文学の専門知識と
研究経験を生かし
作品の面白さを
伝える教員に

掲載日 2023/7/11
No.246
文学部
日本文学科 4年
柚木 優理菜
神奈川県立横浜緑ケ丘高等学校出身

OVERTURE

高校生の時に、夏目漱石のある作品と出会ったことをきっかけに、国語科の教員を目指すことを決意した柚木優理菜さん。入学後は、作品の面白さを伝えられる教員になることを目標として、文学研究と教職課程の両方に力を入れて取り組みました。2023年4月から神奈川県の国語科高校教員として活躍する柚木さんに、充実の大学生活についてお話しいただきました。

文学作品の読み方に目がひらかれた夏目漱石「夢十夜」の読書体験

高校1年生の国語の授業で、夏目漱石の短編集「夢十夜」を学習しました。国語は得意でしたし、漱石の作品全般にも興味があったのですが、不思議な夢の世界を描く10の短編集は難解で、自読では読み方がわからないという体験をしました。先生の解説を聞いて、漱石という作家の魅力や日本語の美しさに感動し、忘れられない授業となりました。「このように作品の面白さを伝えられる人になりたい」と、教員を志望して大学選びをしました。高校の先生から「国語の教員になるには、教育学部か文学部のどちらかで学ぶ必要があるけれど、勉強内容が異なるのでよく考えた方が良いよ」とアドバイスをいただき、「作品の面白さを伝えられる教員に」という思いがある私は、文学の専門知識を土台に身に付けることに意義を感じたので、青山学院大学の日本文学科に入学しました。青学の日本文学科は、文学に加え、日本語や日本語教育、音声表現など、過去から現代にいたる「日本のことば」の使われ方についても広く学べる点が魅力でした。ちなみに、卒業論文のテーマにこの「夢十夜」を選ぶことになりますので、私の大学生活と将来のキャリアは「夢十夜」に導かれたともいえます。

実践的で視野の広がる教職課程の授業と充実のサポート制度

教職課程で特に印象に残っているのは、髙橋邦伯先生の「国語科教育法A」「国語科教育法B」の授業です。グループに分かれて学生が行う模擬授業では、日本文学科の履修生のグループは文学の専門的な内容を扱う傾向があるのに対し、教育学科の履修生のグループは指導方法の工夫が中心となる傾向が見られ、自分にはない視点が興味深く、とても参考になりました。私のグループは、「和歌を題材に歌物語を作成し、便せんと封筒を使って手紙形式で表現する」という内容で模擬授業を行い、生徒役の学生たちから好評を得られ、自信につながりました。意見の合意形成や準備の大変さもありましたが、妥協せずに丁寧なプロセスを経て模擬授業を行った結果、「本物」を取り入れる大切さをクラスで共有できたことは意義深いことでした。

模擬授業を一緒に行ったグループの友人と(右が柚木さん)

教育実習は母校の高校で行いました。大学での模擬授業の際に他のグループが行った、ホワイトボードを各班1枚ずつ用いて発表をしてもらう手法を取り入れてみました。大学で学んだことが、教育の現場でどのようになるか実践できたことは興味深く、この授業を見学された実習校の先生が、ご自身の授業でこの方法を試みてくださったことも嬉しかったです。また、担当クラスの生徒それぞれの個性や得手不得手を知ることを意識し、生徒に自己紹介シートを記入してもらうところから始め、一人一人を「よく見る」ことを心がけました。教育実習の最終日に、クラスの生徒全員に、私が見つけた一人一人の長所などを書いた一筆箋を渡したところ、飛び上がって喜んでくれる生徒もいて、忘れることのできない思い出となりました。

教育実習校の文化祭を訪問。コロナ禍で制約があるなか、生徒たちの活躍も見届けた

教員を目指す学生に対し、青学ではさまざまなサポートがあります。2年次から始まる教職課程指導室主催の「教員採用試験対策講座」では、面接指導のほか、採用試験に合格した上級生の体験談が特に参考になりました。また、現役の教員・教員経験者の青学卒業生によって組織される「白亜の会(青山学院大学卒業生教職員校友会)」のサポートを受けて、論作文や面接、模擬授業とその指導案について実践的な視点で個別に指導していただき、自信をもって教員採用試験に臨むことができました。教員採用試験対策のためにWスクールをする人もいますが、私は全対策を青学内のサポート講座をフル活用することによって合格することができましたので、参加して本当に良かったと思っています。

卒業論文執筆から、教員としての新たな課題の発見も

日本文学科の授業では、2年次に履修した「日本文学特講Ⅰ[9]」「日本文学特講Ⅱ[9]」が、文学観が養われた授業として心に残っています。文学を通して社会のあり方を考える授業でしたが、文学作品と実社会の問題が相互に繋がり合う例などから、文学作品はフィクションとして楽しむだけではなく、社会の抱える危うさが滲み出る存在でもあることに気付くことができました。漱石の作品も取り上げられて刺激を受け、担当の佐藤泉先生のゼミナール(ゼミ)に入り卒業論文の指導をしていただきました。卒業論文の題材は「夢十夜」の中から「第五夜」を選びました。大学ではジェンダーを学ぶ機会が多かったため、作品中で男と女を通して表わされるものに注目したり、「日本文学特講」で学んだ漱石の比喩表現の捉え方についてもヒントにしたりと、大学での学びの総仕上げとして、自分なりの新しい視点を取り入れた論文を完成させることができたと思います。振り返ると、高校の授業で先生の読解と解釈にひらかれた思いがした私ですが、日本文学科での専門的な学びを経た今では、ひとつの解釈で説明するだけでなく、多様な解釈があることを伝えることも大切だと感じ、教壇に立った時の目標を持つこともできました。

卒業論文と1年次に書いたレポートを比べてみると、格段に文章力が上がったと実感します。要因を自己分析すると、まずは要約力が上がったこと、そして自ら問いを立てられるようになったことが良い効果を与えているのではないか、と考えています。要約は、ゼミで取り上げる作品の予習として毎回要約の課題が出されたことで力が付きました。問いを立て、論証し、しっかりとした意見を述べる批判精神は、大学の授業全般が、問いを立てて考察する流れで進むため、授業を受ける中で自然に養われたのだと考えています。大学4年間を通して、特に興味を持っていた近代文学だけでなく、江戸時代以前の文学や崩し文字の読解など、幅広く専門知識を身に付けられました。この知識を教員として生徒に伝えていくことがとても楽しみです。

自由闊達に好きなことに打ち込んだ青学での経験を生かして

課外活動では、青山連合会所属の「ロイヤルサウンズジャズオーケストラ」で活動していました。ジャズやファンクを演奏するビッグバンドです。高校の吹奏楽部の先輩に誘われて新入生歓迎会の演奏を聴き、そのかっこよさに心を打たれたことが参加の理由です。子どもの頃から習っていたピアノのようなクラシック音楽や吹奏楽では、楽譜を忠実に再現することが基本でしたが、ジャズの楽譜にはコードがあるだけで音符がなく、演奏者が自由に音楽をつくり出していきます。はじめはそのギャップに苦戦しましたが、ジャズという音楽の、その場・その時にしかない、メンバーによってガラリと変わる再現性がない即興演奏はとても刺激的で、学生生活が楽しく彩られました。

3年次には、マネージャーとして事務手続きやコンサートの運営も担当しました。大学の学生生活課とのやりとり、他大学との連携など、さまざまな組織と調整・協力を重ねてプロジェクトを動かすことは想像以上に大変でしたが、多くの人と協働して物事を進める経験は、教員の仕事にも生かされると思います。
青学は、学習や研究はもちろん課外活動でも、やりたいことがあれば自由に参画できる環境が整っています。施設の充実もありますが、周囲を見ても、好きなことをのびのびとやりながら大学生活を送っている人が多く、大学全体に「やりたいことをやろう」という意識が根づいているのだと思います。勉学も音楽活動も十分のやりきった経験をふんだんに生かして、生徒の考えや可能性を広げられる教員になりたいと考えています。

ロイヤルサウンズジャズオーケストラではピアノとシンセサイザーを担当。ビックバンドでシンセサイザーのパートがあるのは珍しい

柚木さんの教員採用試験スケジュール

  1. <1年次・2年次> 2019~2020年

    教職課程の授業を履修

  2. <3年次> 2021年 秋

    教員対策講座 第1回

  3. <3年次> 2021年 冬

    髙橋邦伯先生による有志の勉強会スタート
    各自治体の説明会参加(Zoom)
    教員対策講座 第2回

  4. <3年次> 2021年 春休み

    教員対策講座 第3回

  5. <4年次> 2022年 4~5月

    勉強会本格スタート(週1回開催)
    「校友白亜の会」による対策講座(小論文)
    神奈川県公立学校教員採用試験
    願書提出

  6. <4年次> 2022年 6月

    教育実習
    「校友白亜の会」による対策講座(面接)

  7. <4年次> 2022年 7月

    1次試験(筆記)
    教員対策講座 第4回

  8. <4年次> 2022年 8月

    「校友白亜の会」による対策講座(面接、模擬授業)
    教員対策講座 第5回
    2次試験(面接、模擬授業)第4回

  9. <4年次> 2022年 9月末

    合格発表

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は取材年度(2022年度)のものです。

文学部 日本文学科

青山学院大学の文学部は、歴史・思想・言葉を基盤とし、国際性豊かな5学科の専門性に立脚した学びを通じて、人間が生み出してきた多種多様な知の営みにふれ、理解を深めることで、幅広い見識と知恵を育みます。この「人文知」体験によって教養、知性、感受性、表現力を磨き、自らの未来を拓く「軸」を形成します。
日本文学科では、文学と語学、日本語教育という多彩な研究対象を擁し、実践的なカリキュラムを揃えています。日本文学科における学びの本質は、過去から現在に至る日本語で書かれたテクストを対象とすることで、テクストの向こう側にいる〈他者〉と対話する技術を学ぶところにあります。〈他者〉の目を通して今一度自分自身という存在について見つめ直し、国際社会に通用する深い洞察力を養います。

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