掲載日 2025/1/16

理工学部 物理科学科
北野晴久教授研究室

得意の微細加工技術を駆使し、超伝導の本質を探究する

北野教授からの
Message

理工学部 物理科学科 教授
北野 晴久

当研究室では、低温で物質の電気抵抗が消失する超伝導の不思議な性質を理解し、次世代の量子技術へ応用するための基礎研究を行っています。理工学部附置の機器分析センターに設置されている集束化イオンビーム(FIB)加工装置を活用した微細加工技術を駆使し、本学発の研究成果を世に残すことを目指しています。

Q.北野研究室の研究内容について教えてください。

主に高温超伝導に関する研究に取り組んでいます。超伝導というと、超伝導リニアモーターカーや医療用MRIへの応用が有名なため、一般的には「電気抵抗がゼロになる」「強力な磁場を発生させて磁石を浮かせる」といったイメージを持たれています。しかし本来、超伝導は原子レベルのミクロな世界を支配する「量子物理学」の観点から理解されるべき現象です。
近年、超伝導体を用いた電子回路で量子コンピューターを実用化しようとする研究が活発に行われているように、物理学者の多くは超伝導の量子力学的な理解と情報処理分野への応用を目指しています。従来知られていた超伝導体は、高価な液体ヘリウムによる極低温冷却によってようやく観察される現象でしたが、1980年代後半に、液体窒素の沸点(-196℃)を超える“高温”で超伝導状態になる材料が発見されました。より高温で超伝導を実現できれば、冷却に要する費用やエネルギーが大幅に削減され、実用化の可能性が高まることから、現在も新たな高温超伝導体の探索が世界中で続けられています。
北野研究室では、電子間の強い相互作用が高温超伝導の発現に深く関与すると考えられている銅酸化物系と鉄系の2種類の高温超伝導体の本質の解明と、それを応用するための技術開発に向けた研究に取り組んでいます。具体的には、原子が規則正しく配列された結晶構造を持つ高品質な単結晶を作製し、それを微細加工することで、従来の測定方法では得られなかった高温超伝導体の情報を得ることを目指しています。微細加工には本学部の機器分析センターにある集束化イオンビーム(FIB)加工装置を使い、数ミクロンからナノオーダーに迫る高精度な加工を行っています。これほど微細なサイズに加工できるからこそ、高温超伝導体の本質解明につながる新たな情報を得ることができるのです。現在は、微細加工した鉄系高温超伝導体を用いて光の最小単位である「光子」を1つずつ検出する実験を計画中で、近い将来、「光子」による量子情報処理に用いられる超伝導光センサーに関する応用研究にも乗り出したいと考えています。

Q.学生の指導ではどのようなことを心がけていますか。

「自分が何を理解し、何が分からないのか」を意識することの大切さを伝えています。授業内で行う実験は順調に運ぶように設計されていますが、研究室での研究は未開の分野を、研究しているわけなので、最初からうまくいくことの方が少ないのです。予想と異なる結果が得られたときに、安易に失敗と決めつけず、なぜ予想と異なったのかを学生自身に考えてもらうようにしています。特に、無意識に決めつけていることはないか、実験の前後に確認すべきことに漏れはないかなどをチェックすることで、うまくいかなかった原因を特定できる場合が多いので、それを経験として学べるよう配慮しています。また、原因が見えてきたら仮説を立て、それを確かめるための実験をすることが大事です。その際には対策や代案を3つほど練り、そのすべてを試してみることを提案しています。大抵の場合、どれか1つは突破口や回避策につながるものです。
また、実験テーマや研究上の関心は、研究の進展と共に常に移り変わるので、実験の手順を安易にマニュアル化したり自動化したりせずに、「できることはなるべく自分でやるように」と指導しています。自分が行った測定の結果を踏まえて次の測定を計画したり、必要に応じて従来の方法を見直したりするなど、常に“考える”癖を身に付けることが大切です。学生たちが社会に出て生かせるものは、必ずしも大学で学んだ専門知識だけというわけではありませんが、超伝導のような難物に挑み、格闘した時に勝ち得た経験と論理的思考力こそ、社会で活躍する術だと私は考えています。大学院卒業後、民間の研究・開発部門で働いていた自分自身の経験から、研究する過程で身に付けた勉強法や技法は、社会に出てから直面する難問解決への糸口を見つけたり、大学時代にはなかった新技術を理解したりする上で必ず役立つと信じています。

Q.研究室に興味のある高校生・在校生にメッセージをお願いします。

研究室の立ち上げ時から一貫して、学部生と大学院生との間に垣根がなく、お互いにカバーし合いながら和気あいあいと研究を進めている印象があります。実験系の研究室でありながら、研究室のメンバーが集まって教科書や論文を読み解く研究室輪講に力を入れており、議論を重ねることで徹底的に考え抜く思考力を鍛えています。4年次から研究室に配属されるので1年間の研究室生活を通し、輪講での発表や研究に関する進捗報告などを積み重ねて成長していく様子が見て取れます。大学院生の場合は、学会発表を経験することでより大きな成長が見られます。超伝導の理解は決して生易しくないですが、今後の急速な発展が期待される量子技術の中核を担う存在です。北野研究室では、本学の研究環境を最大限に生かしつつ、世界をリードする研究に挑んでおり、実験に利用する数多くの先端技術に触れる機会や研究を通じて物理的思考力を鍛える機会に恵まれています。さまざまな実験に参加することで自分の隠れた才能に出会い、それを伸ばすチャンスを得たい方は、ぜひ北野研へお越しください。

学生からの
Message

理工学部 物理科学科 4年
東京・私立拓殖大学第一高等学校出身
三原 莉央

私はもともと宇宙物理に興味があり、物理科学科への進学を決めました。理工学部では1年次からさまざまな実験や実習を行いますが、3年次に「物理専門実験Ⅰ」を受講し、実際に自分で超伝導体を作って観測を行ったことで、超伝導に強く興味を引かれるようになりました。その実験をサポートしてくださったのが、北野研究室で助教を務める 鈴木慎太郎先生でした。どの研究室に所属するか悩んでいた時期だったので、北野研究室の雰囲気や準結晶の研究について話を聞いて、「やりたいことに出会ってしまった」と思うくらい衝撃を受けたのを今でも覚えています。そのことがきっかけで北野研究室に所属し、現在は準結晶の研究を行っています。
準結晶とは、結晶と非結晶に次ぐ「第三の固体状態」のことで、これまでの固体物理学の常識を覆す存在として注目されています。準結晶の発見はノーベル化学賞も受賞していて、通常の結晶のような周期性はないものの、高い秩序性を持ち、低温で超伝導性を示すことが知られています。
通常の結晶は、ジャングルジムやハチの巣のように、立方体や正六角柱といった単位となる構造を周期的に繰り返す形で原子が配列され、結晶全体の構造が記述されます。この周期性を活かして結晶の中で起こる物理現象の理解が進んでいる一方、準結晶では高次元での周期性に従い原子が配列されることから、私たちの住む3次元の世界では原子の並びを見ても周期を見出すことが出来ず、既存の理論を活用することに大きな制約がかかります。一部の準結晶にて近年新しい超伝導体が発見されており、これを実験的により詳しく調べるため、今は準結晶に近い構造を持つ近似結晶の作製に取り組んでいます。
研究を進める中で、熱物理学や電磁気学、固体物理学などをもっと学んでおくべきだったと痛感することが多く、そのたびに北野先生に相談して必要な書籍を紹介いただき、実験の待ち時間などを活用して勉強しています。研究室はアットホームな雰囲気で、先生が学生の居室に来てくださることが多く、実験や勉強で分からないことがあれば先生や先輩方に気兼ねなく質問できる環境です。本格的な研究は4年次から始まり、1年間では物足りなさを感じたため、大学院への進学を決意しました。大学院卒業後の進路はまだ具体的に決めていませんが、基礎研究で培った「考える力」を自分の強みとして、幅広い分野に目を向けた就職活動を行いたいと考えています。
研究は思うように進まず悩むこともありますが、まだ誰もやったことのない未知のテーマに挑んでいることにワクワクしています。日々の実験を通じて「失敗してもそこから何を学ぶのかが大切」という考え方を得られたおかげで、自分が成長していくのを感じられてとても楽しいです。もし今進むべき道に迷っている方がいるなら、面白いと感じたものにためらわずチャレンジしてほしいと思います。その先には新たな選択肢が広がり、自分が一番好きなものにたどり着くはずです。

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2024年度)のものです。

理工学部 物理科学科

青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
物理学はシンプルな根源原理を理解することによって、幅広い科学分野に応用できる学問です。物理科学科では、基礎物理学をはじめ、固体、宇宙、生物といった対象が絞られた分野、さらには超伝導、ナノテクノロジーなどの最先端応用分野まで、さまざまな階層・スケールサイズの物理学をカバーします。充実した設備環境での実験・演習形式の授業により、理解を深め実践力を高めます。

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