コンセプトが実際に走る車に。多くの部署や人と連携して夢を具現化する自動車開発

掲載日 2024/2/14
No.284
株式会社日産オートモーティブテクノロジー
車両プロジェクト統括部 車両計画グループ
理工学部 機械創造工学科卒業
井戸 将統

OVERTURE

「魅力ある製品を世の中に提供できる」を軸に就職活動を行った井戸将統さんは、株式会社日産オートモーティブテクノロジーで、自動車の開発業務に携わっています。夢やビジョンが表れたコンセプトから、現実の車に設計していく仕事のやりがいや、一気に世界が広がったという学生時代の思い出をお話しいただきました。

「こんな車をつくりたい」を、少しずつ具現化していく自動車の開発

現在勤めている日産オートモーティブテクノロジーは、日産自動車株式会社が製造・販売する自動車の開発を行う企業です。私の仕事は一言で表すなら、夢を具現化する仕事。自動車の開発は「新しくつくる車はこんなものにしたい」というコンセプトから始まり、コンセプトには「こんな車にしたい」という夢がふんだんに詰まっていますが、これらをそのまま実現させ、人が乗ったり公道を走ったりする自動車をつくることは難しいものです。日産自動車からの商品コンセプトに対して理解を深めながら、込められた希望をどうしたら現実の車としてつくり出せるのか考えていきます。さまざまな部門と何度も調整を重ねて、最終的な製品に落とし込んでいくのです。

車両の寸法や部品、座席のレイアウトなどを考え、提案する「パッケージ計画」が私の主な業務です。ゆとりを持った空間を持つ車というコンセプトがあるとすれば、どのくらいの「ゆったり」を可能にできるのか計画し、乗車した際に頭の上や横の空間をどのくらい確保できるかを計算します。そして、そのためには運転席前面の計器盤の形状がどうなるのか、それに合わせると人が座る場所はどこになるのか、人がそこに座るなら、部品Aはここに、部品Bはこっちに、等々どうしたら必要なものがすべて納まり、かつ快適な空間を実現できるのか考案していきます。他にも、燃費や重量などを考えて適した素材を選んだり、プロジェクトごとに決められた予算の中でできることは何かを検討し、コスト管理部署と論議調整をして、さまざまな要素を考えクリアしていく必要があります。コンセプトを考えるデザイナー、部品設計の部署、実際の製造を担当する生産の部署、プロジェクトごとの利益・コストを管理している部署と調整するなど、多くの人たちと連携して、時に板挟みにもなりながら、理想的な車の形状・機能を完成させていくことが車両開発の仕事です。

自分の関わったものが、実際に人に使われ役立っていることがやりがい

就職活動は「魅力ある製品を世の中に提供できる会社に就職したい」という思いを軸にして進めていました。世の中で多くの人が使うものや、人を惹きつけるものに関わりたいと考え、最終的に自動車の開発という仕事に就くことを決めました。ですから、携わった車がより魅力あるものに仕上がり世に出るときや、その車が街で実際に走っている姿を見るときには、やりがいを感じます。
例えば、これまで携わった車種に「日産アリア」があります。この車は、デザイン部の意向からルーフアンテナの個数を1つとすることで検討を進めていましたが、より精度良く電波をキャッチする為にルーフアンテナが2つ必要であるということが開発途中の検討の中で見えてきました。デザイン部・商品企画部の意見や、部品設計・システム設計の要望など、複数部署の要件をまとめて、何度もモデル車両を確認し、論議を重ねることで最終的にチームメンバー全員が納得する車両を完成させることができました。発売までに困難な道があったからこそ、街で走っている姿を見ると感慨深いものがあります。

今後のビジョンとしては、各部品開発を担当する設計部などでも経験も重ね、細かい部分から車両全体までを深く理解して業務を遂行できる人材となって、最終的に現在の車両開発プロジェクトを統括する部署に戻り活躍したいと考えています。また、日頃からさまざまな部門のトップと話す機会が多いことを生かし、トップに立つ方々の判断力や、ものの見方を参考にして成長したいと思います。

ショールームにて、携わった「日産アリア」と

多様な人の考え方に触れ、一気に世界が広がった大学生活

今、大学生活を振り返ると、助け合える友人たちがいたからこそ充実していたと感じます。私は岐阜県の出身で、誰も知り合いのいないところで始まる大学生活に最初は不安だらけでした。ですので、授業が始まる前に行われるガイダンスでは、周りに積極的に話しかけて友人をつくる努力をしました。その結果、地方での生活しか知らなかった状態から世界が一気に広がったことは特に印象に残っています。出身地もさまざまで、多様な価値観を持った友人たちとの交流は、幅広い考え方をもたらし、物事を多方面から捉える能力を身に付けられました。

大学は、同じスタートラインから新しい学びを始めていく場所です。入学時、私はどこか「自分はこれだけ勉強してきたのだから」と思うようなところもありましたが、周りに自分よりも勉強ができる人がたくさんいて、自分のやってきたことは、まだまだ足りていなかったなと思い知るような場面もありました。けれどもそれが良い刺激となり、学力の向上につながったと思います。
勉学の面では、難易度の高さやレポート課題の大変さなど、どの授業も努力が必須となるものばかりだったことを覚えています。例えば、機械創造工学科で基本となる材料力学、熱力学、流体力学、機械力学の「4力学」においては、答えが明確な数字ではなく複雑な数式となることが多く、頭を悩ませました。高校までのような、参考書を買って独学で頑張る勉強方法では大学の学びには対応不可能と思い知り、友人たちと話し合ってレポートを一緒に進めたり、わからないところを尋ね合ったりして力を付けていきました。友人には人間的な面でも勉学の面でも成長を促してもらい、今も感謝しています。
座学以外にも、実験や実習など、自分の手を動かしながらものづくりの過程や概要を習得できる授業が充実していることも、青学で気に入っている点のひとつです。また相模原キャンパスI棟の大型実験施設はまるで工場のような大きな空間で、その中に機械工作室やアイソトープ実験センターがあります。機械工作室の大型機械や貴重な機材を実験や研究の際に利用し、高性能なソフトを研究に活用できたのは貴重な経験です。

多くの授業で共に学んだ「いつものメンバー」と四国旅行。左から2番目が井戸さん

所属していた材料強度学研究室では、風力発電に使う風車のブレードが離脱してしまった実際の事故事例について研究しました。どんな力がどのように加わって物体が壊れるのか、専門の解析ソフトを用いて行う研究です。就職活動と並行しての研究でしたが、小川武史先生(名誉教授)が丁寧なアドバイスをくださったおかげで、大学ならではの設備を使って納得のいく研究活動ができました。

大学の学びは仕事に必ずしも直結はしないが、業務遂行や成長の土台になる

現在、当社の採用選考を受ける学生をサポートするリクルーターとして活動しています。多くの学生と話す機会があり、「大学で学んだことを生かせていますか」という質問を頻繁に受けます。その気持ちはわかりますが、尋ねられる度に「大学で学んだことや研究したことが、そのまま直接将来の仕事につながることは、その道の研究者を除けばほとんどない」と答えています。この回答は、あくまで私個人のこれまでの社会人経験に基づいたものですが、各企業にはそれぞれルールや業務の遂行手順があり、社員は入社後にそれらを踏まえ、力を付けていくものだと考えているからです。

しかし、それはもちろん大学での学びが役に立たないということではありません。私の仕事は、他部署の人たちとコミュニケーションを取りながら進めることが多く、例えば部品の材質をより軽いものに提案する場合には「材料力学の知識」が必要ですし、車両重心と操作安定性を議論する際には、「機械力学の知識」がなければ話ができません。各部署との議論において、友人と協力しながら大学で身に付けた基礎知識や、ものづくりに深い関連のある研究ができた経験が、大いに役立っていると実感する毎日です。文章作成能力をはじめ、会社のルールや業務の手順など、新しい知識を吸収する力には、大学での専門科目に限らず、小中高での学びも土台として生かされているでしょう。

「いつものメンバー」と卒業式の記念写真。左から4番目が井戸さん

そして、大学で得るものは知識や研究能力だけではありません。私の世界を広げてくれて、勉学面でも助け合った友人たちは、現在も定期的に集まって近況を報告する大切な仲間です。特に、1年次に同じクラスで親友となったS君は、離れた土地に住んでいますが、家族ぐるみでの付き合いがあり、偶然にも同じ自動車業界であるため車の話でも盛り上がるなど、唯一無二の関係を築けています。

青学には、気軽に相談しやすい先生や先輩、厳格だけれど親身に指導してくださる先生、全国から集まる多様な友人といった、「人に恵まれた環境」が魅力だと思います。日々の学びに使っていた図書館、研究設備など、ハード面も充実しています。人、設備、空間などを積極的に役立てて、将来の活躍の土台としてください。そしてもうひとつ、仕事をすると英語が必要な場面が必ずやってきます。英語学習にも恵まれた環境が整っていますので、将来のキャリアや国際的な交流に大いに役立つスキルを身に付けることができるでしょう。青学に入学した際は、大学での学びを楽しみながら、英語力の向上も目指してください。

大学時代の友人の結婚式で。左端が井戸さん

井戸さんの一日

  1. 8:30

    出勤、当日のスケジュールなどを把握

  2. 9:00

    パッケージ計画の構想検討

  3. 11:00

    午後の打ち合わせに向けて準備

  4. 11:30

    昼食

  5. 12:30

    チーム内打ち合わせ

  6. 13:30

    取引先メーカーとの打ち合わせ

  7. 14:00

    打ち合わせの議事録作成や課題検討など

  8. 16:30

    他部署との打ち合わせ
    (車体設計や電装設計、内外装設計など日によってさまざま)

  9. 18:00

    退勤

卒業した学部

理工学部 機械創造工学科

青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
機械創造工学科が掲げるモットーは、「未来を創造する機械工学」。自動車産業や重工業などに不可欠な広範囲の工学を基盤に、ソフトウェア技術を組み合わせることで、夢のある心豊かなものづくりを志向する独自の工学を推進しています。その根底には「人と社会と自然の共存」という大命題があります。このテーマを実現するための創造力と想像力を養い、21世紀のものづくりを担う人材を育成します。

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