文化政策の領域で
実践する国際的な
草の根の人間交流

掲載日 2022/2/9
No.136
独立行政法人国際交流基金
総合文化政策学部卒業
関 友哉

OVERTURE

2008年に開設された総合文化政策学部の1期生として学び、海外の文化政策やフェアトレードの精神などに触れた関さん。その知見をさらに深めるべく大学院進学や留学を経て、現在は国際交流基金で国際文化交流業務に携わり、日本と海外をつなぐサーバント・リーダーとして活躍しています。

1期生として学んだ総合文化政策学部

大学で何を専攻するか悩んでいた高校時代に「総合」、「文化」、「政策」のいずれも幅広い言葉で魅力を感じ、4年間で何か関心のある分野に出会えるだろうと、新設されたばかりの総合文化政策学部に1期生として入学しました。
在学中は国際文化交流を研究するゼミナール(ゼミ)に所属して学びを深めました。ゼミ同士の交流も盛んで、他のゼミの学生たちとカナダ東部4都市を訪れ、ケベック州の2言語政策などについて学んだこともあります。また「ラボ・アトリエ実習(ラボ)」という企業等外部機関と連携して、創造の現場で企画を立案・実行する授業では、フェアトレード・ラボに所属し、農産物が私たち消費者の元へ届くまでに何度も仲介業者の手を経るため、生産者がまっとうな賃金を得られない状況を改善すべきという考えに触れ、青山祭で東ティモール産のコーヒーを販売するなど、実践も交えて学んでいました。

東ティモールの関係者と再会

親しく接してくださる先生方が多く、新設学部だったせいか、学生と一緒に何でもやってみようという臆せず挑戦する雰囲気もあり、活気に満ちていたことを記憶しています。学生同士も協調しながらゼミやラボの垣根を越えていろいろなイベントに参加したり、留学生とチャットルームでよく話し込んだり、楽しく忙しい充実の4年間を送りました。

さまざまな国際経験から大学院進学を決意

国際交流事業に初めて関わったのは高校時代、地元・福岡県が主催した「日本の次世代リーダー養成塾」というプログラムへの参加でした。マレーシアのマハティール元首相に帯同し、表敬訪問をしたカンボジアのフン・セン首相からは、「カンボジアは誇りに満ちた歴史を持ち、これから発展する中で日本ともぜひ協力したい」といった主旨の話を聞かせていただきました。良い経験をしたと上機嫌でホテルに戻ったところ、従業員の方から、カンボジアでは多くの人々が内戦やジェノサイドによって命を失った歴史があり、「私の兄弟親戚も政府に殺された。日本人のあなたがうらやましい、私も平和な国に生まれたかった」と告げられ、大きな衝撃を受けたことはいまだに忘れられません。国家元首のいわば公的なスピーチと市民の本音という両極に触れられたのは非常に貴重な機会で、あの時に抱いた気持ちは、後の東ティモールとインドネシアに対する関心へもつながりました。

モンゴルにて(大学4年次)

大学在学中には、インターンシップとしてモンゴルでホームステイをしたこともあります。ホストファミリーの大学生の息子さんは、日本を訪れたことがないのに、私自身が不便に感じることがないほど流ちょうな日本語を話し、そればかりか、家族全員が英語に加えてそれぞれロシア語、イタリア語、フランス語などに堪能でずいぶん驚かされました。ただ、自国産業に乏しい国でより豊かな暮らしを目指すためには、海外に目を向けなければならないという切実な事情が背景にあり、ホストファミリーが非常に努力されてきたことを察して、私が日本で大きな問題意識なく約10年間も英語を勉強してきた結果としての語学力や意識との差に、忸怩(じくじ)たる思いに駆られました。
ゼミのスタディツアーでインドネシアと東ティモールを訪れた際にも、平和な先進国に生まれて経済的に大きな不自由もなく育った自分の境遇は決して当たり前ではなく、国際的な格差の恩恵を被っている結果でもあると痛感し、カルチャーショックを受けたものです。これらの海外経験から、当時、関心が高かった平和構築や国際協力に携わりたいと真剣に考えるようになり、それを専門として働くにはどうしたら良いか学びたいと思い、外務省主催の「平和構築人材育成事業」に研究員として参加しました。結果、国際協力の分野で働くためには、多くの場合で修士の学位以上の専門性が求められることを知り、大学院への進学を決めました。

日本と海外の架け橋となる人材をサポート

学部卒業後はインドネシアや東ティモールを対象にした平和構築・国際協力について研究するため、専門の先生方が多く在籍する早稲田大学大学院社会科学研究科に進みました。大学院で学びながら駐日東ティモール民主共和国大使館に勤め、その間に青学と共催で東ティモール独立10周年を祝うイベントを開いたこともあります。その後1年間のインドネシア留学を経て、修士課程を修了してからは、公益財団法人や在インドネシア日本国大使館で勤務した後、一般財団法人で国際協力分野の業務に従事してきました。
1年ほど前からは、外務省所管の独立行政法人国際交流基金(Japan Foundation、JF)に勤め、アジアセンターという部署で「日本語パートナーズ派遣事業」に携わっています。

これは主に東南アジアの学校へ日本人を派遣し、日本語授業のアシスタントや日本文化の紹介を行いながら、現地の言語・文化も学んでもらう「アジアの架け橋となる人材」を育成する事業で、私は派遣前に実施する研修の運営を担当しています。日本が行う文化政策は「日本語教育」、「文化芸術交流」、「日本研究・知的交流」の三本柱で成り立っており、この事業も文化政策の一例です。JFは青学時代にゼミでお世話になった先生がかつて勤めていらした組織で、私はかねて意義深く感じてきた「草の根の人間交流」によって日本の魅力を発信することにも注力しており、さまざまな事業を通じて日本人が海外文化を深く理解する機会を生み出す役割も担ってきました。私にとっては念願の職場であり、優秀で打ち解けやすい素晴らしい職員が多く、彼らと一緒に多岐にわたる事業で経験を積みながら、いずれ海外でも勤務できればと考えています。
国際交流事業は、国内外でさまざまな人々が関わるため、想定外のアクシデントがつきものですが、渡航した方々からは、現地でとても良い体験をした、価値観が変わったといったお話をこれまで数多く聞かせていただきました。自分の関わった事業で誰かの人生がより豊かになったことを実感したときは誇らしく思いますし、仕事をするうえで一番のやりがいにもなっています。文化交流は人対人のコミュニケーションであるため、双方の期待や充足感があってはじめて成立し、継続するものだと私は考えています。そのためには何より裏方による事業運営の準備が大切になりますが、大学時代にゼミで学会に参加したり、ラボで他業種の人の生の声を聞いたり、実際の業務をとおして培った経験が生きている、とありがたく思うこともしばしばです。研修、留学、セミナーなど学生の間にしか得られないチャンスは多々あり、それらを通して出会った人々と共有する体験は将来の業務に生かせるだけでなく人生の宝物になるので、ぜひとも在学中にさまざまなチャレンジをしてみてください。

関さんの1日

  1. 9:00

    出社、スケジュール確認

  2. 10:00

    チーム内ミーティング

  3. 11:00

    派遣前研修関係で発生した備品費用の会計処理等庶務業務

  4. 12:00

    JF関西国際センターからの相談対応

  5. 12:30

    昼休み

  6. 13:30

    派遣前研修(オンライン)出席

  7. 15:00

    前週の関西出張報告書の作成等

  8. 16:00

    研修に関する海外事務所との情報共有・打ち合わせ

  9. 18:00

    退勤

卒業した学部

総合文化政策学部

青山学院大学の総合文化政策学部では “文化の創造(creation)”を理念に、文化力と政策力を総合した学びを探究します。芸術・思想・都市・メディアなどの広範な領域を研究対象とし、各現場での“創造体験”とともに知を深めていくチャレンジングな学部です。新たな価値を創出するマネジメント力とプロデュース力、世界への発信力を備えた人材を育成します。
古典や音楽、映像、芸能、宗教、思想、都市、ポップカルチャーなどあらゆる“創造”の現場が、本学科の学びの対象です。どうしたら文化や芸術によって社会をより豊かにできるのか。創造の可能性を追求し、自身のセンスを磨きながらアートのトータルプロデューサーとして社会への魅力的な発信方法を探ります。

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