林教授からの
Message
林 載桓(イム ジェフアン)
本ゼミナール(ゼミ)のテーマは「転換期中国の政治と外交」です。その中でも、現在大きな転換期を迎えつつある習近平政権期に焦点を置き、文化面や経済問題にまで視野を広げて研究を行っています。
Q.ゼミの研究テーマと、その意義について教えてください。
現在、本ゼミでは「転換期中国の政治と外交」を中心に研究を進めています。日本の隣国であり世界の大国である中国について研究を行うことは、中国一国に関する知見を深めるだけにとどまらず、グローバルな観点からも大きな意義があります。中国が抱える問題は、少子化や技術革新など、日本をはじめとする世界各国にも共通するものであり、比較政治学の手法なども用いて中国を研究することで、自国を知るための写し鏡とすることもできます。中国を捉える切り口はさまざまです。上記の例のほかにも、発展途上国における開発の問題、政治体制の問題なども各国共通のテーマとして捉えることができます。
とりわけ政治体制に関する問題は中国研究にとって今日性の高いテーマです。と言いますのも、現時点において習近平体制は成立から既に10年が経過し、再び権力の集中が進んでいます。これを受けて中央政府と地方政府の関係に変化が生じたり、国民に対する抑圧が強化されたりといった動きが起きていますが、これらの変化を背景として、今後もし大きな権力闘争が起きた場合には現体制が根幹から揺らぐ可能性さえあります。中国でこのまま権力の集中が進むか、一定のところで抑制が働くかの結果は、中国内政にとどまらず国際社会にも大きな変化をもたらすという点で、中国はまさに今は大きな転換期を迎えているといえます。この時期に、経済成長とグローバルな台頭の経緯も含めてしっかりと中国を研究しておくことで、私たちも未来に関する大きな示唆を得ることができるのです。
Q.ゼミでの学びのプロセスと、特徴について教えてください。
3年生の前期は、中国に関する基本的な知識を習得します。本格的な議論の土壌を作るために、あえて従来型の通説などにも触れていきます。3年次後期は、中国の政治経済システムに焦点を当て、中国が抱える問題を構造的に考える訓練を行います。4年次はもっぱら卒論の構想と執筆を行います。
ゼミ生に対しては、中国の抱える問題を自分の身近なテーマに関連付けて捉えるよう伝えています。当事者感覚を持つことで学習の効率がアップするからです。そのため、ゼミではまず学びのバックグラウンドとなるよう、先にご紹介した中国研究の意義を共有します。そして講義では最近のトレンドや時事問題などをテーマに日中比較の視点を多く取り入れるよう工夫しています。さらに、学生自らが自分の興味に沿ったテーマでプレゼンテーションを行い、互いの質疑応答を充実させるといった取り組みも行っています。これは学生の提案を生かしたものです。
私が重要視しているのは、ある事柄に関する常識や通説をうのみにせず、その根拠やロジックの妥当性を常に確かめようとする姿勢です。私は、この検証のステップこそが「知的」な議論のコアであると考えています。この検証のためのスキルとしてゼミ生にはデータサイエンスを学ぶことの重要性も強調しています。
適切な根拠に基づくことを前提とした上で、学生には独自性のある発想力を養ってもらうことを大切にしています。すぐに正解を求めるのではなく「これまで当たり前だと思っていたことと、事実は異なっていた」という発見や引っ掛かりを感じることが大切です。その引っ掛かりこそがユニークな研究視点となるからです。いかにささいなことでも、自分の中に湧いてきた違和感や疑問を見逃さず言葉にすることの重要性を繰り返し伝えています。
Q.学生にメッセージをお願いします。
私がお伝えしたいのは、皆さんにもぜひ「知的な好奇心を満たすことの喜び」を感じていただきたいということです。「ふと感じた引っ掛かりをもとに、自分なりの意見を育て、根拠を添えて論理的に示す」という一連の力が身に付けば、どこでも活躍することができます。自分の意見を伝え、他の人と充実したコミュニケーションを図れるようになると人生は楽しくなります。学びを通じ、ぜひこの知的な喜びを共有していきましょう。
学生の
Message
千葉・私立東邦大学付属東邦高等学校出身
私がこのゼミを志望したのは、強い個性と多面性を持つ中国という国に興味を持ったためです。また、先生によるゼミの紹介文にも大きな魅力を感じました。内容はもとより、語り掛けるような文体に自由な空気を感じたからです。この先生のゼミでなら、既存の型を脱した新しい中国研究に取り組めると思いました。
実際にゼミで学び始めて感じたのは、日本人の私が中国の考えを理解しようとする際には、自分のこれまでの常識や先入観をリセットして向き合う必要があるということでした。民主主義や選挙に関する考え方ひとつ取っても日本と中国とでは大きな違いがあります。それが中国研究の難しさでもあり面白さでもあります。
ゼミでは「間違ってもよいから、まずは独自性のある発想をしなさい」という教えを受けました。学生の仮説が拙くても、先生はまずは肯定的に受け止め、その上で補足や修正点を含めて論を広げてくださいます。かつての私は、多数派と異なる意見を持つことに引け目を感じることがありました。ですが、ゼミでの学びを通じて、今では自分なりの意見を持つことをポジティブに捉えられるようになったと思います。その結果、「中国はなぜIT規制を行うのか」をテーマとした卒論でも、一般論に流されず自分なりの意見を追求することができました。これも、独自の発想を重視する林ゼミで学んだ成果だと思います。
また、ゼミでは、意見発表に際して必ずデータなどの根拠を求められるため、「この情報の根拠は」「日本人としての先入観が含まれてはいないか」と検証を重ねることで、偏見を排除して論理的に考える習慣が身に付いたと思います。
卒業後はIT関連の職に就く予定です。「常識を覆して新しいものをつくりたい」という自分の志向がIT業界にフィットすると考えたためです。文系の自分にとってITスキルの壁は高いものに思えましたが、ゼミでプログラミングに触れた経験や「今やITスキルは誰にとっても必須です」という先生の言葉を思い出し、勇気を出して挑戦したところ就職がかないました。このゼミがあったからこそ思いを未来につなげることができました。
林ゼミでは独自性のある発想力や論理的思考法を学ぶことができたと思います。この力は、今後社会に出ても必ず役に立つと信じています。
国際政治経済学部 国際政治学科
青山学院大学の国際政治経済学部は、国際社会への貢献をそのミッションとし、国際系学部の草分けとして創設されました。各学科の学びを深めるだけでなく、有機的に3学科の学びを統合することもできます。グローバルレベルの課題への理解を深め、エビデンスにもとづいて議論・討論するスキルを養成します。世界の多様な人々と協働し、新たな価値を創造する実践力を育みます。
国際政治学科では、国際社会を国際政治学の観点からとらえます。2年次以降に選択する「政治外交・安全保障」と「グローバル・ガバナンス」のいずれのコースも、大幅に刷新された新しいカリキュラムの下で、国際政治学の「最新」を広く深く体系的に学びます。学びを通じて身に付けた能力は、近い将来に、国際社会の諸問題の解決のために大いに生かされることになります。