理工学部 化学・生命科学科
脳科学研究室

魚をモデルにした研究で
人間の病気や老化の解明に繋げる

平田教授からの
Message

理工学部 化学・生命科学科 教授
平田 普三

理工学部化学・生命科学科では、有機化学、無機化学、分析化学、物理化学、生命科学の5分野を広く学び、最終的にいずれかの分野の高い専門性を身に付けられる教育を実施しています。座学で学んだ知識を探究に生かすため、多様な実習科目の履修ができるカリキュラムを組んでいます。

Q.脳科学研究室の研究内容を教えてください。

動物を使った脳科学の研究をしています。運動神経がよくなるとはどういうことか、心変わりをする時に脳の中で何が起きているのか、老いるとはどういうことか、といった生命の謎の解明を目指しています。
実験に使う動物というと一般にはマウス(ネズミ)をイメージする方が多いでしょうが、私の研究室では、ゼブラフィッシュという熱帯魚を使っています。ゼブラフィッシュは安価で大量に飼育でき、成長が速いなどの利点から、マウスの次によく使われる実験動物です。魚類である魚は哺乳類であるヒトとはまるっきり違うと思うかもしれませんが、同じ脊椎動物に属し、生物としては近縁です。ヒトにある遺伝子のほとんどは魚にもあり、神経や心臓の病気、がんや老化も、ヒトと魚で同じメカニズムで起こります。たとえば遺伝子に突然変異を導入して特定の遺伝子を破壊したゼブラフィッシュを作製し、そのゼブラフィッシュ個体にどんな病的異常があらわれるかを調べると、その遺伝子のはたらきを明らかにできます。同じ遺伝子はヒトにもあるので、ゼブラフィッシュの遺伝子の研究はヒトの遺伝子や病気の理解に直結します。前述の「心変わり」でいえば、脳の分子変化を可視化するシステムを構築し、ゼブラフィッシュが行動を変化させるときに脳でどんな化学反応が起こるのかを調べることで、心変わりのメカニズムを分子のレベルで解きかかすこともできます。
研究室では7,000匹のゼブラフィッシュを飼育しており、研究室メンバーが交代で餌やりをしています。7,000匹のほとんどは遺伝子を操作して作製した系統で、脳の病気になるものや、生きたまま脳内を可視化できるように細工したものなどがあります。クリスパー・キャス9というゲノム編集技術(遺伝子改変技術)が2012年に発表され、2020年に発明者がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。私はこの技術を2012年に自分の研究に使い始め、今では学部4年生が思い通りに遺伝子操作したゼブラフィッシュを自作できるようになりました。魚を用いた脳科学研究の幅は広がり、ますます独創性の高い研究を展開できるようになりました。

Q.学生の指導ではどのようなことを心がけていますか。

私の研究室で真に学んでもらいたいことは、生命科学の知識や技術そのものではなく、生命科学研究を通して学べる論理的に思考する力、ひいては問題解決能力です。これは座学で身に付けるものではなく、議論によってしか習得できないものです。具体的にはディスカッションを日々繰り返すことで、2つのスキルを習得してもらいます。
1つ目のスキルは、対比をとることです。たとえば実験結果を説明するときに「毒を投与すると××になります」と結果だけ言っても、伝えたいポイントは伝わりません。「無処理の動物は正常で○○であるのに対し、毒を投与した動物は××になるので、この毒には△△という作用がある」と伝えればよいのです。対比をとることではじめて、伝えたいポイントを明確にできます。
2つ目のスキルは、Question と Answer を同時に立てることです。自分が発見したことや主張したいことをAnswerと位置づけます。それを伝えるのにAnswerだけを言っても、やはり伝えたいポイントは伝わりません。何が問題なのか、何がQuestionなのかを提示した上で、自分のAnswerを出すべきです。たとえば「〜〜を行うと、××がわかった」ではなく、「これまで○○は知られていたが、××は解明されていなかった。そこで本研究で〜〜を行い、これまで謎だった××が解明された」とすればいいのです。これにより自分のAnswerの価値を明示できます。注意点としては、漠然としたQuestionを提示すると、かえってポイントが伝わりにくくなるので、自分のAnswerが直接的な解答となるようなQuestionを設定する必要があります。技術的にはQuestionとAnswerを同時に立てるというより、手持ちのAnswerに基づいてQuestionを後付けで設定します。新しい発見を人に説明するときには、まずはその発見がどういう観点で新しいのか、具体的には新しい現象の発見、新しいメカニズムの解明、新規産業につながるなど、自分の発見について複数パターンのAnswerを用意します。次にそれぞれのAnswerに対応するQuestionを設定します。そうすると同じ発見であっても、複数のQuestion-Answerの軸を立てることができます。最後にその中で自分の発見を最も魅力的に提示できるQuestion-Answerのセットを選択します。そうすることで、自分の発見や主張の価値を最大化できるのです。
これらのスキルはサイエンスや論理的思考の本質である、何が問いなのかを見出す技術であると同時に、社会で必要とされる「問題解決能力」そのものです。問題解決能力とは答えを出す能力ではなく、問いを見つける能力です。大学は本を読めば自学自習できるようなセンモン知識を学ぶ場ではなく、問いを見つける中で問題解決能力を習得する場であるべきだと私は考えています。

Q.研究室に興味のある高校生・在校生にメッセージをお願いします。

大学受験を控えた高校生の皆さんは、目先の勉強がたいへんで、受験勉強のような勉強を大学に入った後も続けていくのは嫌だと考えているかもしれません。でも大丈夫です。受験勉強と違い、大学での学びは自由と創造性に満ちています。それを楽しみに、受験を乗り越えてほしいと思います。
高校までの勉強は、すでにわかっていることを暗記することが中心です。受験とは、用意された1つの正解にたどり着くために、問題のパターンを見抜く反射神経を試すクイズのようなものです。それに対し、大学の学びでは、正解がまだわからない、あるいはそもそも正解が存在しない問いと向き合います。それを解き明かすために何をしたらよいのか、身近なところでは抽象的なことを問うレポート課題にどう対応すればいいのか、自分で考えて切り拓いていくのです。自分が面白いと思うことを好奇心のままに深めていける大学の学びはとても楽しいものになります。世の中にはまだわかっていないことや、うまくいっていないことがたくさんあり、問いを無限に見出すことができます。大学では問いを見つけることを意識して、自由で創造的な学びを存分に楽しんでほしいと思います。

学生の
Message

理工学研究科 理工学専攻 生命科学コース 博士前期課程1年
奈良県立奈良高等学校出身
安西 美玖

子供の頃から理科や生き物が好きで、高校で分子生物学に触れて、大学で生命科学を深く学びたいと考えました。脳科学研究室を選んだのは、3年次に研究室訪問をした時、先生から老化やてんかんの研究などのお話をうかがい、生物を通して遺伝子発現を見ていくことに魅力を感じたこと、先輩方の研究レベルの高さや、和やかな雰囲気が気に入ったことが理由です。研究室に所属してすぐの頃、先生方や大学院生から実験手順やその所作を手厚く指導いただいて、毎日できることが増えていくのが嬉しかったことをよく覚えています。
週1回のミーティングでは、研究の進捗報告や論文紹介を行います。論文紹介というのは学生それぞれが英語で書かれた学術論文を読み込み、そこで紹介されている新規の研究報告の研究背景、実験方法、実験結果、今後の展望について発表するものです。発表に対して必ず質問するルールがあり、発表する側も聞く側もかなりの集中力が必要です。研究室のメンバーから質問を受けると、自分でも意識できていなかった課題が見えてくるので、研究する上でディスカッションは本当に大切だと感じます。また、ミーティングで鍛えられているおかげで、学内の研究発表や学会での発表にも自信をもって臨むことができています。
大学院進学にあたっては、成績に応じて授業料の半額〜全額が給付される奨学金制度の対象者に選ばれたことで、経済的負担が軽減されました。努力を評価し、研究をサポートしてくださる制度があることは、本学理工学部のよさのひとつだと思います。
各自の研究テーマは、興味や適性に応じて平田先生と相談しながら決定します。私は、神経伝達物質であるGABAとグリシンの受容体に関する研究を進めています。少しずつ成果に繋がる発見ができていますので、最終的に学会発表や論文執筆を行うことが目標です。
生体内で起こる現象に、私たちの行動や思考はつねに制御されていますが、そのしくみはまだまだ解明されていないことばかりです。こうしたテーマに興味のある人は、この研究室で新たな発見にチャレンジをしてみませんか。

理工学部 化学・生命科学科

青山学院大学の理工学部は、物理、化学、生命科学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
「化学」とは、物質の本質とその可能性を分子レベルから探究する学問です。それを基盤として、生命現象の本質を分子の性質とその相互作用に基づいて理解を深めていくのが「生命科学」。化学・生命科学科では、環境、生命、資源、情報をキーワードに多様な選択科目群を配置しています。有機EL照明をはじめとする工業化学や遺伝子関連のバイオテクノロジーなど、最新分野にアプローチできます。

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