複雑な要因が絡み合う
人権問題に「当事者意識」を持って取り組む
OVERTURE
国境を越えた普遍的な価値としての人権概念に基づいて2022年4月新設の「ヒューマンライツ学科」。本学科では、「法は人権が尊重される社会を実現するためにある」という原点から、問題解決に必要な法・政治・経済等の多様な学問分野を学際的に学びます。前身の法学科ヒューマン・ライツコースに所属する大井拓也さんは、「主体的な姿勢と当事者意識を持つことが法を学ぶ原動力」と語ります。その考えに至ったプロセスや学科での学びを紹介してもらいました。
国内外における人権侵害の現状を知り、研究テーマを定める
「人権」を専攻するにあたり、国内はもとより海外の現状についても知識が浅かった私にとって、まずは現場を知り当事者意識を持つことができる本コースのカリキュラムは非常に魅力的でした。それを強く感じたのは、1年次前期に世界の人権問題を扱う授業「ヒューマン・ライツの現場A」を履修した時です。ベトナム戦争やイラク戦争、貧困、孤独死など国内外で起きている人権問題について、ドキュメンタリー映像やディスカッションを通して主体的に理解を深めていきました。中でも、ベトナム戦争での枯葉剤に関する映像授業は衝撃的でした。私にとってベトナム戦争は教科書で学ぶ過去の出来事でしたが、被害者にとっては今もなお苦しみが続いている事実を知り、自分の固定観念が大きく覆されました。人権を文章だけで学ぶには限界があり、どのような侵害が起きているのかは当事者の目線に立って考えてみないとわかりません。中には思わず目を逸らしたくなるような過酷なシーンもありましたが、メディアで報道される機会の少ない映像を見ることで、彼らがどういった経緯でどのような環境に置かれているのかを知り、その後の学習意欲につながりました。
授業は1つのテーマにつき映像・講義・ディスカッションの3回ワンセットで行われます。ディスカッションに慣れていなかったので最初は不安でしたが、回を重ねるうちに意見を共有するだけでなく互いの意見の問題点を指摘し合うなど発展的な議論を行えるようになりました。授業で得た知識をクラスメートと共有して高め合うことで、それまでの一方的な講義では得ることのできなかった力を身に付けることができました。この力はゼミナール(ゼミ)でのディベートなどでも生かされています。
本授業を通して、私は特に戦争によって侵害される人権に興味を持ちました。さらに、2年次で履修した「国際法A・B」によって人権問題を解決するためには法的な解決手段が必要不可欠であることを理解した結果、国際人権法を深く学びたいと考えるようになり現在所属しているゼミに入るきっかけとなりました。
多様なトピックを主体的に学び、広い視野を得る
申惠丰先生のゼミに所属し、「国際人権法を国内でどう生かすか 」をテーマに国内外の具体的な人権問題に対して国内法と国際人権法を併せて適用する方法を学んでいます。グローバル化に伴い日本に移住する外国人が増えていることも相まって国際人権法は日本国内の法制度にも重要な役割を果たしています。国際法をどのように適用しているのかについて諸外国と比較しながら学ぶため、人権問題を俯瞰して考えることができています。
学びたい人権問題を自分たちで選ぶのは、申ゼミの魅力のひとつでもあります。あるディベートでは、スリランカ国籍の女性が2021年3月に収容中の出入国在留管理局の施設で亡くなった事件をきっかけに、入管施設への外国人収容問題をテーマに選びました。タイムリーな出来事であったからこそ報道の在り方や入管法の問題点を同時並行で学ぶことができ、当事者意識が高まる貴重な経験になりました。
3年次後期には「同性婚の承認をめぐる法的現状と課題」をテーマに研究発表を行いました。憲法に具体的な禁止規定がないにもかかわらず日本では同性婚は認められていません。自治体でパートナーシップ制度を認める動きはあるものの法的な拘束力がないために諸々の問題が生じています。法的な保護が図られていないことで当事者らが不利益を被っている現状は国際法の趣旨に反しているのではないかといった法的な疑問や性的マイノリティに対する差別意識という社会的な問題を解決する方法を模索しています。異性婚に限定された現状の婚姻制度が同性カップルにも平等に認められたとしても代理出産や子どもの権利などまだまだ多くの課題があるため、彼らの人権を擁護するには具体的にどのような手段があるのか今後も検討を続けるつもりです。
ゼミでさまざまな人権問題について主体的に学び、広い視野を得られていることにやりがいを感じます。この積極的な姿勢と当事者意識を持つことは、私にとって法を学ぶ原動力となっています。
科学と倫理の知識を専門分野に応用
理系科目に関心があったため、本学独自の全学共通教育システムの青山スタンダード科目では「技術史B」を履修しました。人類と技術の歴史について学び、技術のメリット・デメリットの両面に対する理解を深めることで科学技術の本来あるべき姿を考えます。また、技術を導入する上で起こり得る倫理面での問題、例えば「クローンとして誕生した人間の権利は認められるのか?」といった科学分野に収まらない内容にもふれることができ非常に興味深い講義でした。
私は専門科目の授業で福島原子力発電所と人権について学んでいたため、原子力発電に関するトピックも印象的でした。本授業で放射線が人体に及ぼす影響を数値で知ったことで、「危険だから」という漠然とした理由ではなく具体的な数値を根拠に人権侵害を考えるようになり科学は法学の専門分野の学びにも応用できるのだと気づくことができました。レポートでは「新型出生前診断の技術と人権」について調査しました。法学部の講義で出生前診断は人権侵害になり得ると学びましたが、科学的な視点から考えたことはありませんでした。倫理に関わる問題には正解がなく法学的な視点だけで判断するのは不十分だと痛感し、人権とその諸問題に迫るためには多様な分野の知識を習得することも重要だとあらためて認識しました。
相手を理解して、合理的な解決策を導く力を培う
人権問題は政治や経済など複雑な要因と絡み合って生じるため答えのない多くの問題に直面します。そのため、ただ知識を蓄えるだけでは十分な解決策を見出すことはできません。ゼミで「ヘイトスピーチ規制の是非」について賛成派と反対派の立場にランダムに分かれてディベートを行った際、私自身は当事者の立場(規制賛成派)ですが反対派の立場で討論に参加することになりました。自分の意見とは異なる立場で合理的な根拠を考える難しさを痛感するとともに相手の主張の盲点を考えることが自分の主張の盲点を知ることにつながり、問題点を明確にするきっかけになりました。ゼミでの学びを通して、意見が異なる相手に対して根拠を持って主張する力や相手の主張を理解し互いの妥協点を探り合理的な解決策へ導く力が培われました。これらの力は法を考える場にとどまらず将来の社会生活でも必ず役に立つと確信しています。
インタビュー動画
※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2022年度)のものです。
法学部 ヒューマンライツ学科
AOYAMA LAWの通称をもつ青山学院大学の法学部には、「法学科」に加え、2022年度新設の「ヒューマンライツ学科」があります。
ヒューマンライツ学科は、人権問題の解決のためという目的意識をもって、法および隣接分野を学びます。人間が人間らしく生きるために欠かせない「人権」について、法学をはじめとした多様な学問分野から学ぶ日本初の学科です。人権は国の最高法規である憲法で保障されているだけではなく、国際社会の普遍的な価値でもあります。さまざまな人権問題の解決・改善のために法をどのように生かしていけるかを意識的に学び、政治学や経済学、公共政策などの観点からも学際的にアプローチします。