研究を楽しんだ経験を教育活動に生かしたい。将来像を叶えるために進んだ博士課程への道

掲載日 2025/1/14
No.329
理工学研究科 理工学専攻
基礎科学コース 博士後期課程 2年
大林 花織
神奈川・私立北鎌倉女子学園高等学校出身

OVERTURE

将来は科学技術コミュニケーションに関わる仕事をしたいと考える大林花織さん。科学の専門家と一般の方をつなぐ科学技術コミュニケーションに取り組むためには、自分自身で研究を前進させながら研究を心から楽しむ経験が必要だと考え、博士後期課程に進学しました。大林さんに現在の研究テーマや科学技術コミュニケーションに興味を持ったきっかけや博士後期課程への進学を後押しした「AGU Future Eagle Project」などについてお聞きしました。

中学時代から興味を抱いていた宇宙物理の道へ

中学生の頃から宇宙や相対論のような極限的な物理現象に興味があり、高校で物理の勉強をするようになって物理の面白さに目覚めました。物理の先生と一緒に、立場の違いによって時間の進み方が異なることを数式を用いて導出した時、常識を揺さぶられるように感じたのを今でも鮮明に覚えています。それ以来「大学では宇宙物理学を学びたい」と思うようになりました。当初は別の大学を志望していましたが、その大学に通っていた方から「青山学院大学は宇宙物理学の研究が活発だ」と聞き、進学先を青山学院大学に決めました。

入学前から相対論を学ぶことを楽しみにしていたので、大学生になって実際に授業を受けるようになると、「相対論」の授業では疑問が浮かぶたびに先生の研究室まで質問しに行くなど、主体的に学びを深めました。さまざまな授業を受けて興味の幅がますます広がっていったので、3年次の研究室選びには少し悩みましたが、中学時代の志を貫き、理論宇宙物理学を専門とする山崎了先生の研究室を選びました。山崎先生は非常に教育にも熱心で、よく学生の居室までいらっしゃり、積極的にディスカッションしてくださる方です。大学院進学を決意した理由は、4年次での1年間の卒業研究だけでは研究するための時間が十分ではないと思ったからです。また、青山学院大学に理工学研究科特別給付奨学金の給付制度があったことも大学院進学の後押しになりました。

研究室では、「ガンマ線バースト」という天体現象の起源を解明することを目指して、研究を行っています。ガンマ線バーストとは、数秒から数十秒という短時間に大量のガンマ線が宇宙空間に放出される現象です。宇宙のあらゆる天体現象の中で最も明るく輝く爆発現象として知られていますが、その起源やメカニズムには多くの謎が残されています。ガンマ線の輝きはごく短時間で終わりますが、その後、X線や可視光などのさまざまな波長で輝く残光という現象が観測されており、この現象も未だ解明されていません。現在は、観測事実を説明できるような理論モデルを構築し、ベイズ推定という手法を用いて理論モデルの検証を行い、ガンマ線バーストのメカニズムに迫ろうと日々研究に取り組んでいます。

コーヒー好きのメンバーと一緒に飲む、山崎研コーヒー会

課外活動が科学技術コミュニケーションを志すきっかけに

私はストイックに1つのことだけに集中するよりも、さまざまなことに目を向けながら進める方がうまくバランスが取れるタイプなので、勉強と並行して課外活動も活発に行っていました。学部生の頃はアカペラサークルに所属してグループでアカペラ演奏の練習・発表をしたり、アルバイトで学習塾の講師をやったりしていたのですが、勉強や研究で行き詰まっていても、そこから離れたコミュニティに移ることで、気分をリフレッシュできる感覚があります。メンタルをコントロールして、ストレスなく物事に取り組めるようにするために、「違う自分になれる環境」は私にとって重要なものです。

4年次の卒業研究発表の中で「自分の研究を人に伝えるのはこんなに難しいんだ」と実感したことをきっかけに、科学技術コミュニケーションに興味を持つようになりました。友人にその話をしたところ、北海道大学に科学技術コミュニケーター養成プログラム(CoSTEP)があることを教えてもらい、受講することにしました。プログラムの期間は1年間で、毎週土曜に講義を受けてレポートを提出したり、3日間の集中演習などを行ったりします。学生だけでなく社会人も参加でき、さまざまなバックグラウンドの人たちと一緒になって勉強していました。私はサイエンスイベント企画運営の集中演習を選択したのですが、その中で「光」をテーマにしたオンラインイベントを行いました。目に見える光だけでなく、いろいろな波長の電磁波があるということをどうやって伝えたらいいか考える中で、電磁波というものが一般的にはどのような捉え方をされているか、客観的な視点に気付くことができ、良い意味でカルチャーショックを受けました。また、「伝えるためにはデザインや演出もすごく重要」だと感じ、どれだけ正しくても、どう見せるかで面白さが違いますし、相手に伝わるメッセージも変わってきます。そういった点はすごく勉強になりました。

CoSTEP会議での一コマ

プログラム修了後も、一緒にイベントを企画運営したグルーブで活動を続けており、今後もイベントを実施しようと計画しています。CoSTEPを受講したことがきっかけで、私が科学技術コミュニケーションに興味を持っていることを周囲に認知してもらえるようになり、最近では奈良県で開催されている天文イベントをお手伝いしたり、中高生に向けた出張講義をしました。こうした経験を通して、将来は科学技術コミュニケーションに関わる仕事をしたいと考えるようになりました。

関連リンク:【理工学研究科】大林花織さん(理工学専攻 基礎科学コース 博士後期課程2年)が横浜英和学院で出張講義を実施

博士後期課程への進学を後押ししてくれた
AGU Future Eagle Project

大学院の1年次、具体的な今後の進路がまだ決断できずに悩んでいました。そして、当時の私は勉強や経験がまだ十分ではないと感じていたので、学ぶことに必死で山崎先生や周りの研究者のように「自分の力で自由に研究を楽しむ」ということができていませんでした。「心から研究を楽しむ経験を積んだうえで、科学技術コミュニケーションに携わりたい」と考えていたので、そのためには研究を続けることが必要だと感じていた一方で、研究者になりたいという強いこだわりがないのに進学してもいいのかという迷いもありました。そのときに背中を押してくれたのが、AGU Future Eagle Project(AGU FEP)です。AGU FEPは、分野を問わず発揮できるような汎用的能力(トランスファラブルスキル)の習得や研究者の道以外の多様なキャリアパスをサポートする博士後期課程学生のための支援プロジェクトです。博士課程進学の動機とAGU FEPの理念が合致しており、博士号を取得した人材が社会に求められているのだと感じられたことが私の中ではとても大きい要因となりました。博士後期課程進学を決めた時点では支援を受けられるかどう分かりませんでしたが、AGU FEPの存在は心強かったです。

AGU FEPの奨励学生に選ばれると、毎月18万円の生活支援費と年間25万円の研究費が支給されます。博士課程に進学するとなると金銭面での不安も大きかったので、採択が決まったときはとても嬉しかったです。指導教員の資金ではなく、自分の研究費を活用できることにより、自分自身で研究活動を推し進めているという認識が強まり、充実感にもつながっています。生活費や研究費の支援以外にも、学生自身の意欲に応じた海外研修・国際学会発表支援もあり、パリで行われた国際学会への参加やペンシルベニア州立大学への短期留学を大学に支援していただきました。キャリア形成に関しては、他の研究科教員からアドバイスをいただける副指導制度というものがあり、私の副指導教員を担当していただいている経済学部の岸田一隆先生に、今後のキャリアについて相談しています。岸田先生は科学技術コミュニケーションの分野でも活躍されている方なので、今まさに就職活動の相談にも乗っていただいています。

ペンシルべニア州立大学で行われた研究会の発表風景

科学を通して培われる力が自分自身や社会をよりよいものにする

一言で科学技術コミュニケーションと言っても、その範囲は非常に広く、どのように関わっていくべきか悩みましたが、現在は教員として学校現場での教育活動に従事したいと考えています。その決意の背景には、「人材育成」という根本的な部分に携わりたいという強い思いがあります。私は世の中の出来事に対して疑問を持ったり、自分の頭で理由を考えたりすることが、社会に参加するために必要な力なのではないかと考えています。そのような力を育むものこそが科学だと思っています。

私自身は将来のキャリアを見据えて博士課程に進学したわけではありませんでしたが、後悔は全くありません。理工系分野で身に付く論理的思考力や表現力は、自分自身を成長させるだけでなく、より良い社会を築くために欠かせないスキルです。「楽しい」「面白そう」「不思議だな」と感じることを追求できるのは、人生の中で本当に貴重な経験だと思います。どの分野でも良いのでご自身の「好き」な気持ちがあるなら、それがたとえ険しい道だとしても、一歩踏み出してみてほしいです。自分を信じて未来に向かって進むことが、新たな可能性を切り開く鍵になると信じています。

理工学部 物理科学科

青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
物理学はシンプルな根源原理を理解することによって、幅広い科学分野に応用できる学問です。物理科学科では、基礎物理学をはじめ、固体、宇宙、生物といった対象が絞られた分野、さらには超伝導、ナノテクノロジーなどの最先端応用分野まで、さまざまな階層・スケールサイズの物理学をカバーします。充実した設備環境での実験・演習形式の授業により、理解を深め実践力を高めます。

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