No.277
掲載日 2023/12/18

150周年記念企画
「未来を拓く青学マインド」

人生で出会う興味から夢は生まれる

|校友・卒業生|

社会福祉法人三井記念病院
白杉 由香理

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青山学院初等部
喜多 恵子

2024年創立150周年を迎える青山学院。そのスクール・モットーである「地の塩、世の光」を体現する数多くの卒業生が、サーバント・リーダーの精神を礎にして、さまざまな分野で活躍しています。今回は、青山学院大学を卒業後、東海大学医学部に編入し、医師として歩んできた白杉由香理先生に、これまでの道のりを支えてきたマインドや夢を見つけるために大切な考え方を、青山学院初等部の喜多恵子さんがお聞きします。インタビューの前には、普段見ることのできない病院のバックヤードも白杉先生に案内していただきました。

Profile

社会福祉法人三井記念病院

白杉 由香理

1985年 文学部 教育学科心理学専修コース卒業

血液内科科長。医学博士。米国内科学会フェロー。
青山学院大学卒業後、日本ビクター株式会社への就職を経て、東海大学医学部に編入学。1995年に卒業し、東海大学医学部付属病院で血液腫瘍内科准教授、外来化学療法室長、臨床研修部次長を兼務した後、2020年より現職。専門分野は血液内科学、臨床腫瘍学(がん薬物療法)。青山学院大学在学時にはグリーンハーモニー合唱団で活動し、合唱は現在も続けている。

青山学院初等部6年

喜多 恵子

初等部3年生のときに料理屋で見つけたサワガニに興味をもち、オスとメスを一杯ずつもらったことがきっかけでサワガニの観察・研究を始める。「第41回『海とさかな』自由研究・作品コンクール」で、研究部門最優秀賞である文部科学大臣賞を受賞。将来は医療系か動物に携わる仕事がしたいと思案中。

TALK THEME

1st TALK

「学校生活でがんばったことは
将来につながる︖」

「好きなこと、関心があることから
世界が広がっていく。
自分の陣地を開拓して」

私の祖父は医師で、母は保健室の先生です。それで身近に感じ、人の役に立つ仕事がしたいと思っているので、医師の仕事に興味があります。白杉先生は子どもの頃何になりたかったですか?

喜多さん

白杉先生

私も親戚に医師がいて、ずっと憧れてはいたのだけれど、どうしてもなりたいとまでは考えていませんでした。私の場合、「自分にはこんなことできないんじゃないか」とか、「そんな夢は大それていて無理なんじゃないか」とか、小さいときほど自分で自分に制限をかけているところがあったと思います。でも、「人と接する仕事が良いな」とはずっと思っていて、小学生の頃は学校の先生になりたかったかな。

私は生き物が好きなので、獣医さんも良いなと考えています。一番好きなのはサワガニで、3年生のときに始めたサワガニの研究を4年間、ずっと続けています。スケッチブックにまとめているので見てもらえますか?

喜多さん

白杉先生

細かいことまでよく観察していますね。素晴らしい!医師も患者さんをよく診ることがすごく大切です。特に獣医さんや小児科のお医者さんが動物や赤ちゃんを診察するときは、相手が言葉を話せないから、よりしっかり観察する必要があります。
サワガニを研究してたくさん気付きや発見があったんじゃないですか?

はい。少しお家を変えたり、石を変えたりすると、いっぱい産卵してくれたりして、ちょっと環境を変えるだけでこんなに元気になるんだと気が付きました。今はまだふ化が成功していないので、どうしたら少しでも自然に近い環境を作れるか研究しています。

喜多さん

白杉先生

すごい発見ですね。喜多さんはサワガニが大好きなのですね。何かを好きになって、夢中で取り組む経験はすごく大切だと思います。人格形成という意味でもそうだし、人間は好奇心によって動かされている部分が大きいので、「これはどうなるんだろう?」という興味が、将来何になりたいとか、この研究をしていきたいとか、未来へどんどんつながっていくと思います。好きなこと、関心があること、入口は何であっても良いので、そこから世界が広がっていくということがあるはずです。

白杉先生は学校生活で大好きだったことがありますか?

喜多さん

白杉先生

中学校のときの合唱祭がきっかけで合唱が大好きになって、青山学院大学ではグリーンハーモニー合唱団で活動していました。合唱は今でも続けています。とても楽しいですよ。職場とか仕事のつながりとは異なるコミュニティーに身を置くことで、気持ちの切り替えになるし、好きなことだから力をもらえる。患者さんのことを考えて仕事をする時間と、仕事を忘れて趣味に没頭する時間、車の両輪みたいに両方があることでバランスを保てているところがあります。仕事だけになると、どうしても視野が狭くなるのではないでしょうか。
だから仕事につながるかどうかは別として、何でもがんばってやってみることは何かしら将来の力になると思います。ゲームで陣地をどんどん開拓していくように、子どもの頃はいろいろ挑戦して興味の幅を広げていくことをお勧めします。そうしてある程度まで広がると、きっと面積だけじゃなくて深さもほしくなるから、そうしたら中でも好きなことを深堀りしていく。仕事においても同じで、医師であれば、最初はどのような症状でも診られるオールマイティなドクターに憧れるものなのですが、ただ幅広い知識だけでなく、例えば救急医療の中でも自分は火傷を専門にしようとか、外科に関心があるから縫合を極めようとか、深さも突き詰めていく。そうすると、ちょうど良いバランスがとれるのではないかと思います。


2nd TALK

「チームリーダーに
大切なマインドとは︖」

「医師の仕事の本質は人に
仕えること。サーバント・リーダーの
精神の具現化と言えると思います」

今日は血液の検査室や薬剤部など、病院のバックヤードを見てもらいましたが、どうでしたか?

白杉先生

喜多さん

これまで診察室しか見たことがなかったので、裏側には見たこともない機械がいっぱいあって、普段見えないところでもたくさんの人が働いているんだということがわかりました。

熱心に見学されていましたものね。そう、本当にいろいろな職種の人が働いています。医療は患者さんと医師のみで完結するものではなくて、患者さんを支えるご家族や看護師、薬剤師、臨床検査技師、ケースワーカー、臨床心理士、リハビリを行う理学療法士、栄養士など、いろいろな人がタッグを組んで、それぞれの立場で患者さんを支えています。そして医師は、そのチームの中でサーバント・リーダーとしての役割を期待されていると思います。患者さんのことを一番に考えながら、治療方針や治療を行う体制の確立、退院の時期、退院先などをひとつずつチームのメンバーと相談し、意思統一を図りながら決めていきます。そこにはさまざまな障害があることも多く、たとえば新薬導入の可否、転院という選択の提示など、難しい決断の連続です。大変な毎日ですが、責任とやりがいにあふれた仕事だと思っています。医師の仕事の本質は人に仕えること、まさにサーバント・リーダーの精神の具現化と言ってもいいと思います。
仕事の喜びは、何と言っても患者さんが元気になっていかれること。治療をして病気を克服した患者さんが、当時勤めていた病院で出産し、生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこさせてもらったことがあります。本当にうれしくて、医者冥利に尽きると感じた瞬間でした。

白杉先生

喜多さん

決断に迷うこともありますか?

もちろんあります。それこそ患者さんに余命を伝えるといった命に関わる話は、イエス様のお力を借りなければできません。イエス様が手を握ってくださっていると信じて、話をするという感じと言えばわかりますか?

白杉先生

喜多さん

はい、わかります。

イエス様はサーバント・リーダーの最高のロールモデルですよね。最後の晩餐という重要な場面で自ら弟子たちの足を洗い、「あなたたちもお互いにこのようにしなさい」とおっしゃったわけですから、私たちは従わざるを得ないよね。喜多さんも確かリーダーをされているんですよね。

白杉先生

喜多さん

3年生からラグビー部に入っていて、今はバイスキャプテンをしています。どうしたら良いチームをつくれますか?

サーバント・リーダーは「自分が皆をまとめるリーダーだよ」って自分が上であるように威張ることはしません。そうではなくて、「どうやれば皆で気持ち良く仕事ができるかな」と考えながら進むことが大切ではないかと思います。そこでとても大切なのがコミュニケーションです。「最近困ってない?」「どうすればやりやすくなる?」と自分から仲間に聞いてみるのはどうでしょうか?自分一人で何かしようと思わなくても大丈夫。仲間は頼りになりますよ。
振り返ってみると、良きサーバントリーダーを育てるという青山学院のキリスト教に基づいた教育には、卒業後も教えられることばかりです。

白杉先生

喜多さん

初等部には1年生と6年生がペアになって、休み時間に一緒に遊んだり、遠足に行ったりする「パートナー制度*」があります。私が1年生のときのパートナーは私のことをよく考えてくれて、やさしくて、サーバント・リーダーのような存在でした。今は私が6年生なので、1年生のパートナーと毎日楽しく遊んでいて、下級生も大好きになりました。

*パートナー制度:1年生は入学後、2・6年生とペアを組み、これを「パートナー」と呼んでいる。パートナーには、授業時間や休み時間を共に過ごしたり、一緒に給食を食べるなどして学校のお兄さんお姉さんになってもらう。

喜多さんも立派なサーバント・リーダーですね。下級生や周りの人のことを考えて行動する、皆仲が良くて、何かあると相談して、助け合う、そんな校風こそが青学マインドだと思います。またそれを温かく見守ってくれるオーラみたいなものがキャンパスから発せられているように感じます。

白杉先生


3rd TALK

「夢を見つけるために、
大事なことは︖」

「夢はきっと足元にある。
気づく時期は人それぞれだから
焦らないで大丈夫」

1年生のパートナーができて、下級生がとても愛おしくなったので、最近は保育士さんにもなってみたいと思っています。まだ夢が決められません。

喜多さん

白杉先生

経験が増えるほど、興味の幅が広がって悩んでしまいますよね。中学生になったら、また好きなことが増えていくかと思います。でも、やってみたいことがたくさんあるというのはすてきなことだから、今の時点で何かに決めてしまうより、あれもこれもと悩む方が大正解だと思います。だんだん成長していくにつれ、いろいろ抱えている中から、「これはちょっと違うな」「これはないな」と絞られていくはずです。
夢は急に降ってくるものではなくて、きっと身近にあるものなのだと思います。医学教育の父と呼ばれている、カナダの内科医ウイリアム・オスラー先生が「どのような職業においても、成功への第一歩はその職業に興味を持つことです」という名言を残しているように、やはり自分が興味のあることの中から夢は生まれるものです。それに気付く時期は人それぞれだから、焦らないで大丈夫ですよ。私は子どもの頃からの医師への憧れに自分で蓋をしていたのだけれど、青山学院大学を卒業して会社で働いていたら、それがムクムクムクッと大きくなって、医療の道に進むことにしました。そういう生き方もあるのですから。

私たちが自分の可能性を広げて、夢を実現するために大切なことは何だと思いますか?

喜多さん

白杉先生

諦めないことではないでしょうか。何事も「自分にはできない!」と頭から決めつけてしまったら、そこで終わってしまいます。ちょっと壁にぶち当たったとしても、一晩よく考えてみたりすると、「こういう考え方でやれば良いのかな」とか、違う方法をひらめいたりするものです。自分を信じて、喜多さんが今抱いている好奇心、そして、これからの人生で新しく出会う興味を大切に育んでいってください。

はい、がんばります。今日はありがとうございました。

喜多さん

After Interview

これから夢を見つけて実現するために、喜多さんが白杉先生のお話から見つけ出したヒントは?

好きなことを増やして、夢を見つけたい

私は将来の夢がはっきりしなくて悩んでいましたが、すぐに決めなければいけないと焦らないで、好きなことを増やすと夢が見つかると白杉先生が言ってくださったのが心に残っています。これから自分の好きなことやしたいこと、興味があることにたくさん挑戦し、成功や失敗を積み重ねて、将来、自分が何をしたいのか考えようと思います。(喜多)

150周年特別企画

*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。

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