学業と競技の両立が自信に。心理とサーフィン 2つの「プロ」をめざして
OVERTURE
サーフィンの選手として全日本選手権などで好成績を収め、国内トップレベルで活躍を続けている澤田さん。大学では、自身の競技経験を基に心のメカニズムに興味を持ったことから、アスリートの心理について学問的に追究しています。質の高い練習で学業と競技力向上を両立させ、プロサーファーと公認心理師という2つの夢に向かって努力を重ねています。
スランプがきっかけで興味を持った心理学
自宅から海が近く、幼なじみに誘われて小学5年生の時にサーフィンを始めました。中学、高校と競技を続ける中で、練習のために海外に行く機会が多かったこともあり、英語教育に力を入れている点や、キリスト教信仰にもとづく教育や独自のカリキュラムをはじめ、キャンパスの立地の良さ等に魅力を感じ、学校推薦型選抜で青山学院大学に進学しました。 心理学に興味を持ったのは、高校時代、1年ほど試合でまったく結果を残せなくなったことがきっかけです。周りの人に「大丈夫、勝てるよ」と言われていても、勝ち進めない試合が続き、本当に悩みました。なぜ勝てないのかと考え続けて、気がついたのは、気持ちで負けていたということです。「いくら技術や体力を高めても、心も同じように高めなければ結果は残せない」。そう痛感して、心のメカニズムを学問的に学びたいと思い、心理学科に進むことにしました。
現在は臨床心理コースに所属し、小俣和義先生のゼミで家族心理学の学びを深めています。臨床心理学の中でも、「家族心理学(社会・集団・家族心理学B)」は、夫婦、親子、きょうだいなど家族の関係性に焦点を当てて心理問題を理解する学問領域です。家族のつながりはとても深く、例えば、子どもの不登校の原因が必ずしも子ども自身の友人関係や学校にあるのではなく、両親の不仲にあるという場合もあります。家族だからこそ起きうるそうした心理問題について、ゼミの学びでより深く理解していきたいと考えています。
個人的にこれから研究したいのは、家族の支援の在り方がアスリートの心理に与える影響です。私はサーフィンを本格的に始めるまでは空手に打ち込んでいたので、小さい頃からずっと家族の全面的なサポートを受けて競技を続けてきました。昨年までは試合にも毎回同行してもらい、試合前に家族と話すことで緊張がほぐれ、リラックスして試合に臨めるという心理的な効果もあったように思います。アスリートに対する家族の支援にはさまざまな形があり、家族の支援の違いがアスリートの成績やモチベーションにどのように影響するのか、自分の経験も踏まえて深く研究していきたいと考えています。
明確な目標設定で短時間でも濃い練習に
普段、サーフィンは登校前や帰宅後、自宅近くの茅ヶ崎の海で練習しています。時間が限られている分、練習では内容の濃さにこだわっています。その日の波の状況に合わせて、今日は何を練習するのか具体的に目標を設定してから海に入ることを心掛け、短時間でも充実した練習ができるようになりました。また、大学の授業や課題にも集中して取り組み、学業でも結果を残すことが「大学と競技を両立させている」という自信になり、その自信が試合で勝つための精神的な支えにもなっています。
昨年は、第39回全日本級別サーフィン選手権大会のショートボードウィメン1・2級で優勝、第56回全日本サーフィン選手権大会のショートボードウィメンクラスで準優勝という結果を残すことができました。どちらの大会でも、試合を楽しみ、練習してきたことが自分のパフォーマンスや結果につながったと思います。ただ、特に全日本選手権は優勝を目指していたので、結果には満足していません。さらに上を目指して、心技体ともに高めていきたいです。
サーフィンは海という自然と“遊ぶ”スポーツですが、思い通りにならない自然相手だからこそ難しく、その難しさもサーフィンの面白さだと感じています。波の動きに合わせて自分の動きをコントロールし、波との一体感を感じる喜びは、サーフィンでしか味わえないものです。2021年に開催された、第32回オリンピック競技大会(2020/東京)から正式種目となったことをきっかけに、サーフィン人口が増えていますが、ほかのスポーツが得意でもサーフィンだけは思うようにいかず、「うまくできないからこそハマった」という人も多いんですよ。私も試行錯誤しながら練習し、技術を高めていくことを楽しんでいます。
また、私はクリスチャンで、信仰は大きな心の支えとなっています。試合で結果が出なかった時も、聖書のことば等をとおして、神様の支えや励ましを実感しています。
公認心理師としてアスリートの心を支えたい
心理学の研究手法には、数値データを用いて対象を理解しようとする量的研究と、インタビューや観察など記述的なデータを収集して言語的・概念的な分析を行う質的研究があります。青山学院大学の心理学科には量的研究だけでなく、質的研究を専門とする先生がいらっしゃるため、心理学をさまざまな角度から深く研究できるところが魅力だと感じています。これまでの授業を通して、人の心を科学的な視点で理解する知識が身に付き、友人からの相談にも、単なる共感や主観的な意見ではなく、客観的なアドバイスを心掛けるようになりました。また、社会で起きているさまざまな事象の裏側には、人間のどのような心理が働いているのかを考えるようになり、物事を多面的に捉える力も養われたと思います。
充実した研究環境で学びを深め、大学卒業後は大学院に進学して国家資格である公認心理師*の資格を取得したいと考えています。そして将来は、公認心理師を持つプロサーファーとして、二刀流で活動することが目標です。まずアスリートとしてのパフォーマンス向上のために、自分で自分のメンタルヘルスケアを行い結果につなげていきたいです。確かな知識と自分の競技経験を生かして、選手をより深く理解し、アスリートを心理面で支えるプロフェッショナルとして活動する、そんな理想、大きな志を持っています。
選手としては、プロサーファーを目指してトライアルの試合に挑戦しているところです。トライアルで基準をクリアするとプロサーファーに認定されますが、かなり狭き門です。サーフィンの試合は採点で勝敗が決まるのですが、プロはその時々の波の状態にあわせた的確なライディングや、得点につながる技など、勝ち上がるために必要な総合的能力が高いと感じています。私もそうした能力をさらに鍛え、大学在学中にプロ公認資格を取りたいと思っています。アスリート出身の公認心理師はまだ少ないため、心理とサーフィン両方の“プロ”になって私が道を切り拓いていきたいです。
*公認心理師…心理専門職の国家資格であり、定められたカリキュラムを大学および大学院博士前期課程で充足し、試験に合格することで取得できます。
※各科目のリンク先「講義内容詳細」は2022年度のものです。
教育人間科学部 心理学科
青山学院大学の教育人間科学部は、教育学科・心理学科を連携させながら、「人間」をさまざまな角度から学ぶ多彩な講義や、理論を実践する演習や実習を展開しています。理論的かつ実践的なアプローチの反復によって、人間についてより深く追究。現代社会や人間の諸問題を読み解く高度な専門性と、自ら行動するための課題解決能力・自己教育力を育成します。
心理学科では、心理学を抽象的な学問としてではなく、具体的な知恵や実践的な技術を修得する学問としてとらえます。感覚・知覚などの基礎領域から、社会・臨床などの応用領域までを学び、心理に関する諸現象を科学的・人間学的・総合的に研究し、家庭や教育、医療の現場、一般企業などで生かせる高い専門力を養います。また、心理専門職初の国家資格「公認心理師」取得のサポートも充実しています。
バックナンバー
電気電子工学科での学びと出会いで広がった視野、身に付いた積極性
理工学部 電気電子工学科 3年
幅広く芸術を学んで身に付いた、鑑賞力と印象を言語化して伝える力
文学部 比較芸術学科 3年
夢は日本のビジネスを支える弁護士。正確な知識と「説明できる力」で、司法試験に挑む
法学部 法学科 4年
将来を模索していた私が
経営学科で見定めた
公認会計士という目標
経営学部 経営学科 4年
研究を通して積み重ねた
挑戦と成功体験が大きな自信に
理工学研究科 理工学専攻 知能情報コース
博士前期課程2年
オリジナルの分子を使って
新たな核酸の検出手法を開発
理工学研究科 理工学専攻 生命科学コース
博士後期課程2年
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