150周年記念企画
「未来を拓く青学マインド」
自分を理解し、受け入れて、影響力のある選手に
|校友・卒業生|
ビーチバレーボール選手
パリ・オリンピック日本代表
長谷川 暁子
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総合文化政策学部
総合文化政策学科 4年
高橋 美鈴
青山学院は今年、創立150周年を迎えました。学院を巣立った卒業生の多くは、たゆまぬ努力、自ら培った創造性や思考力で夢をかなえ、各界のトップランナーとして活躍を続けています。今回は、2024年パリ・オリンピックのビーチバレー競技で日本に20年ぶりの勝利をもたらした長谷川暁子選手にお話をうかがいました。女子バレーボール部の後輩で、今シーズンは副主将を務めている高橋美鈴さんが、アスリートとしての技術とメンタルの問題、また長く競技を続けるためのライフプランについて迫ります。
Profile
ビーチバレーボール選手
パリ・オリンピック日本代表
長谷川 暁子
2008年 経営学部 経営学科 卒業


大学1年次から青学体育会バレーボール部(女子)のレギュラーとして出場。2006年には大学5冠達成に貢献。翌年には主将としてチームを率いて、春季リーグと東日本バレーボール大学選手権で優勝。最優秀選手賞など個人賞も受賞している。卒業後はトップリーグのNEC レッドロケッツ川崎に所属。1年目からレギュラーとして活躍し、2012年度には主将を務めた。2014年の引退後はビーチバレーボールに転向し、「パリ2024オリンピック・パラリンピック競技大会 」に女子日本代表として出場。日本勢として20年ぶりの勝利をあげ、決勝進出を果たした。


総合文化政策学部 総合文化政策学科 4年
高橋 美鈴
東京・私立文京学院大学女子高等学校出身
青学体育会バレーボール部(女子)OGである母親の影響でバレーボールを始め、2021年に青山学院大学へ入学。左利きでポジションはライト。2024年度は副キャプテンとしてチームを牽引し、秋季関東大学バレーボールリーグ戦優勝、全日本インカレ準優勝等に貢献。卒業後はバレーボールのトップリーグであるSVリーグに進む予定で、かつて長谷川暁子選手が所属していたNEC レッドロケッツ川崎への入団が内定している。

TALK THEME
1st TALK
大学時代に大切にしていたことは?
大学生活を楽しんでバレーボールでも勝つのが、クールでかっこいい

お会いできてうれしいです。私の母も青山学院大学女子バレーボール部(青学女子バレー部)の出身なので、長谷川さんとは面識があると以前から聞いていました。パリ・オリンピックでは、ビーチバレー女子日本代表として20年ぶりの勝利をあげられた長谷川さんチームのご活躍を親子で応援していました。

高橋さん

長谷川さん
ありがとうございます!パリから帰国してしばらく後に、青学女子バレー部のOG戦があったのですが、そこで高橋さんのお母様に久しぶりにお会いして楽しくお話させていただきました。高橋さんは副キャプテンを務めているのですね。今年の秋季関東大学女子1部リーグ戦での優勝、全日本インカレでの準優勝おめでとうございます。
ありがとうございます!今は大学生活最後となる学生・社会人を含めて日本一を決める皇后杯(全日本バレーボール選手権大会)で結果を出すことを目指して練習に励んでいます。長谷川さんは青学女子バレー部時代にどのような目標を掲げて、部活動や試合に臨んでいましたか?

高橋さん

長谷川さん
つねに「勝ちたい!」と思いながら、シーズンを通して練習にも試合にも取り組んでいました。春と秋のリーグ戦や東日本インカレ、そしてやはり大学日本一となる全日本インカレ。毎年そこに至るために1試合、1試合を確実に取りにいこうと戦っていました。
練習や試合に臨む際にはチームの団結が大切だと思うのですが、当時の青学女子バレー部の雰囲気はどのような感じでしたか?

高橋さん

長谷川さん
当時は強化指定部ではなくて、部員数も各学年3、4人でした。でも、部員それぞれに個性がありましたね。とても負けず嫌いな人もいるし、一方で負けてもあまり気にしない人もいる。キャラクターはバラバラでしたが、全員が他の部員の個性を受け入れつつ、「勝ち」に向かって進むようなチームだったような気がします。学年関係なく親しくコミュニケーションでき、雰囲気は良かったですよ。
人数が増えた今の青学女子バレー部も、同じように雰囲気が良いです。

高橋さん

長谷川さん
よかった! 先輩・後輩とかではなく一人ひとりの「勝ちたい」という気持ちがチームを強くするのが青学女子バレー部の伝統になっていますよね。私が1年次の時、4年次のエースアタッカーの方が大活躍されて、春季リーグ戦で優勝しました。翌年から「エースがいなくなって弱くなった」と言われないよう自分たちが頑張らなければなりませんでしたが、十数名の部員が「勝ちたい!」という気持ちでまとまって戦っていたら、いつの間にか「常勝軍団」と呼ばれるようになりました。
今は月曜日が部活動のオフなのですが、長谷川さんの在学中は月曜日と木曜日の2日間オフだったとうかがいました。

高橋さん

長谷川さん
そうでした。この2日間のオフをどう過ごすかは自分次第で、勉強したり、アルバイトをしたり、自主練習をしたり、人によってさまざまな過ごし方をしていました。他の強豪大学では考えられないかもしれませんが、それも青学の伝統ですね。
はい。今、木曜日はオフとはされていませんが「自主練」の日になっていて、一人ひとりが自分の状態を考えて練習メニューに取り組んでいます。

高橋さん

長谷川さん
そこはずっと変わっていないわけですね。私の時代も監督やコーチが自主性を大切にしてくれました。その上で学生として学業にしっかり取り組むだけでなく、遊びに行ったりアルバイトをしたり、大学生らしいこともしていました。楽しい大学生活を送りながら、バレーボールでも勝つ。「これってすごくクールで、かっこよくない?」みたいな独特の“文化”がありましたね。実はこのことは卒業してから気付きましたが、当時はそれが普通だと思っていました。
2nd TALK
「自分」と「チーム」の
バランスをどう考えるか?
自分のプレーでチームや観客、
社会に影響を与えるのが
プロフェッショナル

長谷川さんは大学卒業後、トップリーグのNECレッドロケッツ川崎で活躍され、主将も務められていました。大学バレーとトップリーグの違いを感じられましたか?

高橋さん

長谷川さん
もちろん感じましたよ。簡単に言えば大学バレーは、選手みんなの気持ち次第で勝てる。個々の選手のテクニックも大切ですけど、「勝ちたい!」という気持ちが相手より強ければ、技術的に少々上のチームにも勝つことができます。しかしトップリーグは気持ちだけでは通用しません。一人ひとりがプレーの技術とメンタルの強さを磨いて、つねに切磋琢磨していかなければならない厳しさがあります。その努力を怠らないことが選手としての最低限のラインと言えるかもしれません。
それくらい厳しい世界だからこそ、トップリーグでは、まずは自分のプレーのレベルを上げることが大事です。私は大学時代チームが勝つことを最優先にしてプレーしていたので、その考え方の違いには戸惑いがありましたね。
そうなのですか。私は長谷川さんとは逆で、元々はプレー中に自分のことしか考えられなくなるタイプでした。それが、青学女子バレー部でプレーするようになってからは、少しずつチームで勝ちにいく喜びを意識するようになったと思います。その結果として「自分」と「チーム」、その二つのバランスについて考え、悩んだりすることが多くなりました。

高橋さん

長谷川さん
それもかけがえのない経験です。もちろん自分の技術を磨くことは大切ですが、バレーボールは結局仲間とボールをつないで得点する競技なので、自分のことしか考えられないプレイヤーってどうなの?とも私は思っていました。
仲間とボールをつないで得点する競技……本当にその通りですね。私はつい自分が点を取りたいという気持ちが前面に出てしまうんです。

高橋さん

長谷川さん
独りよがりはいけませんが、自分をしっかり見つめて「自己理解」を図ることはプレイヤーとしても必要不可欠な能力だと思いますよ。でも、その上で、自分のプレーがチームメイトや観客、さらに大きなことを言えば社会にどのような影響を与えるかを考えられる人こそ、プロフェッショナルと呼ぶことができるのではないでしょうか。
自分のことしか考えていない人は周りに影響を与えない。自分の目標を掲げながら人のためにプレーできる人は、チームに影響を与えて強いチームを作っていけるし、結果として勝率も高くなる。
今、高橋さんが感じられている「チームで戦う喜び」は、トップリーグに進んだとしても決して忘れないでください。それもコートの中の選手同士だけでなく、監督やコーチ、スタッフ、試合に出られなかった選手や応援してくれる人たちの気持ちをすべて背負って戦う選手になってほしいですね。
大学4年間を振り返って見ると、自分が活躍した試合より、チーム一丸となって戦えたと思える試合の方が印象に残っています。自分中心の選手だと思っていた自分がそんな風になるなんて不思議ですが、これからも学んだことを大切にしていきたいです。

高橋さん

長谷川さん
私がプレーしているビーチバレーの場合コートには2人だけですから、一丸となって戦うことはさらに大切かもしれません。どちらかの調子が悪いとそちらばかり狙われてしまうので、プレッシャーがすごいんですよ(笑)
私はプレーに波があって、自分の調子が悪いと一気に崩れてしまうのが課題なんです。長谷川さんはなかなか調子が上がらない場合はどのように対処されていますか?

高橋さん

長谷川さん
どんな選手でもプレーに波があることは避けられないと思います。私の場合、まず調子が上がらない理由を考えます。集中力が足りないのか、力んでしまっているのか……まずは調子が悪い自分を受け止めて、客観的に見つめることが大切です。大事な試合だとナーバスになってしまうとか、接戦だと燃えるとか、自分はこういう時にこうなると分かっていれば対処法が見つかるものです。自分はこうなるかもしれないからこうカバーしてほしいとあらかじめ仲間に伝えておくとか、自分の調子が悪くてもチームが勝つための対処法はいくらでもあるんですよね。
なるほど、長谷川さんのお話をうかがうと自分はまだまだ自己理解が足りていないと感じます。なかなか調子が上がらないときの練習はどうされていますか?

高橋さん

長谷川さん
あまり考えすぎてさらに調子を崩さないよう、練習に打ち込みますね。ボールに触ってパートナーとプレーを合わせていくうちに楽しくなってきて、調子を取り戻せることもあります。袋小路に迷い込みそうになったら人を巻き込んで、誰かに悩みを打ち明けてみるのもいいと思います。チームの仲間でもいいですし、バレーボールと関係がない友人からも意外といいアドバイスがもらえることがありますよ。
私も母にはよく相談しますし、硬式野球部や陸上競技部など、学部で仲良くなった他の部活の友人と話をすると、「なるほど!」と思えることがあります。ただ、性格的にどうしても自分で考えて解決しようと思ってしまいがちです。

高橋さん

長谷川さん
でしょう? 青学って自分の頭で考えることが得意な選手が多いから、気軽に人に相談せずに自分で解決しようと頑張ってしまうところがある。それだって悪いことではないけれど、悩みや迷いを言葉でアウトプットすることで思考が整理されて、頭の中がクリアになることって多いんですよ。私だって今でもコンディションの波はありますが、友人と会っておしゃべりをしたり、どこかに出かけて刺激をもらうことで気持ちを切り替えています。そうそう、最近ではヨガを始めてインストラクターの資格も取りました。
すごい!

高橋さん
3rd TALK
女性アスリートとしての
ライフプランは?
出産を経た上で、復帰して次の
オリンピックを狙いたい

4年生になると卒業後の進路についてもあれこれ悩みます。私は卒業後も競技を続けますが、長谷川さんは卒業後のライフプランについて在学中はどのように考えていましたか?

高橋さん

長谷川さん
最初は卒業後に競技を続ける気持ちはなかったのですが、勝ち続けていく中で自然とバレーボールを続けようと思うようになっていました。でも、当時はトップリーグで4、5年プレーした後、結婚して引退するのかなとぼんやり考えていた程度です。女性の場合、出産の問題があるのでいつまでプレーするかで悩むことも多いでしょうね。高橋さんは他の部員と将来について話し合うことはありますか?
はい、よく話題に上ります。体力的にできるところまでバレーボールを続けたいと思っていますが、卒業後は競技の世界には入らず専業主婦になりたいという部員もいます。私も30歳ぐらいまでに結婚して子どもが2人欲しいです(笑)。

高橋さん

長谷川さん
いいですね! MLBの大谷翔平選手も高校生の頃に具体的な人生の設計図をしっかり立てていましたよね。そういうことを考えておくことはとても大切だと私は思います。
長谷川さんは29歳の時にビーチバレーに転向されましたが、そのきっかけはなんだったのですか?

高橋さん

長谷川さん
まだトップリーグでやっていける自信はあったのですが、自分の中で次第に成長が感じられなくなってしまったことが大きなきっかけでした。競技へのモチベーションが保てなくなってきて、それならキッパリと引退しようと思いました。
引退後はそのままNECの正社員として
半年ぐらいとして働いていて、それも良い経験でしたが、次第にデスクワークだけでは満足できなくて「身体を動かしたい!」という気持ちが抑えられなくなってきて(笑)……
そんな折に、選手時代の友人からビーチバレーの試合に誘われました。軽い気持ちで参加したのですが、試合に勝ってすごく楽しかった。実は選手時代に結婚した夫が日本代表に選ばれたビーチバレー選手だったこともあり、その後、自然とビーチバレーに本格的に取り組むようになりました。
そして今回のパリ・オリンピックで20年ぶりの勝利を決めて、決勝進出されたわけですね! 次のロサンゼルス・オリンピックも目指される予定ですか?

高橋さん

長谷川さん
ええ、まだ年齢的に十分できますし、技術的にもまだまだ伸ばせるという実感があるので、ここで選手をやめる理由はありません。二人だけでプレーするビーチバレーでは常に自分がプレーに関与し続けるので、工夫できることがいくらでもあるんです。ビーチに転向してパリ・オリンピックまでの約10年の間に辞めようかなと思うこともありましたが、毎日成長できる要素があると思えるから続けてこられました。インドアも今の方がうまくプレーできるかも(笑)。
ただ、私のライフプランにおいて、子を授かりたいと切望しています。出産を経た上で、復帰して次のオリンピックを狙いたいと考えています。
私もプロになったとしても母になりたいと思っています。

高橋さん

長谷川さん
やはりそうですよね! 私の場合、高齢での出産に備えた卵子凍結という手段も利用しています。競技を続けるうえで出産のことだけはずっと気になっていたのですが、卵子凍結をした後は気持ちに余裕が生まれて、競技に集中できるようになりました。
なるほど! 今日は自分の将来に対して参考になるお話をたくさんうかがうことができて楽しかったです。今はまだ自分のことで頭がいっぱいなのですが、いつか余裕ができたら、ビーチバレーを教えてください。

高橋さん

長谷川さん
もちろん! 楽しみに待っていますよ。今日は私も頑張っている後輩の姿を見て元気をもらいました。どうもありがとう!


After Interview
夢への道を模索する高橋さんが、長谷川さんのお話から見つけたヒントは?

アスリートとして、人としての“大きさ”を感じた
これからトップリーグに進むにあたって、長谷川さんからプレイヤーとして長く活躍するためのお話をたくさん聞けたことはとてもうれしかったです。特に「自分を理解すること」「自分を受け入れること」というアドバイスは、自分の課題を克服するための大きなヒントになると感じています。
長谷川さんは明るさの中に自分の芯をもっていらっしゃる方で、自分のことを理解しながら目標に向かって突き進まれているところがすごくかっこいいと思いました。自分もこれから社会人になって壁にぶつかることがあると思いますが、自分の芯をもって、一緒にいてみんなが楽しいと思えたり、頼りになると感じてくれるようなプレイヤーになりたいです。