猿橋教授からの
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猿橋 順子

私のゼミナール(ゼミ)では、都市の社会言語学をテーマに、異なる言語話者達が行き交う「場」におけるコミュニケーションについて分析し、「言語が違う人々が一緒に暮らす社会」をより暮らしやすくする方法を議論、検討しています。文献による学習とともに、フィールドワークやインタビューからの学びを重視しています。
Q.ゼミでの研究内容を教えてください。
都市の社会言語学をテーマに、3年次前期には、通りや広場、公園などの公共空間に書き込まれた文字に注目する「言語景観調査」、ゼミの夏合宿を経て、後期には一人一人、自分で決めた人にインタビューする「ライフストーリーインタビュー演習」に取り組みます。4年次にはそれぞれテーマを設定して卒業研究を行います。
まずは匿名性の高い観察からはじめ、自分の中にテーマが生まれてきたところで相手の話を聞く学習、その後1対1のインタビューに進むという流れを意識しています。
2024年度前期の「言語景観調査」は、多国籍の人々が集まる新大久保でのフィールドワークを行いました。行政の統計資料や関連書籍等で基本事項を学んだのち現地に出かけ、案内板、店舗の看板、注意書き、落書きなどを写真に収め、その場所や表示内容、表示による人々の行動への影響も観察して記録します。皆で集めたデータを持ち帰り整理して考察テーマを設定し分析していきます。イベント会場を調査地とすることもあります。2023年度には、上野恩賜公園で開催された台湾フェスタでの「台湾らしさ」の表現について分析をしました。
2024年度、「ライフストーリーインタビュー演習」の共通テーマは「言語圏を越境した経験を持つ人」、「地元商店街で活躍する外国籍住民」でした。在日外国人、留学生、帰国子女など、各自が対象者を選んでインタビューを行い、録音した「語り(ナラティブ)」を分析しました。
夏休みには前期授業と後期授業を結ぶテーマを設定してゼミ合宿を行います。2024年度は、外国籍住民の地域参加が進む神戸市長田区で、外国人支援NPO、在日ベトナム人コミュニティなどを訪問し、お話を伺いました。
テーマは必ずしも多言語や外国籍の人に関わるものとは限らず、これまでには目の不自由な方にとっての都市生活を取り上げた年もあります。
Q.指導する中で心がけていることはどんなことですか?
学生には自分自身で考察テーマなどを考えてもらいたいので、私から細かい指示を行わないようにしています。誰もが最初から自分で考えることができるわけではありませんが、調査や発表を通じて、自分ならではの課題が生まれ、関わり方が確立されていきます。卒業論文を読むと、どの学生もその人らしいものを書いていると感じます。
「多様性が大切」とは、広く世の中でいわれることですが、きれいごとではなく自分自身が腑に落ちる形でそれを理解してほしいと考えています。教室ではどうしても模範解答が出てきがちです。もしも自分の中に排外的な面があることに気づいたとき、それを隠すのではなく正直に表に出して皆で話しあえる、そういう環境をつくっておくことを大切にしています。
また、フィールドワークやインタビューでは、調査対象者への敬意と配慮を欠くことがないよう、適切な倫理観を育てる指導も心がけています。
Q.ゼミにはどんな学生がいて、どんな雰囲気ですか?
「我が道を行く」タイプの人が集まり、学年によって雰囲気は異なる印象です。その学年ならではのカラーをつくってほしいと思っています。
社会言語学を研究する本ゼミは、1年次に「社会言語学入門」を履修し、2年次にことばの使用や働きを分析する手法である「ディスコース分析」を選択し、そこで芽生えた問題意識をゼミで深めていく流れを基本設計としています。しかし、社会言語学は多様な視点や背景を持つ人々が集まって議論を深める分野ですし、学科横断的な学びは国際政治経済学部の強みでもあります。そこで、私の授業を履修していない学生にも広く参加してほしいと考えています。
フィールドワークを含む調査研究では、学生同士が対話し、協力し、時には失敗もしながら信頼関係を築いていくことが重要です。学生たちは多様性を肯定し、違いを尊重する大切さを、異なる視点からの指摘を受けて自らの見方を広げる実体験を通じて、学んでいきます。
互いの違いをよく理解し、尊重し合えるようになってきた段階で、皆で意気揚々と出かけていくフィールドワークは、まるで遠足のような高揚感があります。当たり前だと思っていたことばの使用を新しい視点で見直す楽しさ、知らないことの多さに愕然とする面白さを一緒に味わいましょう。




学生の
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アメリカ・Troy High School 出身

このゼミの魅力は、フィールドワークを通じて多様な文化や価値観に触れられる点です。調査分析では、対象となる人々の背景や土地の歴史なども掘り下げる必要があり、難しさも感じますが、自分の目で見て感じて、具体的な経験に落とし込んで異文化を知ることは、大きな学びとなっています。
例えば、夏休みのゼミ合宿で、外国籍住民を巻き込んだまちづくりの取り組みについて、課題を含めて、現地の方に話を伺えたことは印象的です。訪れた神戸市長田区は、阪神・淡路大震災から復興し、現在は外国籍住民が増えるなかで多文化共生が模索されている地域です。街中の多言語表示を観察・記録した他、多国籍住民当事者や彼らをサポートするNPO法人の職員の方からお話を聞き、文化背景の異なる人びとが共に暮らす上で必要なことを考察しました。

学べた神戸市長田区でのフィールドワーク
在日ベトナム人二世の方からアイデンティティーの揺らぎについて伺ったことも貴重でした。というのも、私が猿橋先生のゼミを選んだのは、自分がアメリカで暮らした経験から、使用言語がアイデンティティーに与える影響に関心を持っていたからです。こうした経験から、3年次後期の「ライフストーリーインタビュー」では、日本よりもアメリカ滞在歴の長い、私の弟にインタビューをしました。アメリカ社会への帰属意識が強いのだろうと予想していたのですが、当時、高校から日本に戻り、友人との触れ合いなどを通して日本人の自覚が高まっていたことを意外に思いました。その発見から、卒業研究では多言語話者、特にバイリンガルのアイデンティティーについて環境との関係から研究することに決めました。
自ら疑問や課題を見つけて研究を進められるこのゼミは、主体的に学びたい人に特におすすめです。
学生の
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千葉・千葉市⽴稲毛⾼等学校出身

日常的な視点から普遍的なテーマで自由に研究できることに魅力を感じてこのゼミを選びました。新大久保での言語景観調査は特に印象に残っています。データを集めて整理してみると、日本語・英語・韓国語・中国語が多く見られるメインストリートに比べて、路地ではそれ以外の言語表示が増えるなど、数メートルの違いで傾向が異なり、ふだん何気なく出かけている新大久保でも、社会言語学の観点で見ると複合的なコミュニティの特徴があることに驚きました。特に、南側の新宿に近いエリアになると、韓国語よりも英語が増えるという点は興味深い発見でした。この経験をもとに、卒業研究では渋谷の言語景観調査に取り組むつもりです。外国人観光客が多く訪れる渋谷での言語政策について、看板等を見て情報を受け取る側の視点、看板等を設置し情報発信する側の視点、両方から検証することを構想しています。
このゼミには、互いの意見を尊重しながら活発に議論する風土があります。以前はリーダーとして自分の意見を強く持ち、周りに波及させることが大事だと思って、そういう経験を多く積んできましたが、ゼミでは、自分とは異なる発想や意見をまず受け入れ、皆で協力して議論と思考を重ねて最終的にアウトプットにつなげることの大切さを学びました。別の視点を取り入れてものごとを考える柔軟な思考力を持てたことは、特に成長できた点です。

卒業後はコンサルティング業界で働くことを志望しています。多様な意見を受け入れられる力を発揮するとともに、相手にことばがどう伝わったか見届ける社会言語学での学びを、クライアントへのソリューション提示にも役立てたいと考えています。
学生の
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東京・私立青山学院⾼等部出身

身の回りの看板、ポスターのデザインなどに興味があった私は、猿橋先生の「ディスコース分析」を履修した友人に話を聞いて、その内容に惹かれ、ゼミへの参加を決めました。看板や言語の分析と聞いてスマートなイメージを抱いていましたが、実際は街中を歩き回って写真を撮り、膨大なデータを収集し整理するという、地道で「泥臭い」作業が中心で、ゼミ開始当初は少しギャップも感じました。しかし今では、これこそがこのゼミの醍醐味だと思っています。現地に足を運び、一つ一つのデータを検証するからこそ見えてくるものがあるのです。
3年次前期に新大久保で言語景観観察を行った際は、特に路地裏で居住者向けに、看板やポスターが多言語で表示されており、多国籍に対応した言語政策が進んでいると結論づけました。しかし、ゼミ合宿で訪れた神戸市長田区も、多言語翻訳の表記が多くある一方、大半はルール周知等の注意書きで、外国籍の方が日本での暮らしをより豊かにする内容や情報が少ないことに気づきました。この視点で新大久保のデータを再検証すると、外国人に日本の生活に慣れてもらおうとする意図が強いことも見えてきました。前期・後期を通じた地道な調査が、この理解を生んだと思います。

ゼミでの学びを、所属する体育会アメリカンフットボール部で試合分析を担当するアナライジングスタッフの活動と結びつけ、卒業論文ではチームが強くなるための言語政策をテーマにするつもりです。ゼミに入る前は、できるだけ効率よく勉強を済ませたいという思いがありましたが、今では研究や分析に真剣に向き合うことの面白さに気づきました。頭を悩ませながら取り組む日々も充実しており、満足のいく卒業論文を書き上げるのが楽しみです。
※各科目のリンク先「講義内容詳細」は2025年度のものです。
国際政治経済学部
国際コミュニケーション学科

青山学院大学の国際政治経済学部は国際社会への貢献をそのミッションとし、国際系学部の草分けとして創設されました。各学科の学びを深めるだけでなく、有機的に3学科の学びを統合することもできます。グローバルレベルの課題への理解を深め、エビデンスにもとづいて議論・討論するスキルを養成します。世界の多様な人々と協働し、新たな価値を創造する実践力を育みます。
国際コミュニケーション学科では、激変する国際社会において政治学的・経済学的な視点からだけでは扱いきれない国際事象を学問領域として学修・研究します。異なる文化への理解と他者との共存について考え、国際社会が抱える諸問題の解決に貢献できる人材を育成します。卒業生は国際渉外・広報、各種海外協力事業団、通訳・翻訳、マスコミ業界などさまざまなフィールドで活躍しています。
バックナンバー

研究者への道に導いたのは、青学での選択肢の広い学び
理工学研究科 理工学専攻
機能物質創成コース博士前期課程 2年

多様性の街「渋谷」で、自分だけの特別な場所を見つける
(フランス・トゥール大学)
Maxime Labbé

入学時からの努力で開いた公認会計士への道。誠実に財務諸表と向き合い監査の価値を高める
経済学部 経済学科卒業

夢は日本のビジネスを支える弁護士。正確な知識と「説明できる力」で、司法試験に挑む
法学部 法学科 4年

将来を模索していた私が
経営学科で見定めた
公認会計士という目標
経営学部 経営学科 4年

研究を通して積み重ねた
挑戦と成功体験が大きな自信に
理工学研究科 理工学専攻 知能情報コース
博士前期課程2年

オリジナルの分子を使って
新たな核酸の検出手法を開発
理工学研究科 理工学専攻 生命科学コース
博士後期課程2年
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