No.313
掲載日 2024/8/23

150周年記念企画
「未来を拓く青学マインド」

何ものにも
とらわれない自分の道を

|校友・卒業生|

Blue United Corporation
President and CEO

中村 武彦

×

経営学部
経営学科

佐藤 豪

×

地球社会共生学部
地球社会共生学科

野本 葵

今年、青山学院は創立150周年を迎えました。学院から羽ばたいた数多くの卒業生が、たゆまぬ努力と情熱で自分の道を切り拓き、各界のトップランナーとして世界で活躍しています。スポーツビジネスの最前線を走りながら、後進の育成にも力を注ぐ中村武彦さんもその一人。地球社会共生学部の授業やスポーツビジネスの原理原則を学ぶ「ぴあスポーツビジネスプログラム」において中村さんとは教員と学生の関係にある佐藤豪さんと野本葵さんが、スポーツが持つ力や自分の可能性を広げ夢に近づくためのマインドについてお聞きします。

Profile

Blue United Corporation
President and CEO

中村 武彦

1999年 法学部 公法学科 卒業

FCバルセロナ勤務時代、ラポルタ会長・チームスタッフの皆と

青山学院高等部より青山学院で学ぶ。マサチューセッツ州立大学アマースト校スポーツマネジメント修士課程、スペインISDE法科大学院修了。日本電気株式会社(NEC)海外事業本部・北米営業部勤務を経て、米国メジャーリーグサッカー(MLS)、FCバルセロナの国際部を歴任した後、2015年ニューヨークにてBlue United Corporationを設立。2017年より青山学院大学地球社会共生学部の非常勤講師及び2024年よりプロジェクト教授を務めるほか、鹿島アントラーズ グローバル・ストラテジー・オフィサー、パシフィック・リーグ マーケティング 海外事業開発ディレクター、東京大学工学部社会戦略工学共同研究員など多岐にわたって活躍している。

経営学部 経営学科 4年

佐藤 豪

3歳からサッカーを続けており、将来的にはサッカークラブのマネジメントに携わることが目標。スポーツマネジメントを研究テーマとする宮崎純一先生のゼミナール(ゼミ)に所属し、日本全国のスタジアムを観て回ったり、オール青山スポーツコミュニティ、ぴあスポーツビジネスプログラムへの参加、サッカーの監督ライセンス取得など、夢の実現に向けて精力的に知見を広げている。


地球社会共生学部 地球社会共生学科 4年

野本 葵

幼少期から12年間ラグビーを続け、昨年女子ラグビー実業団チーム「横河武蔵野Artemi-Stars」を引退。地球社会共生学部の授業を通じて、スポーツを生かして社会問題に取り組んでみたいという思いが芽生える。さまざまな分野で活動する学生や社会人とのかかわりが盛んな松永エリック・匡史ゼミに所属し、多角的な視点からスポーツの可能性を見つめ直す。佐藤さんとは、ぴあスポーツビジネスプログラムの同期であり、卒業後はスポーツ統括団体に就職予定。

TALK THEME

1st TALK

「スポーツの
ゆるぎない価値とは?」

「共有・感情移入・一体感の醸成。
この3つからさまざまな方向へ無数の
発展形が生まれる」

スポーツを通じてより多くの人の人生が豊かになる社会を作り出していくことが将来の大きな目標です。地球社会共生学部の特殊講義で中村先生の授業を受け、面談もしていただいたことが、ぴあスポーツビジネスプログラムへの参加やキャリアの開拓につながり、私にとって人生の大きなきっかけになりました。

野本さん

私の夢は応援している鹿島アントラーズで働くこと、もしくはオーナーとしてサッカークラブを経営することです。ぴあスポーツビジネスプログラムで、スポーツビジネスの第一線でグローバルに活躍されており、青学の先輩でもある中村先生と出会えたことで、大変刺激を受けました。本日は直接お話を伺うことができ、とてもうれしいです。

佐藤さん

中村さん

私が大学生だった当時は、日本にはまだスポーツビジネスという概念がほとんど根付いていませんでした。スポーツ関係の仕事といえば、プロ選手になるかスポーツメーカーに就職するというイメージしかなく、実は私自身もスポーツの仕事に就こうとは思ってもいなかったです。野本さんと佐藤さんは学生のうちからしっかり目標が定まっていてうらやましいです (笑)。今日はお2人がインタビュアーと聞いて楽しみにしていました。

私はスポーツの魅力を広めていきたいと思いながらも、「そもそもスポーツの価値とはなんだろう」と悶々と考えてしまうことがあります。中村先生は「スポーツのゆるぎない価値」をどう考えていらっしゃいますか?

野本さん

中村さん

「共有」「感情移入」「一体感の醸成」――スポーツにはこの3つの特異性があります。例えば、「共有」したことで友達ができたとか、「感情移入」したことによって自分も頑張ろうと前向きな気持ちなれたとか、さまざまな方向へ無数の発展形が生まれます。ですので、他のものにはないパワーがスポーツにはあるのだと思います。スポーツビジネスに進もうと考えている人は、当然ですが、「どうしたらもっとチケットを買ってくれるのだろう」とか「なぜこんなに観客が楽しんでくれるのだろう」といった、ビジネスからの視点が大切になります。出発点として、この3つを押さえておくことが重要です。

私たちは今、青学生を取り込んで一緒にスポーツを楽しむ場所づくり「オール青山スポーツコミュニティ」の活動にも参加しているのですが、なかなか興味を持ってくれない学生が多いのが現状です。若年層にスポーツを普及するために取り組むべきことはありますか?

野本さん

中村さん

小さいときに色々なスポーツを経験させてあげることが非常に大事だと思います。現在生活拠点を置いているアメリカでは、季節ごとに異なるスポーツに取り組むシーズン制を敷いているため、冬はアメフト、春は野球、秋はサッカーなど、幅広い競技に親しむことで、好きなことや適性が見極められます。複数のスポーツを掛け持ちするのが普通なので、私が監督を務めている中学生のサッカーチームでも「来週はバスケットの試合があるから練習を休みます」なんてやりとりは日常的によくあります。さらに、勝利至上主義ではなく、失敗してしまったときは「次はいけるよ」「いいアイデアだったよ」といったポジティブな声掛けを行う文化も、子どものスポーツを楽しむ心を育んでいると感じます。

私自身も気づけばラグビーひとすじでここまで来ましたが、最近フットサルをやってみたらすごく楽しくて。幼少期から色々なスポーツに触れることも大事だなと思っていたところです。

野本さん

中村さん

それに加えて、サッカーチームの友達、ダンスチームの友達、スイミングの友達…という風に人間関係の輪が広がっていきますよね。学校で友達とうまくいっていないときに、ダンスに行って元気が出ることもあります。心の拠り所となる居場所が複数あるのは精神的にも良いことだと思います。
一方で、スポーツを「見る」側を増やすには、幅広い人を受け入れる土壌がスタジアムにあると良いですね。アメリカのスタジアムにはプールや子どもが遊べる広場、レストランなどがあり、試合を見ている以外の楽しみ方もできます。そうすると、あまりスポーツに興味がない人でもスポーツの場に気軽に足を運べますよね。

アメリカのように大学スポーツが商業化することについてはどのように考えますか?

佐藤さん

中村さん

基本的に学生のアスリートがお金を受け取ることについては反対です。不正が生まれるかもしれないし、引き抜きなどが横行すると純粋さがなくなってしまう。学生の本分を忘れてはいけないということです。その上で、チームがスポンサーをつけるとか、チケットを売るといったことはもっとやってもいいのではないかと思います。お金が集まれば、部費など学生の金銭的な負担を減らすことができますし、より良い練習環境を整えることもできます。

青学ではスポーツで活躍している選手も、「学生」としてきちんと授業に出ることが求められます。スポーツを極めるだけではない道が与えられる環境は、大学のあるべき姿を体現していて、青学の良さだと感じます。

野本さん

Bリーグのサンロッカーズ渋谷に青山学院記念館(大学体育館)を貸し出すなど、取り組みも先進的ですよね。

佐藤さん

中村さん

その通りですね。渋谷という立地も生かし、青学らしい洗練されたイメージで、「スポーツビジネスといえば青学」と言われるようなブランディングをしていける可能性があるのではないでしょうか。


2nd TALK

「スポーツビジネスを仕事に
するうえで大切なことは?」

「スポーツの仕事に携わった瞬間、
世界とつながる。
地球にはいろいろな違いが存在すると認識することが大事」

中村先生は、NECからスポーツビジネスのお仕事に進まれましたが、スポーツを生業としている企業にはどのような特性がありますか?

佐藤さん

中村さん

スポーツビジネスの道に進もうと思ったのは、ある会議をきっかけに「自分もパッションを傾けられることがしたい、何かのプロフェッショナルになりたい」と思ったからです。その後スポーツの世界に進み、エモーションがビジネスの中心にあるということに驚きました。さらに、スポーツの仕事に携わった瞬間、自動的に世界とつながるというのも大きな特性です。
MLSでもバルセロナ時代も、「どう日本市場を開拓するのか」が私に与えられた使命だったので、上座・下座のルールから稟議書の上げ方まで、日本のビジネスの基礎をNECで学んでいて本当によかったと思うことが多くありました。日本のことをきちんと理解していなければ、日本人であることのメリットが生かし切れないと思います。

グローバルに働くうえで必要なことはほかにもありますか?

野本さん

中村さん

一番大事なのは、広い地球には多様な違いが存在すると認識することです。例えば日本人の私がニューヨークのオフィスでメキシコ代表とイングランド代表のマッチメイキングをする場合、同僚も、取引先も、文化や考え方がそれぞれ異なるわけです。そこで問われるのは「こうあるべき」と自分の価値観を押し付けるのではなく、違いをどう調整するかということであり、つまりは相手へのリスペクトが重要です。それがないと、人種差別や戦争も起きてしまいます。

日本では、スポーツビジネスはまだ発展途上だと聞きます。スポーツビジネスに携わる人が心得ておくべきことはありますか?

佐藤さん

中村さん

スポーツの価値を踏まえて、お客様やスポンサーからなぜお金をいただいているのかを考え、しっかりリターンを提供していくことです。スポーツは感情の部分が大きいため、「応援してください」と言いやすいですが、対価となるものをスポーツチームが与えられなければ、単にお金をいただいている状態となってしまいます。それではお客様もスポンサーも離れてしまうのは当然ですよね。現在の日本は発展途上というよりは、成長の余地がまだまだあると思っていますので、スポーツビジネスの学校を作ったり、青学で教えさせてもらっています。


3rd TALK

「自分らしい人生を
選択するためには?」

「ネームバリューで生きていると、
それはもう自分ではなくなっていると
思います」

中村先生が変化を厭わない人生を送られていることに感銘を受けます。ご自身の可能性を広げるために心掛けていることはありますか?

野本さん

中村さん

自分の価値観が固定化しないように、定期的に何か新しいチャレンジをするということを心掛けています。振り返ると、5年前、10年前と今考えていることは違うはずです。なぜかと言うと、付き合う人も、行動する範囲も、情報源も変わって価値観が変化するからです。
その繰り返しの中で「法律の知識が必要だ」と思えばマドリードのロースクールに通うなど、少なくとも10年ごとに学校に行って学んでいます。今でもMLSやバルセロナ時代の話をしてほしいと光栄なことに言われますけれど、もう十何年も前の話ですし、当時は例えばソーシャルメディアなどもなかったように時代が違うわけです。今後もそれで生きていくのは不可能で、現在何が起きているかを知り、理解して話せないと今を生きている気になれない危機感は持ち続けるように心掛けています。

すごくしびれるお話です!一つのことにとらわれないというのは大事だなと思います。

野本さん

中村先生がこれまで多くの選択をされてきた中で、何かを選ぶ際の判断基準はありますか?

佐藤さん

中村さん

直観と私の座右の銘の一つである「やらずに後悔するより、やって後悔する」心構えですね。その際、ネームバリューは基準にしません。MLSに入った当時は、スタートアップのリーグだったので、「どうしてベースボールじゃないの?」と聞かれましたし、バルセロナを辞めるときも周りから大反対されましたが、固定概念に縛られず自分自身で選んでいるから、一層頑張ることができます。「いい会社に入ったから辞めるのはもったいない」という人もいましたが、ネームバリューを気にして生きていると、それはもう自分ではなくなっていると思います。
そして、自分が何をやりたいかが大事だと思える人生を今送ることができているのは、青学で学んだからこそだと実感しています。青学の雰囲気は本当に自由で、学生たちも周りを気にするより「自分はこうしたい」という意志を持って行動している人が多いですよね。

表には出さないけれど実は一人一人がやりたいことを胸に秘めている印象です。実際に話してみると相手の情熱が伝わって来るので面白いです。

野本さん

中村さん

サッカー部で一生の友達ができたのも青学で得た財産です。サッカー部の友達とは今でも日本に帰ってくるたびに会っていますが、みんなで集まって話すことは「あのときの夏合宿で…」とかいつも同じ内容ばかり(笑)。けれど変わらないからこそほっとできる部分もあります。

将来のために学生のうちにやっておいたほうがいいことはありますか?

佐藤さん

中村さん

学生時代はお金はなくても時間がたっぷりあるので、興味がある人に会いに行って話を聞いたり、インターンシップやボランティアを経験するなど、自分に時間を投資するといいのではないでしょうか。私が最初にスポーツビジネスの現場を見たのは、マサチューセッツ州立大学留学中にサッカーアメリカ代表の国際試合のボランティアをしたときです。「こういう風に試合を運営しているのか」と勉強になりましたし、後にMLSにインターンシップを申し込んだ際には、そのときのボランティアで知り合ったアメリカサッカー協会のスタッフが推薦状を書いてくれました。

私たちが自分らしいキャリアを築いていくために大事なことは何でしょうか?

野本さん

中村さん

まずは心の健康を維持すること。単純に逃げ出すとか、放り出すのは良くないですが、心の健康を損なっていると感じたら、方向転換をする柔軟性を持っていてほしいと思います。そのためには日頃から自分をハッピーにするための材料を仕入れておくことが必要です。普段と違う道を歩いてみるのもいいし、久しく会っていない人に連絡してみるのでもいいと思います。常に新しいインスピレーションが受けられる機会を作り、興味の幅を増やしていってください。何よりも「諦めるよりも、信じることに賭ける」。これは二つ目の座右の銘でもあります。
それからもう一つ、外の世界でみんな十分ストレスを受けているので、「今日もよくやった」と自分を労ってあげてください。もちろん私も自分に甘いです(笑)。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

野本さん

佐藤さん

After Interview

スポーツにかかわる仕事を志す二人が、中村さんのお話から見つけた将来へのヒントは?

プロフェッショナルの精神を身に付けた人材に

大学スポーツの商業化に関心があり、青学の持つ可能性や伸びしろに気づくことができたのはとても有意義でした。スポーツが社会に与えられる影響や、大学スポーツのポテンシャルについて理解を深めるために、国内外問わずさまざまなスポーツ施設を訪れ、スポーツと世界がどうかかわっているのかを実際に目で見て感じてみようと思いました。また、目の前に困っている人がいたら献身的に助けることができたり、利己的にならず他者に対して誠実でいるなど、多くの人から尊敬されるプロフェッショナルの精神を持つ人材になれるよう頑張っていきたいと思います。(佐藤)


身の回りに目を向けて、今の自分にできることを

キャリアを重ねてどのような立場になっても、「心身の健康維持」や「他人の目や社会的常識にとらわれず自分の直感を信じる」など、中村先生が基本の「基」を大切にされていることに思わず親近感を抱きました。また、グローバルに働くうえで必要なのは、「相手の違いを受け入れる心」「多様性を尊重する心」であるという言葉がとても心に響きました。自身の身の回りでも生かすことができる教訓だと感じます。違うことを当たり前とする考え方は、容易に身に付けられるものではなく、時間をかけてゆっくり醸成されていくものだと思うので、グローバルという遠いものを見つめるばかりではなく、今置かれている環境に目を向け、等身大の自分にできることを着実に積み重ねていきたいです。(野本)

150周年特別企画

*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。

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