齋藤教授からの
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齋藤 修三
コミュニティ人間科学部では、地域社会とそれを構成する人々に関わる諸課題を学び、地域の問題解決のための知識や技術を養います。5〜10人の少人数で行う地域実習を必修科目としており、フィールドワークを重視しています。座学での学習を現場に生かし、現場での経験を自身の研究に反映する重層的な学びを実現しています。
Q.本ゼミナール(ゼミ)の学習内容を教えてください。
私のゼミでは、さまざまな課題を抱える日本の地域においてコミュニティを再創造する道を、ゼミ生それぞれの視点から考えてもらっています。具体的には、個人の保身が進み、互いに関係を持とうとしない風潮が広がった結果としての「無縁化」や、それを乗り越えるために個と個が対等な信頼関係を築く方法ついて、書物や新聞記事を対象として学習しています。
2021年度には、山岸俊男『安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方』、2022年度には、松村圭一郎『くらしのアナキズム』を3年生のクラスで輪読しました。いずれも、知らない人同士が信頼関係をつくり出す方法を考える上で役立ち、さまざまなコミュニティの課題解決に向けて視野を広げてくれる書物です。その他には、新聞の論説、社説など、コミュニティ創生に関連する読み応えのある記事を選んで学生に配布し、その中から各自が興味のあるものを選んでリポートしてもらうことも行っています。
書物や記事を通して知識を身に付け、その内容を題材に対話を重ねる中で、ゼミ生一人ひとりが自分自身の問いを探し、卒業論文執筆につなげます。3年次の初めには「この1年で、自分を捉えて離さない切実な問いを見つけていこう」と学生に話しています。
Q.ゼミでの指導で大切にしていることはどのようなことですか。
「対話」の重視です。対話とは、自分と相手が違うということを出発点として、違いを分かち合い楽しみながら話すことです。相手を同質と見なしてなんとなく同調する「おしゃべり」とは異なるもの。また、最終的にどこかに帰結点を求める「議論」とも異なり、対等な関係で互いの個性や考えを開示し合うものです。
対話が大切であるのは、ひとつには地域コミュニティをつくり出す上で欠かせないものであるからです。かつての日本は、同質な者同士が集まるいわゆるムラ社会が中心で、予定調和的な話し合いが主でした。しかし今は、社会全体の流動性が高く、いろいろな人が集まって多様性を尊重したコミュニティをつくり出すことが必要です。その際には、互いの違いを認め合い、対等に信頼し合う関係が必要であり、対話を通してこそ、その関係構築が可能になるのです。もうひとつには、人と人との対等な信頼関係をつくる対話力は、汎用性が高く、卒業後にどんな業界に進んだとしても有用だという理由があります。
そのためゼミでは、リポーターに発表してもらった後に、皆でテーマに関連しての考えや体験を、自己開示しながら対話します。対話においては、学術的に重要なキーワードが関連する場合には、私が解説をほどこしますが、なるべく学生同士で進められるように配慮しています。卒論のテーマや内容、手法についても、学生同士が対話を通して伝え合い、互いにブラッシュアップできるような環境で進めています。それぞれの地域実習での体験を対話を通して共有する試みも行っており、学生は実習の成果をより高められているようです。また、学術論文を書く力を身に付けてもらうため、わかりやすく論理的に自分の主張を展開する文章の組み立て方についてもしっかりした指導を心がけています。
Q.ゼミに興味のある在校生や高校生にメッセージをお願いします。
知らない相手や異なる他者に、人は誰しも恐れを抱くものです。ですから、学問の究極の効用は、他者、新しい物や機械、考え方、病原菌など、未知のもの、異質のものに抱く恐怖を、正確な理解を通じて軽減する点に帰着します。これからコミュニティを創生するコミュニティリーダーは、だからこそ、対話力を身に付け、異質なもの同士が共に生きていく方法を探っていくことが必要です。
また、コミュニティは「地域」とは限りません。職場、趣味や学びを通じたアソシエーションなど、コミュニティのあり方はそもそも多彩なものです。多様なコミュニティを持ち、多様な人間関係、社会関係資本(ソーシャルキャピタル)を持つことで、より良い人生が切り拓かれるでしょう。そして、アイデンティティーは必ずしもひとつに絞られるのではなく、社会における関係性から生まれます。たったひとつの「自分」にこだわらず多様な面を持つことは、社会関係資本の豊かさにつながります。ゼミ生にはよく、ミックスピザにたとえ「自分の核となる生地の部分は持ちつつ、トッピングの異なる複数のスライスを持とう」と話しています。いろいろなトッピングの自分を持ち、自分にとって大切な、第3・第4・第……のコミュニティを持つことにも積極的になってほしいと思います。
対話力は、違いを恐れず、違いを生かして頼り合う信頼関係を構築する上で、そしてコミュニティをつくり維持する上で、欠かせない能力です。ぜひ、世間話やおしゃべりとは違う「対話」をする能力を、楽しみながら身に付けてください。
学生の
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東京都立豊多摩高等学校出身
コミュニティ人間科学部の1期生として、学生も先生方も一緒に良い学部をつくろうという気概と活気の中で勉学に励むことができました。このゼミを選んだのは、1・2年次に受けた齋藤先生の授業で、哲学や文化人類学など幅広い分野にまたがる学びがあったこと、先生の気さくで人間くさいお人柄に惹かれたことからです。
先生がゼミで重視して実践されている「対話」では、コミュニティ創生に欠かせない信頼関係を築く力を養えると同時に、現代社会が抱える課題をテーマに丁寧に真剣に話し合い「なぜ」を突き詰める、学びの面白さを味わえました。自分と他者の双方について理解も進み、自分の知らない自分の一面を知る体験にもなります。また、これらのゼミでの活動を通じて、学ぶことの意義や面白さを知り、自分の「捉えて離さない問い」を見出すことができました。そして、自分が他者と生きていることを実感し、社会に関するアンテナや主体性が醸成されました。
ゼミ生同士は、自己開示を元に成長し合い、その道筋を相互に観察するという、他では得られない特別な関係となることができました。
幼少期を大阪で過ごし、こだわりを持ち続けていた「笑い」を卒業論文のテーマに選び、中でも「不謹慎ネタ」と呼ばれるものを当事者が実践することについて考えています。自分たちを皮肉な笑いのネタとすることは、その存在や立場を鼓舞する面もありコミュニティやアソシエーションのあり方にもつながるものがあります。テーマ選びで先生は「違和感を大切に」とご指導くださり、自分にとって大切な問いを追究できたと感じています。
小学生の時に東日本大震災のボランティアを経験し、地域に伝わる生活知とアカデミックな専門知をつなぐことに興味がありました。卒業後は、災害を含めた地域の経験や記憶をデジタルアーカイブとして保存する事業に携わる予定です。地域コミュニティで生活知や人々の経験を調査する際は、ゼミで身に付けた対話力を生かして、多くの人と信頼関係を築きたいと思います。
コミュニティ人間科学部
コミュニティ人間科学部では、日本国内の地域に着目した社会貢献を追究し、地域文化とそこに暮らす人々の理解を深め、より良いコミュニティ創造に寄与する力を培います。幅広い知識の学び、体験し行動するプログラムを通じて、自ら課題を発見・解決し、地域の人々との互助・共助のもとにコミュニティの未来を拓く力を育成します。日本の地域社会は、高齢化や過疎化などさまざまな課題に直面しています。その解決に力を発揮するには、地域の人々に接し、活動の実際を知り、共感する体験が重要です。コミュニティ人間科学科では、地域の人々や行政についての学びをはじめ、市町村やNPOと連携した体験的実習などを展開します。専門家として、地域社会の構成者として、地域の活性化や持続的な活動支援ができる人材を育てます。