ゼロから学んだ歴史学。
数多くの文献や議論を通してその重要性に目覚めた

掲載日 2023/2/28
No.216
文学部
史学科 4年
森 就
東京都立小金井北高等学校出身

OVERTURE

森さんは受験科目だった世界史の勉強がおもしろいからと受験した史学科に合格し、それまであまりなじみのなかった歴史学と向き合う大学生活が始まりました。しかし、今では政治や文化といった過去の人々の営みを文献や議論に基づいて考察を深める歴史学の世界にすっかり魅せられ、本学科に進学して本当に良かったと感じているそうです。森さんを夢中にさせた歴史学のおもしろさを教えてもらいました。

歴史の勉強はメディアリテラシーの向上にも役立つ

本学科では2年次から日本史・東洋史・西洋史・考古学の4つのコースに分かれて専門研究の基礎を固め、3年次に選択したゼミナール(ゼミ)でさらに学びを深めていきます。私が所属する安村直己先生のゼミ には西洋史コースの学生が集まり、主に近世以降のヨーロッパ・アメリカの歴史について研究しています。各自が卒業論文に向けて読み解いた文献をクラス内で発表。それをもとに仲間と議論を重ねながら理解をさらに深め、先行研究を超える新しい歴史像を描くことを目標としています。仲間が選ぶ文献は、私にとってゼミでの出合いがない限り一生読む機会がなかっただろうと思うものばかりです。そういった専門外の文献から新しい気づきを得られるのは、少人数で議論を行うゼミならではの利点といえるでしょう。

研修旅行の際に長崎のグラバー園にて

私は19世紀末から20世紀初頭に来日したロシアの民間人をテーマに卒業論文を執筆しようと考えています。ロシア史を専攻する学生は少数派ですが、安村先生のアドバイスを参考にしながら主体的な姿勢で文献探しに励んでいます。歴史を勉強することが心の底から楽しいと感じられるようになったのも、こういった主体的な学びによって成長できた証しだと自負しています。
歴史学は当然のことながら、過去を対象とする学問です。過去を知るためには、その時代やそれより後の時代に生きた人々が書き残したものや、私たちよりも先に歴史を叙述した人々の成果を読む必要があります。ここで忘れてはならないのは、その文献は誰が、いつ、何のために書いたものなのかを考えること。これを見誤ると、過去の人々が残した間違った情報を正しいと思い込み、事実ではない歴史を記してしまうことになりかねません。歴史を学ぶ上で大切なこのスキルは、現代のメディアリテラシーにも通じるものといえるでしょう。

多様な知識を吸収し、研究テーマをブラッシュアップ

専門科目の「西洋史特講(2)」では、18世紀から20世紀にかけてのイギリス帝国の歴史を、環境という観点から学びました。「奴隷制と環境」「南アフリカにおけるハンティング」「インドにおける森林政策」などのトピックを取り上げ、イギリス植民地の人々が環境のことをどのように捉えて扱ったのか、それが人々にどのような影響をもたらしたのか、人間の主体性に注目して考察を進めていきます。
毎回、フィードバックのための課題やリアクションペーパーが課され、先生からは丁寧なコメントが返ってきます。自分とは異なる時代や地域を研究しているクラスメートたちのレポートも読めるため、自分の研究に応用可能な視点を発見しては大いに刺激を受けています。今まで興味がなかった分野の文献を読む機会も多く、新しい知識や研究方法の習得はもちろん、勉強してきた内容との関連性に気づくこともしばしばです。こういった発見は自分の研究テーマや手法を再考するきっかけにもなり、非常に実りのある時間を過ごすことができました。

民主主義の歴史や理論を学んで批判的思考を身に付ける

本学独自の全学共通教育システムの青山スタンダード科目 では「現代史A 」の授業が興味深かったです。19世紀から現在までの世界的な民主化の流れを概観し、民主化という政治現象を理解する授業で、歴史というより政治理論に関するテーマに比重を置いた内容です。アメリカの政治学者であるハンティントンの著書『第三の波』をひもときながら、民主主義の成立過程や現状、それ以外の政治体制との関係などを学びます。過去を対象とする史学科の学びとは性格が異なりますが、専門科目でふれることの少ない「現代」を考察するプロセスは新鮮で、やりがいを感じました。選挙制度に関する講義では、民主主義とは「国民が主体的に参加する政治体制」であり「投票の強制」は民主主義ではないことを知ります。近年は投票率の低下が問題になっており、投票を義務化すべきではないかという意見も耳にするだけに、このトピックは非常に印象的でした。
私は民主主義が当たり前の社会に生き、その歴史的過程と理論について深く考えたことがありませんでした。この授業で民主主義の歴史、定義、理論に向き合ったことで、今では世間の民主主義に関する言説を批判的に考察できるようになったと思います。
また、第二外国語はロシア語を選択しています。青山スタンダード科目の「インテンシブ・ロシア語 」は、「ロシア語Ⅰ」を受講した学生が2年次以降もさらに学びを深めるために設置された授業です。週に4コマ講義があり 、少人数で細やかな指導が受けられます。文法・語彙・会話などの言語学習を通して、ロシアの文化などについても幅広く学ぶことができています。

歴史を学ぶことは、現代社会に対する理解へとつながる

私は、歴史学という学問についてあまり知識のないまま本学科に進学しました。1年次に履修した「史学概論」で歴史を学問的に学ぶ意義を教わり、2年次に学んだ「基礎演習」の授業で研究方法の基礎を習得。さらに多彩な専門科目で抽象論・具象論の双方を学び、授業を通して出合った多くの文献を読み込むうちに、歴史学が目的とするもの、歴史の扱い方などを理解できるようになりました。歴史学では、過去の出来事を当時の価値観を通してとらえるスキルが必要です。時代が異なる人々の考え方を知ることは、現代人である私たちの考え方を相対化して見直すきっかけにもなります。歴史を学ぶというプロセスが現代社会への理解につながると気づけたことは、自分が成長した証しだと思います。

2022年度後期から休学し、外務省在外公館派遣員としてロシア語圏の在外公館でお仕事させていただくことになりました。試験に合格できたのは青学で教鞭をとられているロシア語の先生方と、他学部の学生にも丁寧にご指導くださった国際政治経済学部のポダルコ先生のご支援をいただいてのことです。また、受験の動機となった根本的な関心は卒業論文のテーマにもなっている日露交流の歴史であり、ご自身の専門分野であるラテンアメリカの歴史学とは時代も地域も異なる学生である私を受け入れてご指導くださった安村先生のおかげです。復学・卒業後の進路は現地での仕事を通して考えたいと思っています。

インタビュー動画

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2022年度)のものです。

文学部 史学科

青山学院大学の文学部は、歴史・思想・言葉を基盤として、国際性豊かな5学科の専門性に立脚した学びを追究します。人間が生み出してきた多種多様な知の営みにふれ、理解を深めることで、幅広い見識と知恵を育みます。「人文知」体験によって教養、知性、感受性、表現力を磨き、自らの未来を拓く「軸」を形成します。
ギリシア語の "historia" は英語の "history" と "story" の語源で、歴史・物語という両方の意味をもちます。人間の歴史に物語性がある証左でしょう。しかし、歴史学は史料を読み解き、過去を再構成する科学的・実証的な学問です。史学科では日本史、東洋史、西洋史、考古学の視点から学びを深めます。歴史を通して、人間とその社会について広く深い理解力を養い、社会の持続可能性も探ります。

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