人権保障と国際平和を希求し、苦しむ人を救うために「知る」を貫いた4年間

掲載日 2023/8/14
No.254
法学部
法学科ヒューマン・ライツコース 4年
永澤 友睦
茨城県立鉾田第一高等学校出身

OVERTURE

高校時代、家族の海外赴任に帯同したメキシコで目にした光景が原点となって、人権保障や平和の実現を将来の目標に定めた永澤さん。法学部での授業とフィールドワークで人権問題のリアルを知り、知り得た現実を変えようと社会での第一歩を踏み出します。

メキシコで見た光景が学びの原点

将来、人権の保障や平和な社会の実現に貢献したい。そう決心したのは、高校 2 年生の春から 1 年半、父の海外赴任に帯同し、家族とともに暮らしたメキシコでの生活がきっかけです。激化する麻薬紛争、それに伴う極度の貧富の差など、メキシコでは「人権」が著しく損なわれている現実を目の当たりにしました。ある日、私が車に乗って信号待ちをしていた時のことです。急に幼い兄弟がドアを叩き、コップを差し出してきました。お金や食べ物を求めていたのだと思います。しかし、高校生であった私には、分け与えられる物を持っておらず、その状況にただただ唖然とするばかりでした。何もできなかった自分を悔やむとともに、人が生まれながらにして持っているはずの人権が損なわれている現状を変えたい、変えなければならない、と強く思うようになりました。

高校卒業後の進路を考える時期でもあり、人道支援や国際協力について学ぶことができる大学を調べていく中で見つけたのが、青山学院大学法学部のヒューマン・ライツコース*の存在でした。「法は人権が尊重される社会を実現するためにある」というコースの理念は、私の問題意識と合致しました。社会の中にある人権問題にまず目を向け、そこに法をどう活かしていけるかを考えるという、従来の法学部における人権の学び方とは逆のアプローチで学ぶことができることに大きな魅力を感じました。そして、人権の土台となる「法律」と、法を体現する「現場」を両輪で学ぶこともできる学科だと知り、将来の目標に直結する勉強ができる大学と考えて第一志望に決めました。

日光東照宮にて、メキシコ在住時の親友と

*法学部法学科に加えて、2022年度ヒューマンライツ学科を新設。法学科ヒューマン・ライツコースはその前身である。

自分の無知さを「知る」ことから始まった

大学での 4 年間は、人権問題を「知る」ということに力を尽くした時間だったと思います。その出発点にあるのは、入学直後の 1 年次前期に履修した「ヒューマン・ライツの現場A」の授業です。この授業は、国内外の人権問題に関するドキュメンタリー映像を見て、先生の講義を聴いたうえで学生がグループディスカッションを行うというステップで学びを深めます。担当教員の一人である大石 泰彦先生は、授業の中で繰り返し「何もできなくてもいいから、まず『知る』ことを大切にしてほしい」と話してくださいました。実際、授業を受けて私が痛感したのは、自分が「いかに知らないか」ということでした。3 年前の授業ですが、例えば、日本国内の孤立や孤独死をテーマにしたドキュメンタリー映像を見た時の驚きは、今でも忘れられません。現場の千葉県松戸市の常盤平団地は、私の自宅からそう離れていない場所にあるからです。人権の問題は、メキシコのような日本から遠く離れた場所だけでなく、日本の自分の足元にも存在していることを、私は授業を受けるまで全く知りませんでした。大学での学びのスタートでいきなり自分の無知を突きつけられ、もっと知らなければならないと感じて、「青学の法学部に入学してよかった」と心から思いました。

2年次に履修した「人権法特論A」も印象深い授業です。映像資料を教材に、主に戦争の暴力の犠牲になった人びとの姿を通じて、「戦争の世紀」とされる 20 世紀振り返る授業ですが、第一次世界大戦の総力戦をテーマにした授業が深く心に刻まれています。実は、その講義で取り上げられた映像は、中学 3 年生の社会科の授業で見る機会があったのですが、当時は凄惨な戦場の映像がただ怖く、最後まで視聴に耐えることができず、半ばトラウマのように記憶に残っていました。しかし、この授業で同じ映像を見ることになった時、過去の記憶を払拭して「事実から目を逸らさずに向き合いたい」「これからの学びに繋げたい」という使命感にも似た強い思いがわいて、最後まで直視することができました。大学で学びを重ねることで、世界の現実や人権に対する自分の感じ方、考え方が変わったことを実感した瞬間でした。

コロナ禍には、地元の公園でベトナム人技能実習生の方々に声をかけて、小中学校の友人たちと一緒にサッカーを楽しんだ(後列右から3番目が永澤さん)

自ら現場に立脚して多様な現実を「知る」

3年次からは森本 麻衣子先生のゼミに所属し、現場に立脚して「知る」ためのフィールドワークにも取り組みました。東京都のドヤ街(住居不定の日雇労働者が宿泊する簡易宿所の集中する街区)として知られる山谷地区をゼミ活動で訪問し、さまざまな人が共生する現場に直に触れて感じたことは、メディアを通して得るステレオタイプな情報だけではない「現実」でした。目を背けたくなる厳しい現実もある一方で、日常を生きる力強い営みが存在することに光を感じました。たとえドキュメンタリー作品であっても、映像や文章で表現されたものは、制作者の主観によって切り取られた、現実の一部に過ぎないことを強く認識しました。一つの視点や自分の視点だけで物事に対峙するのではなく、相手の視点や第三者の視点に立って考えること、法を立場の違いから見ることの重要性に気づくことができたのは、実際に現場に立つ経験をしたからこそだと思います。

大学3年次の前期最後のゼミの授業後に、ゼミの友人たちと初めて本音で語り合った。思い出の一枚(左から2人目が永澤さん)

卒業論文では、国際的な人権問題であるクルド人問題と、日本における入管法の難民・移民制度を背景とした在日クルド人問題について、国際人権基準に照らした基本的人権の観点から考察しています。「国家を持たない世界最大の民族」と呼ばれ、独自の言語・文化を持つクルド人は、祖国で政治的迫害の対象とされています。抑圧から逃れるために、親戚や知人を頼って来日したクルド人たちは、埼玉県南部に約 2,000 人が生活していると言われ、日本語しかわからない二世、三世も存在しています。彼らが帰国すれば命の危険があることは国際社会が認めるところですが、日本における難民認定率は諸外国と比較して極端に低い現状があり、現在、日本で難民認定を受けられたクルド人は 1 名です。多くのクルド人が非常に不安定な在留資格のもと、日本に居住しながら基本的人権が享受できない状態で生活を営んでいます。教育・医療・住居・労働など生活の基盤が厳しく制限された在日クルド人の現実を知るために、埼玉県のクルド人コミュニティを訪ねました。在日クルド人問題は、国際的な人権問題と、日本の法に基づく難民認定や入管制度の在り方という国内の人権問題、その結節点だと考え、卒論のテーマに選びました。4 年間の学びを通して、漠然ととらえていた人権や平和、世界に対する解像度が上がり、立場や利害にとらわれずに「誰かのために力を尽くしたい」という目標がより明確になったと思っています。

代表を務めた国際ボランティアサークルの様子(列上段の右から3人目が永澤さん)

平和をつくるため、「知る」から「行動」へ

就職活動では、「誰かのために」「平和社会の実現」を自分の軸としていました。メキシコでの経験、法学部で知った国内外に多数存在する人権問題に加え、自分はどのような人物で、何を大切にしていて、一度きりしかない人生で成し遂げたいものが何なのか?を言語化できるまで、とことん自分自身と向き合った結果、生まれた信念です。入学当初は公務員も視野に入れ、試験対策の勉強を続けながら、公社・団体、教育業界を中心に就職活動を進めていましたが、自分自身を見つめていくうちに、立場や利益にとらわれることなく、誰かのために、そして平和社会の実現に尽力できる環境に身を置きたいと考えるようになりました。

そんな時、3 年次の冬に学内企業説明会で、後に内定先となる日本赤十字社と出会いま した。日本赤十字社が掲げるミッションステートメントである、「苦しんでいる人を救いたいという思いを結集し、いかなる状況下でも、人間のいのちと健康、尊厳を守ります。」は、まさに私の思いそのものでした。そして、各国で発生する紛争や自然災害により被害を受けた方々への救援活動、被災地や保健衛生の環境が整っていない地域等に対して、国際ネットワークを生かした中長期的支援を行うという活動内容を知り、これは自分が人生をかけて成し遂げたい活動内容に合致していました。誰かのために何かをできることは当然のことではない、一人だけの力ではどうにもならない現実もあるということを自身のメキシコでの経験から痛いほど突きつけられましたが、「救いたい」という私と同じ思いを持つ人たちの力を結集する日本赤十字社であれば、「救いたい」という私の思いを体現できるのではないか。あの時の感動は、今も忘れられません。

大学時代は、「知る」ことをとことん貫き、そして、世界の不条理さ、やるせなさ、自分の無力さを痛いほど感じた4年間でした。これからは、「知る」という姿勢を持ち続けながら、知り得た現実をより良い方向に導くために「行動する」人材になりたいと考えています。日本国内にとどまらず、国際要員として世界中の現場に赴き、そこに生きる人々との対話を通して、ともに明日を切り拓いていきたいです。 平和の実現や人権の保障のために、私一人の力でできることは限られています。しかし、日本赤十字社で同じ思いを持つ人と力を合わせれば、実現に近付くことができるはずです。また、日本赤十字社ではレジリエンス(回復力)も大切にしています。「支援する/される」だけの関係ではなく、助けられた側の「自ら立ち上がる力」を引き出し、ともに平和をつくっていくことができるよう、努力を続けていきたいと思っています。

永澤さんの就職活動スケジュール

  1. <3年次> 2021年 7月

    民間企業 3 社のインターンシップに応募

  2. <3年次> 2021年 9月

    応募した企業のインターンシップに参加

  3. <3年次> 2022年 2月

    学内企業説明会に参加。日本赤十字社に出会い、第一志望に決める

  4. <4年次> 2022年 4月~

    公社・団体、教育業界に絞って企業説明会に参加、エントリー、選考

  5. <4年次> 2022年 7月

    日本赤十字社から内々定、就職活動終了

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は取材年度(2022年度)のものです。

法学部
ヒューマンライツ学科

AOYAMA LAWの通称をもつ青山学院大学の法学部には、「法学科」に加え、2022年度新設の「ヒューマンライツ学科」があります。
ヒューマンライツ学科は、人間が人間らしく生きるために欠かせない「人権」について、法学をはじめとした多様な学問分野から学ぶ日本初の学科です。人権は国の最高法規である憲法で保障されているだけではなく、国際社会の普遍的な価値でもあります。さまざまな人権問題の解決・改善のために法をどのように生かしていけるかを意識的に学び、政治学や経済学、公共政策などの観点からも学際的にアプローチします。

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*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。

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