数学、とくに特殊関数論を専門とする津田照久教授の研究室には、関連の深い「複素解析」が好きな学生が集まり、現在は5人の4年生が所属しています。2021年春にスタートした数理サイエンス学科の第1期生でもある津田研究室の皆さんに、学科の魅力や学習内容、研究室の雰囲気、今後の進路や目標について語り合ってもらいました。
学生の
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津田照久研究室 4年

左から
池野 継(神奈川・横浜市立東高等学校出身)
荻原 優紀(神奈川・私立桐光学園高等学校出身)
加藤 巧(神奈川・私立桐蔭学園高等学校出身)
野上 萌士(島根・私立明誠高等学校出身)
山本 見咲(東京・私立日本大学豊山女子高等学校出身)
Q. 数理サイエンス学科のおすすめポイントは?
野上:大学で学ぶ数学は、高校までと比べて難易度がぐんと上がります。数理サイエンス学科では、1年次に高校から大学数学への架け橋となるような必修科目があるため、段階を踏んで無理なく高度な大学数学に導いてもらえます。
山本:数学は講義を聴くだけではわかるようになれません。豊富な演習科目が用意されていて、実際に計算したり問題を解いたりする時間が多いのは、おすすめポイントです。
荻原:他の学生と話しながら学べる機会が多いのも魅力的です。3年次からは少人数グループにわかれたゼミナール形式の授業が始まります。課題について発表し、それに対して周りの学生から意見をもらいます。
山本:お互いに質問したり説明したりすることで、論理的思考力とともにコミュニケーション能力も磨くことができますよね。
池野:私は数学を思いっきり勉強したくて入学しました。物理や化学など他の自然科学にも応用の多い群論をはじめ、代数学の講義や複素解析の講義が面白かったです。
加藤:3年次に受けた科目で、関数の無限積展開を学びました。オイラー、ガウス、ワイエルシュトラスといった古典から現代に続く近代数学の発展を垣間見ることができて、4年次の研究室選びやその先の方向性を決める一つのきっかけになりました。

Q. 津田研究室の学習内容と研究の雰囲気はいかがですか?
研究室での学習はテキストの輪講を中心に進められます。その中で各自が興味あるテーマを見つけて研究成果を卒業論文としてまとめます。テキストは学生の興味に合わせてさまざまですが、何かしら複素解析にまつわるものが選ばれます。
2024年度は、複素解析をチャイコフスキー作曲のバレエ音楽−白鳥の湖−に見立てた
①難波 誠著:『複素関数三幕劇』(朝倉書店)
有機化学の分子構造に由来する
②細谷 治夫著:『トポロジカル・インデックス』(日本評論社)
の2冊を読みました。
池野:週1回のセミナーでは、5人それぞれが順番に教師役となって、読み込んできた内容を黒板で説明しながら全員で議論します。
荻原:便宜上、セミナーの発表は、私と野上さんと山本さんが①『複素関数三幕劇』を担当し、池野さんと加藤さんが②『トポロジカル・インデックス』を担当しました。ただし5人全員で2冊の本を読みきる、というのが研究室の原則です。
加藤:大変ですけど2冊読めるのはお得な気もします。
野上:複素解析とは、独立変数と値を実数から複素数へ拡張した関数(=複素関数)についての微分積分学をいいます。高校までに習う関数たちは皆、複素関数への自然な拡張をもちます。
池野:有名なコーシーの積分定理を中心として、感動に満ちた美しい数学が展開されますよね。
荻原:全く別物と思っていた三角関数と指数関数が、じつは複素関数に拡張するとほぼ同一人物だと知ったときは驚きました。
山本:関数たちの本当の姿がみえてきます。ヤコビの楕円関数はその最たる例です。もともと振り子の運動を記述する関数なので、周期的なのは当然ですが、じつはもう一つの周期が複素数の中に隠れています。
野上:二重周期関数になるわけですね!
加藤:『トポロジカル・インデックス』では、化学結合を頂点と辺からなる図形と捉えて、その組み合わせを調べます。もっとも簡単な一本の鎖の結合からは、チェビシェフ多項式と呼ばれる三角関数の加法定理に由来した特殊関数が現れます。
池野:フィボナッチ数列や連分数も登場しますね。一見無関係な数学の分野がつながるのが面白いです。テキストに証明が書かれていなくて、ゼロから自分で考える必要があるときは大変ですが、その分やりがいを感じます。
山本:楕円関数の発表のとき、テキストに載っていない証明を考える必要がありましたが、どうしても解決できませんでした。発表者は教師役も担いますが、「できなかったので一緒に考えてください」と伝えると、皆でディスカッションして無事に証明することができました。
野上:先生も一緒に学生目線で考えてくださるので、予習段階で十分に理解できてなくても安心して授業に向かえます。研究室の皆が意欲的でテキストの内容以上の議論に発展することもあり、良い刺激を受けています。
池野:皆で考えながら解決するまでサポートしてもらえるので、難しいテーマにも挑戦しやすいですよね。
加藤:いまだに解決できず、考え続けている証明もあります(笑)。
荻原:研究室では、納得できるまで命題の証明や計算に取り組みます。書いてある答えを鵜呑みせず、本当にそうか、なぜそうなのか、答えにたどり着くまでにどんなプロセスを踏むのかを徹底的に考えます。これだけ聞くと大変そうですが、私たちの発表に補足して先生が新しい知識も教えてくださるので、テキストに書いてある以上のことを学べます。
山本:できないことを恐れずに話せる環境が、素晴らしいと感じています。これまでに得た知識を組み合わせながら考える作業は難しい点も多いですが、毎回新たな気付きがあるのでとても面白いです。

さまざまな技も繰り出せる賢い飼い猫とともに
Q. 学生さんの目から見た津田教授の印象は?
山本:気さくな感じで、研究室も和やかです。私は3年次までは発表のとき緊張したり不安を感じたりしたのですが、今の研究室では楽しく学べています。
野上:私は1年次の微分積分の講義から津田先生のクラスでした。難しい内容も高校までの知識でわかるように、ゆっくり説明されているのが印象的でした。
荻原:私も2年次に先生の講義をとりました。4色チョークを使った板書は綺麗に整理されていて、わかりやすかったです。あと猫好きですよね(笑)。
池野:そうそう。猫を一匹飼っていて、とても賢くて可愛いのだと熱く語っていらっしゃいました。ハイタッチやお座りから輪くぐりジャンプまで、十種以上の技を覚えているそうです。
加藤:先生の猫の写真が雑誌『BRUTUS』に載ったときは、研究室まで雑誌を持ってきて嬉しそうに見せてくださいました。
Q. この研究室で成長できたことと、いま取り組んでいる研究テーマを教えてください。
荻原:2・3年次に習った「複素解析」が面白いと思い、この研究室を選びました。セミナーでの学習を通じて、その魅力をより深く知ることができました。
池野:発表の準備に多くの時間を費やす中で、「どうしたら皆にわかりやすく伝えられるか」を考えるようになりました。
野上:本に書いてあるからと安易に受け入れるのでなく、自分で計算して確かめることで主体的に考え、批判的に物事を見る目が育てられました。
山本:テキストに載ってない証明に挑戦する中で、粘り強く考えるようになりました。意見を出し合い学ぶことで、行き詰まっても「別のアプローチはどうか」と考える柔軟性も身に付きました。
加藤:3年次まで問題には答えがあるのが当たり前でしたが、研究室で扱うテーマはときに証明や計算をゼロから自分で考える必要があります。4年次からは思考の量が格段に増えました。
荻原:いま研究室では、ヤコビの楕円関数に関するテーマに取り組んでいます。三角関数が円の媒介変数表示を与えるのと同じように、ヤコビの楕円関数は3次元空間内に円柱と楕円柱の交叉が描く曲線の媒介変数表示を与えます。

野上:この空間曲線の上で、加法定理が表す点の動きを図形的に捉えることが目標です。
山本:ヤコビの楕円関数は、極限操作で三角関数へと退化します。両者の加法定理の図形的解釈の間の関係も知りたいです。
池野:少し専門的になりますが、チェビシェフ多項式は直交多項式とよばれる大きな特殊関数の仲間の一つです。
加藤:『トポロジカル・インデックス』の方では(一本の鎖に限らない)さまざまな化学結合に対し、一体どんな直交多項式が現れるのか、その仕組みの解明に挑んでいます。
Q. 卒業後の進路と今後の目標も教えてください。
池野さん、加藤さん、野上さんの3人は津田教授の指導のもと、より高い専門性を身に付けるべく4月からは大学院理工学研究科に進学することが決まっています。
池野:私は大好きな数学を勉強したくて数理サイエンス学科に入学しました。研究室では、3年次までにない発展的な内容の数学も知ることができて充実しています。一方で、知るほどに新しい疑問や不思議が生まれて、もっと学びたい思いが湧いてきました。
加藤:私も同じです。4年間では物足りない。もっと数学を楽しみたいなと。
野上:将来の進路はまだわかりませんが、理系の職種では大学院進学がプラスになることが多いと聞きます。今は単純に数学が面白いので、その先を深く勉強したいのもあります。
荻原さんと山本さんの2人は、卒業後は企業への就職が内定しています。
荻原:私は4月から自動車メーカーでAIやデータサイエンス分野の仕事に就きます。学科のプログラミングの授業が面白かったことや、青学の体育会アメリカンフットボール部で戦術に関わるアナライジングスタッフとして活動していたことがきっかけで、IT系の仕事に興味がありました。自動車メーカーという「ものづくりの現場」で数学の経験を生かせることが楽しみです。
山本:私は4月から国際空港のグランドスタッフの仕事に就きます。空港は、国籍・言語や文化など、さまざまな背景をもつ人々の集まる場所です。年々多様化する利用客のニーズに沿った良い提案をするためには、論理的思考力やコミュニケーション能力も大切だと思います。研究室で培ったこれらの力を、私の好きな分野で生かしていければ嬉しいです。
津田教授からの
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星の運動や空の虹から量子の世界まで、自然科学に現れる有用な関数たちを「特殊関数」といいます。その性質を調べるには、複素関数として捉えることが不可欠です。また(例外もありますが)多くの場合、微分方程式によって特徴付けられます。私はとくにパンルヴェ方程式やソリトン方程式など、いわゆる可積分系とよばれる微分方程式を中心に研究しています。解析学と代数幾何や表現論、組み合わせ論など、さまざまな数学が交叉する魅力的な分野です。
研究室の指導では、私自身も好奇心をもってともに学ぶことを心がけています。セミナーでは教えてもらう側の一人として聞き、わからないことが出てきたら皆で考えます。数理サイエンス学科は意欲的な学生さんが多い印象で、ときに意外な発見を楽しんでいます。せっかくの理工学部ですから、大学1・2年生のときは数学に限らず物理、化学、生物など広く自然科学に興味をもって学んでほしいと思います。




理工学部 数理サイエンス学科

青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
数理サイエンス学科では、さまざまな数学の基礎を学びながら、数理科学に関する未知の事柄について研究を行います。「数理サイエンス」という言葉には、厳密な論理に基づく学問としての数学だけではなく、現実社会の諸問題を記述し解決する道具としての数学という意味が込められています。自分で考える習慣と力を身に付けることが目標です。
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