掲載日 2021/6/14

ナノカーボンデバイス工学研究所
環境電磁工学研究所

特殊な炭素素材で作った
高効率の透明アンテナで
通信の未来を開く

学生の
Message

理工学研究科 理工学専攻 電気電子工学コース 博士後期課程(2020年度修了)
理工学部 電気電子工学科(2015年度卒業)
<2020年度 学業成績優秀者表彰 最優秀賞受賞>
<日本学術振興会特別研究員DC採用>
小菅 祥平
日本電信電話株式会社(NTT)
デバイスイノベーションセンタ

原子1つ分という極めて薄い炭素素材グラフェンを研究してきた小菅さんは、本学での研究の集大成として執筆した論文が、米国物理学協会が発行するAIP Advancesに掲載後、Featured Article(journal's best)にも選出されて有終の美を飾りました。

Q. 研究をはじめた動機および背景について教えてください。

黄晋二先生が所長のナノカーボンデバイス工学研究所で、導電性を持つ透明な薄い素材グラフェン(炭素原子で構成されたシート状の材料)でアンテナを作り、その結果を博士課程最後の論文にまとめました。以前から橋本修先生が所長の 環境電磁工学研究所と共同でグラフェンを使ったマイクロ波の伝送線路の研究をしていた経緯もあり、グラフェンを用いたアンテナづくりを博士前期(修士)課程での研究テーマと決めたのが始まりです。高い性能と信頼性を持つ5Gやさらにその先の通信方式(Beyond 5G)では、現状より高い周波数の電波を使います。周波数が高くなると電波が遠くまで届きにくくなることに加え、通信エリアのカバレッジ(網羅率)が小さくなります。そのため今後の無線通信では多数のアンテナをさまざまな場所に設置することが望まれています。金属の無骨なアンテナを至るところに設置したら景観を損ねる可能性がありますが、アンテナが透明になれば建物の窓に貼ることも可能ですし、携帯端末などの表面にも意匠に影響を与えず取り付けられます。また車の窓ガラスは可視光線の透過率が法律で制限されていますが、それに対応した車載アンテナも実現できると思います。

Q. 論文作成について教えてください。

グラフェンは他の電気を通す透明素材に比べ抵抗が高いことが弱点でしたが、3層に重ねてキャリアドーピングという手法を施すことで抵抗を下げ、高効率化に成功しました。黄研究室では素材などものづくりを中心に研究していましたが、本当に期待どおりのものができたか評価するには、さまざまな測定が必要になります。専門外の領域でしたが、応用電波工学を研究する橋本研究室のサポートのおかげで自分でもある程度は測定できるようになり、博士後期課程3年の秋ごろには、測定結果も出そろっていました。その段階で論文自体は書けたものの、より高い価値を見出すため、研究の背景と目的をそれまで書いていた内容から大きく変えることにしました。その変更点が前述したグラフェン透明アンテナの無線通信における将来性です。今後の無線通信に活用できる次世代アンテナだと強調し、材料や電磁波の研究者はもとより、企業の方や異なる専門分野の方にも伝わるようなるべく平易な英語の文章構成を心がけ、多くの方に読んでいただけるよう努力しました。黄先生と徹底的に話し合い、具体的で丁寧なアドバイスをいただきながら練りに練って書きあげました。

Q.ご自身の経験を踏まえ、学生や研究を志す方へのアドバイスをお願いします。

研究や実験に興味がある方は、できるだけ大学院へ進んでください。研究室では想像以上に多くの“気づき”に出会えました。今まで誰もやったことのない内容で苦労も多いですが、良い結果が出たときには何ごとにも代えがたい喜びがあります。機器分析センターには、理工学部の研究室が共同で使う高価で最先端の装置がいくつもあり、研究室の垣根を越えた学生同士のコミュニケーションも取れますし、技術職員の方が装置のメンテナンスや講習を実施し、学生のやりたいことを支援してくれます。また、博士後期課程の大学院生に対する経済的サポートも充実していて、 「若手研究者育成奨学金」で、3年間の授業料が全額免除となり、「アーリーイーグル研究支援制度」では支援金が給付され、「薦田先端学術奨学金」の経済支援もあり、大変助かりました。昨年度、学業成績優秀者表彰で最優秀賞を受賞した際も、副賞が授与されました。以上の青学の支援制度に加え、2019年度より 日本学術振興会特別研究員DC(大学院博士課程在学者を対象とする特別研究員)に採用されたことで、より経済的にも安心して研究が行えました。黄先生、橋本先生をはじめ学生のことを親身に考えてくださる先生方が多く、手厚いサポートと環境に恵まれた青山学院大学で存分に勉強や研究に打ち込んでほしいです。

黄教授からの
Message

理工学部 電気電子工学科 教授
ナノカーボンデバイス工学研究所長
黄 晋二

小菅さんも研究で利用した機器分析センターのように、共通装置をきちんと運用している私立大学はそれほど多くないのではないでしょうか。装置を共有し、機器専門職員のサポートを効率的に活用するのはとても有意義です。こうした研究支援体制も小菅さんのように優秀な学生の育成に寄与し、自分も後に続こうという意識が後輩たちにも芽生え、良い流れが生まれ始めています。また本学では、全研究科において、博士後期課程の大学院生は基本的に授業料分が奨学金として給付され、学費が実質無料となっています。意欲をもって臨めば、研究者として成果をあげるのは十分に可能です。素晴らしい研究を成し遂げた学生は小菅さんの他にもたくさんいますし、私たち教職員は学生を全力でサポートしています。私は学生の自主性を最大限尊重して必要なタイミングに必要な助言をするよう心がけ、研究者としても人間としても成長できるように見守るのが自分の役割だと考え、その実践に努めています。科学やものづくりに興味のある皆さん、研究に没頭できる環境が整った理工学部で今後の人生の礎となる専門性を身に付けつつ、やりたいことに思い切りチャレンジし、ぜひとも一緒に新しいサイエンスやテクノロジーを生み出していきましょう。

橋本教授からの
Message

理工学部 電気電子工学科 教授
環境電磁工学研究所長
橋本 修

電波環境を良くしていくこと。簡潔に言えば、それが私たち環境電磁工学研究所の仕事です。幅広い周波数の電波が大量に飛び交う現在は電波洪水さながらの状況で、電波環境は以前とは比べものにならないほど悪化しています。そこで不要な電波をいかに出さないようにするか、また出てしまったものをどのように吸収するかといった課題を解決するため、時代に即した電波測定、評価、シミュレーションの新しい技術を使いながら研究を進めています。またその結果を、電波吸収体やシールド材の開発などに生かし、産業界とも連携を図っています。今回の小菅さんの研究で言えばアンテナをつくるのが彼の専門ですが、実用化に向けて設計や測定といった部分を私たちがサポートしました。彼は非常に努力家で適応力が高く、いろいろなものに挑戦する力を持っているので、博士後期課程の3年間で設計やシミュレーション、測定の技術を身に付け、自ら積極的に取り組んでいました。日本のみならず、世界の電子情報や通信技術を支えてきた企業で、本学で培った力を礎に、小菅さんに大いに活躍してもらいたいと期待しています。

※登場する人物の役職、活動内容等は取材時(2021年4月)のものです。

理工学部

青山学院大学の理工学部は、2021年4月、物理・数理学科を「物理科学科」「数理サイエンス学科」の2学科に改編し、これにより、理学系、工学系をあわせて7つの学科となります。
“相模原キャンパス”を拠点とし、学部附置機関である先端技術研究開発センター(CAT)、先端情報技術研究センター(CAIR)や機器分析センターをはじめ、先進の施設や設備が整っています。
自然科学の基盤となるサイエンスの最先端研究はもとより、広く社会に貢献することを目指す多彩なテクノロジー研究開発を推進しています。

研究活動を支える施設

理工学部では、先端科学技術を分野横断的に支え、大学院教育や研究活動をより力強くかつ効率的に推進するため、主に3つの附置センターを設立しています。
①機器分析センター
②先端技術研究開発センター(CAT)
③先端情報技術研究センター(CAIR)
これらの附置センターには最先端の機器などを備え、学部生をはじめ大学院生、教員の研究や外部機関との共同研究を支援・推進しています。

大学院での研究活動等を支える制度

若手研究者育成奨学金

博士後期課程の標準修業年限、一貫制博士課程の3年次~5年次(3年間)の授業料年額の全額を免除。

優秀で若い人材の学修支援を行う本学独自の給付奨学金で、本大学院の活性化と、高度な専門性と研究能力を備え社会に貢献する若手研究者の育成を目的としています。

入学時に満30歳未満で、本奨学金選考を通過した方が対象。

国際学会発表支援制度

支援金額・・・国内の学会参加:最大7万円、国外の学会参加:最大15万円

グローバル教育の支援、若手研究者育成を目的として、国内外で開催される国際学会で研究発表を行う大学院生に対し、発表経費(旅費を含む)の一部または、全額の支援を行います。

アーリーイーグル研究支援制度

<博士後期課程学生対象>*別途、助手、助教を対象とした支援制度もあり。

支援金額・・・25万円

若手研究者(博士後期課程学生)による独創的・先駆的な研究および、その創成に発展することが期待される研究を対象とします。

博士後期課程生として入学後、前期中に審査を行い、本学内で12件程度採択します。

院生助手制度

2020年度から博士後期課程や一貫制博士課程3年次以上の大学院生を「院生助手」として雇用する新制度を開始しました。本学の大学院生が本学の助手として雇用され、研究を優先しつつ、学部生の講義や実習、国際会議の運営など、高度な補佐業務を行う制度です。

助手として実務経験を積むことができる場を設けることおよび経済的支援を行うことにより、当該の大学院生が行う研究に専念できる研究環境を提供し、研究者としての能力向上の一助とすることを目的としています。

【奨学金制度・経済援助(在学生向け)】




*各制度の詳細は、ウェブサイトや募集要項等でご確認ください。

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