世界中の人々が
境界線を超えて
互いに学び合う世界を
創りたい

掲載日 2021/8/17
No.93
World Road Inc. CEO/共同代表
国際政治経済学部卒業
市川 太一

OVERTURE

大学での学びのフィールドは、キャンパス内のみならず、海外留学やインターンシップ、ボランティアを通じて世界中に広がっています。
海外で精力的に見聞を広めた市川さんは、世界規模で学び合える社会の実現に貢献するため起業しました。

SDGs、グローバル視点の学びを組織・個人の成長に

企業や自治体、教育機関に向けて、SDGs※を起点とした教材や教育プログラムの提供、新規事業の創出、戦略策定の支援などを行うWorld Road Inc.を経営しています。教育事業に軸足を置きつつ、SDGsを実際のアクションに変えるための教育ワークショップの開催からPRや共創事業の策定まで、パートナー企業が抱える課題に応じて多様なサービスを提供しています。
サステナビリティなどと聞くと新しい取り組みと感じる方もいるようですが、どのような組織も、企業理念・使命を持って存在している限り、既にSDGsと係りを持っています。それを整理し、形にしながらさらなる大きな課題に協働して取り組んでいます。

※2015年の国連サミットで採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。17のゴール・169のターゲットから構成されている。

世界への貢献を夢見て、国際政治経済学部へ

私は福島県の山深いところで育ちました。自宅で英語教室を開いていた母は海外志向があり、リビングに大きな世界地図が、本棚には海外に関する本が並んでいました。それを契機に漠然と世界への憧れを持っていました。そして、貧困地域で起きていることをテレビで見て、世界は平等ではないのだと理解するようになると、いつか世界に出て貢献できる人になることが夢になりました。中高ではその夢を育みつつ剣道に没頭し、大学では世界を学ぼうと、国際政治経済学部に進学しました。入試当時に東日本大震災に遭遇した私への大学からの学費支援や心遣いに今でも感謝しています。
入学後は、自分の目で世界を見ることを最優先に、長期休暇の度に海外に出ていました。

撮影協力 BIRTH LAB

1年次の夏休みは、ガーナへ。国際ボランティアに参加したものの、何もできず、無力感にさいなまれたと同時に、もっと人の役に立つ実力をつけなければと思いを強くしました。
学部での学びも、どうしたら世界の問題が解決に向くのか、理論のみでなく実践視点で取り組んでいました。最も心に残っているのは、大野昭彦先生の「開発経済学」の授業です。先生ご自身が東南アジア諸国で収集されたデータに基づき、農村の経済発展の過程等について理論を展開され、まるで現地の様子が見えるようで引き込まれました。3年次からは先生のゼミナールに所属し、実際にタイと日本の大学で学生にアンケートを取り、家庭環境などの経済的要因と就職観念の関わりについてデータを収集、解析して卒論にまとめました。演習で得たデータを基に判断する視点が、経営にも生きていると感じています。

平和の姿を目にした「One Young World Summit」

自分にできることを模索する中、最初の転機になったのが、シアトル留学です。実践的な学びを得るため、3年次に1年間休学してベルビューカレッジでビジネスの授業を受講しました。特に印象的だったのは、プロジェクトマネジメントの夜間クラスです。ボーイングやアマゾンといった地元大企業の社員も在籍し、教室には年齢・人種・職業など多様な学生が集っていました。多様性の中でのマネジメント議論は、さまざまな視点からの意見が飛び交い、とても新鮮でした。幅広い年代のクラスメイトの姿に、人は一生学び続けられると実感し、国籍・組織を超えて多様性のある環境が学びを増長させると実感しました。これが教育の本質について考える大きなきっかけでした。また、異国の地で1年培った自信から、臆せず挑戦する姿勢が身に付きました。

「One Young World Summit」にて

そして、留学を終えた2014年、アイルランドのダブリンで開催された世界最大級の国際サミット「One Young World Summit(OYW)」に日本代表メンバーとして参加したことが、人生の転機になりました。この会合は190ヵ国以上から2,000人を超える次世代のリーダーが参加し、2010年から世界各地で毎年開催されてきました。
開会式で世界中から集まった参加者が一堂に会する景色を目にしたとき、まるで小さな地球を見ているような感動を覚えました。そこには世界が直面している課題について真剣で考え、行動する人達がいました。中でも、脱北者であり活動家のパク・ヨンミさんが北朝鮮代表としてスピーチを行ったときのことです。語られたのは、壮絶な脱北の経験、そして祖国の人々を救いたいという願いでした。スピーチが終わった瞬間、会場がスタンディングオベーションに包まれ、世界の思いが一つになっている、これが平和の姿だと感じました。私たちが彼女の物語から学んだように、世界の人々が互いに学び合う場をつくり、より良い社会を築くことに貢献したいという思いが鮮明になった私は、卒業後、エンターテイメント企業での事業新設、スタートアップで事業企画などの経験を経て、2019年6月、OYW 参加者である共同代表と共にWorld Roadを設立しました。

世界中の人の夢から学ぶ、未来への“教科書”を

設立時より、World Roadは「地球を1つの学校にする」というミッションを掲げています。そして、2021年の6月2日、境界線のない世界を実現するための教科書をつくろうという発想から生まれた書籍『WE HAVE A DREAM 201ヵ国202人の夢×SDGs』を出版しました。これは、世界をよりよくする世界中の若者の夢を集めた一冊です。夢というキーワードは、高校生の頃私が読んでいた47都道府県の高校生の夢が紹介されている『高校生の夢』という本からです。そこで、この本の版元であるいろは出版に「WORLD DREAM PROJECT」と名付けた企画を持ち込み、制作がスタートしました。夢の募集要項はわかりやすい英語で説明すると共に、SNSで世界中に拡散を意図し、ビジュアルにこだわりました。

「WORLD DREAM PROJECT」募集要項

その甲斐あって、すぐにこの募集要項が世界中に広がっていきました。とはいえ、インターネット環境が整っていない地域・紛争中の国もあり、新型コロナ感染症の脅威の中、各国から執筆者を集めるのは簡単ではありませんでした。SNSで検索して社会的活動をしている人にメッセージを送り、現地のNGOに若い活動家を紹介してもらうなど、編集と同時進行で執筆者を探し続け、202人が揃うまでに約1年を要しました。その過程で先に採用が決まっていた人たちが多くの力を貸してくれました。いつしかこの本を出版することが、皆の夢になっていったのだと思います。韓国や台湾では現地語版作成の動きも生まれていて、反響の大きさに手ごたえも感じています。
今後は本書を、掲載している全201ヵ国の学校に届けるべく行動しています。この本の中で語られている夢を知ることが、誰かの生き方を見つけるきっかけになり、ひいては世界中に学び合いの輪が生まれ、次世代へとつながっていくことを願っています。

市川さんの1日


撮影協力 BIRTH LAB

  1. AM 9:00

    起床。ペットのチンチラの散歩

  2. AM 9:30

    メッセージ対応

  3. AM 11:00

    パートナー組織と打合せ

  4. PM 0:00

    ランチ

  5. PM 1:00

    WEB会議

  6. PM 2:00

    メッセージ対応

  7. PM 3:30

    取材や、新規企画の構想

  8. PM 5:00

    メッセージ対応、数字確認など経営上必須事項の処理

  9. PM 6:30

    業務終了

  10. 撮影協力 BIRTH LAB

卒業した学部

国際政治経済学部

多様性はもはや海外のみでなく、国内においてもますます高まり、このグローバル社会で私たちには、国籍、言語、民族、習慣、ジェンダーによる違いを超えた共生・協働が求められています。青山学院大学の国際政治経済学部は、日本において国際系学部の草分けとして1982年の開設以来、グローバル社会への貢献を掲げ、外交官、国際公務員、グローバル企業を担う人材、ジャーナリスト、NGO職員など、グローバル社会で活躍できる人材を多数輩出してきました。その根幹にあるのが、<3学科(国際政治・国際経済・国際コミュニケーション)・5コース>制による現場感覚を重視した教育の実践です。貧困・紛争・環境破壊・食糧問題・パンデミックなど、グローバルレベルの課題に対する理解を深め知識を蓄積し、データに基づき議論・討論するスキルを身に付けます。また、発信力を鍛えるため、外国語能力を高め、異なる意見や価値観を調整するコミュニケーション能力を培います。

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