幼い頃から願う世界平和。
国際政治学の研究を通じ
夢の実現に取り組み続ける

掲載日 2023/1/12
No.206
国際政治経済学研究科 国際政治経済学専攻
博士後期課程 2年
大槻 歩未
青山学院大学 国際政治経済学部 出身

OVERTURE

世界が直面するさまざまな問題にグローバルな観点から向き合う国際政治学。今回は、博士課程に在籍し研究者の立場から平和の実現を目指す大槻歩未さんをご紹介します。学部4年間の思い出や、現在の研究内容などについてお話を伺いました。

幼少期からの「思い」が国際政治学の道につながった

私は現在、国際政治経済学研究科の博士後期課程に在籍し、「EU市民のアイデンティティと他者への寛容度」というテーマで研究を進めています。政治・経済的連合体であるEUの地域において、国家を超えたアイデンティティを持つことで、マイノリティの人々に対する寛容度に変化は生じるのか(差別は減るのか)ということについて、データ解析の手法も取り入れながら研究しています。

私と国際政治との出合いいは子どもの頃にまでさかのぼります。『ハンナのかばん(カレン・レビン作/石岡史子訳)』という絵本を読み、ホロコーストや人種差別の問題を知りました。広島の原爆ドームを訪れたときには「戦争はこの世で起きる最も理不尽なことだ」という思いを持ち、「平和な世界を実現するために自分にもできることはないだろうか」と思ったことが、後に国際政治の研究に進むきっかけとなりました。

大学に入学した後は、さまざまな学びを通じて自身の研究テーマを絞っていきました。特に2年次での「民族問題」の授業は大きなインパクトがありました。アメリカにおける黒人とヨーロッパにおけるユダヤ人の例を通じ、人種の概念や人種差別について学んだことをきっかけに、私の関心の対象は、戦争の撲滅といういわば「狭義の平和」から、寛容の精神など個人の内面に基づく「広義の平和」へと広がりました。自分自身も人種や宗教的マイノリティについて研究したいと考え、特にユダヤ人関連の資料としては大学図書館の書架にあるほとんどの本に目を通しました。

3年次で羽場久美子先生のゼミナール(ゼミ)に入り「EU地域における差別問題や国家間の連携について研究する」という方向性が明確になりました。EUのような連合体のメリットをアジア地域にも応用できないかと考え始めたのもこの時期からです。

高校時代には授業の一環として教育系の企業と協働して学習教材の開発を行うなど、実践的な学習に取り組んでいました。それらの経験もあり、私は自身の研究を進める上でも仲間と協働し、積極的に社会と関わっていきたいという思いを持っています。ゼミの活動でも能動的に動きたいと考え、同じ研究分野の学生やアジア出身の学生と連携して「アジア欧州学生会議」という企画を主宰しました。多様なバックグラウンドを持つメンバー間で意見交換できたことで国際問題への視野が広がりました。

留学やバンド活動にも取り組み、充実していた大学時代

学部4年間の学生生活では、専門分野の学び以外にも多彩な経験を積みました。特に2度の海外研修が強く印象に残っています。1年次には国際政治経済学部が主催するベトナムでのフィールドワーク研修に参加し、農村や一般家庭を訪問して現地の方にインタビューを行いました。2年次には青山スタンダードの「海外語学・文化研修」として、モスクワ国立大学付属のロシア語文化学院に1カ月間のロシア語学留学をしました。平日はしっかり語学の学習を行う一方、週末は現地の博物館巡りをしたり、留学仲間や先生と一緒にサンクトペテルブルクまで日帰り観光をしたりするなど、思い出深い留学経験となりました。

学部2年次の「海外語学・文化研修」で

課外活動も楽しい思い出です。私は学部の4年間、青山クリエイティブミュージック(ACM)という軽音楽部に在籍し、バンドでボーカルを担当していました。アイドルからボーカロイドの曲、アニメソングなどジャンルはさまざまでしたが、高校まで声楽を習いダンス部にも所属していたこともあり、振り付けも入れて昭和のアイドル曲のパフォーマンスをしたところ、客席が盛り上がってくれたことが印象的でした。入学前には、学生生活に対して忙しそうなイメージを持っていましたが、実際は時間の使い方をうまくやりくりすることで、学びも課外活動も自分のペースで進めることができました。

青山クリエイティブミュージックに所属し、ボーカルを担当

ある言葉と出会い、研究者への道を志すことを決心

現在は大学院の博士後期課程に進み、研究に集中する毎日です。大学院では、特に佐桑健太郎先生の「政治理論」の授業から大きな影響を受けました。というのは、以前の私は「研究とは、オリジナリティのある新発見を目指すもの」というイメージを持っていました。しかし先生が「研究とは先行研究にほんの少しの+αを付け加えていく作業だ」とおっしゃったことで、研究への向き合い方が大きく変わったのです。その背景には、「世界平和の実現」という子どもの頃からの夢があります。かつては夢の実現を目指して国際機関へ就職することも考えていました。しかし現実の問題として、世界平和とは私個人の努力だけで実現できるものではありません。ですが研究の分野であれば、先人の研究に私も+αを付け加えることができます。さらにその成果についても、他の人が引き継いで何かを足してくれます。これらを積み重ねていくことで、自分も社会を変える力の一助になれるのではないかと思いました。私にとって、先生のこの言葉が「自分も研究者を目指したい」と明確に心を決める好機となったように思います。学部では「政治学方法論」、大学院では「社会科学方法論」の授業で、武田興欣先生から量的な方法から質的な方法まで様々な方法論の長所や短所を学びました。この授業や先生方と行った統計的因果推論の勉強会を通し、様々な研究手法を身に付けることの重要性を感じたことが、後述するアメリカのICPSRへの短期留学につながります。また法学研究科で開講されている国際人権法の授業はフェミニズムやジェンダーを学ぶきっかけにもなりました。

なお大学院に進学する際には「4+1制度(大学院科目特別履修制度)」を利用しました。これは、学部4年次から特別履修生として大学院の授業を受けられる制度です。この制度によって専門分野の研究にいち早く取り組むことができ、大学最後の1年間をより有意義に過ごすことができました。現在は「AGU Future Eagle Project(FEP)」という博士後期課程及び一貫制博士課程3年次生以上の学生支援制度も活用して、より望ましい研究環境をかなえられています。自らの博士論文の執筆に役立てるため、FEPの短期留学制度を利用し、アメリカのICPSR(Inter-university Consortium for Political and Social Research)という政治・社会調査のための大学協会で、高度なデータ解析技術を学ぶこともできました。

幼い頃に抱いた「差別や戦争のない平和な世界を目指したい」という夢は今も変わりません。これからも社会との連携を大切にしながら、平和という大きなテーマに向けてさらに研究を進めていきたいと思います。

FEP制度を利用してアメリカへ短期留学

国際政治経済学部 国際政治学科

青山学院大学の国際政治経済学部は国際社会への貢献をそのミッションとし、国際系学部の草分けとして創設されました。3学科×5コース体制のもと、専門性と国際性、現場感覚を重視した学びを実践しています。グローバルレベルの課題への理解を深め、エビデンスにもとづいて議論・討論するスキルを養成します。世界の多様な人々と協働し、新たな価値を創造する実践力を育みます。
国際政治学科では国際社会を国際政治学の観点からとらえます。2年次に選択する「政治外交・安全保障」と「グローバル・ガバナンス」のいずれのコースも、大幅に刷新された新しいカリキュラムの下で、国際政治学の「最新」を広く深く体系的に学びます。学びを通じて身に付けた能力は、近い将来に、国際社会の諸問題の解決のために大いに活かされることになります。

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