過酷な紛争地域で
中立の立場を維持しながら
人々に寄り添い支援を行う

掲載日 2022/2/16
No.138
赤十字国際委員会(ICRC)プロテクション
   ・デリゲート(保護活動担当国際職員)
法学部 公法学科(現・法学科)卒業
三田 真秀

OVERTURE

三田さんは、世界最古の人道支援機関である赤十字国際委員会(ICRC)のスタッフとして海外の過酷な紛争地に赴き、中立の立場を維持しながら人道支援活動を行っています。大切なのは、対立するそれぞれの立場を把握し、困っている人に寄り添うこと。青山学院大学で身に付けた他者理解の力を生かしながら、人々のために力を尽くしています。

対話することから始まる支援

私は現在、世界最古の人道支援機関である赤十字国際委員会(ICRC)のスタッフとして、海外の紛争地で人道支援を行っています。主な活動は、戦闘に参加しない民間人の保護や、紛争に関連して刑務所などの収容施設に拘束された人々を訪問し、当局に人道状況の改善を促すこと等です。また、紛争で離散した家族を捜索し、再会できるようにする活動も行っています。
どんな現場でも大切なのは、紛争当事者と根気強く柔軟に対話することです。政府側も武装勢力側も緊張状態にある紛争地で、「これは国際法違反です、改善してください」と杓子定規に訴えても、相手には全く響きません。また、ICRCの活動原則である「中立」を守ることも重要です。

どちらの勢力にも与しない中立の立場だからこそ、支援を必要とする人々のために活動ができるのです。現地では、自衛のための武器も携行しませんし、武装した護衛も帯同しません。1863年から活動するICRCは、多くの紛争地で受け入れられ、「中立」の立場を理解してもらえています。その信頼こそが、現地で活動する際の最大の武器なのです。
最初の赴任先はパレスチナでした。イスラエルとパレスチナの紛争はもう何十年も続いており、現地の人々は、私たちのような支援機関にあまり期待していません。ある村のご年配の女性に話を伺う機会がありましたが、初めてお会いした時に、「この紛争のおかげで、私は何人もの外国人と会うことができる」と皮肉を言われました。私は、はっとしました。次々に新しい支援者が来ても、状況は何も改善されず、人生の大半を紛争下で生きてきた虚しさや諦めが伝わってきたのです。根気強く何回も訪問し、「家畜の様子はどう?」といった他愛ない世間話をしながら、ようやく心を開いてくださいました。家族が紛争の影響で亡くなったことなどを徐々に話してくださるようになり、支援活動の方向性を見出すことができました。私がパレスチナを去る時には、その方が涙を流しながら、「来てくれてありがとう」と言ってくださったことが、今も心に残っています。

国際法と出会い、「人を守る」道を選択

この道を目指すきっかけとなったのは、青山学院大学の文学部フランス文学科に入学したときに入室した「外交・国際公務指導室」でした。主に外交官や国際機関職員を目指す学生が集まる有志の勉強会です。国際法・憲法・経済を中心に勉強するのですが、そこで特に国際法に興味をもちました。しばらく勉強するうちに、将来は海外で国際法の分野の職に就きたいと考えるようになり、当時はインターネットも普及していなかったので、『国際公務員への道』といった本を探し出して情報を集めました。すると衝撃的な事実が発覚したのです。文学部の学位ではそもそも国際機関職員のための受験資格がなく、経済学や法学といった社会科学分野の学位が必要だったのです。

「独学とはいえこんなに国際法を勉強しているのに・・・」と悩んでいると、3年次の冬に大学で法学部に転学部できる制度が始まり、「これだ!」と思いました。3年次をもう一度経験することになるので少し迷いはありましたが、思い切って転学部することにしました。「将来の目標を見据えて法学部に敢えて転学部する熱意に感心しました。一緒に学びましょう。」とおっしゃってくださった先生がいらっしゃり、希望していた国際人権法のゼミナール(ゼミ)に入ることができました。今でもその先生には感謝しています。
ゼミで学ぶうちに、紛争といった極限状態でも守るべき国際法があることに感銘を受けました。その一方で、国際法が守られず重大な人権侵害が起こっている現実もある。どうすれば被害を防げるのだろう、そもそも人権侵害とは何だろうと考えるようになり、現場を見たいと思うようになったのです。外交官になる道も考えましたが、「国家の利益を追求する」よりも、現地で「人を守る」仕事がしたいと思い、自分のやりたいことができる道を選びました。実はICRCの本部はフランス語圏であるスイスのジュネーブにあるので、フランス語ができるとプラスになります。青山学院大学のフランス文学科で学んだことも仕事に生かすことができて良かったと思っています。

青山学院大学の多様性で培われた力

青山学院大学はとても自由な校風だと感じています。どんな人も自分らしく楽しく過ごすことができ、周りも自然とそれを受け入れています。熱心に指導してくださる先生が多いことも魅力だと思います。また、授業ではディスカッションが多く、コミュニケーション能力が鍛えられました。どのように話せば相手に理解してもらえるのかを自然に学ぶことができ、対話を重視する現在の仕事に生きています。
青山学院のスクール・モットーは「地の塩、世の光」ですが、私たちの仕事は「地の塩」そのものでしょう。目立たないというよりは目立ってはいけない仕事であり、しかし、水面下で人権や人道状況の改善を支えています。

「世の光」とはおこがましくて言えませんが、誰かの心に光を灯す一助にはなれるかもしれません。今後も支援を必要とする人々に対し、「寄り添ってくれる人たちがいる」という心強さを感じていただけるような支援を続けていきたいと思います。

※登場する人物の在籍年次や役職、活動内容等は取材時(2020年度)のものです。

卒業した学部

法学部公法学科(現・法学科)

AOYAMA LAWの通称をもつ青山学院大学の法学部には、「法学科」に加え、新たに2022年4月開設予定の「ヒューマンライツ学科」があります。法学科は、基本的な法律科目から多彩な選択科目まで、豊かで系統的な法知識と、それを現実に適用する技能を身に付けます。 法律は、人間社会の生活すべてに直結すると言っても過言ではありません。法律を正しく理解し、公正で客観的な判断を下せる「リーガルマインド」は社会のあらゆる領域で求められます。国際的・実践的なカリキュラムを通じて、卒業後の進路に応じた専門的知識と法的正義感をもって問題を解決に導く“智恵”を身に付けます。

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*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。

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