ブラックホールや超新星など
人知を超えた世界だからこそ
宇宙物理学は楽しい

掲載日 2023/7/31
No.252
<2023年度 学業成績優秀者表彰 最優秀賞受賞>
理工学部 物理・数理学科 物理科学コース 4年
及川 凜
北海道江別高等学校出身

OVERTURE

2023年度学業成績優秀者表彰で最優秀賞を受賞した及川凜さん。高校時代から数学が得意だった及川さんは、理工学部 物理・数理学科*に入学後、自ら問いを立て探究していく学問研究の面白さに目覚め、スケールの大きな未知と向き合う宇宙物理学への関心を深めていきました。4年次、研究室で卒業研究に取り組む準備を始めた及川さんに、学科の学びの中で宇宙への関心をどのように育んでいったのか、そして将来の学究への夢について語ってもらいました。

*2021年度から、物理・数理学科は「物理科学科」「数理サイエンス学科」に改編

「答え」が用意されていない問いを探究する魅力

高校時代は得意な科目が数学でしたが、物理を学ぶことにも興味がありました。広大な自然に恵まれた北海道出身で、星空を眺めることが好きだったので、宇宙や星の動きについて考える機会が多く、もし大学で物理を専攻することになったら、宇宙物理を研究したいと考えていました。宇宙物理に関する本を読んだ時、20世紀初頭に一般相対性理論を発表したアインシュタイン、さらにその一般相対性理論が成り立たない「特異点」の存在を明らかにしたロジャー・ペンローズ博士やスティーブン・ホーキング博士などのスケールの大きさに触れ、心の底からワクワクする興奮を覚えました。とはいえ、高校時代の私は「学ぶ楽しさ」をまだ知りません。勉強とは、ただ教科書を読んで決められた「答え」を見つけるものだと思い込んでいたからです。

学業成績優秀者表彰式にて。大学進学時は、まだ「学ぶ」楽しさを知らなかったという

 そんな固定観念を打破してくれたのが理工学部の先生方です。1年次に履修した「力学Ⅰ・Ⅱ」は、この授業に出会わなければ今の自分はいなかった!と思えるほど、大きな影響力を与えてくれた科目です。大学で学ぶ物理学は、微分積分学などをツールとして自然現象に迫るもので、高校で学んだ物理学との違いを実感しました。必ずしも明確な「答え」があるわけではないことに大きな驚きとたまらない魅力を感じました。なぜなら、世界中の誰も知らない「答え」を求めて、自ら問題設定をし、飽くなき探究を続けるこの学問研究の醍醐味に気付いたからです。この授業のおかげで専門的な物理学をより深く学びたいと思い、2年次に物理科学コースを選択しました。

仲間との議論を通し、物理学の面白さを実感することができた

人知を超えた天体の存在や現象への挑戦

青山スタンダード」科目を通して、物事の多様性や多面性を捉えることで、自分が知らなかった世界が広がり、学問の奥深さや面白さに気づかされました。たとえば2年次で履修した「世界遺産入門」では、世界遺産を学ぶことで、世界の多様な自然・歴史・文化・民族・宗教を知り、異文化を理解して、多角的な視座で物事を捉える能力や、柔軟に考える基礎がつくられたと思います。このことは、人間関係や実社会での生活、専門としている物理にも生かされていると実感しています。

「青山スタンダード」で学んだ基礎教育は、世界を広い視点で見るきっかけとなった

専門科目では、3年次に「宇宙物理」を履修し、宇宙への関心が決定づけられました。授業で取り上げられたのは、光すら脱出できない特異な天体「ブラックホール」、また太陽などの軽い恒星の終末期である「白色矮星(はくしょくわいせい)」や超新星爆発後に中心に残る「中性子星」です。こうした人間の想像力をはるかに凌駕する現象を解明するために、宇宙物理学ではニュートン力学だけに留まらず、電磁気学や一般相対性理論、さらにはミクロの世界を支配する量子力学など、人類が築き上げてきたあらゆる物理学研究の成果を駆使します。このことが宇宙物理の難しさであり、最大の魅力であると思っています。

山崎研究室が所持しているAGEHA(望遠鏡)のメンテナンスも行う

さらに、この科目の履修を通じて、英語力の向上を実感しています。テキストは全て英語で書かれた洋書なので、授業での不明点や、直接的に触れられなかった部分を自分で掘り下げていくためには、必然的に英語力が必要になります。専門領域の学びを深めるプロセスの中で、英語の専門用語や学術英語にも自然と向き合い、親しむことができるので、英語で書かれた関連書籍や参考文献にも抵抗感なく手が伸びるようになりました。今では、英文で読めるようになった文献数も増えてきました。

「研究仲間」として接してくださる学科の先生方

宇宙物理学には「観測」をメインにする研究方法と、「理論」を中心にする研究方法があります。私は、4年次から後者にあたる山崎了教授の「高エネルギー天文学・高エネルギー宇宙物理学」研究室に所属しています。 卒業研究は「ブラックホールによる潮汐破壊現象」をテーマに、恒星が超大質量ブラックホールによって引き裂かれ、エネルギーが放出される現象に関する必要な知識を、今はインプットしている段階です。高度な宇宙物理に挑むためには、1~3年次で培った物理学の知識を土台に、さらなる高等数学のスキル、及び直感的な物理的イメージが必要不可欠であることを実感しています。研究には知力に加えて、あきらめない粘り強い精神力、長丁場でもバテない体力が必要だと考えているので、毎日のランニングを自分に課しています。

研究の道を進む覚悟を決めて、毎日ランニングを行うなど、体力作りにも余念がない

研究室の山崎先生をはじめ、学科の先生は面倒見がいい方ばかりです。質問に行くといつも歓迎してくれ、「答え」がない問題も一緒に考え、疑問に関連する重要な文献(ほとんど英文です)を紹介してくださいます。卒業後の進路についての相談をする時も、教授と学生というより、同じ「研究仲間」としてオープンかつフレンドリーに接してくださるので、こうした研究環境も理工学部の大きな魅力だと思っています。

関連リンク:実験室で宇宙プラズマ衝撃波の生成に成功。その成果を米科学誌に論文発表

大学院進学、そして研究者を目指す覚悟

大学卒業後は、大学院に進学して宇宙物理の研究を続けていくつもりです。3年次の終わりの春休みに、国立天文台科学研究部が主催する研究体験「春の学校」に参加しました。全国から集まってきた天文学研究を志す学部生15人とともに5日間、第一線で活躍する研究者の方々による超新星に関する講義を受け、流体計算などの実践的な演習を行いました。最終日にはプレゼンテーションとディスカッションの時間もあり、他大学の学部生や研究者の方々との交流を通して、まだまだ謎が多い宇宙への思いや研究への取り組み方について大きな刺激を受け、これまで漠然と抱いていた「研究者になりたい」という思いが明確になり、研究の道を目指す覚悟が定まりました。

将来は宇宙・天文関係の研究機関などに所属し、まだ解明されていない宇宙の物理現象や、未知の物理に挑んでみたいという夢を描いています。研究者への道は険しく、簡単に実現できる夢ではないと自覚しています。しかし、こんなに面白い宇宙物理学の研究を途中でやめるわけにはいきません。そして、まだまだ先の話ですが、やがてはお世話になった先生方のように宇宙での現象に関心を持つ若い世代を励まし、育てる大学教員になりたいと思っています。卒業研究はそのための第一歩。一日一日を大切に、残りの大学生活を過ごしていくつもりです。

国立天文台科学研究部が主催する研究体験「春の学校」にも参加した。前列の右から5番目が及川さん

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は掲載年度(2023年度)のものです。

理工学部 物理科学科

青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎か ら最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備 を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一 で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
物理学はシンプルな根源原理を理解することによって、幅広い科学分野に応用できる学問 です。物理科学科では基礎物理学をはじめ、固体、宇宙、生物といった対象が絞られた分野、 さらには超伝導、ナノテクノロジーなどの最先端応用分野まで、さまざまな階層・スケール サイズの物理学をカバーします。充実した設備環境での実験・演習形式の授業により、理解 を深め実践力を高めます。

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