文学研究を通して
問題意識と解決力を育む。
いつか作品を生み出す人に

掲載日 2022/12/6
No.199
文学部
日本文学科 3年
高野 椰
東京都立狛江高等学校出身

OVERTURE

幼い頃から本や音楽が好きで、「芸術や文学に育てられた」といっても過言ではないほど身近に作品があふれていたという高野椰さん。いつしか自分も文学作品をつくる側になりたい、そのために海外との文学交流について学ぼうと本学科に進学しました。予期せぬコロナ禍という未曽有の事態を過ごし、その制作への思いはますます強くなったと言います。ようやく対面での授業や課外活動が再開された現在、大学での学びと大学生活、今後の展望について語ってもらいました。

日本と海外の文学を比較研究し、相互理解を深める

高校時代に海外でインターンシップに参加し、コンテンツ制作に関わる機会がありました。その時、周りからまるで“日本人代表”であるかのように意見を求められ、自国の文化や作品についてよく知らないことに初めて気づいたのです。そこで日本のコンテンツを学び、いつか海外にも通用する作品をつくりたいと考えるようになりました。どの大学や学部を選べばいいか模索していた時に、本学のオープンキャンパスに参加して、日本文学科のブースで「文学交流」という概念を知りました。日本の文学を深く学んだ上で海外文学と比較研究し、互いがどのように影響を受け、あるいは与えてきたか、相互理解を深めていくというものです。自国の作品を海外に伝えることを念頭に置いた学びが本学科でなら実現すると確信し、進学を決めました。
中国古典文学特講Ⅱ」では、中国を中心にアジアや西洋で類似した話型をもつ昔話や民話について取り上げます。例えば、世界各地の「シンデレラ」の類話を集めてみると、ガラスの靴や魔女が登場する話は意外にも少なく、それらのモチーフは単なるディテールであることがわかります。その一方で、さまざまな類話の中には共通点も多く見られ、住む地域は違っても人間がおもしろいと考えるポイントは同じなのだなと実感します。私は課題で数カ国間の「異界訪問譚(いかいほうもんたん)※」を分析しました。比較によって日本の説話の特徴をつかむことができ、こうした考察は他の文学研究にも生かせると感じています。先生は講義の中で「昔話や民話は消えつつある」と述べられました。「今の児童は昔話にふれる機会が減少しているため、10年後に同じ授業はできないかもしれない」とも。このエピソードは私の問題意識と直結しています。以前、小学生と高齢者施設を訪問して一緒に歌を歌うボランティアをしたのですが、童謡を知らない小学生がいたことに驚きました。世代を縦につなぐ物語や歌が忘れられていくのは、世代を超えたコミュニケーションの手段が失われるという意味でもあります。昔から受け継がれてきたものを学んで残していくことも大切なのではないかと実感し、この授業は深く印象に残りました。

※説話の人物が生きる現世から、それ以外の異界を訪れる話

「ことば」をどのように役立て、伝えていくか

日本文学演習Ⅰ〔1〕」は、詩の読み方の基礎を身に付ける授業です。①万葉集、②近代詩、③造形詩という3つのトピックから自分の興味に合わせてテーマを選び、研究発表と質疑応答を行います。私のテーマは、「近代から現代にかけての子ども向けの作品について」。子どもに向けて書かれた近現代詩や童謡の歌詞などを比較して、何を子どもに伝えたのかということを調べました。教育的な視点からではなく、文学・ことばを通して社会を考えるという切り口で研究を進めています。その表現がなぜ使われたのか?という問いから詩に込められた意図を探り、近代以降の人々が考えていたことを明らかにするのが目標です。将来的には児童向けのコンテンツ制作を考えているのですが、この研究が何かのヒントになればと思います。
この授業で、「自分で問題を見つける」ことを初めて経験しました。クラスのメンバー全員が、社会において「ことば」をどのように役立てるのかという視点と、海外に伝える文学交流の意識をもつことを共有しているので、とても豊かな学びを得ることができました。研究活動を通して「問題意識をもち、それを解決していく力」と「選択する力」が養われていると実感します。また、限られたことばの中に積年の想いや瞬間的な感動が凝縮されている詩の奥深さを知り、もっと勉強したいという意欲が湧きました。卒業論文のテーマにするかどうかは未定ですが、今は詩の世界にたくさんふれて、理解を深めたいと考えています。

新鮮な驚きに満ちた物理の世界に「哲学」を感じる

本学独自の全学共通教育システムの青山スタンダード科目の「生活と先端テクノロジー」は、視覚・聴覚から最先端の科学技術まで幅広いテーマを物理的に考察し、社会人として必要な科学的センスを身に付ける授業です。生活用品や芸術作品を物理的な観点から見たことがなかったので、毎回の講義は新鮮な驚きの連続でした。特に印象に残っているテーマは「光と色の視覚」について。光と色を物理的に理解すると、今まで単に綺麗だと眺めていた絵画をまったく違う視点で見られるようになります。また、初歩的な「相対性理論」や「量子力学」の講義は、文系の私にとって楽しい学問的挑戦でした。「多重世界論」という概念は、私たちの世界とは別に選択されなかった並行世界が存在するという考えです。“選ばれなかった世界の自分”に思いをはせると、しっかり生きようという気持ちになりますし、“選択を恐れるな”というメッセージにも感じられました。こうした哲学的な要素を物理の授業で学べたことが自分にとっては意外で、刺激的な体験でした。
また、「English Studies A」では、テキストを音読する小課題と、英語でのプレゼンテーションを通して語学力を磨きます。他にも「英語講読Ⅱ」では、イギリスの作家であるジョージ・オーウェルのエッセイや源氏物語の英訳などを読み込みました。このように、日本文学科に籍を置いていても英語力を高める機会は豊富にあると感じています。本学には、全学生を対象に学修成果の振り返りの目的で、2021年度から年に1度実施されている「TOEIC L&R IPテスト」を受験して自分の英語力を確認できる取り組み(費用は大学負担)や、IELTSのハイスコア報奨金支給制度があることも、英語学習へのモチベーションとなりました。

誰かの力になるような作品を生み出したい

私の将来の目標は、物語や作品を生み出す人間になることです。幼い頃からの憧れでしたが、この思いがより強くなったきっかけとしてコロナ禍の影響があります。オンライン授業を受けながら自宅にこもった2年間を支えてくれたものは「作品」でした。文学はもちろん、音楽、美術、映画、動画、演劇、アニメーションなどさまざまなコンテンツを鑑賞し、そのひとつひとつに元気づけられ、勇気を与えられました。私もそのような作品を生み出せるようになりたいと心から思います。
具体的には、児童向けの教育教材や番組の制作に興味があります。私は学友会文化連合会「放送研究部(A.B.S)」で映像を制作しているのですが、その経験も生かして、将来的には誰かの未来に希望を灯す作品を作るのが夢です。

2022年4月に開催された放送研究部(A.B.S)の番組発表会でメンバーと

コロナ禍で自分と向き合い、大きな糧を得た

私は2020年4月、まさにコロナ禍が始まった時期に入学しました。大学で出会った学友と切磋琢磨して、留学で新たな知見を得て、サークル活動や学園祭を楽しんで…という、いわゆる大学生活を何も経験できない2年間でした。まさかの事態に私も大いに戸惑い、苦しんだ時間でした。ただ、人とのつながりを断たれたこの環境が、逆に生み出したものがあります。それは「自分と向き合う時間」です。毎日授業を必死に見て勉強し、対面テストの代わりに提出を求められたレポート課題に全力で取り組み、ひたすら書き続けました。たったひとりで黙々と、人生で一番勉強した2年間だと胸を張って言えます。世界が大変な状況の中でもこうして勉強に打ち込める環境にいられたのは、幸せなことだったと思います。
最後に、もうひとつ大きな糧となった授業を紹介します。「文学研究法Ⅰ・Ⅱ」では、小松靖彦先生がクラス全員の期末研究の成果を『文学は問いかける』というタイトルで製本してくださいました。1年次という未熟な時に「作品」を残せたこと、同じ志をもつクラスメートの研究成果を共有し、つながりを感じられたことが本当にうれしかったです。自分自身と文学に向き合う時間をたくさんもてた一連の経験は、今後の研究や人生に役立つと確信しています。これからも文学という豊かな世界に身を投じ、多様な研究に励んでいきます。

インタビュー動画

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2022年度)のものです。

文学部 日本文学科

青山学院大学の文学部は、歴史・思想・言葉を基盤として、国際性豊かな5学科の専門性に立脚した学びを追究します。人間が生み出してきた多種多様な知の営みにふれ、理解を深めることで、幅広い見識と知恵を育みます。「人文知」体験によって教養、知性、感受性、表現力を磨き、自らの未来を拓く「軸」を形成します。
日本文学科では、文学と語学、日本語教育という多彩な研究対象を擁し、実践的なカリキュラムを揃えています。日本文学科における学びの本質は、過去から現在に至る日本語で書かれたテクストを対象とすることで、テクストの向こう側にいる〈他者〉と対話する技術を学ぶところにあります。〈他者〉の目を通して今一度自分自身という存在について見つめ直し、国際社会に通用する深い洞察力を養います。

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