福田准教授からの
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福田 美雪
本ゼミナール(ゼミ)では、19世紀フランスにおける文学と美術の関係性について学んでおり、文化や美術に興味があって選択する学生が多い印象です。美術展で本物の絵画を鑑賞する機会も設け、当時の時代背景を深く知ることができるゼミとしています。
Q.文学部フランス文学科をどのように捉えていますか。
21世紀に入りグローバリゼーションの影響もあり、多くの大学の人文系学部で、「外国語文学科」ではなく「国際文化学科」に転換する例が増えています。そんななか本学では、伝統的なフランス文学の教育を貫き、中世から現代の詩、演劇、小説、哲学思想、語学研究など、それぞれの分野の優れた専門家から直接学べる環境を整えています。
この時代に文学を大学の専門として選んで入学するフランス文学科の学生たちは、本質的に本が好きで、高い読解力と豊かな想像力を兼ね備えていると感じています。言葉に関する感受性が高く、自分の問題意識と読んだものを結びつけて論ずることが上手で、私も楽しく授業を行っています。
Q.ゼミでの指導内容や特徴について教えてください。
19世紀に描かれた、絵画や挿し絵、写真などのイメージと、詩、小説、批評などのテクストの結びつきを通して、複雑な時代背景を読み解くことを目指しています。具体的なテーマは毎年変わりますが、切り口もそこからの学びも多様で尽きることはありません。
文学テクストを読み解くなかで「書いている作家の脳内にどのようなイメージが蓄積されていたか」というのは大きなファクターで、知っていて読むのと知らずに文字だけで読むのでは大きな違いが出てくるでしょう。
2021年度は、「19世紀のフランスにおけるジャポニスム」を年度テーマとして取り上げました。ゼミ生のほとんどが日本語を母語とする学生であるため、まったくの異郷/他者として眺められた、日本/日本人像をフランス語で読み解くことで、ふだん自明のものとしている「言葉」や「言語的ふるまい」を相対化して考えてほしいという思いでテーマを設定しました。
前期には、1885年にパリで出版された和歌の翻訳集『蜻蛉(せいれい)集』を、もとの和歌と読み比べて外国語の詩を翻訳して味わうことの可能性と限界について学生たちと考えました。たとえば、小野小町の「花の色は うつりにけりな いたづらに……」という歌では、日本人にとっては花といえば桜であり、だからこそ、人の命や栄枯盛衰の儚さを哀れむ心がかき立てられるのですが、翻訳では「桜」と明示的に訳していないので、そのニュアンスが出てこないのです。そんな例から発展して、J-POPやK-POPの歌詞翻訳にも議論が及び、コンテクストを知らないままに別の言語に移す難しさや翻訳が生み出す面白さを、学生とともに考えることができました。
後期には、長崎に滞在した経験を書いてベストセラーになったピエール・ロティ『お菊さん』(1887)を題材に、印象派の絵画と浮世絵の影響など、当時のフランスでピークだったジャポニスムについても考えています。それに関連し課外活動として、渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで行われた「ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス」を訪れました。印象に残った作品をシェアする感想会も盛況でした。
Q.ゼミを通してどのようなことを学生に伝えたいと考えていますか。
テクストについてもイメージについても、読み方や見方は自由で私が教えるわけではありません。19世紀のフランス人の受け取り方と現代の若い学生の受け取り方が違う、そのギャップを見過ごさずに考察すること、そして同時代、同世代でも一人ひとりの感じ方が異なり多様であることは、大切にしてほしいと思います。私たちの言語文化の多様さを自覚し、自分が発する言葉にも、他人から受け取る言葉にもセンシティブであってほしいのです。
大学を卒業したら学びが終わるわけではありません。フランス文学を学ぶことは、言葉を読んで理解するという営みの普遍性に触れることであり、その経験は、他者との関わりでも自己に対する内省でも、言葉を使う全ての行いに立ち返ってきます。どこにいて、どんな仕事をしていても、日々「言葉」や「文化」と接し、自分のものの見方を更新することは大切です。卒業後の人生でも、大学で他言語によるテクストと四つに組みながら培った思考の柔軟さ、感受性の豊かさを活かして、さまざまな本を読み、芸術、文化に触れていってほしいと思います。
学生の
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千葉県立幕張総合高等学校出身
このゼミを選んだのは、1年次に受けた授業で、親しみにくいと感じた不条理劇について福田先生がとてもわかりやすく教えてくださったから、そしてジャポニスムの影響を受けたクロード・モネの絵画『ラ・ジャポネーズ』に惹かれていたからです。
福田先生はとても親しみやすく、「しゃべりはじめたら止まらない」くらいに、ゼミは楽しい雰囲気で満ちています。自由な意見が尊重され、和歌をフランス語に翻訳した『蜻蛉集』について話し合ったときには、何気なく聴いていた米国映画「アナと雪の女王」の主題歌「Let it Go」の日本語歌詞の翻訳について触れ、「元の歌詞とまったく違うのは、意味よりも音韻や拍に合わせて聞き馴染みがよいように改変しているのではないか」というゼミメンバーの鋭い意見が聞けて刺激になりました。
美術展を訪れた後の感想では、同じ作品が好きな人も好きなポイントが異なっていて、考え方の違いがとても面白く感じられました。
私は日本史や日本文化の知識があまりなかったのですが、ゼミでの勉強の影響で日本文化にもアンテナが向くようになり、日本文化に関心のあるフランス語話者は何を知りたいのか、何をどのように伝えたらよいのか、意識するようになりました。
そして現在は、同じテクストを読み取って描いても画家によって描き方・捉え方が違うことが興味深く、絵画を通じて画家の思考を発見することに関心をもっています。研究テーマはまだ決めていませんが、ゼミをきっかけに持つことができたいろいろな興味から、テーマを見つけられたらいいなと思っています。
文学部 フランス文学科
青山学院大学の文学部は、歴史・思想・言葉を基盤として、国際性豊かな5学科の専門性に立脚した学びを追究します。人間が生み出してきた多種多様な知の営みにふれ、理解を深めることで、幅広い見識と知恵を育みます。「人文知」体験によって教養、知性、感受性、表現力を磨き、自らの未来を拓く「軸」を形成します。
フランス語は、ヨーロッパ文明を築いた美しく理性的な言語です。フランス文学科では、初学者でもしっかりとフランス語を身に付けられるよう、少人数クラスで、基礎から集中的に学びます。日本人とフランス人の教員が適材適所で授業にあたり、フランスの文学・語学・文化を幅広く取り上げ、実践的なフランス語能力の習得と柔軟な人間性の涵養を目指します。
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将来を模索していた私が
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理工学研究科 理工学専攻 生命科学コース
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