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専門的に学んだ力を社会で生かす。大学数学が示してくれた未来への道筋

掲載日 2025/1/7
No.328
理工学部 数理サイエンス学科 4年
奈良野 綾花
東京都立東大和南高等学校出身

OVERTURE

子どもの頃から算数や数学の問題を考えるのが楽しくて仕方がなかったという奈良野綾花さん。大学では好きな数学の学習がいっそう楽しくなり、初めはイメージできなかった、数学の力を社会に役立てる道筋も見えてきたそうです。確率論を専門に学ぶ奈良野さんに大学での数学の楽しさや将来の展望を話していただきました。

大学で本格的に数学を学び、数学的課題を知ることができた

私は子どもの頃から算数が好きでした。今もよく覚えているのが、小学校2年生のときに「つるかめ算」を学習したことです。クラスの誰も解けない問題があり、先生に「家で考えてみて」と言われて、家でじっくり考えた時間がとても楽しくて「算数が好き」と自覚しました。その後、中学・高校では数学の教科書の中にある発展問題や難易度の高い問題集などに挑戦し、食事中や寝る前も数学の問題のことを考えるほど、数学の世界に夢中になっていました。
自然に大学でも数学を専攻したいと思い、相模原キャンパスの広々とした環境が気に入り、理工学部数理サイエンス学科への進学を決めました。好きな数学を専門に学べることは嬉しかったのですが、当時は数学が世の中でどのように役立っているのかあまり理解ができていなかったため、将来につながるだろうかと不安に思う気持ちもありました。

しかし入学後は、大学での学びを通じて数学の楽しさをさらに深く実感しています。たとえば「解析学ⅠAⅠB」の授業は、高校の「微分・積分」の延長のような内容でしたが、高校の教科書では学びきれなかった部分がきちんと説明されただけでなく、未解明の数学的課題についても教えていただき、非常にやりがいのある授業でした。わかっていることやまだわかっていないこと、数学的な現状を明確に知ることができる点で、高校までよりもぐっと進んだ本格的な学びができたと思います。

また、教授陣と学生との距離が近いことも嬉しい驚きでした。大学の授業といえば、大きな教室で先生の講義を聴くというイメージでしたが、どの先生も学生一人一人の顔と名前を覚えてくださり、廊下でも気軽に声をかけてくださります。何かわからないことがあるときに質問もしやすいですし、研究室選びや勉強方法など悩みができたときにも臆することなく相談することができる環境です。

皆で数学について議論する新しい体験から、人に伝える力も付ける

3年次からは学び方にも変化が出てきました。「数理専門演習Ⅰ」は、課題として出された問題を一人一人家で解き、その解法を発表したり、それぞれが興味のあるテーマについて書物を読み、その内容をまとめて発表したりする授業です。解法の発表では、学生同士で「その方法はこの点が問題ではないか」「こうした考え方もあるのではないか」など、さまざまな意見を出し合います。それまでは、わからない問題を仲の良い友人と教え合うことはあっても、大人数で数学について議論するということは初めてだったのでとても新鮮でした。みんなで議論をすると、自分の理解があやふやであったところに気が付くことができ、さらに他の学生からの指摘で間違いを正すこともできます。「こういう場合はどうなりますか」といった質問が新しい視点の獲得になることもあったので、他の学生と議論をすることを体験した後は、「自分がわかっていれば良い」という発想がなくなり、人前で説明できるレベルになるまで多方面から考えて理解することを意識するようになりました。

1〜2年次は基礎的な理論を学ぶことが多かったのですが、3年次以降には数学が社会でどのように応用されているのか知る機会も増えてきました。特に山中卓先生の「ファイナンス数学」は、金融分野の課題について、確率論や統計学的視点から学ぶ授業であり、元々興味を持っていた経済学や金融について数学と結び付いたことに感動し、この分野をより深く知りたいと思いました。
このようにして、将来的な社会貢献や学びたい分野が見えてきたものの、研究室選びでは大いに迷いました。山中先生の研究室でファイナンス数学をより理解する選択肢も魅力的でしたが、その基礎となる確率論を理論的に学ぶこともとても魅力があったのです。
高校までの確率の学習では、「ある状況においてはそうかもしれないけれど、違う状況だったらどうなるのだろう」という疑問がいつも自分の中にありましたが、高校までの知識ではそれを突き詰めることができず、大学での学びならばそれをより深められるという手応えがあり、もっと学びたいと感じていました。また、ニュースで報じられる調査や統計データについて、「どういう条件の下でどういう人にインタビューしてその結果が出るのだろう」と考えることもしばしばあり、そうした疑問を数学的に検証できる環境に行きたいという希望もありました。
先輩や先生方にも相談して、学部と大学院とで別の研究室を選ぶ道もあることを知り、最終的に学部では市原直幸先生の研究室で確率論の理論を学んで力を付け、博士前期課程に進学した後は山中卓先生の研究室に所属し、学部で身に付けた理論を応用しながら研究を続けることに決めました。

幅広い教養や経験も大切に、将来への力を養う

数学だけでなく幅広い分野を積極的に学ぶことも大切にしています。全学共通で多様な学びができる「青山スタンダード」科目が充実していることは青学を選んだ理由の一つでした。中でも、心理学の理論からコミュニケーションを学ぶ「人づきあいの科学B」は、経済や金融にも関連する行動経済学やマーケティングにも応用できる内容で、より深い考察ができました。幅広い教養を身に付け、社会の状況を知ることは、今後の数理ファイナンス研究に欠かせないことです。さまざまな書物を読んで知識を付けることや、友人からの誘いには時間の許す限り乗って、経験の幅を広げることも心がけています。
家庭教師と塾講師のアルバイトでは、ただ問題の解き方を教えるだけでなく、思考力が付くような教え方を心がけて、勉強の楽しさを見つけてもらえるよう意識しています。こうしたアルバイトの経験を生かして、ブログやSNSで中高生向けの勉強方法や数学について情報発信もしています。読んだ方からメッセージをいただくこともあり、頼りにされることが嬉しく、効果的な伝え方を研究する機会にもできています。

2歳から高校生まで打ち込んだ水泳では、数々の実績を残した。東京都の大会で7位になり、関東大会に出場した経験も持つ

大学院での数理ファイナンス研究を見据え、的確な指導のもとで学ぶ確率論

現在、研究室では、確率論の一分野である「マルコフ連鎖」について学んでいます。マルコフ連鎖とは、過去にどんな過程をたどったかは関係なく、現在の状態のみから次の状態に変化する確率が決まるモデルのことです。統計学、物理学など、さまざまな分野で応用されています。
4年次にはテキストを読み、各々が興味を持った内容について研究し、その結果を発表します。私は、マルコフ連鎖モンテカルロ法という、機械学習やファイナンスの分野でも応用されている手法のアルゴリズムについて発表し、卒業研究もこの分野を扱う予定です。初めは、興味を持って発表する内容は重なるのではないかと思ったのですが、物理学的な観点から深める人、応用ではなく数学のより本質的な議論をする人などがいて、フォーカスしたい内容や着眼がそれぞれ違っていることも面白いと感じました。
市原先生は、どういう理由でそれが成り立っているのか、数学的な議論をしっかり行ってくださります。わからないことや曖昧なことをスルーしたくない私は、細かい点まで検証してくださることが楽しく、発表の際に少しでも怪しいところがあればすかさず指摘してくださることがとても嬉しいです。また市原研究室には、学生が「やりたい」と思うことを尊重してくださる自由な雰囲気もあり、この良い環境の中で、まずは卒業研究に向けてマルコフ連鎖の理論を理解し、数学的な現状、現在使われている手法をしっかり知りたいと思います。そして、博士前期課程に進んだ後には、その基本知識を生かして、ファイナンス分野で応用するために、手法の問題点を見つけてそれを補う方法を考えていきたいです。

私がそうだったように、数学の専門的な学びが何につながるのかわからなくて、専攻することを躊躇している人も多くいるのではないかと思います。大学では、社会でどのように数学が役立っているのか知る機会をたくさん持てて、さまざまな気付きを得て視野が開けてきます。数学が好きな人はぜひ数学を専門に学ぶことを考えてみてください。

研究室では、自由な雰囲気の中、学生同士でディスカッションしながら力を付けている

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2024年度)のものです。

理工学部 数理サイエンス学科

青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。さまざまな数学の基礎を学びながら、数理科学に関する未知の事柄について研究を行います。「数理サイエンス」という言葉には、厳密な論理に基づく学問としての数学だけではなく、現実社会の諸問題を記述し解決する道具としての数学という意味が込められています。自分で考える習慣と力を身に付けることが目標です。

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