目に見えない電気への興味から炭素材料の研究に。積極的な姿勢と地道な努力で成果を上げる

掲載日 2025/3/21
No.343
理工学研究科 理工学専攻
電気電子工学コース 博士前期課程1年
生駒 璃音

OVERTURE

理工学研究科で、新デバイス開発に結び付く炭素材料の研究に取り組む生駒璃音さん。学部時代から予習復習を欠かさず、着実に自主学習を重ねて実力を養ってきたました。研究においても、丹念に計画を立てて記録を取りながら、新規性の高いテーマで成果を上げています。これまでの研究や身に付けた力をどのように将来へ生かしていくのか、お話を伺いました。

地道に努力を続けて専門知識を習得する、充実の学生生活

電気に興味を持ったのは、小学生のときです。東日本大震災の影響による計画停電を経験して、「電気がないと何もできない」とその大切さに気付きました。当時は、目には見えないのに生活のあらゆる場面で使われる電気に漠然とした興味を抱いただけで、将来専門的に学ぼうとは考えていませんでしたが、高校生になり、進路選択をする際にその思い出がよみがえり、「大学に進学するのならば、生活に欠かせない電気を基礎から専門的に学んでみたい」と考えて理工学部電気電子工学科を選択しました。
相模原キャンパスを見学して広々として芝生がある開放的な環境が気に入り、さらに最先端の研究施設が整っている点にも魅力を感じて進学を決めました。大学の専門的な学びは高度なため、ぼんやりしていてはすぐに付いていけなくなってしまいます。そのため、予習復習を欠かさずに行い、自分一人では理解が難しい部分は、友人と相談しながら学習を進めました。相模原キャンパスには、自由に座って勉強するスペースが多く、友人と教え合うのにも最適な環境です。そうした日々の中で、友人と親睦を深めながら、忙しくも充実した毎日を送ることができました。

特に印象に残っているのは、電気電子工学科の必修授業である「電気磁気Ⅰ及び演習」や「電気回路ⅠA及び演習」などの演習科目です。理論を学びながら実際に手を動かして確かめることで、理解をより深めることができました。先生にも質問しやすく、友人と相談しながら進められたことも、大きな助けになったと感じています。また、黄晋二先生の「電子物性工学」は、研究室選択のきっかけとなりました。目に見えない電子の挙動を詳しく知ることができたこと、材料特性を生かすことで世の中にない新しい技術を生み出せることが面白く、このテーマをより深く掘り下げたいと考えて4年次から黄先生の先端素子材料工学研究室に所属しました。

半導体デバイス開発に向けた炭素材料研究、
積極的な姿勢で力を付ける

研究室全体のテーマは、グラフェンを中心とした炭素材料を使った新しいデバイスの開発です。グラフェンとは、炭素原子が六角形に結びついた厚みがわずか1原子分しかないシート状の材料で、優れた柔軟性と高い電気伝導率を持ち、さまざまな製品への活用が期待されています。
最初は、まず先輩方から各自の研究についてプレゼンテーションをしていただき、興味を持った研究に参加します。私は、グラフェン表面に他の物質を結合させて電気伝導性の制御を目指す研究をテーマとすることにしました。この研究は、新しい半導体材料の開発にもつながる先進的な分野であり、未知の課題が多い点に特に興味を持ちました。
研究に参加してまず驚いたのは、黄研究室では研究に使うグラフェンを自ら作製することです。グラフェンを作製するだけでもたくさんの装置を使い、2〜3週間の時間がかかります。先輩につきっきりで指導していただいて、装置の使い方と手順を覚えることからスタートしました。早く独り立ちできるように、少しでも不明点があれば積極的に質問し、あやふやなままにしないよう努めました。黄先生や助教の渡辺剛志先生、そして先輩方に丁寧に教えていただいたおかげで、4年次の秋頃には一人で研究を進められるようになりました。私の研究では、グラフェンを加工したサンプルを一つ作製するにも多くの手順を踏む必要があります。学部卒業までに十分な研究の結果を出すには時間が足りないと感じ、早い段階で大学院への進学を決意しました。
研究室は優秀かつ気さくな方ばかりで、黄先生や渡辺先生も熱心かつ温かいお人柄なので、活気があり楽しい雰囲気です。週に1回全員が集まって各研究の進捗を報告し合い、発表の機会は1か月に1回程度、回ってきます。先生の講評や鋭いご指摘からたくさんのヒントを得られるだけなく、発表者の結果が自分の研究の参考になることもあり、いつも刺激をいただいています。それまでは人前で話すのが苦手でしたが、定期的な発表の機会を通じて、プレゼンテーション能力も身に付きました。

研究室のクリーンルームで

綿密な研究計画と記録、養われる粘り強さや問題解決能力

研究生活は、予想通りの結果がなかなか得られず苦労することもあります。特にサンプル作製では非常に細かい作業が必要で、長い時間をかけて準備をしても最終的に失敗してやり直すことも珍しくありません。予想通りの結果とならないとき、どの過程で問題があったのか、全ての工程に目を向けて原因を考察しなければならず、いつ何をしたのか、そのときサンプルはどんな状態だったのか、詳細に記録を取っておくことが必須となります。そのため、研究ノートには気付いたことは何でもメモするように心がけています。さらに、私が取り組んでいるのは、誰も答えを知らない研究です。たとえ予想通りの結果が出たとしても、それが「本当に正しい結論なのか」異なる視点から検証する必要があり、そのためにも記録が大切になります。この経験のおかげで、粘り強さや問題解決能力が養われました。

また、理工学部全体で利用できる「機器分析センター」の高度な機材を使用する機会も多いのですが、いつでも使えるわけではなく予約制になっています。1か月後、2か月後と、先々の予定まで立てることで、隙間時間でできること、まとまった時間が必要な作業を見極めて研究以外の授業やアルバイトの予定も考慮しながら時間管理を工夫しています。

機器分析センターのイエロールームで、感光剤を使って光照射部分を溶かす加工を施す

2024年9月には「分子修飾を利用した積層グラフェンの電気特性制御」というタイトルで、応用物理学会にてポスター講演を行いました。グラフェンに、ニトロフェニル基とメトキシフェニル基を持つ分子を結合させて変化を確認する研究です。それぞれがグラフェンの電子を吸引、供与する結果が出て、「PN接合」という半導体の構造として利用できる可能性に向けて一歩進むことができました。今後は、この結果の正しさをさらに検証するため、異なる方向からの研究を続けていきます。

応用物理学会に参加したとき

毎日の成長を実感できる学生生活から、研究開発職を目指して

現在、研究と並行して就職活動にも取り組んでいます。学部時代から博士前期課程まで、基本的な電子回路について知識を身に付けた上で、材料や物性についての研究を行ってきました。学びを続けていくうちに、日常では目に見えない身の回りの製品内部の基盤や、その中で起きている化学反応にも興味を持つようになりました。「目に見えない電気が、こんなにも生活を支えていること」という子どもの頃の関心は今にもつながり、回路設計から行いLEDを光らせた学生実験や、オシロスコープで電気信号を目で見たときの喜びは印象深い思い出です。こうした学びを振り返り、その成果と興味をどのように生かしていくのか改めて考えて、電子部品やIT機器などを扱うメーカーの研究開発職を目指すことを決めました。
研究開発職の就職活動では、企業の採用担当の方に自分の研究についてプレゼンテーションする機会があります。そのため、研究の意義や研究活動で培った力を的確に伝えられるよう、さらにプレゼンテーション能力を磨くことにも努力しています。
将来の仕事内容はまだはっきりとはわかりませんが、どの企業のどのような分野であっても、青学で身に付けた「予習と復習を徹底する習慣」、研究を通じて培った「粘り強さ」、そして「結果を考察する判断力」を生かし、多くのことを吸収しながら成長していきたいと考えています。

入学後は「今日はこれを学んだ、あれがわかった」と毎日増えた知識を数え上げられるような日々を送ってきました。現在もその姿勢は変わらず、1週間前と今ではまるで違う自分というくらい、一日一日、成長している実感があります。理系は忙しいイメージがあって不安な人もいるかもしれません。しかし、興味のある分野を思う存分学ぶことができる忙しさは、充実と成長に満ちた非常に満足度の高い時間です。理系分野に興味のある人は、ぜひ恐れることなく、その興味を追求する道を選んでみてください。

大学院の入学式で、研究室の友人と(左が生駒さん)

※科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2024年度)のものです。

理工学部 電気電子工学科

青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
私たちの暮らしを支えている電気や電子、磁気。これらを制御し、応用することで社会に役立てるのが「電気工学」「電子工学」です。あらゆる産業に活用されており、さまざまなフィールドで日々技術革新が進んでいます。電気電子工学科では、進展するテクノロジーに対応していくための応用力と、新技術創出の源泉となる基礎力をバランスよく身に付けられるよう、多面的な学びに注力しています。

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