キャリアの可能性の扉を開いた日本との心の絆、青山学院大学への留学

掲載日 2023/11/13
No.272
国際政治経済学部 交換留学生
(イタリア・ボローニャ大学)
マリオ・フィリップ・ルメル
Mario Philipp Rummel

OVERTURE

ドイツで生まれ育ち、将来は国際機関の外交職に就くことを目標に、イタリアのボローニャ大学大学院修士課程に在学中のマリオ・フィリップ・ルメルさん。13歳で初めて日本に触れ、14歳の誕生日にテレビで目にした東日本大震災の被害に深く心を痛めました。苦境に立ち向かう日本人のたくましい決意に感銘を受け、日本との精神的な絆を感じたマリオさんは、必ず日本を訪れると決意しました。大学院生になり、交換留学先に決めたのは、東京の中心にあって、外交問題や国際関係論の興味深い学びができると確信した協定校、青山学院大学でした。日本への理解を深めながら、外交官となる夢を追い求めています。

初めて日本に触れた時の感動、私の日本を結ぶ感情的な絆

日本との出会いは、2011年の年明け、家族旅行の帰路、乗り継ぎのために関西国際空港に立ち寄った時に遡ります。当時私は13歳、飛行機を降りた瞬間から、自分が育った場所とはまったく異なる世界に入った気がしました。みんな親切で、すべてが整然として、サービスも完璧でした。日本人の規範や心遣いに驚き、魅了されたその経験が、その後一生続く日本への興味への目覚めでした。ドイツに帰る機内で、母に渡された小さな独和辞典を開き、単語を学び始めました。

それから2ケ月後の3月11日、東日本大震災、津波、そして福島の原子力発電所でのメルトダウンが起こりました。忘れもしない、私の14歳の誕生日でした。体調が悪く、学校を休んで自宅で過ごしていました。テレビに映し出される、陸前高田に津波が押し寄せる映像は決して忘れません。テレビで被害状況を追っていましたが、日本人が経験する苦悩を見て、私は胸を痛めました。特に心を打たれたのは、倒壊した家の前に立つ女性が、涙を見せることなく、毅然とした態度で、この悲劇に屈せずに立ち上がる決意を語る姿です。14歳の誕生日に起こった大災害は、日本人の不屈の精神や日本の文化・言語について理解を深める意欲を掻き立て、日本との感情的な絆が生まれました。私は将来、絶対に日本に行くと決意しました。

まず、日本語を学びたいと両親に懇願しましたが、当時住んでいた地域には日本語を教えてくれる先生も教室もなく、本を頼りに自ら知識を蓄えることにしました。できる限り日本について学ぶため、日本に関する本を幅広く読み、数百本のドキュメンタリーを視聴しました。

「東日本大震災津波伝承館」(岩手県陸前高田市)を訪れ、津波に飲み込まれた消防車を見て、命を守る重要性と海や地球と共に生きることの大切さを学びました。

最初の「日本ショック」を乗り越え、日本語学習によって可能性の扉が開き始める

高校入試が終わった後、日本を訪れるために数ケ月間働いてお金を貯め、単身12日間の日本滞在を果たしました。最初の3日間は何から何までドイツとは違う、理解できないという現実に打ちのめされ、適応できぬまま「日本ショック」に直面しました。滞在4日後、日本にいる現実を新しい体験として受け入れられるようになって、私は変わりました。それから本当に旅を楽しむことができました。広島、京都、東京を訪れる素晴らしい時間を過ごしました。ドイツに帰国する機内では、達成感とともに、すでに日本再訪を渇望していました。

その後、ドイツのハイデルベルク大学に入学すると、私はついに日本語の授業を履修する機会に恵まれます。翻訳と通訳を専攻し、第二外国語にイタリア語と英語を、第三外国語に日本語を選びました。1年間日本語を勉強した頃に、福岡に住む友人を訪ねて日本を再訪し、九州、本州、北海道を2週間かけて巡りました。基本的な日本語ができるようになっていたので、人との交流が可能になり、新しい場所を訪れることもできて、自信を持って旅することができました。これまで閉ざされていた扉が開いていくのを感じました。

大学卒業後、進学したイタリアのボローニャ大学大学院では、外交学と国際関係学を専攻しながら日本語の勉強を続けています。COVID-19のパンデミックが起こる直前の2019年、約1週間東京で過ごした時には、日本語力が向上していたので、さらに充実した時間を過ごすことができました。

「日本」について真に理解するために、日本で「生活」する重要性

私は日本に長期滞在することをずっと夢見ていましたが、青山学院大学への交換留学制度によってそれが実現しました。現在、留学後10週間が経過し、人生で最高の時間を過ごしています。

日本に留学する目的は2つあります。第一に、観光客ではなく「日本で暮らす」という夢があったからです。日本の社会で人々がどのように思考し、行動するのか理解するため、日本で生活してみたかったのです。大学院入学のために5年間イタリアで過ごした時も同じでした。ヨーロッパの観光客は、イタリアを「バカンスの国」としてしか見ておらず、そこに生きる人々や文化・社会を見ていないことを残念に思いました。日本も同様で、西洋から見ると、まだまだ「神秘的な観光名所」として単純化されることがあります。さらに私は、日本の将来的な経済的課題は、世界に開かれた社会と国境によってのみ解決できる、そのためには日本に住む外国人がその手助けとなる可能性がある、とも考えています。

第二の目的は日本語力の向上です。ヨーロッパの大学で、日本語を母語とする教員から日本語を習う機会はほぼありません。新しい言語の習得について私の経験から言えることは、自立した言語使用者レベルに到達するためには、その言語が「生きた言葉」として話されている国で、その言葉に没頭して生活することが最良の方法です。言語は単なる語彙と文法以上のもので、文化、感情、イベント、食べ物など、生活に必要な全てを含んでいます。ドイツ語を母語とする私が、イタリア語を習得した時もそうだったので、日本語も同じだと確信して、まずは留学が必要だと考えました。

ボローニャ大学と協定を結ぶ日本の大学はいくつもあるので、大学の歴史、留学生に開放している授業の種類、キャンパスの立地などを詳しく調べ、総合的に検討して留学先を決めることにしました。世界の先端都市・東京の中心部に位置する青山学院大学では、私の専攻分野に通じる外交学と国際関係学の授業が英語で提供されていることを知り、興味深く刺激的な学びが約束されているはずだと感じて、ここに来ることを決めました。

「外交」への興味を追求できる青山学院大学の学修環境

青山学院大学で、最も刺激に満ちた授業は、松川潔先生(国際連合政治・平和構築局(DPPA)所属)が講義をする「国連研究[英語講義]」です。授業は講義とディスカッションを組み合わせ、国連平和維持活動の最前線の事例研究を行います。将来、外交官を目指す私には、松川先生の実体験に基づく知見を吸収できる講義のパートが特に興味深く、いつも勉強になります。

もう一つ、私がとても楽しんでいる授業はボイド ジェームズ パトリック先生が担当する「日本政治論Ⅰ[英語講義]」です。私は日本政治に興味を持っていますが、ヨーロッパの視点から見ると理解が難しく、特に官僚制や立法に関しては退屈に感じることもあります。ボイド先生の広範な専門知識と比較政治の観点が授業の最大の魅力です。

また、私は数学に苦手意識がありますが、将来のキャリアに必要なスキルを身に付けるために「国際金融論Ⅰ」を受講しています。
ボローニャ大学大学院での私の指導教授は、青山学院大学の経済学と政治学の分野における学術的功績を高く評価しています。実際、ここで学ぶことで、国際政治、外交、平和維持に対する興味を育むことができて、満足しています。

また、日本語の授業を通じて、自分のスキルが着実に向上しているのを感じます。交換留学期間終了後もしばらく日本に留まり、日本語学校に通って、日本語能力試験(JLPT)のN2認定に合格することを目標にしています。

500年以上も屋外で自然災害に耐えてきた鎌倉大仏。その静かな座った姿から圧倒的な存在感が漂います。

日本での大切な時間を最大限に活用し、外交官という将来の夢を実現したい

この街に住んでいると、休日には、世界一の公共交通機関を利用して、さまざまな場所へ日帰り旅行することも簡単です。富士山の最高の景色を楽しむために河口湖へ行ったり、神奈川県や埼玉県へも足を運んだりしています。来日直後、東日本大震災から12年を経た陸前高田や松島など、東北の被災地を実際に訪れたことは、特に感慨深い体験です。ゴールデンウィークには友達と一緒に沖縄へ飛びました。透き通った青い海は、これまで見た中で最も鮮明でした。一日中シュノーケリングを楽しみ、サンゴ礁ではウミガメ、フグを見ました。日本には、多様な島々や地形、都市景観があります。加えて、文化の伝統や産業、娯楽も多岐にわたることを実感しています。

日本には社会的ルールが多いという評判もあり、それがこの国を秩序立てています。電車の中では大声で話さない、混雑時には降りる人を優先するなどのマナーは素晴らしいと思います。靴を脱ぐタイミングや場所など、来日直後は少しわかりにくいルールもありましたが、ドイツでも多くのルールがあるので、すぐに順応しました。今では日本での生活すべてが快適に感じられ、東京が提供してくれる機会は魔法のようです。ここで一生を過ごしても、すべてを見つくすことはできないでしょう。

将来は外交職に就いて、日本で働く機会があることを願っています。国連のような国際機関で働くことにも興味があります。私の究極の夢は、いつか駐日ドイツ連邦共和国大使になることです。ドイツで外交官のキャリアは競争が激しく困難ですが、異なる場所に派遣されて国を代表し、さまざまな責任を担うことができればと思っています。どこに行くにせよ、私の日本での経験は、将来の課題に取り組む際に必ず役に立つと考えています。

沖縄の海でウミガメに出会えるかどうかは運とタイミングに大きく左右されます。感動的な経験でした。

関連リンク:マリオさんのAGU LiFE英語インタビュー記事はこちら

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