青学で出会った留学生
二人の、向学心を
支える学びの環境
<2022年度学業成績優秀者表彰 最優秀賞受賞>
OVERTURE
青山学院大学では、さまざまな国や地域からの留学生が自ら学びの道を開き、青学でしかできない経験を積み重ねています。ともに中国出身の王 赫(オウ カク)さんと黄 溢哲(コウ イツテツ)さんは、文学部史学科東洋史コースで学ぶ留学生。授業や研究で極めて優秀な成績を収めており、文部科学省の外国人留学生学習奨励費の受給対象者に選ばれたほか、青山学院大学学業成績優秀者表彰では、黄さんは2021年度と2022年度の2年連続で奨励賞を受賞、王さんは2020年度の優秀賞、2022年度は最優秀賞に輝いています。同じゼミナール(ゼミ)に所属し、ともに大学院進学を目指すお二人に、青学での学び、研究内容、将来などについて話を聞きました。
教養と専門性を身に付けられる環境が魅力
中国(遼寧省)出身
来日後、2年間日本語学校で学んだ後、青山学院大学に入学しました。青学を選んだ一番の理由は、この大学ならではの、総合的な学びが得られる全学共通教育システム「青山スタンダード」があるからです。グローバル化が進む今、世界では総合力がある人材が求められています。特に私は大学教員を目指していることもあり、専門分野の知識のみならず、多様な学問領域の基礎知識、物事を多面的に考える能力、人々の心理を理解する能力など、幅広い教養を身に付けたいと考えていました。青山スタンダードがあり、興味を持っていた史学もしっかり学べる青学は、私にとって魅力的な学びの場でした。
東洋史コースでは、私の出身地である中国の東北部から韓国、日本という東アジア圏の文化や歴史の比較研究に力を入れ、第二外国語として韓国語も履修しました。特に印象に残っているのは「東洋史特講(6)」の授業です。東洋史の中でも中国に焦点を当て、史・資料を読み解きながら中国史を世界史との関わりの中で捉え直していく内容で、日本では知られていない知識を先生とシェアしたり、中国人である私も知らなかった知識に触れたりしながら、主体的に学ぶことができました。
コロナ禍で中国に帰国していた時期にオンラインで受講した授業なのですが、私が授業にうまく参加できなかった時には、担当の先生から中国語で「你不用担心(心配しなくてもいい)」と連絡をいただいたことが深く印象に残っています。とても感動しましたし、安心することができました。留学生に対する先生方の親身なご対応も、青学の素敵なところですね。学芸員の資格取得にも取り組んでいますが、昨年は、ゼミナール(ゼミ)の飯島渉先生に紹介していただき、横浜市歴史博物館での資料整理のアルバイトを体験することができました。
近代アジア史が専門の飯島先生のゼミでは、東アジア北東部の伝統的な床暖房システム「オンドル(日本名:温突)」の日中韓の相違を研究しています。オンドルは台所のかまどから出る熱を床下の溝に流し、部屋全体を暖める設備で、その後、熱源はガスなどに変わりましたが、中国東北部や朝鮮半島では、現在も民家の暖房として一般的に使われています。ところが日本では、古代の遺跡にその痕跡を見ることはできるものの、それ以降は使われた形跡が見つかりません。日本・中国東北部・朝鮮半島は気候や文化に共通点が多い地域にもかかわらず、なぜ日本でだけオンドル(温突)が使われなくなったのか?という問題意識を持ち、研究テーマに選びました。さらに、飯島先生のアドバイスを受けて、日本が中国東北部を実質的に支配していた時代の、日本人の寒冷地順応化にもスポットを当て、より広い視点で研究に取り組むことも考えています。このテーマは、史学だけではなく考古学や民俗学にも関わるものの、どの領域にも先行研究が少ないので、今後、現地調査などの研究活動に力を注いで、私自身が謎を解明していきたいです。
卒業後は大学院に進学し、将来は大学で東洋史の教員になることが目標です。中国人学生、さらに中国の多くの人々に、東アジア圏における日本の姿を偏らず客観的に伝えていきたいと思っています。
歴史研究の神髄に触れた史学科での学び
中国(北京市)出身
青山学院大学の存在は、来日後に通っていた日本語学校で、進路指導の先生に紹介されて知り、入学前にオープンキャンパスや青山祭にも足を運びました。青学の第一印象は「表参道というおしゃれな場所にある、エレガントな大学」。学生をはじめとするキャンパス全体から、雰囲気の良さを感じましたね。
入学当初は近代日本史に興味を持っていましたが、1年次に履修した「史学特講A(4)」の授業をきっかけに、満州、朝鮮や台湾等の日本の植民地政策の歴史を研究したいと思うようになりました。この授業では、太平洋戦争の終戦に大きな影響を与えたとされる昭和天皇の「聖断」について取り上げ、さまざまな史料から発言の真偽を検証したことが印象に残っています。一つの出来事を検証するためには、多くの史料と「格闘」しなければなりません。史料の信頼性を見極める史料批判は歴史研究の基本であり、その神髄を知ることができた授業でした。
また、歴史の知識を蓄えることを目的に、1カ月ごとに読書計画を立て、毎月数冊ずつ歴史関連の書籍を読むことを習慣化しています。興味を持った資格取得や試験にも積極的にチャレンジし、3年次には宅地建物取引士資格試験をはじめ、世界遺産検定2級にも合格することができました。
卒業論文では、飯島渉先生の指導の下、東アジアにおける日本植民地の高等教育とその影響について分析しています。留学前に中国で受けた教育では、日本の植民地統治時代の歴史について、あまり客観的な視点で語られていなかったように感じます。一方で、実際に植民地時代を経験した人の話を聞くと、当時のイメージは必ずしも悪いものばかりではないようです。高校時代からそうした差異に関心を持っていたのですが、青学での学びを通してさらに興味が深まり、研究テーマとして取り組んでいます。今後、日本の植民地時代の高等教育の実態、たとえば皇民化教育、高等教育機関での植民地出身学生の位置付け、植民地間の教育格差などについて、朝鮮、台湾の各総督府の公文書や学生が残した手紙、日記などの関係史料を多角的に検証し、今日教育に残した影響についても検討していくつもりです。
大学のサポート制度で役に立ったのは、外国人留学生を支援するチューター制度です。青学生として留学生活を送るために不可欠な、学業・生活の双方に有益なアドバイスをたくさんいただきました。その時の感謝の気持ちを、次世代に還元したいと考え、3年生になって自らチューターとなり、博物館見学などの文化研修活動を企画し、後輩の学びをサポートすることもできました。チューターは、ちょっとしたことでも気軽に質問できる存在なので、留学生のみなさんにはぜひ活用してほしいですね。
実は大学受験時の第一志望は、青学ではありませんでした。しかし、入学してみると青学は想像以上に学習環境が良く、とてもポジティブに学ぶことができています。今後は、日本で大学の教員になることを目標に、大学院に進学し、日本近代史について研究を深めていくつもりです。
青学の先生方との出会いが私たちの宝物
共通点が多く、学業の同志として仲が良い王さんと黄さん。二人が青学での学生生活の魅力や思い出を語り合いました。
―お二人はなぜ日本に留学しようと思われたのですか?
王:私は、中国で理系の高校から大学に進学しましたが、中国における理系での人生設計の難しさに、将来に対する迷いを感じていた頃、たまたま近代歴史の授業で日本の歴史に触れ、昭和の雰囲気に心を奪われたのが最初のきっかけです。日本に対する知的好奇心を満たすために、映画やドラマを見るようになって日本の文化にも関心を持つようになり、「もっと日本のことを知りたい」との思いが高まり、中国の大学を退学して、日本に留学する決心をしました。
黄:私にとって日本文化は、幼少期からアニメやゲームを通じて身近なものでしたが、さらに高校時代に旅行で初めて日本に行き、日本を体験したインパクトから、日本の大学に留学すると決断しました。もともと歴史が好きで、歴史劇や歴史小説にも夢中になり、中学・高校では歴史が最も得意な科目でした。「日本への興味や憧れ」と「歴史への関心」、その2つが重なって日本で史学を学びたいと思いました。
―二人は同じ中国からの留学生で、同じ2019年に入学されたんですよね。
王:そうですね。入学直後に開催された、留学生の交流パーティで出会って、それ以来今までずっと友達であり、史学研究の同志です。
黄:王さんには大学での手続きのこと、勉強のこと、生活のこと、いろいろ相談に乗ってもらっています。一緒に箱根や奥多摩までドライブしたり、博物館や美術館の見学に行ったりもしましたね。
―本当に仲が良いですね。今お二人は同じ飯島ゼミで研究に熱心に取り組んでいるそうですが、ゼミではどんな風に学んでいるのですか?
黄:私たちは大学院に進学して、将来は研究者を目指すという共通の目標をもっています。飯島先生は私たちの将来のことを見据えて、ほかの学生たちよりゼミ発表の回数も難易度も高く設定して課題を与えてくださるなど、とても丁寧に、厳しく指導をしてくださいます。印象深いエピソードは、ゼミで行った「歴史とは何か」(E.H.カー著、1962、岩波書店)の講読発表で、王さんとのペアで第3章の要約と考察を担当したことです。二人で難解な専門書を読み解いて、私が2万字近くになる口述発表用の原稿を書き、その原稿に沿って王さんがプレゼン資料をまとめました。苦労もしましたが、クオリティーの高い発表になった時には二人で大きな達成感を味わうことができました。
王:ゼミに入った時、飯島先生に「厳しく指導します」と言われて、その時は先生の指導にしっかりついていけるのだろうかと、不安が先立ちましたが、今では、私たちのことを思って真摯に向き合ってくださる素晴らしい先生だと分かりましたし、飯島先生のような方に指導を受けられる環境こそ、留学生の私たちにとってプラスになると感じます。
黄:私もそう思います。例えば、日本では漢文を理解するとき、漢文を日本語のルールに則って読む「訓読」という方法を使います。私たち中国出身の学生は、漢文をそのまま読んで理解できるので、わざわざ訓読を学ぶ必要はないと考える人もいるかもしれませんが、飯島先生は、中国人留学生にもあえて訓読を求めます。
王:もちろん学び方はサポートしてくださいましたが、日本人と同じレベルで訓読できるようになることを求められました。私は、それが逆にありがたかったです。日本の大学に入学し、日本人学生と同じ授業を履修しているわけですから、特別扱いは私たちにとってマイナスにしかなりません。ただ、訓読は本当に難しくて、勉強面で一番苦労しています。
―ほかにも思い出に残っている授業はありますか?
黄:3年次に履修した青山スタンダード科目「囲碁で養うロジカルシンキング」の授業はユニークでしたね。
王:私も黄さんと一緒に受講しましたが、面白かったです。
黄:囲碁のルーツは中国なのですが、私自身は授業で学ぶまでルールも知りませんでした。講義では、上達法や実践的なテクニックを知ることができ、毎回学生同士で対局する時間もあります。勝つためには理詰めで考えることが必要なので、対局を重ねるにつれてロジカルな思考法がどんどん鍛えられました。
王:ロジカルな考え方のほかにも、対戦相手の考えを読む想像力も養われました。毎回違う学生と対局するので、コミュニケーション力も身に付いたと思います。この授業はまさに教員になるために私が求めていた能力が身に付く科目でした。こういうユニークな授業があるのも、青学の良さですね。
―日本への留学を目指す外国人のみなさんにメッセージをお願いします。
王:グローバル社会で活躍でき、専門性と総合力をともに備える人材を目指すなら、青学への進学は唯一無二の選択だと思います。飯島先生やたくさんの先生方との出会いは私の宝物です。
黄:私も同じです。素晴らしい先生方との出会いは、最高の思い出になりました。青学の史学科は、歴史を学びたい留学生に心からおすすめできる学科です。
※登場する人物の在籍年次や役職、活動内容等は取材時(2022年度)のものです。
※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2022年度)のものです。
文学部 史学科
青山学院大学の文学部は、歴史・思想・言葉を基盤として、国際性豊かな5学科の専門性に立脚した学びを追究します。人間が生み出してきた多種多様な知の営みにふれ、理解を深めることで、幅広い見識と知恵を育みます。「人文知」体験によって教養、知性、感受性、表現力を磨き、自らの未来を拓く「軸」を形成します。 ロマンあふれる歴史を扱う歴史学は、実は史料を読み解き過去を再構成する科学的・実証的な学問です。史学科では、日本史、東洋史、西洋史、考古学という4つの視点から学びを深めます。過去について学ぶことは、異文化に対する広い視座を養うとともに、現代社会の成り立ちに関する理解を深め、社会の持続可能性を探ることにも通じます。これらについて自身の見解を客観的に表明できるよう、指導します。
国際センター
国際センターは、大学の国際化に関わる教育支援と国際人育成をサポートしていきます。主な業務は、海外協定・認定校を対象とする「学生派遣」と「留学生の受入れ」、短期語学研修などのプログラムやイベント等の企画・運営、および青山学院中・高等部などの設置学校と大学間のグローバル化に関わる一貫教育体制のサポートなどを担います。国々の多様な文化や慣習および学生の異なる価値観を尊重しながら、海外大学と本学との連携をさらに強化・拡充していきます。
バックナンバー
電気電子工学科での学びと出会いで広がった視野、身に付いた積極性
理工学部 電気電子工学科 3年
幅広く芸術を学んで身に付いた、鑑賞力と印象を言語化して伝える力
文学部 比較芸術学科 3年
夢は日本のビジネスを支える弁護士。正確な知識と「説明できる力」で、司法試験に挑む
法学部 法学科 4年
将来を模索していた私が
経営学科で見定めた
公認会計士という目標
経営学部 経営学科 4年
研究を通して積み重ねた
挑戦と成功体験が大きな自信に
理工学研究科 理工学専攻 知能情報コース
博士前期課程2年
オリジナルの分子を使って
新たな核酸の検出手法を開発
理工学研究科 理工学専攻 生命科学コース
博士後期課程2年
*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。