掲載日 2023/11/21

理工学部 情報テクノロジー学科
ウェアラブル環境情報システム研究室

ウェアラブルデバイスで、健康・快適・楽しい生活をつくり出す

ロペズ教授からの
Message

理工学部 情報テクノロジー学科 教授
ロペズ,ギヨーム

当研究室では、より快適で健康な生活を支える、次世代マルチメディアシステム(デバイスとソフトウェア)の開発を目指しています。特に、身に着けた人のさまざまな情報を取得できるウェアラブルデバイスに注目し、多方面から研究を進めています。

Q.研究室での研究内容について教えてください。

スマートウォッチ、スマートグラスといった人間の身体に装着するウェアラブルデバイスを使って、生体情報(体調、行動、感情など)を収集し、生活している環境の情報(空調、照明など)と統合して、より快適で楽しい生活環境をつくり出す研究を行っています。
一昔前までは、機械の制御方法といえば「ON」と「OFF」のみに限られていましたが、たとえば室内の空調においては、技術の進化により現在はエアコンが室温に合わせて自動的に強弱を調整し、人の位置を把握して効率的な運転を行うことができます。今後、さらにウェアラブルデバイスの技術が発展することにより、部屋にいる各個人の体調や快適な度合いに合わせた、より細かい設定が可能になるでしょう。それ以外にもこの技術には多くの可能性があり、趣味や習い事をより楽しいものにするだけでなく、家事の適切な手助けなど、人々の生活にある多様な課題の解決策として期待されています。

実際の研究例を挙げてみます。ウェアラブルデバイスで運動中の動きを計測し、スポーツスキル向上の支援をする。熱中症予防のため、周囲の環境情報とデバイスでの生体反応情報を取得し、水分補給を勧めるアラートを出す。スマートウォッチのデータから暑さ/寒さを判断し、手首や首のデバイスを温めたり冷やしたりして調整する。マイクとディスプレイ付きのメガネを身に着けて、絵本の読み聞かせの際に最適なテンポやスピード、声の大きさなどを支援する。といったものがあります。
研究においては、ハードウェアとソフトウェアをあわせたシステム開発を目指すため、多方面の技術を身に付けられます。デバイスによる人間が発信する信号の「センシング」、そこから得られた「情報の分析」、そして情報を統合して起動する「フィードバック」の3ステップを総合的に行います。

Q.この研究室にはどんな特色がありますか。

基本的に、私は毎日研究室に顔を出して、学生やスタッフと交流しています。世代や教員と学生の間の壁をつくらず、気軽に話しやすい環境にしたいからです。研究は、時折困難に直面することがあり、特に実験等経験値の少ない学生は、些細な問題でも自力で解決できないことがあります。そうした場合、誰かに相談することはとても重要です。上手くいかないことは先輩に、先輩でもわからなければ教員に、気軽に質問できる環境を大切にしています。社会人になっても、適切なタイミングで、先輩や上司から経験談やアドバイスをいただくことは、大きな強みに繋がるでしょう。そのためにも、学生の部屋と教員の間にあるドアは開けたままにして、気兼ねなくコミュニケーションが取れるようにしています。
また、国際交流も重視しており、留学生を積極的に受け入れ、留学を希望する学生がいればサポートします。学会に参加意欲のある学生に対しては、国際学会での発表を勧めることもあります。世界に技術を発信する能力は非常に重要なスキルであり、海外での経験は今後の成長にも繋がるからです。
さらにもうひとつ、英語の苦手意識を払拭してほしいという強い思いがあります。きれいな発音・正しい文法で話せないからと、英語を話す状況を避けてしまう人も少なくないようです。しかし、国際学会に行くと、そこでは「いろいろな国の英語」が話されていて、文法や発音がネイティブ・スピーカーと異なっていたとしても通じ合えることが実感できます。学生には、世界に通用するような技術者やエンジニアになってほしいと思いますので、自ら積極的に英語で対話する機会を作ってもらいたいです。

関連リンク:大学院生の国際学会参加支援

Q.指導で心がけていることはどのようなことでしょうか。

特に心がけて学生に伝えているのは、失敗を恐れないこと、それから研究内容をわかりやすく論理的に説明する能力の大切さです。研究は、今まで誰もやっていないことを自分が初めてやってみるものですから、想定通りに進まなかったとしても「このやり方ではうまくいかない」と、理解できる新しい知見となります。失敗してもそこからまた新しいアプローチを考えられれば良いのです。失敗から思いがけない気付きがあったり、想定どおりにならないときこそ新しいアイデアが生まれたりするのだと思います。ですので、失敗を恐れず自由にチャレンジしてほしいと思います。
そして、自分の研究で選定した方法や得られた結果について、後付けでも良いので、理由や結果の考察を言語化してほしいと考えています。「なぜ、その技術を検討したのか。」「なぜ、このセンサを使ったのか。」「現状はどのような状態で、今後改善すべき点は何か。」などの問いに対し、きちんと順序立てて論理的に説明する力は重要です。
たとえば、私たちはウェアラブルデバイスで日々の生活課題を解決することを考えていますが、画像処理の専門家なら、同じ課題に対し、カメラ撮影という方法を最適だと考えてサービスを生み出すかもしれません。技術者として就職すれば、お客様からの依頼に対して提案を行う時「なぜカメラではなくウェアラブルデバイスなのか」と尋ねられた場合、「論理的な力の引き出し」を活用して、相手を納得させなければなりません。決まったコストや運用条件のもとで、その選択肢がなぜ最適なのかを伝えられることは必須のスキルとなるでしょう。学部生の間は、技術と基礎知識の習得が最優先だと思いますが、大学院に進む人は、それらにプラスして論理的な説明力も向上させることが必要不可欠だと考えています。

学生からの
Message

理工学研究科 理工学専攻
知能情報コース 博士前期課程 1年
神奈川・私立鎌倉女学院高等学校出身
大久保 紗恵

高校3年次の夏までは、化学の授業が楽しくて大学は化学系の学科に進むつもりでしたが、オープンキャンパスでの研究室訪問を通して、ウェアラブルデバイスの研究に興味を持ちました。ウェアラブルテクノロジーは、人間と情報技術が共存し、より良い生活を実現するための術であると確信し、今後の可能性の大きさも含め魅了されたのです。それと同時に「将来は、英語を使って活躍したい」と考えていたこともあり、流暢に英語でコミュニケーションをとっている先輩方を目の当たりにして「自分もこのような人になりたい」と強く思い、青学への進学を決めました。入学直後は情報系の知識をほとんど持っていませんでしたが、本学科は1年次から専門分野に触れられる授業が多かったので、プログラミングやIT知識をすぐに修得できてとても有難かったです。
また、ロペズ先生にご相談したところ、研究室での活動や研究内容についてわかりやすく説明してくださり、将来の研究への期待が沸き上がり、研究室のメンバーになることを心待ちにしていました。先生はとても優しくフレンドリーで、実際に私が研究室に所属した後も、研究内容だけでなく、何か相談事がある時は、人生の先輩として親身になって聞いてくださるので、とても心強くいます。他の学生も、ロペズ先生だからこそ話せることがたくさんあり、安心して研究活動を進めていると思います。毎週研究会を行っているので、先輩後輩の交流も盛んで、とても和気あいあいとした居心地の良い研究室です。
現在は、ウェアラブルセンサとIoT*デバイスを用いて食習慣支援の改善に関わる研究に取り組んでいます。具体的には、咀嚼を促すことで早食い防止をテーマに、これまでに2つのシステムを開発しました。
1つ目は、骨伝導マイクを備えたイヤホンを使用して、食事中の咀嚼、嚥下(飲み込むこと)の動作を検出し、咀嚼が少ない場合にスマートウォッチを振動させて、食後には、食事全体の情報やアドバイスを表示するシステムです。
2つ目は、より研究の精度を上げるため、動作検出から食後のフィードバックまで、1つのネックレス型デバイスで完了できるシステムを開発しました。機械学習**用として、20人分の音声データに「ここが咀嚼しているところ」とラベリングをしていく忍耐力が必要な作業もありましたが、これらの研究では、ハードウェアを開発する電子部品製作、データ解析、アプリ開発、さらに効果の検証など全ての工程を自分で行うので、知識や技術も幅広くなったと実感しています。
この研究内容は、4年次の2月にポルトガルで開催された国際学会「BIOSTEC 2023」で採択されました。自分のアイデアや成果を国際的な舞台で発表することで、大きな自信となったと同時に、中学生の頃から英語学習に力を注いでいた私にとって、努力が報われ、憧れていた姿にまた一歩近付くことができた瞬間でもあります。そして、他の研究者との情報交換で得たことを、その後の研究に役立てたり、モチベーション向上にも繋げることができました。

* Internet of Thingsの略称。コンピュータに限らず、車、家庭用電化製品、工場の製造ラインなどのさまざまな「モノ」をインターネットに接続し、データをやりとりする仕組みを指す。
** コンピュータにデータを取り込んで学習させ、規則性を見つける技術

国際学会「BIOSTEC 2023」での発表風景

高校時代には化学系の学科へ進学を考えていた私でしたが、青学のオープンキャンパスで、可能性が無限大で幅広い研究ができるロペズ先生の研究室に出会えたからこそ、今、ウェアラブルデバイスの研究に情熱を持って取り組めています。進路選択中の皆さんも、さまざまな分野や可能性をじっくりと探求し、科目の成績や得意分野だけで進路を決めるのではなく、自分の好きなことは何か、どのような人間になりたいかという理想像を描いてみてください。たとえ現在の自分とかけ離れていたとしても、好きなことを目標にすれば、モチベーション高く打ち込めるはずです。その目標に向かって一歩ずつ進む努力を続けることで、きっと実現できると信じています。

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2023年度)のものです。

理工学部 情報テクノロジー学科

青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。「情報テクノロジー」という名称には、IT(情報技術)を利便性のためだけではなく、社会のより健全な発展を目的に活用すべきという思いを込めています。情報テクノロジー学科では、ITを信頼性や安全性、快適さといった「人への優しさ」のための技術として探究。その応用分野は人工知能からロボットまで幅広く、人間とテクノロジーの共生を目指して、新理論の発見や現実的な提案に取り組んでいます。

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