理工学部 物理科学科
坂本貴紀教授研究室

速報実証衛星 ARICA の開発および
その打ち上げを振り返る

2021年11月9日(火)9時55分16秒(JST)、坂本研究室で開発された速報実証衛星ARICAがJAXAの革新的衛星技術実証2号機の実証テーマの一つとして、イプシロンロケット5号機で打ち上げられました。ARICAは学生が中心となり開発、運用される衛星です。その開発の舞台裏を、打ち上げ成功の喜びの声とともに伝えます。

学生の
Message

理工学研究科 理工学専攻 基礎科学コース 博士前期課程2年
東京都立武蔵高等学校出身
畑 泰代
基板にはんだ付けをする畑さん
基板には開発メンバーの名前が刻まれている

Q. この研究室を選んだ理由を教えてください。

小学生の頃に家族でキャンプに行ったときに星空を見て「プラネタリウムで見るより実際の星空の方が美しい」と思ったのがきっかけで、宇宙がとても好きになりました。その後、小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還したり、日本人宇宙飛行士が宇宙に行ったりするなど、宇宙のことが話題になるたびに宇宙のことを調べ、ますます宇宙にのめりこんでいきます。宇宙関連の研究ができるという理由で、青学に入学しました。大学の授業で宇宙について学ぶと同時に、学生が中心となって宇宙開発を考える「宇宙開発フォーラム実行委員会」では、学際的な参加型シンポジウム「宇宙開発フォーラム」の開催や、自主プロジェクトの遂行を通じて、学生の立場から宇宙開発に携わっています。委員会での宇宙開発に関わりたいと考え、そのような観点から坂本研究室を選びました。坂本研究室で速報実証衛星ARICAの開発をしていることを知ったのは研究室に所属してからです。もともと人工衛星の開発や観測、運用などに携わる研究がしたいと考えていたので、ARICAの開発チームに入りました。このときには、既にARICAはJAXAの革新的衛星技術実証2号機に採択されていたので、私が大学院を修了するまでには打ち上がることが決まっていました。開発の初期の段階から打ち上げ、運用まで関われたのは、とても運が良かったと思っています。

NASA で ARICA の送信機のテストをしている様子

Q. ARICAの開発にはどのように関わっていたのですか。

私がARICAプロジェクトに参加したのは、開発が始まって1年後の頃でした。この頃は、衛星の詳細設計を固める段階で、設計の変更などもよくありました。私は衛星の基板設計を担当し、2人の先輩と協力して開発を進めました。ARICAは学生が主体となって開発していたので、年度が替わると先輩が卒業して、後輩が入るというように、開発者が入れ替わります。大学院生になると基板設計に加え、衛星内部のセンサーの制御部分も担当するなど、役割も変化していきました。先輩がプロジェクトを抜ける前は引き継ぎをするのですが、残していただいた文書などを読むだけでは分からず、就職した先輩に聞くこともしばしばあり、人が入れ替わるプロジェクトの大変さを思い知りました。開発中の出来事で、一番印象に残っているのが、日本で認可されていない通信機器の試験をするために、NASA(アメリカ航空宇宙局)のゴダード宇宙飛行センターに滞在したことです。フリースペースで研究者たちが話し合っている様子を見たりして、海外の研究所の自由闊達な雰囲気を肌で感じました。

Q. ARICAの開発経験を今後、どのように生かしていきたいですか。

ARICAの開発はJAXAに衛星を引き渡す期日が決まった中で進められました。2021年は、打ち上げに向けて、熱真空試験、振動衝撃試験など、ほぼ毎月にように何らかの試験が日程に組まれていました。その期日に間に合わせるようにものづくりをするのはとても大変でしたが、その分、期間内にやり遂げる力が身に付いたのかなと感じています。小型衛星をつくる企業の内定をいただきました。ARICAは1辺10cmほどのキューブサットと呼ばれる規格の超小型衛星で、この規格は多くの大学で開発されるようになってきました。就職後の配属部署はまだ分かりませんが、私はキューブサットよりも大きな衛星も規格化を進めて、多くのユーザーが衛星開発を行いやすい環境をつくる仕事ができたらと考えています。また、技術を極めるだけでなく、情報発信も着実に行い、宇宙業界を盛り上げていきたいです。

学生の
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理工学部 物理・数理学科※4年(※2021年度より、物理・数理学科は「物理科学科」「数理サイエンス学科」に改編)
神奈川県立多摩高等学校出身
鴨志田 一真
プログラミングの様子

Q. この研究室を選んだ理由を教えてください。

私は天才物理学者が主人公のドラマ「ガリレオ」を見て物理学が好きになりました。実際に起こることを計算し、予測できることにおもしろさを感じたからです。宇宙については大学に入るまでは、特に、好きという訳ではありませんでした。宇宙物理学に興味を持ったきっかけは、1年次の前期に坂本先生の「力学」の授業を履修したことでした。坂本先生は授業の合間に、過去に行っていた研究の話など聞かせてくださり、面白そうだなと思ったのです。そして、坂本研究室を選ぶ決定打となったのが、3年次の終わりに実施された研究室紹介でした。坂本研究室で「人工衛星を打ち上げます」という話を聞き、その強烈なインパクトに引きこまれました。

打ち上げのカウントダウン 坂本研究室

Q. ARICAではどのような役割を担当しているのですか。

私が主に担当するのはARICAの運用です。ARICAは民間の衛星通信端末を搭載しているので、インターネットを使って衛星の状態や観測したγ(ガンマ)線バーストの情報を、常に送ってくれます。それらの情報は、電子メールの添付ファイルの形で送られてくるので、私たちがふだん使っている電子メールのソフトで受信できます。ARICAから送られてくる添付ファイルは二進数で表現されているため、そのまま開いても0と1の羅列にしか見えません。そこで、二進数で表現された情報を私たちが理解できる情報に変換し、表やグラフで表現するプログラムをつくりました。プログラムは授業の中で学んだことがありましたが、研究室で使うプログラム言語のPythonは使ったことがありませんでした。研究室に配属されてからPythonについて自分で勉強しながらつくっていきました。もともとつくられていたシステムに合わせたりする必要もあり、複雑で難しい部分もありましたが、助教の芹野素子先生に教えていただきながら、何とかつくることができました。

Q. 将来はどのような道に進みたいと考えているのか教えてください。

宇宙関係の職に就くかどうかはまだ決めていませんが、研究室で超小型衛星の開発や運用に関わるという貴重な経験をしているので、この経験を生かせる道に進みたいと考えています。特に、プログラミングとしっかりと向き合っているので、プログラミングの技術を生かしていきたいです。プログラミングは文字列だけで、いろいろなものを自分の思う通りに動かせるようになるのが面白いですし、できあがったときの達成感でそれまでの苦労が吹き飛びます。小学生の時から大学3年次まで、プログラミングの知識を先生から学んできましたが、研究室ではまだ分かっていないことを、自分の力で解明していく姿勢が必要となります。自発的に取り組むことを楽しめる人であれば、坂本研究室はとてもお勧めです。

坂本教授からの
Message

理工学部 物理科学科 教授
坂本 貴紀

私は長い間、X線やγ線というエネルギーの高い電磁波を放出する天体について研究してきました。最近は、ブラックホールや中性子星などが衝突することで発生する重力波も実際に観測されるようになり、宇宙の様子がより詳しく分かるようになりました。重力波を発生する現象の中には、X線やγ線を放出するものもあります。現在、私の研究室では、X線やγ線の観測から重力波を発生させた天体(電磁波対応天体)を探すという最先端のテーマを大きな研究の柱としています。ARICAはγ線バースト観測の速報を実証するための衛星で、その先のγ線バースト観測衛星HiZ-GUNDGAMにつながっていきます。その他にも、γ線バースト探査衛星Swift、国際宇宙ステーションに設置されている全天X線監視装置(MAXI)や高エネルギー電子・γ線観測装置(CALET)などの観測プロジェクトなどにも参加し、JAXAやNASAといった国内外の宇宙機関との共同研究も進めています。研究室の学生は、畑さん、鴨志田さんのように、まじめで責任感のある人が多く集まっています。研究内容は1人1人の学生の希望に合わせて振り分けます。それぞれが興味のある研究ということもあり、みんな積極的に研究に取り組みますし、学生同士でいろいろなことを教え合います。教員である私も学生から教えてもらうことがよくあるほどです。衛星づくり、データ解析など、さまざまな切り口で宇宙に関する研究ができるので、少しでも宇宙が好きという気持ちがあれば大歓迎です。青学から新しい宇宙物理学を一緒に切り開いていきましょう。

理工学部 物理科学科

青山学院大学の理工学部は、数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。物理学は根源原理がシンプルで、幅広く応用できる学問です。物理科学科では、原子から宇宙まで、そして半導体や超伝導物質についても学びます。また、生命科学も物理学の手法で解明します。これらの研究においては、古くからビッグデータの解析(データサイエンス)が必要で、AIの普及は、物理学を基盤とする我々にとって、とても魅力的な時期です。講義や実験・演習形式の授業を通じて物理を学び、充実した設備環境での実験により自然現象や先端技術に対する理解を深めます。

※登場する人物の在籍年次や役職、活動内容等は取材時(2021年11月)のものです。

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*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。

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