なニーズを識別し、複雑な事象の科学的分析を行える応用力を身に付けます。社会で必要とされる能力を発揮して自らの道を切り拓くことができる人材を育成します。そして、この人材育成のプロセスを通じて、法的な課題・紛争を客観的に分析して的確かつ公正な判断を行うだけでなく、その判断と理由について他者と理解を共有し、課題・紛争を解決に導くことのできる能力の養成を重視しています。
※登場する人物の在籍年次や役職、活動内容等は取材時(2021年3月)のものです。
バックナンバー
電気電子工学科での学びと出会いで広がった視野、身に付いた積極性
理工学部 電気電子工学科 3年
幅広く芸術を学んで身に付いた、鑑賞力と印象を言語化して伝える力
文学部 比較芸術学科 3年
夢は日本のビジネスを支える弁護士。正確な知識と「説明できる力」で、司法試験に挑む
法学部 法学科 4年
将来を模索していた私が
経営学科で見定めた
公認会計士という目標
経営学部 経営学科 4年
研究を通して積み重ねた
挑戦と成功体験が大きな自信に
理工学研究科 理工学専攻 知能情報コース
博士前期課程2年
オリジナルの分子を使って
新たな核酸の検出手法を開発
理工学研究科 理工学専攻 生命科学コース
博士後期課程2年
*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。