手探りで始めた医療機器の研究。ひたむきな情熱と周囲のサポートが推進する力に

掲載日 2023/12/6
No.276
理工学研究科 理工学専攻
機械創造コース 博士前期課程 2年
上野 藍香
愛知・名古屋大学教育学部附属高等学校出身

OVERTURE

上野藍香さんは、高校時代に入院・手術を経験したことで命の尊さを痛感し、医療に貢献したいという一途な思いで医療機器に関する研究に励んできました。大学院進学後も、英語力の向上という新たな目標を見い出し、留学や海外での学会発表に挑戦するなど、アクティブに学生生活をおくる上野さんに、研究テーマや将来の展望、青山学院大学の理工学部で学ぶことの魅力についてお聞きしました。

学科選択の決め手は医療機器に関する研究ができること

東京への憧れと、東京の大学で学んだ家族の影響で、中学生の頃から首都圏の大学へ進学しようと決めていました。高校では物理の勉強が好きで、将来は父と同じくエンジニアに進むイメージを持っていたため、いろいろな大学の理工系学科を検討しました。そうした中、青学のパンフレットで、医療関連の研究をして、医療機器メーカーに就職した機械創造工学科の先輩のインタビューを読み、「この学科に行けば医療機器に関する勉強ができるんだ!」と思ったことが本学科を選ぶ決め手になりました。

私は子どもの頃から家族の通院で病院に行く機会が多く、医療関係に携わりたい思いがあったことに加え、高校生のときには自分自身が病気になり、通院や入院、そして手術を経験したことをきっかけに、自らの健康を支えてくれた医療機器に興味を持っていたのです。また、当時は意識していませんでしたが、以前から造形教室に通い、美術やデザインが好きだったので、その点が「ものづくりにアプローチする機械創造工学科」と結びついたという面もあったかもしれません。

特に印象に残っている授業は、学部生のときに履修した「機械要素設計」「機械設計製図」です。それまで学んできた技術的な知識を利用して、安全性を考慮しながら部品や機械を設計する実習が楽しかったです。医療機器メーカーの研究開発職を目指していたので、実際に開発職のような体験ができることにやりがいを感じ、意欲的に取り組みました。

先生方との距離の近さが研究の大きな支えに

学部3年次のとき、院進学を視野に入れつつ、研究開発職志望で就職活動も少しだけ行い、OB・OG訪問をしました。そのときに「研究開発職を目指しているのであれば、大学院に進んだ方が道が開ける」とアドバイスされ、周りからも同じことを言われたため、大学院に進学することを決意し、学部4年次から、熱や液体・気体の流れに関する現象を研究している麓耕二先生の「熱流体制御研究室」に所属しています。この研究室を選んだ理由は、私がずっと興味を持っていた医療機器の研究を行っており、さらに学部3年次に履修していた、麓先生が担当されている「熱・物質移動論」の授業がとても面白くて、もっと学びたいと思ったからです。授業内で「サウナと温泉では同じ温度でも熱さの感じ方が違うのはなぜか」といった、ごく身近な伝熱現象のメカニズムについてわかりやすく解説してくださったので「それらがどのように社会で活用できるのか」までイメージが膨らみ、その内容に引き込まれました。

麓研究室のメンバーでバーベキュー

研究室で取り組んでいるテーマは、「血液熱交換カテーテルの形状に関する検討」です。発熱している患者さんの体温を下げるために、血液を冷却する治療に用いられる医療機器のカテーテルについて、「より効率よく安全に熱を下げるためには、いかなる形状が最適なのか」を探求しながら、さまざまな形状をシュミレーションしているところです。研究室に配属された当時、この研究を始めた先輩は既に卒業していたので、知識がない上に、何から取り組めばいいのかわからず、不安でいっぱいでした。そんな時に大きな助けになったのは、コミュニケーションの取りやすい環境です。研究室内のコミュニケーションに加え、多くの先生方と学生の距離が近いため、麓先生はもちろん、他研究室の先生方にも質問にうかがい、その都度どの先生もとても快く、かつフレンドリーに応じてくださります。加えて、本学科は女子学生が少ないですが、同じ研究仲間として考え方も近く、絆は強い気がします。研究室の仲間や先生と毎日のように相談して、いろいろな方の力を借りながら研究を進めてこられたと思います。

長 秀雄先生に質問中。所属研究室を問わず、先生方とのコミュニケーションが取りやすい環境

現在は研究内容を修士論文にまとめていますが、その中間発表の際に、他研究室の先生からこれまでと異なる視点からの意見もあり、さらに詰めなければいけない事項がどんどん見つかっているという状態です。現在はカテーテルの外側の形状の検討を進めているので、内側の構造まで考慮した、より実践的なものへと進展させていきたいと考えています。

留学で学んだ積極的に行動することの大切さを胸に、インドでの学会発表にも挑戦

理工学研究科博士前期課程では、オーストラリアの提携大学に3週間留学することで英語の授業の単位が認定される「科学技術英語Ⅰ(海外研修)」という授業が設けられています。元々英語があまり得意でなかったのですが、研究室に配属されてから英語で書かれた論文から情報を収集する機会も多くなり、研究をする上で英語力は必須と実感していました。学会でポスター発表を行った際に外国の方からの質問に対して、英語がよくわからず、回答もままならなかった苦い思い出もあるので「仕事で使えるレベルまで英語力を向上させること」を目標にしていました。そこで大学院の1年次にこの授業を選択して、初めての留学に挑戦しました。現地で思うように話せず悔しい思いもしましたが、その時の経験からさらに英語を学ぶ意欲が湧いてコツコツ勉強を継続し、今年の夏にはカナダのトロントへ6週間の語学留学に再びチャレンジしました。

会話重視のプログラムがある語学学校に通っていたので、文法や単語が間違っていても臆せず積極的に発話するスタイルの人が多く、最初は臆病になっていた私もそれに触発されて、「とにかく発言してみよう」というマインドに切り替わりました。間違っているときはきちんと指摘してもらえるので、その分成長する機会が増えますし、瞬発的に言葉を発する習慣を身に付けなければ、日本語のように流暢に話せるレベルには到達できないことにも気が付きました。余暇においても、アクティビティーに自発的に参加することで友達ができ、一気に留学生活が楽しくなり、積極的に行動することの大切さを学びました。

留学中、カナダのテーマパークにて韓国人の友人たちと(中央が上野さん)

カナダ留学の直後にはインドへ渡航し、国際学会「IEEE R10 HTC(Humanitarian Technology Conference)」で口頭発表を初めて経験しました。参加したのは世界160ヵ国以上に40万人を超える会員を擁する世界最大規模の学会「The Institute of Electrical and Electronics Engineers(IEEE)」が主催する国際会議です。

昨年まで研究室で指導をしてくださっていた石井慶子先生に誘っていただき、自分をモデルにした理系女子学生のストーリーを作って、IEEE Japan Council(日本支部)内にある「Student Activities Committee(学生活動委員会)」主催の「IEEEマンガプロットコンテスト2022」に応募したところ、その作品が女性技術者・研究者の自立と連携を支援するWIE賞を受賞し、「僕☆とりプルE」という題名で丸善雄松堂株式会社からマンガとして刊行され、日本と世界でオンラインにて出版されました。

それをきっかけに昨年からIEEEで、広報活動やイベントの手伝いなどをしており、今回の口頭発表にも声を掛けていただきました。英語での質疑応答に対する不安もありましたが、カナダでの経験を生かして「とにかく言葉を発してみる」と決意をしました。自分の研究が海外でどのように評価され、どんな質問が出るのか期待しながら臨んだところ、実際に海外の学会発表を経験したことで、英語学習のモチベーションがより一層高まりました。他国の大学生や研究者とたくさん交流を深めることができたので、男女を問わず、世界中のエンジニアの旺盛な意欲や積極性を感じることができたと思います。さらに、発表した論文が学会内の「Best Paper Award」を受賞することができ、忘れられない思い出となりました。

インドの学会では、たくさんのインド人の友達もできた

自己分析を通して気づいた、目指す医療への貢献のカタチ

これまで医療機器開発の仕事を目指して研究に取り組んできましたが、就職活動を始めるにあたって、「自分は何のために、どう医療に貢献したいのか」を再度よく考えました。そうして分析を続けた結果、高校時代の入院時に、夜間も忙しく働いている医療従事者の方々の姿を目の当たりにし、医療業界の業務負担を軽減したいと心のどこかでずっと思っていたことに気が付きました。

そうであれば、特定の病気を治すための医療機器の開発よりも、電子カルテの導入で労働時間を減らすなど、IT技術を使って医療業界全体の環境を変えたいと考え、就職先は医療業界にIT技術者として関わることができる会社に絞りました。面接でも率直に医療業界への思いを伝え、最終的には第一志望の日本アイ・ビー・エム株式会社からシステムエンジニア職の内定をいただき、就職を決めました。まずはしっかりITの技術を身に付け、いずれ必ず医療業界に貢献したいと考えています。そして、文章力やプレゼンテーション力が求められる場面では、論文や学会、研究室での発表などで培った、論理的に説明する力を生かしていければと思います。

理工系の学部と聞くと研究一色の学生生活をイメージするかもしれませんが、青学の理工学部は、しっかり学び研究を行いつつ趣味やクラブ活動等の課外活動も楽しむ、メリハリをつけている学生が多い印象です。麓研究室では、研究に没頭するだけではなく、毎月研究室全体でイベントや旅行を通じてメンバーと交流を深め、リフレッシュをしてまた研究に勤しむ、というサイクルができていて学生生活が充実したものとなっています。研究以外でも学生生活を充実させたいという人は、ぜひ青山学院大学を目指してほしいです。

学部時代に所属していた理工宇宙科学研究部(CRC)の合宿にて。副部長や青山祭での部の責任者を務めた

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2023年度)のものです。

理工学部 機械創造工学科

青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
機械創造工学科が掲げるモットーは、「未来を創造する機械工学」。自動車産業や重工業などに不可欠な広範囲の工学を基盤に、ソフトウェア技術を組み合わせることで、夢のある心豊かなものづくりを志向する独自の工学を推進しています。その根底には「人と社会と自然の共存」という大命題があります。このテーマを実現するための創造力と想像力を養い、21世紀のものづくりを担う人材を育成します。

VIEW DETAIL

バックナンバー

*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。

学部選択

分野選択