相互理解が仕事の第一歩。
諸外国との協力を通じて
安全保障に貢献する

掲載日 2023/1/31
No.209
防衛省 防衛装備庁
装備政策部 国際装備課
国際政治経済学部 国際経済学科卒業
井出 祐樹

OVERTURE

民間企業勤務を経て防衛省に入省し、高官通訳、平和安全法制整備、各国との防衛協力・交流に携わるなど、さまざまな経験を積んできた井出さん。諸外国との協議からその準備段階での省内外の意見集約まで、仕事のあらゆる場面で必要なのは相互理解だと言います。青山学院大学の自由な校風の中で育まれた強い責任感、留学や幅広い学びを通じて培った語学力、コミュニケーション能力、異文化理解力を発揮して、国内外の安全保障に貢献しています。

協議も通訳も相手を知ることから始まる

民間企業勤務を経て2013年に防衛省に入省しました。防衛政策課で平和安全法制整備に係る作業に従事したほか、戦略企画課、国際政策課など複数の部署で幅広い経験を積んできました。実務に従事する中で、学問的見地からも安全保障への理解を深めたいと考えるようになり、省から機会を得て2020年夏から1年間、イギリスの大学院に留学。安全保障分野で修士号を取得しました。
帰国後、防衛装備庁に配属され、現在は装備政策の企画立案を担当する部署で、諸外国との防衛装備・技術協力に携わっています。具体的には各国と協議を実施し、互いの制度の違いなども念頭に装備協力の可能性を模索します。国家間の議論に加え、装備品等の製造を担う民間企業の橋渡し役も務めます。

協議の準備にあたっては、省内外の意見を集約して日本側のスタンスを詰めていくプロセスも重要な任務です。自分が所属する部署と省内の他部署、あるいは省外の関係機関では、同じ事案であってもそれぞれ別の角度からとらえており、考え方や結論が異なります。そこからさまざまな意見や要望をくみ取り、調整して資料をまとめていくのです。
これらに加えて、各国大使や政府高官が日本の防衛大臣、副大臣、政務官、その他省内幹部と会談する際などの通訳も担当しています。通訳というのは語学力があるだけでは務まりません。相手国の文化やコミュニケーションスタイルの違いを理解し、例えば日本語では婉曲な表現であっても内容に応じてより伝わりやすい表現に置き換えるといった工夫も求められます。メッセージの伝え方を誤ると誤解が生じ、場合によっては信頼関係にヒビが入ることすらあるため、十分な配慮が必要です。
その他にも、通訳にあたっては、さまざまな専門用語を事前に頭に入れておかねばならず、関連分野における情報収集が欠かせません。過去の会談で取り上げられたトピックを振り返り、今回話題に挙がりそうなテーマをある程度予測して準備しておく必要があります。また、私は日常的に海外のニュースを視聴したり記事に目を通したりして、使用されている専門用語をインプットし、表現力のブラッシュアップに努めています。通訳の仕事には、こうした情報収集や語学力の鍛錬といった日頃の地道な努力が大切なのです。
他国との協議においても通訳業務においても、強い責任感が求められる半面、大きなやりがいを感じられ、毎日が充実しています。また、語学力を生かせる環境で働ける喜びを日々噛みしめています。

異文化コミュニケーションや多言語への理解を深めた日々

大学時代、最も思い出に残っているのは、協定校留学制度を利用した3年次から4年次にかけてのアメリカ留学です。カリフォルニア州南端のサンディエゴにあるサンディエゴ州立大学で、さまざまな国籍のルームメートとルームシェアによる寮生活を送りました。自国やその文化を客観的にとらえるきっかけとなり、自分自身について考える格好の機会でもありました。10ヶ月と期間は短かったものの、多くの発見や学びがあり、学生のうちに海外で学ぶ機会に恵まれて良かったと心から思います。

大学在学時の米国交換留学中に訪れた自由の女神像とともに

青山学院大学で履修した授業の中では、学部の専門科目のほか、コミュニケーションコースで履修したコミュニケーション学や言語学などが特に印象に残っています。一般的に、日本語話者同士のコミュニケーションにおいては、共有する背景知識が比較的多いため、言葉に出さずともメッセージが伝わることがあります(例:「空気を読む」など)。一方、アメリカのような多民族・多文化の国家では、背景知識の共有度合いが低いため、逐一言葉で表現しなければ伝わらないという傾向があります(例:英文では必ず主語が明確であるなど)。コミュニケーション学の授業では、このような差異を意識するとコミュニケーションが円滑に進むと学びました。同じ日本人同士であっても、上司や他部署など異なる立場やグループの人々とのやり取りなどでは背景知識の共有度合いが異なるため、コミュニケーションの仕方を調節する必要があります。このように、あらゆる場面で学んだ理論を活用することができ、今の仕事にも非常に役立っています。
また、言語学の授業における、特定の言語を対象とするのではなく言語全般を科学的に俯瞰してとらえる考え方が、多言語への興味につながり、第二外国語として履修したフランス語や、フランス語と類似点があるイタリア語、スペイン語などの学習意欲にもつながりました。こうしたコミュニケーション学や言語学の学びが自分の中で融合され、確かな力になっていると感じます。
さらに、中等部から青山学院で学び、キリスト教の授業を受ける中で身に付けてきた知識が、欧米人の考え方や文化の根底にあるキリスト教的思考、会話に登場する聖書からの引用などへの理解につながり、キリスト教文化圏の人とのコミュニケーションに生きていると実感する場面もあります。

青山学院大学で学んだからこそ、信じる道へ舵を切れた

今ある私のベースとなっているのは、大学での4年間です。青山学院大学には自由な校風が息づいていますが、自由であればこそ、その責任を自分で負うことになり、必然的に責任感が培われていきます。そして、日本全国から多くの学生が集まり、世界各地から来た留学生と交流する機会が豊富で、多様性を認め合う雰囲気に満ちているのも青山学院大学の魅力です。自由な校風が学生の多様性を後押しし、皆が自分らしい生き方をまっすぐに追求しているのです。

私は大学卒業後、一旦は民間企業に就職したものの、より広く社会に貢献できる仕事を目指して国家公務員試験に挑戦しました。自分が信じる道へ舵を切れたのも、そのような恵まれた環境で学べたからだと感謝しています。また、青山学院のスクール・モットーである「地の塩、世の光」については、「人は誰も皆、世の中に必要な存在であり、社会や誰かの心に光をともす存在なのだ」という意味であると考えています。つらいときに背中を押してくれた言葉であり、国家公務員として心にとめておくべき言葉でもあります。
今後とも、「社会で懸命に生きるすべての人々を支えたい」という思いを原動力に、国家公務員としてその使命を果たすべく、より一層の研鑽を積んでいきます。

卒業した学部

国際政治経済学部 国際経済学科

青山学院大学の国際政治経済学部は国際社会への貢献をそのミッションとし、国際系学部の草分けとして創設されました。3学科×5コース体制のもと、専門性と国際性、現場感覚を重視した学びを実践しています。グローバルレベルの課題への理解を深め、エビデンスにもとづいて議論・討論するスキルを養成します。世界の多様な人々と協働し、新たな価値を創造する実践力を育みます。
国際経済学科では、国際経済や開発経済に特化したカリキュラムのもと、地球規模の諸問題、特に国際的な経済相互依存関係などを経済やビジネスの観点から歴史的・理論的かつ数量的に学びます。一人一人の興味や進路をふまえて、「国際経済政策コース」と「国際ビジネスコース」を設置。異なる文化や価値を理解し尊重する姿勢を身に付け、問題解決のため積極的に考え行動できる人材を育成します。

VIEW DETAIL

バックナンバー

*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。

学部選択

分野選択