機敏なトライアル&エラーとブレない熱意でコミュニケーションの未来を描く

掲載日 2024/4/22
No.296
ソニー株式会社 技術開発研究所
理工学部 情報テクノロジー学科卒業
理工学研究科 理工学専攻
知能情報コース 博士前期課程修了
鈴木 龍一

OVERTURE

デジタル技術を用いた人と人とのコミュニケーションの新たな形を模索する鈴木さん。大学院博士前期課程修了後は研究者の道も考えたそうですが、ユーザーの手元で商品がどのように使われるかを綿密に想像して作られた、ソニー株式会社(ソニー)の製品独特のこだわりに惹かれ、就職を決意しました。失敗を恐れず一歩前に進むという姿勢は学生時代から一貫しており、0から1を想像するには不可欠なマインドだと語ります。

コミュニケーションの新たな形を創出したい

現在、研究開発部門に所属し、人間同士のコミュニケーションに寄与する新しいインタラクションの開発に従事しています。インタラクションとは「相互作用」と主に訳される言葉で、人間が何かアクションをした時、デジタルの機器やシステムがそのアクションに応じたリアクションを返すということを指します。

なぜコミュニケーションの充実にこだわっているかというと、現状の進化したツールと人間の営みが、まだうまくマッチしていないと感じるからです。イメージしやすい例で言うと、昨今オンラインコミュニケーションツールの発展が目覚ましく、業務や授業などで抵抗なく使われるようになりましたが、それでも親しい人との会話に活用するには何かが物足りなく、オンラインの飲み会は早々に廃れてしまいました。その足りないもの、すなわち今のツールでは再現しきれていないコミュニケーションの本質をつかむため、音声以外のノンバーバル(非言語)情報をいかに駆使するかが目下の研究テーマです。

具体的には、人間に小型のモーションキャプチャー*デバイスを装着して身振り手振りや表情などの動きを取得し、VRを用いたメタバース環境や、Vtuberといったアバター、遠隔操作のロボットなどに還元しています。「機械がどう反応すれば人は安心できるか」という追求したい軸が明確なため、手段である媒体の形は問わず、柔軟に思考を広げて取り組んでいます。研究開発部門では技術の応用だけでなく、企画提案から先行研究調査、プロトタイプ製作、認知心理学に基づくユーザーテストの結果分析、ビジネス的な採算性の検討まで一連のスキルが必要ですが、まさに自分の力で0から1を創り出せる、やりがいある部署です。

*関節などの人体の動作の特徴となる部位の位置と動きを記録することで、人間の「動作」を記録するもの

ソニーに入社した最大の理由は、私自身がソニー製品のユーザーだった学生時代から既に、他社とは違う製品へのこだわりが肌で感じられたからです。例えば、カメラの「カシャ」というシャッター音ひとつをとっても、聞いた際に、何ともいえない心地良さがあります。入社後に知ったのですが、使用者が日常的にどのようなシーンで使い、持ち運び、どう生活に組み込むのかまで徹底的に想定した上で、使用者が抱く感情を分析し、共通コンセプトのもと細部にまで反映する「感性設計」が行われているのです。学部を卒業した後、研究者の道に進むか迷った時期もありましたが、存在感のある製品群を見ているうちに、「この会社で自ら創ったものが世の中でどう生きるか見てみたい」という思いが芽生えました。

熱意をもってやりぬいた大学での経験が、今の自分をつくっている

青学の理工学部では、トレーラーを用いた大型構造物の運送における自動走行システムの研究に没頭し、大学院博士前期課程まで研究を続けました。一見、現在の仕事との関連性は見えにくいかもしれませんが、人々の暮らしに必要な機械の挙動を考えたいという「やりたいこと」は、今と同じです。

私が研究テーマを決めたきっかけですが、実は、ロボット工学が専門の山口博明先生の科目の単位が取得できなかったのです。悔しさから、山口研究室で勉強させてほしいと学部3年次に先生へ直談判し、研究を続け、その後研究室に所属することとなりました。苦い経験は、放っておけば負の思い出のままです。けれども、その後の行動次第で、チャンスになるかもしれません。結局、すべては本人次第なのではないでしょうか。

研究室では、発明したシステムを実際に現場で使うビジョンが見えるところまで突き詰めたくて、ルート探索のコスト削減や、システムの実証シミュレーション製作まで対象範囲を広げました。その結果として、研究対象が制御工学の分野を超えてしまうこともしばしばありました。しかし、山口先生は「やってみよう」と私の挑戦を応援してくださいました。先生の温かい励ましのおかげで、納得いくまで研究をやりぬけた経験は、間違いなく今の私の基盤を形成しています。加えて、大学生向けのコンペにも意欲的に参加し、入賞したり落選したりを繰り返す中で、自身の研究が社会にどう役立つのかを考える視点も養えました。

さまざまな方たちのご紹介がつながり、最終的には他学部の先生からのご紹介で、民間企業で長期アルバイトをしたことも思い出深いです。学生ながら研究者の立場で提案をし、対価をいただいて社会人から評価されたという経験は、将来の方向性を考えるターニングポイントになりました。

振り返ってみると、熱意のある学生の背中をどんどん押してくれる気風と自由な風土が青学にはありました。他者との出会いと自身の熱意との相乗効果で、可能性を切り拓いてきたと自負しています。

主体的に、勇気をもって踏み出した先に、まだ見ぬ創造がある

さまざまな人の協力を得て、主体的に道を創ることこそが重要だと、社会人になった今、実感しています。私は、一定の条件を満たせば、希望する部署やポストに応募できる「社内募集制度」を活用して、今の部署に異動しました。現在の部署では、プロジェクトごとに必要な技能を持ったメンバーが集まり、少数で忌憚のない意見交換をしながら、スピード感をもって、発想を具現化・実証実験していきます。ソニーでは、上下関係の無いフランクな雰囲気の中で、社員の自主的な研究開発を行ういわゆる「机の下活動」から新たな構想が生まれることもままあります。例えば、私の趣味であるボルダリングとソニーの持つキャラクターコンテンツ・映像技術を組み合わせて、新しいイベント企画を行ったのは印象に残る思い出です。私のモットーは「人生は種まき」。いろいろなところに自分で接点を設ける、イコール種をまきながら、ひょんな時にその種が芽吹くよう、無理のない範囲で今後も自分のやりたいことに楽しく挑戦していきたいと思います。

一方で、常に流動的にメンバーが入れ替わり、迅速に物事が進行する現場では、不確定な状況においても一歩踏み出す勇気と、失敗を恐れないチャレンジ精神が欠かせません。100%見通しが立った状態では商機を逃したタイミングとなってしまうため、世の中に無い新しいものの創造はできません。違ったと感じたら引き際を見極めることも重要ですが、失敗からしか得られない経験値もあります。学生のみなさんにも、失敗という「かすり傷」をものともせず、自分のやりたいことのために青山学院大学の環境を最大限活用してほしいです。

卒業した学部

理工学部 情報テクノロジー学科

青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
「情報テクノロジー」という名称には、IT(情報技術)を利便性のためだけではなく、社会のより健全な発展を目的に活用すべきという思いを込めています。情報テクノロジー学科では、ITを信頼性や安全性、快適さといった「人への優しさ」のための技術として探究。その応用分野は人工知能からロボットまで幅広く、人間とテクノロジーの共生を目指して、新理論の発見や現実的な提案に取り組んでいます。

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