小説執筆にも生きている
法学で培った言葉と
思考する力

掲載日 2021/6/15
No.80
タレント、作家
法学部卒業
加藤 シゲアキ

OVERTURE

青山学院大学を卒業した翌々年、小説家デビューを果たした加藤さんは、執筆活動10年目を迎えた今年、吉川英治文学新人賞を受賞しました。小説家として、また本学在学中から所属しているジャニーズ事務所のアイドルグループ・NEWSのメンバーとしても大いに活躍しています。

吉川英治文学新人賞受賞。
直木賞、本屋大賞にも
ノミネート

最新作『オルタネート』は、吉川英治文学新人賞、直木三十五賞、本屋大賞にノミネートされ、そのうち吉川英治文学新人賞をいただくことができました。小説を書く者として非常に憧れていた賞なので、たいへんうれしく感じています。『オルタネート』は、架空の高校生限定マッチングアプリを題材に、それを取り巻く高校生たちの青春を描いたもので、「青山学院を舞台にしたのではないかと思える描写が随所にある」といったご感想もいただきます。自分では意識していなかったのですが、良く知る母校を自然と思い浮かべて書いていたのかもしれません。
私は小学校6年生でジャニーズ事務所に入所した後、青山学院中等部に入学し、大学卒業までの10年間、青山学院で学生生活を送りました。高等部在学中にはNEWSのメンバーとしてCDデビューし、歌手や俳優としての活動を続け現在に至ります。
学生とアイドルという二足のわらじでしたが、負けず嫌いだったので勉学にも力を入れ、テスト勉強は絶対に1週間前から始めると決めていました。一夜漬けでは記憶として定着しないので、同じ内容を少しずつでも反復しながらしっかり覚えこむよう心がけていました。

大学を卒業してしばらく経ってから、芸能活動の傍ら小説を書こうと決意し、2012年に第一作目の『ピンクとグレー』を出版してから10年近く経ち、これまで6作品を刊行しています。『オルタネート』は特に文学賞は意識せず、若い世代の方々が純粋に小説を楽しんでくれたらという思いをモチベーションに書き上げた作品なので、今回の受賞には自分でもとても驚いています。

深く考えるきっかけを与えてくれた法学部での学び

法学部に在籍していた大学時代には、ひとつひとつのテーマに対して真剣に向き合い、考えを深めていく姿勢を身に付けました。それを初めて明確に意識したのは、「誕生するまでのどの段階で、人間としての権利が認められるか」というテーマを扱った授業を受けていた時だったと記憶しています。胎児の段階か、生まれ落ちた瞬間か、あるいはまた別のタイミングなのかという悩ましい問題にも、実は法的な定義があると知り、非常に合理的だと感じる一方、不条理な思いも抱きました。これに関する現行法に強く疑問を持てば、人によっては政治家を目指すかもしれないですし、法律家になろうとするかもしれません。ただ私の場合はそこに物語を感じたのです。
法律を学んでいくにつれ、この社会にはまだまだ議論し尽くされていない事柄がたくさんあるのではないかとも考えるようになりました。法治国家に暮らす私たちは、先人たちが作ってきたルールを当たり前のものとして受け止めているけれど、果たして全ての法は完璧と言えるのか、法体系はまだ完成に至っていないのではないか。この疑問は、法学からいちばん強く感じ取ったことかもしれません。

自分が俳優として作品に携わってきたこともあるかと思いますが、六法全書の中に物語につながる発見をして、はっとする瞬間も度々ありました。社会やその基盤をなしている法律の知識は、物語を理解することにも、生み出すことにも密接に関連しているのだと思います。
テストの準備で判例をどのように解釈するか友人と話しているうちに、お互いの考えをもとに議論へと発展することもあり、さまざまな物事を多様な人の視点から多角的に捉えられるようになりました。法学部の試験は基本的に論文形式なので、書く力も自然と鍛えられました。法学は言葉の力で議論する学問だと言われるとおり、その学びは執筆活動にも確実に結びついています。

強く印象に残った
「キリスト教概論」
聖書は物語の宝庫

私は中等部時代からキリスト教に関して学んできましたが、大学で必修科目だった「キリスト教概論」の塩谷直也先生が聖書をとても面白く紐解いてくださったおかげで、改めてその魅力に気づくことができました。法学の判例解釈とも共通することですが、聖書をどのように読み解くか、そして解釈次第でさまざまな見解を見出す余地があるという点に、私は強い関心を抱いたのです。
大学時代にはたくさんの映画を観ていましたが、聖書をモチーフとして扱う作品が少なからずあり、キリスト教について学べばおのずと物語の理解を深められるだろうと考えるようにもなりました。「キリスト教概論」では、聖書の持つ物語性を感じ取りながら楽しく先生の話に耳を傾けていました。聖書は世界で最も読まれている書物だと言われますが、それは物語の圧倒的な影響力を証明しているように思えてなりません。

ただ、いくら真剣に読みこんでも聖書には分からない部分が多く、さまざまな解釈を教えられてもしっくりこない内容もあり、「本当にそういう意味なのだろうか」と自分に問い続けてきました。何においても自問自答は大切な作業ですし、自分を見つめ直す機会にもなるので、「キリスト教概論」で聖書についてしっかり学べたのは大きな収穫です。

自由な校風の学び舎で
素晴らしい友と過ごした日々

中等部から大学まで長い間ずっと同じ友人たちと付き合うことができ、彼らとは今でも時おり会っていますし、法学部に進んでからできた新たな友人たちとも今につながる交友関係を築いています。私は芸能活動をしていたため、他の学生たちより自主的に学ぶ必要がありましたが、どうしても仕事で授業に出られない時には、その内容を後から同級生が教えてくれたのでとても助かりました。別の学部に進んだ中・高等部の友人たちからは、彼らの専門分野について話を聞かせてもらい、知的好奇心をくすぐられ、関心の幅を広げられました。
私の周りには総じて優秀な学生が多く、大学在学中に公認会計士試験に合格した友人もいます。彼は大学2年次に一念発起し、公認会計士を目指して勉強に没頭して、4年次に、見事試験に合格しました。その功績から大学広報誌にも載ったように記憶しています。彼に対しては、努力して大きな夢を叶える人もいるんだな、と本当に感心しました。また青山学院大学が箱根駅伝に33年ぶりで出場を決めた際に選手として活躍した同級生もいます。「青学が箱根駅伝に出るなんて!」と驚きながら皆で拍手を送り、当時は応援ムード一色でした。

芸能活動を行いつつ勉学を続けましたが、青山学院はとても自由な校風に満ちていると実感してきましたし、個性豊かな学生や多様な分野の専門家の先生方が一堂に会する場でもあります。さまざまな道で活躍する友人たちに影響を受けながら共に過ごした日々は、私にとってとても大切な宝物です。

卒業した学部

法学部

“AOYAMA LAW”の通称をもつ青山学院大学の法学部では、弁護士、検察官、裁判官などの法曹を目指すだけでなく、青山学院の建学の精神に立脚しつつ、人間的素養と法学的基礎を備えて社会の多様なニーズを識別し、複雑な事象の科学的分析を行える応用力を身に付けます。社会で必要とされる能力を発揮して自らの道を切り拓くことができる人材を育成します。そして、この人材育成のプロセスを通じて、法的な課題・紛争を客観的に分析して的確かつ公正な判断を行うだけでなく、その判断と理由について他者と理解を共有し、課題・紛争を解決に導くことのできる能力の養成を重視しています。2022年4月、法学部に日本初の「ヒューマンライツ学科」を設置予定(設置届出中)です。

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