演劇、劇団を裏から支え、舞台に込めたメッセージを一人でも多くの人に届けたい

掲載日 2023/5/2
No.234
劇団俳優座 取締役・演劇制作部
総合文化政策学部
総合文化政策学科卒業
霜垣 真由美

OVERTURE

役者と裏方の共創で、観客の心を動かす演劇。霜垣さんは日本を代表する劇団「俳優座」の演劇制作部に所属し、公演の企画から上演までのマネジメントを手掛けています。チーム一丸となって作品づくりに取り組めることが演劇の醍醐味と語る霜垣さんは、在学時の「青山学院大学応援団」の活動を通して、仲間と協働する素晴らしさに目覚めました。さらに、個性豊かな仲間との交流で培った多様性を尊重する姿勢や、クリエイティブな授業で養った思考力も、現在の仕事に生かされているといいます。

大学で出会った演劇の奥深さに、今もなお魅了され続ける

私が演劇の道に進んだ一番のきっかけは、大学時代の恩師・総合文化政策学部教授の竹内孝宏先生の「ラボ・アトリエ実習(ラボ)」です。竹内先生は実践の場で芸術に触れることを重視されており、私たち学生にプロの制作現場をよく見せてくださいました。授業の一環で、一人でシェイクスピア(の全作品)を演じる沙翁役者・楠 美津香さんが出演する舞台作品の裏方を務める機会にも恵まれ、その体験が私の卒業後の人生を考えるターニングポイントになりました。彼女は日本で初めて「女性ひとりコント」というスタイルを確立したパイオニア的存在で、独自の世界観を持つ名女優です。そんな彼女が演じる舞台を、照明や音響、大道具といった裏から支える側の視点で見えたものは、作品は一人の力で完成するものではないという事実でした。以降、私は、演者と裏方にかかわらず、関係者全員で取り組む舞台づくりの奥深さに魅了され、大学卒業後から今に至るまで、演劇一筋のキャリアを歩んできました。

現在は劇団「俳優座」で、演劇の企画から上演までを管理する制作部に所属しています。一般的に演劇といえば、演出家や役者、音響、照明、小道具など舞台上でのパフォーマンスに直接的に関わる仕事の印象が強いかもしれません。制作部は、そういった舞台づくりに関わる方々のキャスティングや予算管理、広報戦略なども含めて、公演全般をマネジメントする立場です。幅広い角度から舞台作品に携われる点に大きなやりがいを感じています。

職種柄、写真は常に「撮る側」の霜垣さん。制作に携わる舞台の「立ち稽古」の様子

心を動かす舞台は、居心地のいい稽古場から

「俳優座」には、「よりよい舞台を届ける」という目標に向かい、役職や立場の違いを超えて一致団結する組織風土があります。役者であっても裏方に徹したり、宣伝用のアイデアを一緒に考えてくれたりと、全員が思いを一つにして取り組んでいます。振り返ると、大学時代から仲間との協働が大好きでした。所属していた「青山学院大学応援団」では歴代初の女性団長に就任し、団員一丸となって応援することの楽しさや喜びを実感しました。その時と変わらない情熱が、今も私を突き動かしています。

仕事において日頃から意識しているのは、劇団全体に居心地のいい雰囲気をつくり出すことです。例えば、稽古場で表情が硬くなっている役者には、気さくに話しかけて緊張をほぐすように努めています。こうした心がけの背景にあるのは、「観客を楽しませるためには、まずは自分たちが楽しむことが大切」という考えです。他に目を向けても、団員の仲が良い劇団ほど、観客の心に残る舞台をつくりあげている印象があります。小さな取り組みでも丁寧に積み重ね、一人一人がポテンシャルを最大限に発揮できる環境づくりに励んでいきたいと思います。

総合文化政策学部の同期であり、同じ俳優座制作部で働く黒田真和さんとスタジオ控室で芝居の打ち合わせ

青学で身に付けた広い視野と柔軟な思考力を仕事に生かす

青山学院大学で過ごした4年間は、刺激に満ちあふれていたと実感します。一期生として入学した総合文化政策学部には、クリエイティブで個性豊かな学生が多くいました。授業が終わっても途切れない白熱の議論や、自分にはない発想を持つ友人たちの独創性に驚かされることもしばしば。また、キャンパスを見渡すと、多様なバックグラウンドを持つ学生たちが集まっており、まるで「一つの社会」のようでした。お互いの文化や価値観、思想が異なっても、むしろその違いを受け入れ、理解しようと前向きになれるのが青学生の特長だと感じます。この多様性に満ちた環境で、私自身の視野も格段に広がりました。

刺激を受けたのは友人の存在だけではありません。個性豊かな学生たちの意欲に応えるように、自由な発想を尊重してくださる先生方が多く、既存の枠組みにとらわれない授業が数多く用意されていました。中には先生が独自に開くワークショップもあり、常に学びの機会にあふれている環境。そこで培われたのが「思考力」です。例えば、渋谷の街で素材を集めてアート作品を制作する授業では、普段見ている景色を別の視点から捉えることで、意外なものがアートになり得るという発見がありました。日常を異なる切り口から見ようとする姿勢は、演劇に携わる今も大いに生かされています。

演劇は、ストーリーの裏側に数々のメッセージが込められた奥深い芸術です。一見コメディーに見える作品でも、その裏にシリアスなテーマが隠されているケースも珍しくありません。当劇団の演劇を鑑賞される皆さんに、何気ない感動や気づきをもたらせるように、毎回全力で舞台づくりに励んでいます。そして、演劇の魅力を若年層にも伝え、次世代の演劇人を増やしたいという目標があります。中高生などに気軽に劇場に足を運んでもらうために、新たな試みにも貪欲に挑戦していく予定です。また、今年度より劇団俳優座の取締役に就任することになりました。演劇制作部の代表として、今までより一層「経営」という観点からも劇団と付き合っていく必要があり、勉強中の身です。大学時代に培った知識・スキルや経験を存分に生かして、演劇業界のさらなる発展に貢献します。

卒業した学部

総合文化政策学部

青山学院大学の総合文化政策学部では、“文化の創造(creation)”を理念に、文化力と政策力を総合した学びを探究。芸術・思想・都市・メディアなどの広範な領域を研究対象とし、各現場での“創造体験”とともに知を深めていくチャレンジングな学部です。新たな価値を創出するマネジメント力とプロデュース力、世界への発信力を備えた“創造的世界市民”を育成します。 「文化の創造」を理念に、文化力と政策力を総合した学びを探究します。古典や音楽、映像、芸能、宗教、思想、都市、ポップカルチャーなどあらゆる「創造」の現場が学びの対象です。どうすれば文化や芸術によって社会をより豊かにすることができるのか。創造の可能性を模索し、自身のセンスを磨きながら、アートのトータルプロデューサーとして社会への魅力的な発信方法を探ります。

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