勝利への執念を成長の糧に、体育会スキー部と学業を両立。目標はアルペン日本代表

OVERTURE
青山学院大学には学業とスポーツを両立させて、各種大会などで優秀な成績を残している学生がいます。コミュニティ人間科学部の上村仁華さんもその一人。大学2年生の冬、第77回国民体育大会冬季大会スキー競技会のジャイアントスラローム(大回転)成年女子A競技で第5位、続く全日本学生アルペン選抜大会の1日目では優勝の栄冠を手にしました。2022年度学友会表彰(体育会表彰)最優秀選手受賞を受け、大学での最終学年を迎える上村さんに学業と競技への思い、さらに将来の抱負についてうかがいました。
スキーに没頭した高校時代を経て、大学で学ぶ喜びに目覚める
新潟県で生まれ育ち、父が競技スキーの選手だったこともあり、物心がついた頃からスキーは生活の一部でした。ゲレンデを駆け抜けるスピード感と、とにかく速さを競うというシンプルな点に魅了され、父と同じアルペンスキーの道に進んだのは必然だったのかもしれません。アルペンスキーは、雪山に作られた傾斜のあるコースを滑り降り、コースに並べ立てられた旗門を正確に通過しつつタイムを競う競技です。私はジャイアントスラローム(大回転)という、旗門数が多く大中小のカーブを規則正しく曲がることが要求される種目をメインに、選手として各種大会に出場しています。
私が生まれ育った長岡市は、新潟県の中では降雪量があまり多くない地域です。そのため小学校3年生からは雪の多い地域にあるスキークラブに所属し、シーズンを通して積雪量が多い野沢温泉や菅平高原などで練習を重ねていました。やがて競技で「勝つ喜び」を味わうようになると、ますますスキーに没頭するようになります。高校は県内にあるアルペンスキーの強豪校に進学しました。高校時代は週6日スキーの練習をするハードな生活でしたが、私はスキーの練習が楽しくて、自分の技量が日々向上することが嬉しかったのでつらいとは思ったことはあまりありません。
「大回転」は高速で雪山を滑走するスピード競技。滑降時の上村さん
大学進学にあたっても、まず、競技スキーを続けるためにスキー部がある大学を前提に探しました。その一方、大学生になったら学業にも本気で取り組んで、自分の視野や人生を広げたいとも思っていました。いろいろ考えて選んだのがスキー部の先輩が進学していた青山学院大学です。進学時の問題意識の一つとして、それまで新潟県を拠点にスキーを続けてきた私は、スキー人口の減少、スキー場の経営難を身にしみて感じていました。青学のコミュニティ人間科学部は、私を成長させてくれたスキー場とその地域のために役立つテーマ、例えば「スポーツと地域活性化」について学ぶことができることを知り、大学生活に大きな期待を抱いて入学しました。
ただ、高校ではスポーツコースに在籍していたので、青山学院大学で求められる学修レベルの高さにとても困惑したことも事実です。「大学で学ぶ」ことの苦労は予想以上でしたが、学部の友人たちに助けてもらい、合宿や遠征の移動時間などを有効活用しながら、授業についていけるよう前向きに取り組んできました。特に体育会所属の友人たちとの交流は、お互いに競技と学業の両立の悩みを話し合い、励まし合ったりしてとても良い関係を築くことができたと思います。
大学で学業に真剣に取り組んでみると、世の中にはまだまだ自分が知らないことがたくさんあることに気付くようになりました。大学で学びたいと考えていた「地域活性化」に関しても、授業やゼミを通して自分が知らなかった側面がたくさんあることに驚きました。例えば、「コミュニティ文化継承概論」という授業では、コミュニティが共有している有形・無形の文化資源をどのように継承し、新しい文化として創造していくかについて学んだのですが、自分の身近なところに地域の魅力となる文化資源があることを教えられました。私が生まれ育った長岡市に近い燕三条の金属加工・刃物製造は、江戸時代から続く鍛冶の技術に支えられた文化資源であることに気付いてから、あらためて詳しく知りたくなって、授業課題とは関係なく自発的に深掘りして調べてみたりしました。
日常的に勉強する習慣が身に付いてくると学ぶ面白さに目覚めてきましたし、学んだ内容が定着している実感もあります。これはスキーの競技力向上のため、トレーニングを継続して体得することと共通しているのかもしれません。
相模原キャンパスのシンボル「ウェスレー・チャペル」の前でスキー部の友人と(左側が上村さん)
勝つためのトレーニングを試行錯誤
青山学院大学体育会スキー部は19名(男子6名、女子13名)の部員がいて、私は副将をしています。練習は、スキーのオフシーズンである夏期は週2日部員が集まって、代々木公園や青学の旧短大の体育館などで、走り込みやバイクの陸上トレーニングや、ウェイトトレーニングなどを行います。一方、冬のスキーシーズンになると、選手一人ひとりが青山学院大学の学生として全日本学生スキー選手権大会(インカレ)や全日本学生アルペン選抜大会などの試合に臨みます。現在男子は2部、女子は1部ですが、それぞれ昇格、優勝を目指してトレーニングに励んでいます。
試合後、スキー部を引退する先輩との記念写真
青山学院大学の場合、文武両道にはかなり努力を要します。また、練習時間に関しても、新潟での高校時代と比べるとほぼ半減したので、1年生の頃は思う存分スキーができないという葛藤がありました。しかし、大学生としてしっかり勉強しながら競技を続けることは自分自身で選んだ道です。ジレンマを抱えながら、限られた時間でできるトレーニングを自分で工夫するようになりました。最も苦悩するのは、タイムが出ない理由がわからない時です。例えば、自分が出場した試合の動画を客観的にチェックして分析しながら、勝つためのトレーニング方法を試行錯誤します。もし本番で結果が出なかったら、また違ったアプローチでのトレーニング方法を考えて次の試合に臨む、この繰り返しです。練習に取り組むモチベーションは「勝ちたい」という強い気持ち。スポーツ選手にとって勝つことへの執念や貪欲さが何よりの成長の糧なのです。
2年生の終わり、新潟県選手団として参加した「第77回国民体育大会(国体)スキー競技会(秋田県)」では、全国の強豪選手が競い合う大回転成年女子Aで第5位の成績を残すことができました。自信と勢いをそのままに臨んだ「第2回全日本学生アルペン選抜大会」では、1日目:第1位、2日目:第2位という結果を出すことができたのです。公式記録が残る全国大会での優勝は私にとって初めてのことで、あらためて勝つことの喜びを心から味わうことができました。と同時に、勝つためには積極的な練習、しっかりした準備が不可欠であることを実感し、これまで取り組んできたトレーニングの結果が出たことも今後の自信につながりました。
第77回国民体育大会冬季大会スキー競技会(第5位)表彰式。秋田県鹿角市のイメージキャラクター「たんぽ小町ちゃん」と
卒論執筆、そして日本代表への挑戦!
3年生からはスポーツ経営学、地域スポーツ、スポーツビジネスを専門とする田原陽介先生のゼミに所属して、スポーツと地域活性化、プロスポーツのマネージメントについて学んでいます。このゼミでは座学だけでなく、ゼミ生がさまざまなスポーツを実際に体験することも特色で、みんなで和気藹々と身体を動かして楽しんでいます。卒業論文は、私自身も高校時代から出場している「国民体育大会(国体)と地域活性化の関係」をテーマに執筆する予定です。
3年生のシーズン前は、スキー競技は大学限りで引退することを考え、就職活動も始めていましたが、3年生終わりのスキーシーズン中に「こんなに楽しいスキーを止めたくない」と思い直し、大学卒業後も競技スキーを続ける決心をしました。
その一方で、いつか訪れる現役引退後のセカンドキャリアも視野に入れて大学生活を過ごす必要もあると考え、3年生のシーズン直前の秋の3ヶ月間、人材紹介業でのインターンシップを経験しました。人と話すことが好きなので、さまざまな方々の人生の大きな選択をサポートする人材紹介という仕事はとても魅力的に感じました。私自身がスキー競技を通して考えたり、悩んできたりした経験が、この仕事に生かせたら良いとも思っています。
もちろん現役のスキー選手でいる間は、つねに「勝利」に向かって全力を尽くします。私にスキーというスポーツを教えてくれた両親は、常に温かい気持ちで応援してくれることを実感します。選手としての目標は、「アルペンスキー・ワールドカップ」や「冬季オリンピック」に日本代表として出場すること。子どもの時から13年間続けてきたスキー競技ですが、まだまだ楽しい!目標を高く持ってこれからも技術を究め、記録を追求していきたいと考えています。
第96回全日本学生スキー選手権大会(女子1部)の表彰式。成績は「大回転 第10位」「スーパー大回転 第7位」
※各科目のリンク先「講義内容詳細」は2022年度のものです。
コミュニティ人間科学部
コミュニティ人間科学部では、日本国内の地域に着目した社会貢献を追究し、地域文化とそこに暮らす人々の理解を深め、より良いコミュニティ創造に寄与する力を培います。幅広い知識の学び、体験し行動するプログラムを通じて、自ら課題を発見・解決し、地域の人々との互助・共助のもとにコミュニティの未来を拓く力を育成します。
日本の地域社会は、高齢化や過疎化などさまざまな課題に直面しています。その解決に力を発揮するには、地域の人々に接し、活動の実際を知り、共感する体験が重要です。コミュニティ人間科学科では、地域の人々や行政についての学びをはじめ、市町村やNPOと連携した体験的実習などを展開します。専門家として、地域社会の構成者として、地域の活性化や持続的な活動支援ができる人材を育てます。
