他大学から青学大学院へ─応用数学への挑戦が切り拓いた、金融工学への情熱と新たな未来

掲載日 2024/12/20
No.327
理工学研究科 理工学専攻 基礎科学コース
博士前期課程 2年
森川 颯胡
神奈川・私立桐蔭学園高等学校出身

OVERTURE

興味があった応用数学を学ぼうと一念発起し、他大学から理工学研究科理工学専攻基礎科学コースに進学した森川颯胡さん。研究や勉学に意欲を燃やす研究室のメンバーに触発されて金融工学の研究に没頭し、「修了するのが寂しい」と語るほど充実した時間を過ごしてきました。学んだことを社会に生かすという希望をもち、来春からは金融系のデータサイエンティストとして新しい一歩を踏み出します。

捨てきれなかった応用数学への興味、
そして山中先生との出会い

他大学の理学部数学科で学んだのち、大学院進学のタイミングで青山学院大学大学院の理工学研究科に入学しました。小学生の頃、算数の問題が解けたことに喜びを感じたのが数学への興味の原点で、学年が上がり、授業の内容が難しくなるにつれて数学の本質的な考え方を学ぶのが楽しくなりました。

しかし学部生時代は、自分の関心と学んでいる内容が一致せず、モヤモヤした思いを抱えていました。私は、数学を用いてさまざまな社会課題の解決を図る応用数学に興味を持っていましたが、通っていた大学には応用数学を専門とする先生がほとんどいませんでした。そこで、社会に出る前に応用数学を研究したいという考えから、他大学の大学院に進学することを決断しました。

青学の理工学部を卒業した父や知人、ウェブサイトなどから情報を収集し、応用数学が学べる環境はもちろん、先生方の手厚いサポートがあることに魅力を感じて、青山学院大学大学院を選びました。願書を提出するには、どの研究室でどんな研究をしたいのかを決めておく必要がありますが、父の先輩から、応用数学を専門とする熱意ある先生として薦められたのが、現在研究指導を受けている山中卓先生でした。初めて山中先生の研究室を訪問させていただいた時のことはよく覚えています。初対面の私の話に丁寧に耳を傾け、その場で研究についてのさまざまな提案をしてくださいました。山中先生のもとで多くのことを吸収したいと思ったのと同時に、学部生と院生が合同で活動する研究室のスタイルに魅力を感じました。一人で黙々と研究するよりも、お互いに刺激を受けながら緊張感を持って研究に向き合えると感じ、「ここで2年間がんばりたい」と心が決まりました。

課題の発見と試行錯誤を繰り返した研究の日々

大学院入学後は、応用数学を学ぶ楽しさに触れて、授業にも意欲的に取り組みました。山中先生がご担当された「離散数学」の授業では、論文紹介の課題を通じて多くの論文に触れる機会を得ました。その中で、数学を実社会に応用した興味深いテーマをたくさん見つけ、応用数学の学問としての魅力を実感しました。また、「関数方程式論」の授業では、感染症に対する数学の応用について学びました。特に、コロナ禍での経験から、感染症がどのように広がり、収束するのかを計算し数値化することは、とても興味深い学びとなりました。

山中研究室には勉学意欲が高く、努力家で優秀な学生が多いため、入学当初は「頑張らなければ置いていかれる」という危機感を持ち、先輩方についていこうと必死でした。特に苦労したのは、1~2ヵ月ごとに行われる研究の進捗発表です。数学的な視点で発表スライドを作成した経験がなかったため、最初は多くの時間を費やしましたが、先輩からのアドバイスや他の人の資料を参考することで、少しずつ完成度を上げることができました。発表時間が限られているため、要点を簡潔にまとめ、専門外の人にも理解してもらえるよう工夫しました。発表準備期間は、自分の研究の意義や課題を客観的に見つめ直す機会にもなっていて、発表後の質疑応答では、山中先生から鋭い質問が投げかけられるため、普段から研究の細部にまでこだわる姿勢が身に付きました。発表が終わるたびに「ここがダメだったな」と反省し、次に向けてどのように解決するかを考え続けることで、発表を重ねるごとに成長を実感しています。

山中研究室の宿泊型セミナーにて(左側前から2番目が森川さん)

現在は修士論文に取り組んでいます。山中研究室は金融リスク管理を切り口にした研究を行っており、私は「金融工学手法による企業の意思決定への適用可能性の検証」をテーマに、二つの研究をしています。
一つ目は、大学院入学前からやりたいと考えていたテーマで、事業の評価手法の一つであるリアルオプション法を用いてサッカー選手の移籍金を解析する研究です。スポーツに関心があり、そこに結びつく分析をしたいという考えから、このテーマを選びました。
二つ目は、統計モデリング*を活用した企業信用評価の研究です。これは、山中研究室の先輩方が企業信用調査会社と共同で進めてきた研究で、先生から声を掛けていただき、私が引き継ぎました。企業が取引で損失を被り、倒産という最悪の事態を未然に防ぐためには、相手企業の信用度を正確に評価することが重要です。この研究は、社会への貢献が明確に見えるため、大きなやりがいを感じています。また、「先生の期待に応えたい」という思いが、研究へのモチベーションになっています。

*観測データに数理モデルをあてはめ、現象を予測するデータ解析の方法論

「何をやるか」を軸に選んだ道は、社会全体に貢献できる金融系のデータサイエンティスト

将来については、以前から「学んできたことを生かせる仕事に就きたい」と考えていたため、早い段階で志望業界を金融に絞りました。修士1年次の夏から5社ほどでインターンシップ(インターン)を経験しましたが、その中でも大手銀行での長期インターンが進路を決めるきっかけとなりました。
インターンでは、ローンの貸し出し審査を担当しました。全支店の取引履歴から企業のデータだけを抽出する作業が必要でしたが、これは研究室のデータサイエンス研修の受講経験があったからこそやり遂げることができたと思います。自分が身に付けた知識が実務で役立つことを実感し、大きな充実感を得ました。
大学院まで進み金融工学を学んだのだから、専門性の高い金融知識が求められる金融系のデータサイエンティストを目指そうと決めました。この研究分野では、理数系の修士号が採用条件になることも多く、「自分の学びを最大限に生かせる」と感じています。

「どこに行くか」より「何をやるか」を軸に、エントリー先はデータサイエンス職のある金融関連企業に絞りました。その中で最も魅力を感じたのが、来春から就職予定の株式会社金融エンジニアリング・グループ(FEG)です。FEGは、金融機関をはじめとする多様な企業からデータ分析やコンサルティングを受託しており、企業の利益追求にとどまらず、社会全体に貢献したいという自分の志向と合致していると思いました。「大切にしたいこと」や「譲れないこと」が明確になると、自ずと行動が決まり、結果もついてくるものだと実感しています。

就職活動を始める際、金融系専門職で内定を得ていた先輩から、エントリーシートの書き方や仕事内容、準備すべきことなどを具体的に教えていただき、とても助かりました。面接では、大学院に外部進学した理由やその経緯に興味を持たれることが多く、その背景を話すことで、研究に対する熱意をアピールできたと思います。

大学院での研究が直接生かせる企業で働けることをとてもうれしく、これまでの研究で培った知識やスキルを、社会に役に立つかたちで還元していきたいと考えています。また、教育にも興味があるので、今後は企業の立場から共同研究や長期インターンを通じて教育機関と連携できる取り組みにも挑戦したいです。

今、心から言えること──「青学に来てよかった」

4年次の春から大学院進学を考えていましたが、他大学の入試対策や新しい環境に対する不安から、外部進学を決断するまで相当悩みました。実際、専攻は同じでも学部時代に通っていた大学と青学ではカリキュラムが異なっていたので、対策に苦心しましたが、それでも今は、心の底から「青学に来てよかった」と言えます。山中先生が学生一人一人としっかり向き合ってくださる研究室は、私にとって最高の環境でした。それまでは勉学に対して妥協しがちなところがありましたが、山中先生や共同研究者の方々と日々コミュニケーションをとる中で、新しい視点や考え方を学び、やるべきことや課題を見失わずに進むことができました。そして、研究室のメンバーも、私にとって目指すべき姿でした。
私自身が上の学年になり、後輩の模範となる言動や姿勢を示そうと意識する中で、先輩方から教わったことを後輩に伝える責任を感じるようになりました。その経験を通して、研究者としても人としても成長できたと実感しています。

理工系には「忙しくて大変」なイメージがあるかもしれません。確かに忙しい時期や大変なこともありますが、その分、研究に打ち込んだ経験は、必ず皆さんの将来を輝かせる力になると信じています。私自身、青学の大学院に進学したことで、多くの素晴らしい出会いに恵まれて大きく成長できたと感じています。青山学院大学で学んだ経験を力に変えて、未来に向かって大きく羽ばたいてください。心から応援しています。

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2024年度)のものです。

森川さんの就職活動スケジュール

  1. <博士前期1年> 2023年8月~

    インターンシップ参加

  2. <博士前期1年> 2024年3月

    エントリーシートの作成(10社程度)

  3. <博士前期1年> 2024年3月

    金融エンジニアリング・グループから入社に向けたご案内をいただく

理工学部 数理サイエンス学科

青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
さまざまな数学の基礎を学びながら、数理科学に関する未知の事柄について研究を行います。「数理サイエンス」という言葉には、厳密な論理に基づく学問としての数学だけではなく、現実社会の諸問題を記述し解決する道具としての数学という意味が込められています。自分で考える習慣と力を身に付けることが目標です。

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