150周年記念企画
「未来を拓く青学マインド」
失敗の経験こそ成長のエネルギーに
|校友・卒業生|
読売ジャイアンツ スコアラー
志田 宗大
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青山学院中等部3年
牛田 洋基
2024年、創立150周年を迎えた青山学院。数多くの卒業生が自らの能力で道を切り拓き、各界でプロフェッショナルとして活躍しています。今回は、青山学院大学経営学部経営学科で学び、体育会硬式野球部からプロ野球選手となり、現在はプロ野球チームのスコアラーとして、チームや選手に必要な情報を集め、分析し、作戦立案を作る仕事でチームを支える志田宗大さんに、野球のアナリストを目指す青山学院中等部の牛田洋基さんが、夢を叶えるために必要なことや考え方についてお聞きしました。
Profile
読売ジャイアンツ スコアラー
志田 宗大
経営学部経営学科
小学3年生で野球を始め、仙台育英学園高校で甲子園に3回出場。本学体育会硬式野球部で外野手として活躍し、キャプテンも務めた。2001年ドラフトでヤクルトスワローズ(当時)にドラフトで8位指名され、9年間在籍。2010年に現役を引退し、ヤクルトのスコアラーに転身した。2015年から侍ジャパンのスコアラーとなり、2017年のWBC(WORLD BASEBALL CLASSIC)でも活躍。2018年からは読売ジャイアンツのスコアラーを務めている。
青山学院中等部 3年
牛田 洋基
テレビ番組がきっかけで、野球のデータを統計学的に分析するセイバーメトリクスやアナリストの仕事に興味を持つ。現在は、セイバーメトリクスについて独学で理解を深めながら、統計学や物理学の学習にも力を注いでいる。今年2月には、中学生ながら、高校生を対象とする野球科学研究発表会に参加し、プロ野球チームにおけるムードメーカーと成績の関連について研究発表を行った。
TALK THEME
1st TALK
「スコアラーという
仕事に大切な能力は?」
「分析力、コミュニケーション力、
シンプルに伝える力。
人としっかり話せることは大事な要素です」
僕は将来、日本やアメリカのプロ野球の球団で、アナリストとして働きたいと考えています。志田さんは今、プロ野球チームのスコアラーとして、どのような仕事をされているのですか。
牛田さん
志田さん
自分のチームや対戦相手の選手のデータを分析して、その結果をもとに監督、コーチ、選手にさまざまなアドバイスをしています。スコアラーとアナリストは、呼び方こそ違いますが、実際にやっていることは、どちらも変わりません。
スコアラーには、どのような能力が求められますか。
牛田さん
志田さん
僕が大事だと思っているのは、「優れた分析力」「コミュニケーション力」「難しいことをシンプルに伝える力」の3つです。データを読み解く分析力は、もちろん大切だけれど、分析した結果を生かすには、人に伝えるという作業が必要になります。3つの力に優先順位を付けるなら、コミュニケーション力が一番上というくらい、人としっかり話せることはスコアラーにとって大事な要素なんですよ。
「難しいことをシンプルに伝える力」は、どういう時に大事になるのですか。
牛田さん
志田さん
もし、試合中選手に「どの球を打てばいいですか?」と聞かれた時、分析してきたことをたくさん答えても、選手の役には立てません。そういう時は、ひと言で答えるのが大事なのです。もちろん、事前にしっかりデータを集めて分析する作業は必要ですが、人に伝える時はとにかくシンプルに。「たくさんの材料を詰め込んで、ろ過して、とても濃い“1滴”をしぼり出す」。そんなイメージかな。分析した数字を頭にインプットすることは、実はそれほど大変ではなく、最後の1滴を相手にどう届けるかが、この仕事で一番難しいところなんですよ。
そのひと言を伝える監督、コーチ、選手とは、どのようなことに気をつけてコミュニケーションを取っているのですか。
牛田さん
志田さん
距離感を大事にすることを心掛けています。人とのコミュニケーションは、距離が近すぎると、相手が遠ざかってしまうし、遠すぎると、伝えたいことが伝わりません。分析結果を詳しく聞きたがる人もいれば、あまり聞きたがらない人もいます。距離感、相手の考え方や置かれている状況、タイミングなど、いろいろなことに神経を使いながら、コミュニケーションを取っています。
相手のことをよく考えることが大事なのですね。
牛田さん
志田さん
そうですね。スコアラーは自分ではプレーしませんから、基本的に「人のため」に働く仕事です。僕は子どものころから「人に尽くせる人間になりなさい」と親に教えられてきたし、それは青山学院がスクール・モットー「地の塩、世に光」として大切にしている精神でもありますよね。そのマインドが、今の仕事に生きているように思います。
2nd TALK
「成長するために
必要な考え方とは?」
「失敗や苦労が次へのエネルギーになる。
失敗を恐れず自分がやってきたことを貫いて」
現在の野球界におけるデータ活用について教えてください。球団や選手にとって、データの重要性に変化はありますか。たとえば10年前と比べてどうでしょうか。
牛田さん
志田さん
僕がこの仕事に就いて12年になりますが、野球界でのデータ活用は、この10年間で劇的に変化したと言っていいでしょう。球場にトラックマンやホークアイ*といった計測設備が導入され、一気にさまざまなデータが「見える化」されました。特に、ピッチャーが投げる球に関するデータが可視化されたことは、大きな変化だと思います。これまで「キレがある」や「ノビがある」といった言葉で表現していたものを、スピン量や回転軸など、数値で表せるようになりました。その結果、大谷翔平選手やダルビッシュ有選手のように、自分の投球データを見て、データと感覚を一致させ、思い通りの球を投げられる選手も出てきています。その点は、飛躍的な進歩と言えると思います。
ところで、僕からも牛田君に質問してもいいかな? 牛田君が考える「野球のデータ」って、一体どんなものですか。
*打球や投球の軌道、回転数などのさまざまなデータを計測、分析するシステム
野球に限らず、データは「欲しい結果を得るための近道」と考えています。チームが勝つという結果を得るために、データを活用すれば、勝つ確率は上がると予想されます。もちろん、データがなくても勝つことはできると思いますが、データを活用した方が近道だと思います。
牛田さん
志田さん
なるほど、ありがとうございます。今日、僕が牛田君にぜひ伝えたいと思っていたことがいくつかあって、その一つが「失敗した時の言い訳にデータを使ってはいけない」ということなのです。たとえば、Aが起きる確率が70%、Bが起きる確率が30%というデータがあったとして、人間誰しもAを選びたくなる。ただし、スポーツの世界では、往々にしてBの方が起こったりするのは、野球を分析している牛田君なら分かるよね? 僕は、Aになると予測してBが起きた後、「だってAは70%だったから」と数字を言い訳に使ってしまったら、分析者として失格だと思っているんです。
少ない可能性の方にも目を向けていくことが大切、ということですか。
牛田さん
志田さん
そうだね。野球で「打率3割」と聞くと、結構確率が高いような気がするでしょう? 僕は、少ない確率の方こそ、「何かが潜んでいるんじゃないか」という視点で研究していかなければならないと、いつも考えています。
もう一つ、今日牛田君に伝えたいと思っていたことは、アナリストやデータを扱う仕事は、一般的にはスマートなイメージを持たれているけれど、本当は報われることの多い仕事ではない、ということ。この仕事を始めてからの12年間を振り返ると、うまくいったことよりも、失敗したこと、苦労したことの方が多かった。でも、その失敗をエネルギーに変えて、ここまでやってくることができました。
どんな失敗があったのですか? たとえば選手に分かりにくく伝えてしまった、といったことですか。
牛田さん
志田さん
具体的に言うとね、侍ジャパンのスコアラーとして参加した2017年のWBCの準決勝で、僕は自分史上最大の失敗をしてしまった。その試合、日本はアメリカに負けてしまったのだけれど、逆転する絶好のチャンスで、僕はバッターの選手に的確なひと言を伝えることができなかった。勝手に「左バッターだから相手は左ピッチャーを出してくる」と思い込んだり、データで確率の高い方を優先したことが原因で、ね。その時の敗戦に対する自責の念は、いまだに持っています。
WBCの大舞台でそんなことがあったんですね。
牛田さん
志田さん
僕が一番後悔しているのは、常日頃から「固定観念にとらわれてはいけない」と自分に言い聞かせて仕事をしてきたはずなのに、一番肝心な場面でそれができなかったこと。そして、さっきお話しした「確率が低い方に注意を払うこと」もできなかったことです。負けたという結果以上に、そのことを悔いています。この仕事をしていると、勝ったときよりも、自分のミスで負けた時の方が痛烈に記憶に残っていて、それが自分を成長させる糧になっていることは間違いないですね。失敗を恐れてあいまいなアドバイスをするのではなく、失敗を恐れずに自分がやってきたことを貫いてしっかり伝える。それが成長に繋がると僕は思います。
3rd TALK
「夢を叶えるために、
今できることは?」
「視野を広げ、なんでも自分に
関係があると思って学ぶことが
未来の土台になる」
アナリストとして必要な力をつけるには、どんなことが大事でしょうか。
牛田さん
志田さん
この仕事をする上で、僕が大切にしている言葉が2つあります。一つ目は「無用の用」という言葉なんだけど、牛田君は知っているかな。
初めて聞きました。どういう意味なのですか。
牛田さん
志田さん
中国の戦国時代中期に成立したとされる古典『荘子』に記された言葉で、一見意味がないとされていることが、実は大切な役割を果たしている、ということが書かれていて、この考え方は、分析者にはとても大事な要素だと思っています。もう一つの大切にしている言葉は、「無知の知」。無用の用と似ているけど、これは聞いたことがあるんじゃないかな。
はい、聞いたことがあります。
牛田さん
志田さん
無知の知は、古代ギリシャのソクラテスの言葉だよね。自分はまだまだ勉強が足りない、無知であると知っている人の方が知があるんだよ、ということを言っています。この2つの言葉をなぜ大事にしているかと言うと、自分には知らないことがたくさんあることを自覚して、広い視野を持っていろいろなことに興味を持ち、知識を吸収しないと、「選手に伝わるひと言」を絞り出す力がつかないからです。野球のアナリストだからといって、野球以外のことは自分に関係ないと考えるのは大間違いだし、自分が何でも分かっていると思うのも大間違いだと思います。牛田君は、アナリストを目指して統計学や物理学を勉強しているとのことですが、そのほかにも、たとえば国語の授業は、文章から意図を読み取る力がつくから、選手たちとのコミュニケーションに必要な力が養われるかもしれないですね。アナリストとしての土台を築くためにも、学校のいろいろな授業で学んだことを大切にしてほしいと思います。
志田さんは、中学時代、どんな風に勉強されていたのですか。
牛田さん
志田さん
僕は小さい頃から野球をしていたけど、「あいつ野球しかできないな、勉強はダメだな」と思われたくなかった。放課後はとにかく野球の練習を一生懸命やりたいけど、テストで良い点も取りたい。そのためにどうすれば良いかを考えて、授業中、全力で集中して先生の話を聞くことにしていました。授業には必ずテーマがあるから、それを先生の話から確実に読み取ろう、重要なポイントは授業中に全部覚えてしまおう、という意気込みで毎日授業を受けていました。
すごく参考になります! 僕もそういう意識で授業を受けてみます。志田さんは、中学を卒業してから、仙台育英高校、青山学院大学と進学されましたが、どうして青山学院大学を選んだのですか?
牛田さん
志田さん
高校時代、いろいろな大学をリサーチして、青山学院大学の硬式野球部が自主性を大事にしていて、かつ、東都大学リーグで優勝する等実績の高い野球部だということが分かったからです。青学の野球部は今でもそうですが、全体での練習時間が本当に短くて、個人に練習が委ねられています。自由で楽ができそうに見えますが、その自由の裏側には自分を厳しく律し、レベルアップしなければいけない厳しさがある。そういう環境で野球がしたいと思って青学を選びました。
中等部も自分で選択できる授業がありますし、個人を尊重してくれる学校だなと感じます。最後に、僕たち青山学院で学ぶ生徒に向けて、志田さんからメッセージをお願いします。
牛田さん
志田さん
青山学院の校風として、「自由」ということがよく言われますよね。自由とは勝手気ままに生きることではなく、自由の裏側には必ず責任が求められます。自由や自主性は、自分を律することができなければ成立しえない厳しさを持ち合わせていることを、忘れないでほしいと思います。そして、青山学院のみなさんには、本気で何かに向かって歩むことの大切さもお伝えしたいです。今ある環境の中で自分を律し、胸の中に信念と覚悟を芽生えさせ、自分を信じ、見つめ、自らの道を歩んでいってほしいと願っています。
今日は貴重なお話をありがとうございました。
牛田さん
After Interview
野球の見方や授業への意識を変えていきたい
めったにない機会をいただき、とても勉強になりました。これからは、野球の試合を観るときも、応援するだけでなく、スコアラーとしてベンチにいるつもりで試合展開を予測し、予測と結果を確認しながら、より深く野球を学んでいこうと思います。また、学校の授業に対する志田さんの考え方は、今の自分に直結するお話で刺激を受けました。志田さんのように、大切なポイントは授業中にすべて覚えるつもりで、授業に取り組んでみたいです。夢を叶えるため、今日のお話を生かしていきたいと思います。