アジアでの生活と留学経験を原点に、公的立場で国際経済の発展に貢献する将来像を描く

OVERTURE
小・中学生時代を中国で過ごした経験は、菊池真緒さんが地球社会共生学部で学ぶ原動力となりました。ゼミでは多角的に情報を収集して取捨選択する力を身に付け、タイ留学では語学力と行動力を大きく向上させました。また、アメフト部のアナライジングスタッフとして、チームの勝利を支える中で、多様性を認め尊重する姿勢の重要性を学びました。卒業後は、公的な立場で日本とアジア、そして世界をつなぐ役割を果たし、自分の力を伸ばしたいという目標を見出した菊池さん。その歩みについてお話を伺いしました。
中国で抱いたアジアへの興味とメディアに対する疑問が学びの原点
私の志向や行動の原点には、小学4年生から中学3年生までの6年間を中国の上海で過ごした経験があります。両親から中国に住むと聞かされたときは、「行きたくない」というのが正直な気持ちでした。メディアで中国に対する批判的な報道を見聞きしていたからです。しかし、実際に現地で生活してみると、多くの人が温かく接してくれましたし、日本の文化を褒めてもらうこともありました。また、歴史を感じられる名所もたくさんあり、想像以上に素晴らしい体験となりました。一方で、中国のメディアでも日本について良い印象を与える報道が少ないことを知り、「お互いのことをよく知らないまま、報道によって悪いイメージが広まるのは悲しい」と、子どもながらに感じました。そして、「ネガティブな見方をポジティブに変え、国と国をつなぐ架け橋になりたい」という思いが芽生えました。
大学では国際社会について学びたいと考えていた中で、青山学院大学の地球社会共生学部を選びました。特に、カリキュラムに組み込まれているアジアへの半期留学制度に大きな魅力を感じました。中国での経験を通じてアジアへの関心を持ち続けていた私にとって、地球社会共生学部が異文化社会での学習や生活といった「体験知」を重視し、地球社会の課題に対応できるグローバル人材を目指すというカリキュラムに強く共感したからです。
入学後、特に力を入れたのは英語の学習です。地球社会共生学部では、2年次後期の留学に備え、プレゼンやレポート作成などで必要となる英語スキルを身に付けるため、「Academic English」の授業が1年次は週6コマ、2年次は週4コマ設けられています。中学・高校時代にはニュージーランドやカナダに滞在するプログラムに参加し、英会話には積極的に取り組んできた自負がありましたが、学術的な英語となると話は別で、「もっと語彙力を伸ばさなければ!」と奮起しました。特にライティングのスキルが向上した実感があり、英語でのレポート作成の基本的な構成を習得できました。このときの努力がなければ、留学先でのレポート課題には太刀打ちできなかったと思います。
物事を判断するには、
多角的に情報を収集して取捨選択する力が必要だという学び
地球社会共生学部には、幅広い分野で活躍されている先生方がいるため、入学前に想像していた以上に新しい学びと出会える学部だと感じています。「特殊講義C(Ⅴ) / 人間の安全保障論」では、元国連機関職員の堀江 正伸先生から国際協力の現場での経験談を聞くことができ、とても興味深い授業でした。履修していた期間に能登半島地震が発生し、災害時の人権保護など、安全保障が私たちの日常と密接に関わる課題であることを改めて実感しました。
私にとって特に印象深かったのは、1年次の「基礎演習Ⅰ・Ⅱ」で出会った福原 直樹先生です。新聞社の海外特派員から大学教員に転身された福原先生は、ソマリアやルワンダ、旧ユーゴスラビアなど、かつて世界史の授業で学んだ紛争について、ご自身が現地で実際に取材したことを語ってくださいます。それまで教科書の中の出来事だと思っていた世界が、先生のお話を通じて一気に現実味を帯び、授業に引き込まれました。中国でマスメディアの影響力を実感して以来持ち続けていたメディアや報道への興味と、先生のご経歴が重なったことで、3年次からのゼミナール(ゼミ)は迷わず福原先生のゼミを選択しました。
ゼミでは、アメリカのジャーナリスト、デイヴィット・ハルバースタムの著書を読み、歴史上の出来事におけるメディアの役割について学びました。それとは別に、福原先生が毎週配布してくださる海外メディアの英文ニュース記事をもとにディスカッションを行う時間もあり、時事問題への理解を深めることができました。最近では、共和党派と民主党派、それぞれのメディアがアメリカ大統領選挙をどのように報じたかを比較し、結果を分析したり、日本の衆議院選挙が海外でどのように報道されたかを調べたりと、興味深いテーマが続き、学びが尽きませんでした。
福原直樹先生(後列中央)とゼミ4年生のメンバーたち(先生の左隣が菊池さん)
このゼミで最も身に付いたスキルは、ニュースの読み解き方だと思います。一つの事案がメディアによってさまざまな角度から報じられることを知り、何かを判断する際には、多角的に情報を収集し、自分で取捨選択する力が必要だという大きな学びを得ました。また、国際情勢に関心が高いメンバーが集まる中で、プレゼンをする機会も多くありました。そのおかげで、わからないことを曖昧にせず、納得できるまでしっかり調べてから、説明することが習慣になりました。
「興味を持ったら挑戦する」という姿勢に変わり、
行動力が大きく成長した留学経験
待ち望んでいた留学に行った2022年後期は、世界的に観光業が甚大なダメージを受けたコロナ禍がようやく収束した時期でした。留学先には、観光大国のタイの実情を自分の目で確かめたいという興味と、高いレベルの環境で学びを深めたいという思いから、首都バンコクにあるタイで最難関といわれるチュラーロンコーン大学を選びました。
チュラーロンコーン大学に留学して、タイ人の英語運用能力の高さと、授業以外の時間も熱心に勉強する姿に圧倒されました。授業のレベルは非常に高く、リーディング課題の内容を完全に理解していることが前提で進むため、最低限の予習をこなすだけでも一苦労でした。これまで英語を積極的に学んできた自信がありましたが、そのレベルの違いを痛感する場面も多々ありました。
想像以上に多いレポートやプレゼンの課題が課される中、タイ人学生に混じって、グループプレゼンにも取り組みました。「みんなの足を引っ張らないようにしなくては」というプレッシャーもありましたが、グループのメンバーが何回もリハーサルに付き合ってくれ、グループとして一体感のあるプレゼンに仕上がるよう、「ここはもっとテンポよく話してみて!」といった具体的なアドバイスを親身にしてくれました。ついていくのは大変でしたが、仲良くなったタイ人の友人と一緒に、テスト期間中24時間開放される大学図書館で勉強した時間など、今では良い思い出です。
ジェンダーに関する授業でグループプレゼンに取り組んだタイ人学生のメンバーと(左端が菊池さん)
留学中の授業で特に印象に残っているのは、「Media
Histories」で取り組んだグループプロジェクトです。この授業はメディアの変遷を考察することをテーマにしているので、イギリス人と中国人の学生とともに、日・英・中の3カ国で「9.11(アメリカ同時多発テロ事件)」が当時どのように報じられたかを家族にインタビューして調べ、プレゼンとレポートを作成しました。青学での授業とは異なる視点・角度からメディアを考察する機会は、とても新鮮で興味深い体験となりました。
英語で自分の意見を伝えることに苦戦することが多かった私を、メンバー2人が「一緒に頑張ろう」と励ましながらサポートしてくれたことは忘れられません。英語4,000
words(日本語に換算すると約8,000文字)を超えるボリュームのレポート課題にも挑み、語学力は確実にステップアップしたという実感があります。
限られた時間の中で、勉強以外にも多くの経験をしたいと考え、興味が赴くままに大学のランニングクラブに参加したり、タイ各地を旅行したりと、メリハリをつけてアクティブに活動しました。ランニングクラブでは外国人は私一人でしたが、現地の学生たちがおいしい食堂に連れて行ってくれるなど、留学ならではの楽しい体験ができました。
旅行では郊外にも足を運び、コロナ禍の影響で外国人観光客が戻らず、交通手段がストップしたままの地域があることを目の当たりにしました。現地のタクシードライバーからは、仕事を失い、自から命を絶った仲間がいるという話を聞きました。キャンパスの中だけでは知ることのできなかったコロナ禍がもたらせた深刻な現実に触れ、「一歩外に出てみることによって見えてくるものがある」と強く実感しました。「興味を持ったらどんどんチャレンジする」という積極的な姿勢に変わったことによって、行動力が高まったことが留学を通しての最も大きな成長だったと思います。
旅行で訪れた北部の古都チェンマイにある黄金の寺院「ワット・プラタート・ドイ・ステープ」にて
チームの勝利のために尽力した
アナライジングスタッフの経験は貴重な財産
学業と並び、体育会アメリカンフットボール(アメフト)部でアナライジングスタッフ(AS)を務めたことは、私の大学生活の大きな柱でした。ASの役割は、対戦相手を分析し、戦術面からチームを支えることです。高校時代はテニス部に所属していましたが、コロナ禍で満足のいく活動ができず、部活への心残りがありました。大学生になって「今度こそ本気で何かに打ち込みたい」という思いで体育会の部活動を調べる中、ASの先輩が全力でチームの勝利に貢献しようと努力する姿に感動して、入部を決意しました。週5日、相模原キャンパスのグラウンドに通いました。
関東学生アメリカンフットボール1部リーグ戦終了後の集合写真(中央列右端が菊池さん)
アメフトのルールすら知らないゼロからのスタートだったので、先輩やコーチのサポートを受けながら、多くの試合映像を見て知識を身に付ける努力を続けました。分析には正解がないため、選手やコーチに自信をもって情報を提供するのは簡単なことではありません。それだけに、戦略が的中したときや、選手から「ありがとう」と言ってもらえたときの喜びは格別でした。
4年次は主務として部全体のマネジメントも担い、大きな責任を感じる1年でした。アメフト部には約100人の部員が所属していて、選手だけでなく、さまざまな役割でチームを支えるスタッフがいます。その中で意見の相違が生じ、時には衝突することもありましたが、最終的に「勝利を目指す」という思いは全員共通です。重要なのは、相手の立場を理解し、意見をしっかり聞いてお互いを尊重する姿勢だということを学びました。この経験は、社会人としても必ず役立つ貴重な財産だと思っています。
毎回の練習を撮影し、選手やコーチに共有するのもアナライジングスタッフの仕事
利益追求より公的立場で人を支える仕事に適性を見つける
卒業後は、日本企業の海外進出支援や外国企業の日本誘致などを行う政府系機関に就職する予定です。
大学に入学した当初は将来の目標が明確ではありませんでしたが、タイ留学をきっかけに「アジアの魅力を日本に伝え、日本の素晴らしさを世界に広める架け橋になりたい」という目標をはっきりと描けるようになりました。留学中、多様な個性を持つさまざまな国の学生たちとの交流を通じて、国やその国の人々を固定化されたイメージでひとくくりに考えるのは誤りだと再認識しました。この気づきは、中国に住んでいたときに感じた経験と結びついています。
それぞれの魅力を発信し、互いに利益をもたらすWin-Winの関係を築く仕事がしたいと考え、当初はアジアに強いネットワークを持つ企業への就職を視野に入れていました。しかし、アメフト部での経験を通じて、「利益を追求するよりも、公的な立場で人を支える仕事のほうが私に向いている」と感じるようになりました。そして最終的に、海外の最前線の情報を分析して日本の経済界に届けるという政府系機関の使命のもと、“知”を追究して共有の財産とするという理念に深く共感し、就職を決めました。
タイ留学中は、カフェや軽食の自販機もある大学図書館がお気に入りの勉強場所だった
これからも謙虚な気持ちを忘れずに学び続け、まずは組織で必要とされる人材になることを目指したいと思います。視野を広げるために、国内の地方事務所や海外事務所での勤務も経験したいと考えています。大学で培った英語力や社会事象を読み解く力を自分の強みとして生かし、日々変化する国際情勢に常に目を向けながら、目標の実現に向けて努力を続けたいと思います。
※科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2024年度)のものです。
地球社会共生学部
地球社会共生学部(School of Global Studies and
Collaboration/GSC)では、世界の人々と共に生き、共に価値を見出し、よりよい社会を共同で創造していくための専門知と実行力を備えた人材育成を目指します。激動する世界を視野に「地球社会」の多様性に触れ、異文化理解を深める幅広い学びを展開。世界の人々との「共生」をキーワードに、コラボレーション領域、経済・ビジネス領域、メディア/空間情報領域、ソシオロジー領域の専門4領域を中心に、Global
Issuesを共に解決し協働できる「共生マインド」を養います。
地球社会共生学科は、国境を超えた「地球社会」を教育研究対象としています。多角的な視点と異文化への共感力、語学力に裏打ちされたコミュニケーション能力をもって、さまざまなグローバル課題の解決策や持続的な社会を創造する方法を探究します。
