日本全国各地で積み重ねた
「実践知」の先は
「Iターン」で地域の未来と
向き合う行政職に

掲載日 2023/3/1
No.217
コミュニティ人間科学部
コミュニティ人間科学科 4年
大賀 真帆
東京都立南平高等学校出身

OVERTURE

日本国内の地域に着目した社会貢献を追求するコミュニティ人間科学部で、多様な地域活動に力を入れて「実践知」を積み重ねた大賀真帆さん。地域活動に打ち込むきっかけやその魅力、「Iターン*」で長崎県庁に就職を決めるまでの道のりをお話しいただきました。
*Iターン…出身地以外の場所への就職

視野を広げ地域活動の面白さに目覚めた1年次

コミュニティ人間科学部には、女性活動支援や社会学に漠然とした興味があって入学をしました。在学中、地域活動に打ち込み、卒業後も地方公務員として地域の課題に向き合うことを決めた私ですが、入学当初は地域活動に対し、特別高い関心があったわけではありませんでした。
1年次に受けた「コミュニティ社会学原論」は、地域活動の面白さに出会えた授業です。特に、島根県・隠岐諸島の海士町の事例から、行政主導ではなく市民が合意形成をしながら町をつくっていく活動に興味を持ち、関連の書籍を読んで知識を深めたことは、今の私につながっています。また、大学公認の東日本大震災復興支援ボランティア団体「MF3.11」に参加したことも地域活動に興味を持つきっかけになりました。岩手県宮古市での活動が、私にとって初めての地域貢献活動でした。現地では、津波被害など震災について学習しつつ、お祭りの手伝いなどをして有意義な体験を積んだ一方、学ばせていただくばかりで「本当に貢献できているのだろうか?」という反省も残り、その気持ちが以降の地域活動に対する意欲の出発点となりました。

「MF3.11東北応援愛好会」で宮古市を訪問

広く現代社会に必要な教養や技能を身に付けるという点では、本学独自の全学共通教育システム「青山スタンダード」科目の存在が大きいです。初学者でも文系・理系を問わず、分野を横断して学ぶことができるので、興味の幅が広がっていきました。また、高校までは本を読むことがほとんどなく狭い世界にいた私ですが、本学の入学式での祝辞で、新書を読むことを勧められたことをきっかけに、年間100冊ほど読むようになりました。学部の専門の学びに関連する身近な内容から読み始め、次第に興味が社会福祉や国際関係論などにも広がり、専門家が読者にわかりやすく伝える新書が「知への入り口」となって、今まで知らなかった世界への理解を深めるきっかけとなり、物事を多面的に捉える思考力も身に付いてきたように思います。

地域活動を通して生まれた問題意識と、かつての体験が結び付く

「TSUNAGU」の活動で長崎県・対馬へ。多方面から長崎を知る機会に

3年次には、外部NPOが主催する「地域イノベーター留学」という実践型研修プログラムに参加し、地域企業の抱えるリアルな経営課題の解決を目指す、より本格的な地域活動を実践しました。ここでの活動拠点は、高知県の山間部で廃校になった小学校を、地域住民の手によって再生した宿泊施設でした。過疎地の施設の抱える課題「人手不足」に対し、何ができるのか提案を行いました。この時に現地の人から聞いた「この地を地図から消したくない」という言葉はとても重く、私の原動力にもなっています。

思い起こすと、「地域」をキーワードに将来の職業イメージを描く原体験は、大学入学前の春休みに遡ります。当時はまったく意識していなかったのですが、父の生まれ故郷である長崎市を旅行した時のことです。すでに親族のほとんどが現地に暮らしておらず、私も幼少期以来の再訪になりましたが、食べ物のおいしさ、人のやさしさ、風景の美しさ、全てに魅了されました。しかし町には空き家が多く「こんなに素晴らしい町なのに、どうして誰も住まない場所ができるのだろう」と素朴な疑問を抱いたことは記憶に残っていました。大学生になって授業を受けたり地域活動に携わったりするうちに、その時の疑問が思い出され、問題意識とつながっていき、3年次から湯川秀樹先生のゼミナールで、移住政策や空き家問題といった地域課題を考えるというテーマに取り組むことになりました。

授業と並行して、長崎県が設立した県出身学生を中心に構成される学生サークル「TSUNAGU」の存在を知り、参加し、イベントや地域活動を通して長崎で働く価値や意義を再発見する機会を得ました。地元の学生の本音や地域への思いを聞きながら、その頃は長崎への移住も考え始めていたので、現地の友人ができたことも心強かったです。これまでの「実践知」をかたちにしてみようと、長崎県が公募していた県政150周年を記念した政策提言の論文にも挑戦しました。人口流出の激しい長崎県の未来を考え、若者の活動拠点づくりを提言する内容で、これまでに参画してきた岩手や高知という他県での地域活動の知見に加え、「TSUNAGU」で聞いた地元の若者の考えを参考に執筆しました。卒業論文はこの政策提言論文を下敷きに、地域活動に参加を希望する若者の動機の分析と促進策を考察しています。

幅広い業界で生かされるコミュニティ人間科学部の学び

就職に際しては、地域活動で培った力を生かしたいと考えていましたが、地域に貢献する職業にこだわってはいませんでした。ヒアリングなどから課題を洗い出しそれを整理・分析する能力や、多くの人と協力してプロジェクトを遂行するコミュニケーション能力は、どんな分野でも必要とされるものですから、メーカー、流通、教育、行政、さまざまな業界を検討していました。採用面接においては、地域企業の経営者へのヒアリングで課題を見出した経験や、他大学の学生や社会人と協働した実績が評価され、面接官から特に詳しく尋ねられることが多かったと思います。

そうはいっても就職活動の初期には、自分の強みと企業の業務内容とを結びつけてエントリーシートを書くことができない、面接でうまくアピールできないなど、課題が多くありました。4年次の4〜6月は、応募しても不採用という状況が続き、落ち込むことも多かったのですが、自身の経験が不足していると感じ、多くの企業の試験を受ける中で少しずつ改善をしていきました。進路・就職課で模擬面接をしていただいたこと、精神面でも励ましていただいたことは大きな支えでした。こうしたサポートもあり、最終的には複数の民間企業と長崎県庁から内定をいただきました。「Iターン」就職は、一時的ではない移住をすることになるのでとても迷いましたが、ご自身が国家公務員として活躍されてきた湯川先生から「本当にやりたい仕事は長崎での仕事なのではないか」とアドバイスをいただいたことも後押しとなり、大学生活を通して取り組んだ地域課題にさらに真剣に取り組みたいと考え、長崎県庁に就職することを決めました。

地域の強い思いを知り、行政の舞台で課題に取り組む

私の思う地域活動の魅力は「この地域をこうしたい」と思うエネルギーの強さです。エリアは違っても「この地を地図から消したくない」「街に書店など、自分の内面を深める場所が少ない現状を何とかしたい」「津波で多くのものが流された街で『残す』ことを大事にしたい」といった、個人の思いが仲間を集め、思いに共鳴する遠隔地の人をも引き寄せ、それが地域づくりになるパワーは素晴らしいと思います。卒業後は行政の舞台で地域課題に取り組みつつ、若者の活動拠点づくりをはじめとする地域活動にも何らかの形で関わりたいと考えています。就職前の現在は、岩手県陸前高田市のNPO法人による、空き家を活用するプロジェクトに参加しており、この経験を長崎県庁での仕事に生かせるよう意識しています。

陸前高田市のNPO法人の活動で空き家の片づけを行う

コミュニティ人間科学部の学びの特徴は、現実社会の問題との距離が近いところだと思います。地域活動や社会課題に興味を持つ学生も多く、学内外を問わずさまざまな活動への参加機会もふんだんにあります。これまで私が参加したNPOでの活動応募者を見ると、日本全国の大学生が応募する中で、本学部の下級生も多く、上級生として誇らしく感じることもありました。先日は陸前高田の活動中に、別の活動に参加していた学部の友人、菅野睦子さんに出くわして、お互い驚いたということもあります。日頃の学びが、今そこにある課題と結び付き、その解決能力も身に付けられて、大きく成長できる学部です。興味のある方は進学を検討してみませんか。

陸前高田で準備中の空き家を活用した「泊まれる古本屋 山猫堂」で地元新聞の取材を受ける大賀さん(左)。

大賀さんの就職活動スケジュール

  1. <3年次> 2021年 6月〜

    インターンシップ応募

  2. <3年次> 2021年 8月

    1社のインターンシップに参加、長崎県庁のインターンシップはコロナの影響で中止

  3. <3年次> 2022年 1~3月

    会社説明会に参加し、就職活動を本格的にスタート

  4. <4年次> 2022年 4~6月

    進路・就職課でサポートを受けながら、公務員を含め計50社ほどを受ける

  5. <4年次> 2022年 7月

    複数の内々定をいただき、長崎県庁への就職を決める

コミュニティ人間科学部

コミュニティ人間科学部では、日本国内の地域に着目した社会貢献を追究し、地域文化とそこに暮らす人々の理解を深め、より良いコミュニティ創造に寄与する力を培います。幅広い知識の学び、体験し行動するプログラムを通じて、自ら課題を発見・解決し、地域の人々との互助・共助のもとにコミュニティの未来を拓く力を育成します。
日本の地域社会は、高齢化や過疎化などさまざまな課題に直面しています。その解決に力を発揮するには、地域の人々に接し、活動の実際を知り、共感する体験が重要です。コミュニティ人間科学科では、地域の人々や行政についての学びをはじめ、市町村やNPOと連携した体験的実習などを展開します。専門家として、地域社会の構成者として、地域の活性化や持続的な活動支援ができる人材を育てます。

VIEW DETAIL

バックナンバー

*掲載されている人物の在籍年次や役職、活動内容等は、特記事項があるものを除き、原則取材時のものです。

学部選択

分野選択