子どもと保護者を支える
ため心理専門職へ。
心理学の知見が支えに
公認心理師、臨床心理士
教育人間科学部 心理学科卒業
教育人間科学研究科 心理学専攻
臨床心理学コース博士前期課程修了
OVERTURE
「子どもを支えたい」という思いから心理専門職を目指すようになった横尾さん。現在は、インクルーシブ保育を行っているこども園で公認心理師として活躍しています。心理学科で得た学びと自らに起こった変化、さらに現在の仕事についてお話していただきました。
スクールカウンセラーとの出会いから心理専門職を目指す
私が心理専門職の道に進むきっかけとなったのは、スクールカウンセラーという職業を知ったことからです。支えが必要な子どものために力を尽くす職業がとても素晴らしいと感じ、私自身も、サポートを必要としている人に寄り添い、一緒に考えることで力になりたいと考えるようになりました。
それから子どもの抱える問題について調べていくうちに、「親子並行面接」などを手掛け家族関係を専門に研究されている小俣和義先生の存在を知り、小俣先生が教鞭をとられている青山学院大学を志望するようになりました。スクールカウンセラーを志望している私にとって、青山学院大学は心理学科と教育学科が同じ学部(教育人間科学部)に属している点もポイントでした。
当時の心理学科のパンフレットには、音楽療法や心理学実験の様子もあり、実験器具なども充実していることがうかがえ、臨床心理・発達心理・社会心理・認知心理の心理4領域をバランスよく学ぶことができるのも魅力でした。さらに、臨床心理学の多くの先生方は豊富な実務経験をお持ちであり、心理学をこれだけ幅広く、そして深く学べるカリキュラムは他大学にないところだと思います。
考え方が広がったゼミでの学び
入学後の生活は非常に充実したものでした。1・2年次では実験や統計学、基礎心理学といった基礎をしっかりと学び、将来の本格的な研究に向けた土台を作ることができました。また他学部・他学科開講のカリキュラムを利用して、教育学科と文学部の授業も受講し、学びの幅を広げることができました。
3年次には、いよいよ「家族心理学」を専門とされる小俣先生のゼミナール(ゼミ)での学びが始まりました。私は、いわゆる反抗期と呼ばれる「親子間葛藤」をテーマにし、親の態度が子のアサーション(自分の思っていることを他者に伝える技術)に与える影響などを研究しました。
ゼミでは、大学院生も含めた学年間の交流がとても盛んでした。さまざまなメンバーが集まって、机をコの字に並べ、互いに意見を出し合いながら、一つのテーマに沿って研究を突き進めていきました。私はそれまで、ものごとに対して明確に白黒を決めたいタイプだったのですが、ゼミの場で多様な視点や意見に触れることで少しずつ柔軟になっていったように思います。人の感情や価値観、考え方の波に揺られながら考え続けてゆく心理学に、奥深い面白さを感じるようになったのもこの頃です。
大学院での豊富な実習を経て、公認心理師に
公認心理師を目指して大学院に進んでからは、豊富な実習からとても多くの学びが得られました。外部実習は、保健医療、福祉、教育、司法・犯罪、産業・労働という公認心理師の5つの領域すべてで行うことができました。実習期間は長いもので半年から2年に及び、これも他の大学院では類を見ないものだと思います。
教育人間科学研究科附置施設の「心理相談室」では、相談員としてクライエント(相談者)と継続的に関わらせていただきました。大学院を修了するまで、長く担当させていただいた方もいます。実習では、クライエントの抱えている問題に対してこちらが答えを出すのではなく、一緒に悩み考え、ご本人の気持ちや考え方を教えていただく姿勢が何よりも大切であることや、周囲の環境や社会的な資源と連携していくことの重要性も学びました。
また、小学校で行った実習をきっかけに、将来は幼児を対象とした心理支援を行いたいと考えるようになりました。子どもを支えるためには、より早期に当たる幼児期からの親子支援が必要だと感じたためです。
大学院ではこれらの実習に励む一方、青年期の心理的発達と「内省」の関連性などをテーマにした研究も進めていました。
インクルーシブな保育や社会のためにできることを探し、勉強を続ける
現在は、幼保連携型認定こども園で、臨床心理士として勤務しています。こちらの園では、キリスト教の教えに基づいて、障がいのある子もない子も一緒に育つインクルーシブ保育をしています。初めて園を訪問したときに、子どもがみんなで一緒に遊び、お昼寝をしている様子を見て子どもは一緒に育っていくことを実感し、インクルーシブ保育の良さを感じたことを今でも覚えています。こうした幼児期に、子どもと保護者を適切に支えていくことが、子どもの今後の人生においても重要なことだと感じています。
園ではまず「アセスメント」として子どもの客観的な日常観察を行います。観察の結果は療育連絡会という名の「カンファレンス」として園内で共有します。例えば、医療的ケアの必要なお子さんがいた場合、身体的な発達に関することは理学療法士に、吸引などの医療的ケアに関しては看護師に、食事に関しては調理師の方と連携し、支援内容を決めていきます。必要に応じて外部の支援機関とも連携します。もちろん保護者との定期面接も大切な仕事です。また、もうひとつ大切なことが、子どもたちを支える保育者支援です。子どもたちを長く見られているのはほかでもなく保育者の方々です。保育者とコミュニケーションをとり、現場の声に耳を傾け、アウトリーチ(支援の必要な人にこちらから積極的に関わっていく)をし、保育者の方々を支えていくことが重要です。
仕事を続けている中で何よりもうれしいのは、子どもたちや保護者の方に「伴走者」として寄り添わせてもらえる瞬間です。支援が必要な子どもが「おーろら」と呼ばれる療育*の時間を楽しみにしてくれたり、登園時などに遠くから私を見つけて子どもたちが「ヨコオさーん!」と呼んでくれたりしたとき、そして保護者の方からの「横尾さんに話して良かったです」という言葉は本当に励みになります。
*療育…子どもの特性にあった支援計画を実施することにより、発達と自立および社会参加をサポートしていく取り組み。
私は心理学を学んだことで多様な価値観に触れ、自分自身の考え方も柔軟に変化してきたと思います。また実習では、「相手の気持ちを想像することの大切さ」を学べ、それはどこの場においてもきっと大切なことだと思います。今後も、学びを続けていきながら、子どもたちのために、保護者のために、さらにインクルーシブな社会にしていくためには、自分には何ができるのかを考えているところです。
横尾さんの1日
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8:30
始業(出勤後掃除やデスクワーク)
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10:00
個別療育「おーろら」やクラスの観察、子どもとの関わり
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12:00
昼休憩
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13:00
ケースカンファレンス
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15:00
保護者面接
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16:00
デスクワーク
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17:00
退勤
卒業した学部
教育人間科学部 心理学科
青山学院大学の教育人間科学部は、教育学科・心理学科を連携させながら、「人間」をさまざまな角度から学ぶ多彩な講義や、理論を実践する演習や実習を展開しています。理論的かつ実践的なアプローチの反復によって、人間についてより深く追究。現代社会や人間の諸問題を読み解く高度な専門性と、自ら行動するための課題解決能力・自己教育力を育成します。
心理学科では、心理学を抽象的な学問としてではなく、具体的な知恵や実践的な技術を修得する学問としてとらえます。感覚・知覚などの基礎領域から、社会・臨床などの応用領域までを学び、心理に関する諸現象を科学的・人間学的・総合的に研究し、家庭や教育、医療の現場、一般企業などで生かせる高い専門力を養います。また、心理専門職初の国家資格「公認心理師」取得のサポートも充実しています。