「比較芸術」の名の通り、幅広く関心をもって自分の世界を広げていく
OVERTURE
中学高校と吹奏楽部にてサクソフォーン(サックス)に打ち込み、演劇の世界にも興味をもっていた梅本風花さん。美術・音楽・演劇映像の3領域を相互に関連させた幅広い比較学習が可能な本学の比較芸術学科は、自分の関心分野を深く学びたいと考えていた梅本さんにとって、まさに探し求めていた場所でした。しかし、本学科でさまざまな芸術ジャンルにふれるうちに、思いがけず興味の世界が大きく広がっていったと言います。そのエピソードについて伺いました。
シェイクスピアの戯曲を授業で演じ、芝居への理解を深める
芝居について強い関心をもっていた私にとって、「芸術鑑賞の方法Ⅲ(2)」はシラバスを読んだ瞬間に「これだ!」と履修を決めた授業でした。演劇が公演として成立するまでのプロセスや、演技者が舞台創造にどのようにアプローチしていくのかを実習を通して学ぶことで、これまでとは違った角度から演劇を鑑賞できる目を養います。演者の役作りに対する向き合い方に興味がありましたし、後半の授業では、グループで短編戯曲を制作して実際に芝居を実演できることが何よりも魅力的でした。
プロの舞台俳優として活動されている広瀬彩先生のもと、シェイクスピアの戯曲「夏の夜の夢」を題材に、実際にクラスメートと台本読みをしたり、シーンスタディーでお互いにフィードバックしたりしながら、芝居や演技について考察しました。この授業を履修するまでは、“芝居”は特別な能力で、自分とは別世界の人々が行うもののように感じていたのですが、こうして学んでいくと案外身近なものなのだと考えるようになりました。実際に演じることはなかなか難しいですが、毎回とても新鮮な経験ができて楽しく学ぶことができました。特に実演は班に分かれて発表するため、同じ戯曲でも班によってこだわる部分が違ったり、解釈が変わってきます。「こんな表現方法があるのか」「こういう解釈も良いな」といつも新しい発見があり、戯曲への理解がさらに深まったことを実感しました。
日本の古典芸能を学び、その奥深さに魅了される
自分にとって新しい世界の扉を開くきっかけとなった授業は「日本・東洋の文芸と演劇映像A・B」です。能・狂言、歌舞伎などの日本の代表的な古典芸能について、その成り立ちと表現様式について学びます。能や歌舞伎にはそれまでふれたことがなく、初めて知ることばかりでした。例えば能と歌舞伎には同じ演目があるのですが、それらの相違点や共通点を調べ、能と歌舞伎がそれぞれどのような表現方法を得意としているのかを考察しました。自分の頭で考えながら作品と向き合うことで理解が深まったのはもちろんのこと、自分がどのようなところに注目して作品を味わっていたのか、なぜ心を動かされたのかを明確にできるようになりました。
もともと本学科に進学したのは西洋の芝居や音楽への関心からだったこともあり、入学当初は正直なところ他のジャンルにあまり興味がなく、積極的になれませんでした。しかし、この2年間で経験したさまざまなジャンルの学びを通して、芸術の世界は自分が想像する以上に広くて奥深いことに気づいたのです。今では歌舞伎や能はもちろん、映画などの映像領域についてももっと勉強したいと、さらなる学習意欲に燃えています。
“自己完結型”から物事を多角的に考えられるように
本学独自の全学共通教育システムの青山スタンダード科目の「法学(日本国憲法を含む)B」は、やはりシラバスを読んで興味をもった授業です。法学というとある種の堅苦しさのあるイメージでしたが、高橋徹先生のどこか親しみを感じるとても丁寧な長文の内容にまず目を引かれました。さらに「少年法」や「死刑制度」などについてかねてから関心があったため、履修を決めました。2021年度の授業はオンラインならではのチャット機能を活用しながら議論が展開されました。毎回、一筋縄ではいかない議題に頭をフル回転させて臨むため、授業が終わるといつもヘトヘトになりましたが、「答えのない問い」を深く考えることにやりがいを感じました。
私は自分の頭の中で“ひとり会議”をして自己完結してしまう癖があり、視野が狭くなりがちなことが欠点だと自覚していました。しかし、この授業で先生やクラスメートとハードな議論を重ね、さまざまな意見を共有したことで、以前より多角的に物事を考えられるようになったのではないかと感じています。
学科会報誌の編集長として奮闘中
課外活動では、比較芸術学科の学生が主体的に執筆・編集する冊子「ひげ会報」の編集委員をしています。「ひげ」とは髭ではなく「“ひ”かく“げ”いじゅつ」の略です。ちなみに本学科生は自分たちのことを「ひげ生」と呼びます。ひげ生の関心のある事柄などをテーマに年1~2回のペースで発行しています。スケジュール管理やテーマ・企画の考案、学生や先生への執筆依頼、校正やグラフィックデザインまで、ほぼすべてを編集委員が担当します。学業との兼ね合いで大変なこともありますが、自分たちで練り上げてきたものが実際に冊子として形になり、みんなから「読んだよ!おもしろかった!」と感想をいただいた時の喜びはひとしおです。私は今年度から編集長に就任し、メンバーの中心となって奮闘しています。
執筆作業といえば、1年次に履修した文学部外国語科目の「英作文」が印象に残っています。自分が関心をもっていることについて英文でエッセーを作成し、プレゼンテーションを行いました。紹介するものの魅力を英語で伝えるにはどのような文章や構成にすれば良いか、効果的な言葉選びなどを何時間もかけて考えました。自分は誰かに何かを伝えることが好きなのだとあらためて感じた瞬間で、後の編集委員の活動にもつながったと思います。
「比較」して初めて見えてくるものがある
比較芸術学科の魅力は、先生方も含めて良い意味で「情熱的に何かを極めるマニアな人」がたくさん集まっていること、さらにその多彩なジャンルについての知識やおもしろさを教えてもらえる場所だということです。「比較芸術」の名の通り、どの分野を究めるにしても「比較」して初めて見えてくるものがあります。そのためには幅広く関心を持ち、自分の世界を広げることが必要不可欠です。それに気づかせてくださった素敵な先生方やクラスメートとの出会いは、私の大きな財産です。
年次を重ね、これまで踏み込んでこなかった新たな芸術領域におもしろさと手応えを感じています。将来的には何かしらの“表現者”になりたいと考えていますが、もうしばらく大学で勉強を続けたいという思いが強くなっている現在、まだまだ学びたいことがあり過ぎて、とても時間が足りません。
インタビュー動画
※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2022年度)のものです。
文学部 比較芸術学科
青山学院大学の文学部は、歴史・思想・言葉を基盤として、国際性豊かな5学科の専門性に立脚した学びを追究します。人間が生み出してきた多種多様な知の営みにふれ、理解を深めることで、幅広い見識と知恵を育みます。「人文知」体験によって教養、知性、感受性、表現力を磨き、自らの未来を拓く「軸」を形成します。
比較芸術学科は伝統的・古典的な芸術として長い歴史を刻んできた「美術」「音楽」「演劇映像」という3つの領域をもって構成されています。これらは古典や伝統、歴史を基盤とする人文学の基本というだけでなく、現代社会の芸術・文化の本質を知るうえでも欠くべからざる領域といえましょう。これら芸術諸領域の幅広い比較学習・研究を通じて、学生個々の“人間力”が確立されることを願っています。