大学時代に培った
スポーツマネジメントで
パラスポーツを通じたD&I*社会の実現へ

掲載日 2021/7/12
No.86
日本財団パラリンピックサポートセンター
経営学部卒業
影山 範子

OVERTURE

大学での学びのフィールドは、キャンパス内のみならず、海外留学やインターンシップ、ボランティアを通じて世界中に広がっています。
大学時代にスポーツマネジメントを学び、全日本・関東大学サッカー連盟のスタッフとしてその実践を経験した影山さんは、パラスポーツの普及、それを通じたD&I社会実現を推進する立場で活躍しています。

※D&I・・・ Diversity&Inclusion (ダイバーシティ&インクルージョン)
組織の中でダイバーシティ(Diversity)によって多様性を高めるだけでなく、そこに属する人が個人として尊重されながら、構成員の一人としてその違いを生かし、力が発揮できるように積極的に環境整備や働きかけを行っていくこと

パラスポーツの浸透を目指し
さまざまなイベントを開催

日本財団パラリンピックサポートセンターは東京パラリンピックを一つの契機に、パラリンピック競技団体の基盤整備と、パラスポーツを通じたD&I社会の実現を大きな目標に設立された組織です。各パラリンピックの競技団体は総じて小規模で、個人が自宅を事務所にして休日に作業をしたり、競技大会の開催で精一杯で、普及活動や広報活動にまで、なかなか手をかけられないという状況でした。それを改善するために日本財団内に各競技団体の事務所を無償で提供し、ガバナンスの強化やスポンサーの営業活動、広報活動などできちんと自走できるように、体制づくりのお手伝いをしてきました。

「ParaFes 2019」の様子
©日本財団パラリンピックサポートセンター

私は現在、広報部のSNS運用担当と推進戦略部のプロジェクトリーダーを兼務し、パラリンピックやパラスポーツの魅力、そしてそれらを通じたD&I社会実現の可能性について、様々な情報発信やイベントの企画・運営をしています。まだパラスポーツに出会ったことのない方々の入り口になればと、著名な歌手やタレントの皆さんの力をお借りしながら、パラスポーツ×音楽を融合させた新感覚のフェス、『ParaFes』や、障がい者と健常者が一つのチームとなりタスキをつなぐ新しいカタチのスポーツイベント『パラ駅伝』といったイベントを開催し、最近ではおかげさまで反響も大きくなり、チケットが売り切れるまでになりました。以前なら、障がいやD&Iといったことをテーマの一つにしたイベントでのチケットの完売は簡単なことではありませんでしたが、来場されたお客様たちがそれぞれの固定概念を捨て、D&I社会とはいかなるものかを体感し、応援してくださるようになり、手応えを感じています。

「パラ駅伝 in TOKYO 2019」の様子
©日本財団パラリンピックサポートセンター

留学経験から芽生えた思い
スポーツを通じた社会貢献

私は青山学院高等部に入学し、英語習得を目的に2年生の夏から1年間、アメリカのカリフォルニア州で過ごしました。留学先で高校卒業資格も取得しましたが、日本の大学に進むつもりだったので3年生の2学期に高等部へ戻り内部進学をしました。アメリカで驚いたことといえば、留学してすぐ、ブッシュ元大統領が再選された大統領選挙の時期を迎えたのですが、高校生たちがどの候補者を支持するか、ランチタイムや放課後に集って自主的に討論会を開催していたことです。まだ選挙権を持たない高校生たちでさえ自国の将来について思いを巡らせ真剣に話しあうのが当たり前という日常が衝撃的で、私も自分の国についてもっと知り、考えるべきだと痛感させられました。

パラサポオフィス
©日本財団パラリンピックサポートセンター

そんな経験を経て、帰国後に観戦したのが、2016年のサッカードイツワールドカップの予選だったのですが、ゴール裏でサポーターたちが国歌を歌い盛り上がる姿を目にしたとき、スポーツは国民の心をつなぎ、一つにする可能性に満ちているコンテンツだと気が付き、スポーツを通じて日本に貢献したいという気持ちが芽生えました。留学以前から大のサッカーファンでしたが、サポーターたちの熱い声援を耳にし、改めてスポーツが持つ力の大きさに気づかされたのです。

経営学部の授業で出会った
スポーツマネジメント

そしてその後、内部進学で経営学部に入り受講した宮崎純一先生の「スポーツマネジメント」の授業で、私は初めてスポーツマネジメントという概念を知り、自分のやりたいことはまさにこれだと思い当たりました。宮崎先生は当時、教壇に立つ傍ら体育会サッカー部の監督も務めていらっしゃいました。授業では教科書をほとんど使わず、スポーツビジネスで活躍する方がゲストとして登壇して、まさに生きたスポーツマネジメントをこれでもかと学ぶことができました。サッカー日本代表のスタッフやスポーツメーカーの社員などスポーツ界の現場にいる方々から生の声を聞けるのが楽しみで、履修にかかわらず4年間、時折足を運び聞きに行っていたほどです。

全日本大学サッカー選手権大会|大学4年次

留学から帰国後、一途にサッカーに関わる仕事を志望していたものの業界情報は少なく、就職活動もどうすれば良いか分からずにいたので、先生の授業は将来を考えるうえでたいへん役立ちました。宮崎先生に出会わなければ自分は今ここにたどり着けなかったといえるほど影響を受け、今でもとても感謝しています。
そして、3年次から参加したゼミナール(ゼミ)では、広告業界で活躍され、「広告論」等の授業を担当された小林保彦先生から多くを学ぶこととなりました。スポーツというのは非常に特殊なコンテンツで、観戦チケットを購入した時点ではサービスの品質が保証されていません。せっかくチケットを買って現場に行っても良い試合になるかどうか分からない、いわば“生モノ”なので、プロダクト広告とは違うコミュニケーションが必要になるはずだと考え、広告をビジネスの側面だけでなく、さまざまなコミュニケーションの側面からも学びたいと思ったのが、小林先生のゼミを志願したきっかけでした。中でも、「生きていること、そこにあるということ、それが広告活動である」という先生の考え方はとても印象に残っています。うわべの言葉だけではなく、本質をきちんと伝えることの重要性を学んだこの言葉は、今でも自分の根底にあり、とても大切にしています。

全日本・関東大学サッカー連盟スタッフとして
スポーツマネジメントを実践

課外活動は、全日本・関東大学サッカー連盟(学連)のスタッフとして、1年次の終わりから体育会サッカー部に参加していました。学連ではトップリーグを構成する1部と2部の24の大学から50名ほどが学連スタッフとして選出され、広報物の作成、エントリーなどのチーム管理、会場の確保や審判の派遣、当日の運営まで、リーグ戦に携わるほぼすべての仕事を、学生たちだけで行っています。これはまさに、スポーツマネジメントの実践でした。
当時、大学サッカー界はプロになる選手も多く擁し、非常にレベルが高いにもかかわらず知名度は低く、それが悩みのタネでした。そこで私はより多くの方に大学サッカーを知ってもらおうと、既存の広報チームとは別に新たなプロモーションチームを立ち上げ、いくつもの施策を行いました。中でも印象深かったのは、全日本大学サッカー選手権大会のプロモーションとして行った「I PLAY FORプロジェクト」です。これは全国大会に出場する選手たちに「あなたは何のためにサッカーをしていますか」と尋ね“I PLAY FOR”に続く言葉を発信するという内容でした。おのおのの思いを込めて書いた“I PLAY FOR”のボードを掲げた選手の写真をメディアに展開したり、アルバムを作成して販売したり、国立競技場で行われた決勝時には、何千枚もの彼らの写真をコンコース上に展示したりといった活動もしました。その後、プロとして日本代表で活躍する選手なども参加してくださり、彼らの言葉を世の中に届けることのできたこのプロモーションは、とてもおもしろくやりがいのあるもので、今の自分にもつながる経験になったと感じています。

全日本大学サッカー選手権大会|大学4年次

障がいとは、人の内側ではなく
社会にあるもの

大学でスポーツマネジメントと広告を学びながら全日本・関東大学サッカー連盟の活動で実績を作り、卒業してからはJリーグのクラブチームにスタッフとして就職しました。その後、古巣である全日本・関東大学サッカー連盟の職員に転籍し、合計して5年ほどサッカー業界で働いていました。そして、次のステップへ進むために改めてPRの仕事でプロを目指そうと勤めたPR 会社に在籍中、現職の募集情報を目にして次のステージに挑戦しようと決めました。当初は私自身、スポーツといえば健常者競技しか頭にありませんでしたが、ダイバーシティや共生社会という言葉が世の中で少しずつ広がりを見せていたこともあり、これまで培ってきた知識を、今度はパラスポーツで生かして挑戦したいと考え、2018年に現在の仕事に就きました。

この仕事を通して感じたのは、パラアスリートたちの考え方や視点は、今までの自分の価値観を変え、世界を広げてくれるものであるということでした。パラアスリート、障がいのある方だけでなく、自分と価値観や考え方など、様々な違いがある人たちとこそ、タッグを組むことで最高におもしろい世界が作れるということ。そして何より、ダイバーシティな環境と思考は、人々の人生をたしかに豊かにしてくれるということです。時々、障がいとはなにか、と考えることがあります。私たちは、車いすに乗る人、白杖を持ち歩く人を障がい者といいますが、障がいはその人々のことを指すのではもちろんありません。車いすの人にとっての階段が障がいであり、白杖を持ち歩く人にとっての点字ブロックをふさぐ自転車が障がいという考え方もあります。そしてそれらは、周囲の人々の少しの手助けや声がけによって、クリアになることがあります。つまり、障がいは人の中にではなく社会にあり、そしてその障がいは人の心で減らすことができる。人生はどのようにしたら豊かになり、どのようにしたら豊かな人になれるのか。私は今、パラスポーツ、そしてパラアスリートたちの言葉からそれを学んでいます。

影山さんの1日


パラサポオフィス
©日本財団パラリンピックサポートセンター

  1. AM 9:00

    出社
    パラスポーツやD&I、SDGsに関連するニュースをリサーチ


  2. パラサポオフィス
    ©日本財団パラリンピックサポートセンター

  3. AM 10:00

    Twitter、Instagram、Facebookの当日投稿内容の検討

  4. PM 0:00

    ランチ

  5. PM 1:00

    定例ミーティング

  6. PM 2:00

    新規事業開発チームのプロジェクト内容検討、企画書の作成、制作会社との打ち合わせ、イベントのキャスティング、事務所との打ち合わせなど

  7. PM 5:00

    退社

卒業した学部

経営学部

21世紀を見通す長期展望のもと、企業の視点で考える「経営学科」と消費者の視点で考える「マーケティング学科」の2学科で、企業と社会(消費者)という、2つの方向から現代の経営を照射し、その飛躍、発展に資する先端的な研究・教育拠点を目指します。 50年以上の歴史と伝統を持つ「経営学科」では経営のプロに普遍的に求められる会計・金融・マネジメントにおける先端理論と実践技術を提供します。 「マーケティング学科」では青山キャンパスがある“渋谷・表参道エリア”という国際性、創造性に富んだ地の利を生かして、消費者が真に求める文化、情報、感性といった面をビジネスに導き入れ、独自のマーケティング学“青山マーケティング”の確立を目指しています。 2学科は学問的成果を共有し、ビジネスの最前線情報に接することができる授業を充実させるなどして、氾濫する情報に踊らされることなく、自ら意思決定を行い、未来を切り拓く力を養っていきます。

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