金属加工の安全性と
品質管理の課題に対する
解決策の提供を目指して

掲載日 2022/5/10
No.148
<2021年度 学生表彰受賞>
理工学研究科 理工学専攻 機械創造コース
博士前期課程2年
渡邉 一成
東京・穎明館高等学校出身

OVERTURE

青山学院大学 理工学部・大学院理工学研究科では、充実した研究環境や支援制度を整えており、それらを利用して、在学中から学生が優れた研究成果を発表しています。金属加工の現場でニーズが高まる「鋳造」の自動化に貢献すべく、研究に励んできた渡邉さんは、公益社団法人日本鋳造工学会「第178回全国講演大会」で行った研究発表で学生優秀講演賞を受賞。ますます意欲的に研究に取り組んでいます。

研究を支える仲間の存在と先生の言葉

所属している田崎良佑先生の「知技能ロボティクス研究室」は、人と機械が共生する豊かな社会の実現を目指し、ロボットを用いて今ある課題にソリューションを提供するための研究を行っています。3Dプリンタを使って高速でモノをつくるための技術や調理ロボット、下肢に麻痺がある方が運動を行うためのアシスト装置など、「人のために」という大きな目標を共有しながら、各々がニーズを見つけて幅広い研究に取り組んでいます。
私は比較的理数系の科目が得意だったことから、中学生の頃から将来は理系に進もうと考えていました。それでは具体的に何を勉強しようかと考える中、テレビでロボットの話題を多く目にするうちに自然に興味を持ち、ロボットのことをもっと知りたい、機械に関して学びたいと考えるようになりました。本学を目指したのは、高校3年生の時に相模原キャンパスで模試を受けたことがきっかけです。その際に緑豊かなキャンパスの美しさに感動し、「ここで勉強したい」と思いました。

研究室には好奇心旺盛で向上心が高いメンバーがそろっていて、日々良い刺激をもらっています。研究室に入った当初は、今まで学んだ知識をどのように研究に生かせば良いのかわからず、迷っている時期がありました。しかし、目標達成のために寸暇を惜しんで自ら遅くまで研究を続ける先輩方の姿から学び、格好良いなと思いましたし、自分も頑張らなければと意欲が湧きました。知識不足を感じて落ち込むこともありましたが、そんなときには田崎先生が日頃からおっしゃっている「知識を得ようと思ったらネットで検索が出来る。技術なら経験を積んだ熟練の職人が長けている。だから、学生である君たちはセンスを磨きなさい」という言葉が心の拠り所になりました。センスというのは幅広い意味に解釈できますが、私はこれを発想力と捉え、勝負は知識量だけではないと自分を鼓舞してきました。

2022国際ロボット展にて

受賞を糧に、どんな金属にも対応した技術の確立を

私が研究しているのは、ロボットアームを用いて鋳造の注湯※工程を自動化するための技術です。鋳造とは金属を溶かして型に流し入れ、冷やし固める金属加工手法で、溶かす金属によっては1600℃を超えるため大変危険な作業です。それに加えて、作業者によって製造品の品質や生産性が均一でない状況が生じるという問題もあり、自動化が求められています。これまで溶融金属を使った実験の前段階として水を用いた実験に取り組んできました。その成果として、傾動入力から流量出力までのモデリングを行い流量フィードフォワード制御により、目標精度での注ぎ込みを達成することができました。そこで今は金属を用いての実験へと進んでいます。
※溶けた金属を型に注ぎ入れること

注湯実験の様子

日本鋳造工学会全国講演大会へのエントリーを決めたのは、研究内容を広く発信し、普段接点のない方々と意見交換をすることで、さらなる研究の発展につなげたいと考えたからです。日本鋳造工学会は、金属の成分など材料としての金属の研究が強い学会で、私のようなロボットの動作制御に関する分野の研究発表は少数派です。ですから、専門分野ではない人にも理解できる発表を心掛け、準備にあたっては、学部時代に所属していたテニスサークルの友人や他の研究室の人にも発表を見てもらい、内容がきちんと伝わっているかを確認しました。そして、難解な専門用語を言い換えたり、図をわかりやすく工夫するなどの改善をして本番に臨みました。
そのような背景もあり、学生優秀講演賞受賞を田崎先生も大変喜んでくださいました。発表日の前日が姉の結婚式、かつ翌週には他の国際学会に参加という過密日程でしたが、時間をかけて準備したので、努力した分だけ報われるのだと実感でき、研究を続けるモチベーションになりました。最終的な目標である、どのような金属にも対応した技術の確立に向けて、納得のいくところまでやり抜きたいと思っています。

実験に使用する特殊形状の取鍋(とりべ)※を手に

※鋳造の際に溶融した金属である溶湯を運んだり注湯するのに使われる容器

どの道にも生きるコミュニケーション能力と問題を見出す思考力

これまでの学生生活を振り返ると、テニスサークルの活動も忘れ難い思い出です。私は青学公認テニスサークル対抗のテニス大会で運営担当を務めました。約1年間にわたって他サークルの大会運営担当者と打ち合わせを重ね、大会期間の2週間は早朝から大会運営に駆け回りと大変ではありましたが、自分から主体的に周りの人に働きかけ、信頼関係を築く積極性が養われたと思います。また前述の通り、サークルの友人には今回の発表にも協力してもらいました。今でも助け合える関係が続いていることを嬉しく思っています。

コミュニケーション能力は、研究を続ける上でも非常に大事なスキルです。このことは、研究のサポートを得るために研究室と企業等をつなぐ仕事もしてくださっている田崎先生の姿に学びました。また、研究室での学びを通して、物事の見方も変わりました。以前はニュースなどでそれが正解であるかのように語られることをそのまま受け止めていましたが、今では研究分野に関わりのない内容であっても、どこかに問題点や改善点がないだろうかと考えながら見るようになりました。これも、私の考えや発言に対して、次々に問題点等を提起し、導いてくださった田崎先生をはじめ、最先端の研究を行っている先生方に接する中から学び取ったものです。こうした思考力やコミュニケーション能力は、どの道に進んでも必要なものだと思うので、今後も大切にしていきたいです。
研究だけでなく、皆さんも今の自分の行動が遠回りで焦る気持ちが生じる時があるかもしれません。けれども、時間をかけて丁寧に取り組んだ先に、大きな結果が待っていると思います。ぜひ目的と強い意志を持ってがんばってください。

理工学部 機械創造工学科

理工学部は、数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
機械創造工学科は、”未来を創造する機械工学”をモットーに、4力学(熱、機械、材料、流体)を基盤とする5分野を展開。メカ・エンジニアリングに最新ソフトウェア技術を組み合わせた知見を養います。航空宇宙工学分野ではJAXA(宇宙航空研究開発機構)と連携するなど実体験重視のカリキュラムを編成し、学生一人一人が自ら創意工夫する力を育みます。

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