留学で見つけた
天文学者になるという
夢の続き
理工学研究科 理工学専攻 基礎科学コース
OVERTURE
天文学者を一途に目指し、理工学研究科博士後期課程で天体現象に関する研究に励んでいる台湾出身の盛さん。異文化に飛び込み、専門知識を深めながら見聞を広めた青学での学び、そして今思い描く将来についてお聞きしました。
憧れの宇宙を研究するため青学へ
私には小さい頃から天文学者になるという夢があります。小学生のときに図書館で太陽系に関する図鑑を見て宇宙のスケール感に圧倒され、たちまち心を奪われました。以来、私にとって謎に満ちた宇宙は憧れです。
留学を考えるようになったのは、海外で異なる文化に触れながら多様な人と交流し、視野を広げたいと思ったからです。私は『ガンダム』シリーズを皮切りに、日本のアニメやドラマに親しんで育ち、常々日本に行ってみたいと思っていたため、高校から日本に留学することを決意しました。そして、大学進学については、高校の先生に進路について相談した際、青学には宇宙関連の研究室が複数あること、さらに理工学部がある相模原キャンパスはJAXA宇宙科学研究所のすぐ近くにあり、JAXAと連携大学院協定を締結していて宇宙を研究するのに最適な環境が整っているということを教えていただき、天文学の授業がある物理・数理学科*(※2021年度より、物理・数理学科は「物理科学科」「数理サイエンス学科」に改編)へ進学しました。
本格的に天文学の授業を履修したのは学部3年次からで、現在所属している研究室の指導教員である坂本貴紀先生の「宇宙物理I」「宇宙物理 II」の授業でした。それまで想像を膨らませていた天文学という学問の面白さを実感し、ますます研究へのモチベーションが向上しました。また、授業の途中で坂本先生が宇宙に関する最新のトピックスを話してくださるのも楽しみで、今日はどんな話が聞けるだろうかと毎回ワクワクしていたことを覚えています。
当時の私は、大学に入学したからには、一刻も早く宇宙の研究がしたい一心で、3年次の天文学の授業を早く履修したくて待ちわびていました。しかし4年生になり研究室に所属していざ研究が始まると、天文学の問題を理解するためには、量子力学や統計力学、相対論などさまざまな基礎物理学の知識が必要であることに気がつきました。3年次までに幅広い基礎知識を積み上げ、専門領域で応用するという青学のカリキュラム設計の意義を今では身をもって感じています。
謎多き天体現象の解明に挑む日々
研究室では、ガンマ線バーストの正体を解明するべく、 JAXA宇宙科学研究所 が行うX線観測衛星「HiZ-GUNDAM」計画における開発とNASAのSwift衛星から取得した観測データの解析を行っています。ガンマ線バーストとは宇宙で莫大なエネルギーがガンマ線として放出される爆発現象で、発見から半世紀経った今も発生源や放射機構が明らかになっていません。現在、HiZ-GUNDAMはJAXAの公募型小型衛星プロジェクトの候補のひとつに選ばれており、最終的に採択されれば、打ち上げが可能となります。衛星開発に携わることは坂本研究室を選んだ大きな目的であり、私はこのプロジェクトに学部4年次から参加しています。衛星に搭載するカメラの性能調査に始まり、現在は観測データの処理方法の構築に取り組んでいるところで、チームの仲間と共に目標に向かって研究に打ち込む日々は充実しています。
日本語の勉強は中学卒業後に一から始めましたが、博士後期課程の現在でも、正しい文法や言葉遣いで読みやすい文章を書くことには、細心の注意を払っています。特に母国語である中国語にはほとんど敬語がないため、相手に失礼がないよう言葉を選ぶのは難しく、論文執筆や発表をする際には、日本語表現についても坂本先生に指導をいただいています。また、大学院に進学してからは「物理基礎実験」という授業のTA(ティーチングアシスタント)を務めており、学生を教える経験がわかりやすく説明をする訓練になっています。
研究を進める上で意識しているのは、客観的な視点を持つことです。そのため、日頃から他者の意見を聞くことを心掛けています。異なる考え方を知ることで、自分の足りない部分に気づくことも多く、それが新たな取り組みにつながることもあります。こうした姿勢は、いろいろな価値観に触れることで思考が柔軟になると留学を通じて学んだからこそ身に付いたものだと思います。
他の学問領域から自分の研究を見てみることも重要だと考え、大学院進学後も専門科目だけでなく、教養科目等で興味があることを積極的に学んできました。特に印象に残っているのは、経済と世界情勢の結びつきの強さを知った「
グローバルエコノミー」の授業です。私は元々世界情勢に関心があったことから、この授業をきっかけに、各国経済に関するニュースにも注目するようになりました。専門分野にとらわれず、幅広い分野で知識を深める機会が得られることも青学で学ぶ楽しさだと思います。
※盛さんの研究内容(坂本研究室の宇宙物理学分野での取り組み・航空宇宙分野における本学の取り組み)に関する情報はこちら
かけがえのない思い出ができた美術部での活動
私は幼稚園のときから絵画教室に通い、絵を描くことが趣味なので、学部時代はAOVI(青山学院大学学友会美術部)というクラブに所属していました。AOVIの活動は青山キャンパスで行われていたので、普段は交流機会が少ない文系の学生とも趣味を通じて仲良くなることができ、本当に楽しい時間が過ごせました。学園祭に向けて夜遅くまでみんなで大きな看板を描いたり、イベントの運営をしたり、AOVIでの思い出は留学生活の大切な1ページです。
実は、研究室でも思いがけず美術のスキルで評価をいただく出来事がありました。坂本先生が主催者の一人として関わっていらっしゃるガンマ線バーストの国際学会「Gamma-ray
Bursts in the Gravitational Wave Era 2019」のポスターを研究室内で作成することになった際、私がその役割を引き受けたのです。そのポスターが学会スポンサーや他大学にも大変好評だったそうで、理工学部が使用権を買い取ってくださり、今でもいろいろなところで私が描いた絵が使われています。ポスターを描いたのは坂本研究室に入って間もなくで、何をするにも先輩方から教えてもらってばかりいた時期だったので、自分の特技で研究室に貢献できたことが、とても嬉しかったです。
留学生のチャレンジを後押ししてくれる充実したサポート
留学生である私が博士後期課程まで進学し、不安なく研究に励むことができているのも、青学の充実したサポートのおかげです。特に国際センターのスタッフの方には、ビザの更新方法から日本で生活する上での細かい注意事項までいつも丁寧に教えていただき、どれだけ心強かったかわかりません。また、これまでに学内外の外国人留学生奨学金を受給し続けることができています。博士前期課程在学中は「青山学院大学産学合同外国人留学生グローバル奨学金」と「一般財団法人守谷育英会奨学金」を、博士後期課程の現在は、大学院生の研究支援「AGUフューチャーイーグルプロジェクト」に加え「文部科学省外国人留学生学習奨励費」もいただいており、物心両面での支援に感謝しています。
日本でたくさんの人に助けてもらった分、自分も何か留学生の役に立つことがしたいという思いから、学部2、3年次には留学生チューターを務めました。主にタイからの交換留学生のサポートを担当し、プライベートでもホームパーティをしたり、キャンプに行ったりして交流を深め、新鮮な経験ができました。
博士後期課程修了後は、天文学者になることが第一の目標であることに変わりはありません。しかし留学を通して、自分の知識や経験を次世代につなぎ、社会に還元したいという思いが芽生え、もうひとつ新たな目標ができました。それは、世界各地で科学の楽しさが体感できるイベントを開催し、多くの人が科学に興味を持つきっかけを作ると共に、学びたい意欲を持った人の留学を支援し、グローバルな視点でさまざまな社会問題の解決に貢献できる人材を育成するための国際公益組織を創設することです。まずは天文学者になる夢を叶え、ゆくゆくは学者として蓄積した知識を生かしてこうした活動が実現できるよう、がんばっていきたいと思います。
一人母国を離れることには多くの不安があると思います。しかし、青学には日本の文化を体験しながら安心して自分がやりたいことにチャレンジできる環境があります。ぜひ留学で国際的な視野を養い、自分の可能性を広げてください。
理工学部 物理科学科
青山学院大学の理工学部は、数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
物理学は根源原理がシンプルで、幅広く応用できる学問です。物理科学科では、原子から宇宙まで、そして半導体や超伝導物質についても学びます。また、生命科学も物理学の手法で解明します。これらの研究においては、古くからビッグデータの解析(データサイエンス)が必要で、AIの普及は、物理学を基盤とする我々にとって、とても魅力的な時期です。講義や実験・演習形式の授業を通じて物理を学び、充実した設備環境での実験により自然現象や先端技術に対する理解を深めます。
国際センター
国際センターは、大学の国際化に関わる教育支援と国際人育成をサポートしていきます。主な業務は、海外協定・認定校を対象とする「学生派遣」と「留学生の受入れ」、短期語学研修などのプログラムやイベント等の企画・運営、および青山学院中・高等部などの設置学校と大学間のグローバル化に関わる一貫教育体制のサポートなどを担います。国々の多様な文化や慣習および学生の異なる価値観を尊重しながら、海外大学と本学との連携をさらに強化・拡充していきます。