「過去に学び、本質を見極め、継承する」姿勢と「好き」をつなげて未来を切り拓く

掲載日 2024/6/4
No.303
<2022年度 学業成績優秀者表彰 優秀賞受賞>
文学部 史学科 4年
平田 さくら
福岡県立博多青松高等学校出身

OVERTURE

1年次に日本史、西洋史、東洋史、考古学の基礎をじっくり学習したうえで、2年次から選択したコースで学びを深めるカリキュラム、そしてそれに対応する教員の充実ぶりに魅力を感じて青山学院大学の史学科に進んだ平田さくらさん。教員と学生の距離が近い環境で卒業論文に打ち込んだ結果、社会のさまざまな場面で応用可能な歴史学的思考を身に付けました。歴史学を通じて培った力は、「好き」を大切にしながら「自らの力」を生かすための就職につながりました。

歴史学の学び方・思考法を徹底的に身に付けた

高校時代、世界史の先生から「それだけ歴史が好きだったら、大学は史学科に進んでは」と勧められ、「青山学院大学の史学科は、在籍する先生方の扱っている時代・地域の幅が広い。だからこそ、あなたが進学後に自分のやりたいことを見つけたとき、全力でそれをサポートしてくれる環境が整っている」とアドバイスをいただき、心を決めました。歴史学の概要を幅広く学んだ後、興味関心の対象が明確になってからコースに分かれるところも魅力でした。

史学科に入学してまず驚いたのは、高校のような教科書がないこと。それどころか、1年次の「史学入門」など多くの授業で「教科書はまず疑ってかかれ」と言われます。特に印象的だったのは、当時「西洋史概説」を担当なさっていた菊地重仁先生(2022年4月より東京大学大学院准教授)が、玉石混交の情報があふれる現代に批判的視点で史料を見ることの重要性を「“逆なで”しながら読む」と表現されたことでした。それまでは、教科書に書かれていることを「正解」として暗記する勉強をしてきたのに対し、大学の歴史学では、資料や史料を鵜呑みにすることなく批判的に捉え、答えのない問いに向き合うことが必要となる、その事実に衝撃を受けました。入試のような目標達成のためではなく、学ぶことそのものを楽しむ環境が新鮮でした。

史学科では2年次からコースに分かれて学びを深めます。私はスペインの中世から近世、スペインを征服したイスラーム世界に興味があったので「西洋史コース」を選びました。稲垣春樹先生の「西洋史特講(1)」は、イギリス帝国史を「ジェンダー」と「黒人の経験」から考察する授業で、スペインの歴代国王について女性史やジェンダー史の観点から研究することを希望していた私にとって、新しい視座を身に付ける授業となりました。歴史学を本格的に学ぶ上で必要なスキルを身に付けることができた、という点でも深く印象に残っています。

また、史学科の授業で自然に身に付いた「史料批判の態度」は、実生活でも重要だということに気づきました。日々膨大な情報にさらされている私たちは、誤った情報に左右されることなく正しい情報を選び取っていかなくてはなりません。また、過去に起きたことを現在の価値観で受け止めるのではなく、過去を当時の文脈から理解する姿勢は、事実を歪曲なく認識するための助けとなりました。

大人になって新しい趣味の世界を広げてくれた文学部史学科での学び

歴史学の基礎を学んでいくうちに、歴史学のおもしろさは史料を読み解いて過去を再構成する科学的・実証的なところにある、という史学科の教えが実感できるようになってきました。現代社会の成り立ちや異文化にも興味が広がって、「人間を知る学問」が充実している文学部共通科目を積極的に履修しました。「西洋美術史Ⅰ」の授業では、先生がおすすめの美術展をアナウンスしてくださるので、それを参考に、友人を誘って頻繁に展示会などに足を運びました。公共博物館・美術館等の常設展を無料で観られる「キャンパスメンバーズ・パートナーシップ」も活用し、美術館巡りは私の趣味の一つになりました。映画作品を鑑賞しながら映画史を概観する「映像文化論Ⅰ」の授業を履修してからは、ミニシアターに行くのも好きになりました。社会と常に深く関係しているアートは、世界の諸事象と人間が向き合うところから生まれる「人間の表現」です。歴史とアートを通じて未来を見据える洞察力が身に付いたのは、文学部史学科という学びの環境のおかげだと思っています。

角川武蔵野ミュージアム「ファン・ゴッホ ー僕には世界がこう見えるー」を鑑賞

20歳になってからは、「日本酒」という新しい趣味もできました。10代の頃から食に関心があり、「料理にお酒を合わせたら、おいしいものがさらにおいしくなるのだろう」と憧れていて、初めて飲むお酒は、幻の日本酒と呼ばれる「十四代」に決めていました。華やかでフルーティーな香りと味わいは一度飲んだら忘れられないほど感動的で、「食事×お酒」のおいしい関係にすっかり魅了されました。お酒は、造りの歴史、蔵の歴史、銘柄の歴史など、たくさんの歴史に彩られているので、味わうだけでなく多面的に知識を掘り下げられるところも魅力的です。今では、小さな酒蔵や若い造り手が業界の常識にとらわれないチャレンジをして作ったお酒も積極的に試すようになって、友人に日本酒の魅力を紹介したり、日本食に興味のある韓国人留学生に日本酒も楽しんでもらえるよう案内したりしています。この日本酒愛が後の就職にもつながっていきました。

友人に「お寿司に合うおいしい日本酒」を勧めた時の記念の1枚

歴史家の先行研究にも触れられていない私独自の発見があった卒業論文

3年次からは安村直己先生のゼミナール(ゼミ)に所属しています。南北アメリカ大陸、環太平洋・大西洋世界を中心としたグローバル化の展開に関する文献を読み、参加者が報告、討論をするスタイルです。私がゼミで特に楽しんでいたのは「報告者の問い」というコーナーで、発表学生がこの読み物から何を発見したのか報告することになっていました。自分の発見だけではなく、仲間の発見を共有することで、多角的に物事を捉えられるようになり、卒業論文の執筆に不可欠な「問いの立て方」が自然と身に付いてきたと感じています。

卒業論文では、「15〜16世紀スペイン全盛期の国王に関する後世のイメージについて」をテーマに、カスティーリャ女王イサベル1世をはじめとする国王を、後世の人々がどのように評価してきたのかジェンダーの視点から論じました。イサベル1世はレコンキスタ(国土回復運動)を終結させてスペインを統一に導き、コロンブスの新大陸発見を援助したことでも知られるスペイン史上最も重要な国王の一人です。その治世がどのように達成されたのか知りたいと考えたことがきっかけでした。コロンブスの第一回航海の詳細を記述したラス・カサスによる人物評伝を中心に分析・研究をしましたが、ラス・カサスの人物評は概して詳細であるにもかかわらず、なぜなのか国王について書き記す時だけは、性別をはじめ容姿、性格などにまったく立ち入らないことに気付きました。この特徴は歴史家による先行研究にも触れられておらず、私独自の発見だと、安村先生にコメントをいただいたときは本当に嬉しく思いました。

卒業論文の執筆は、知りたいと思うことに集中して向き合えるばかりか、先生から親身にアドバイスをいただく機会が多く、「めちゃくちゃ楽しい!」の一語に尽きます。先生と一対一で、私自身が書いている文章をテーマに話し合う状況は少し不思議でした。安村先生から卒業論文の提出後に「論文指導が楽しかった」という感想をいただいて、感激しました。安村先生のお話には、いつも心に留めておきたいと思う言葉がよく出てきます。特に「正しく問いかけることは、優れたAIにも真似できない人間にしかできないこと」という言葉は強く心に残っています。

安村ゼミの研修旅行で香川県庁を訪問(前列左から3番目が平田さん)

自分が一番好きなもの、歴史と伝統に裏打ちされた「日本酒」を仕事につなげる

就職活動は3年次の12月頃から開始しました。最初は出版社を中心に採用試験を受けたのですが、苦戦しました。そんなとき、ある面接官の率直なコメントから敗因を客観的に分析してみると、自己紹介や自己PRの話題が趣味の日本酒に傾倒していることに気付きました。自分が一番好きなもの、歴史と伝統に裏打ちされた「日本酒」を仕事につなげていく方が良いのではないか。そう自分に問いかけ、企業研究を続けた結果、日本酒愛が実って、清酒(日本酒)を製造販売する菊正宗酒造株式会社への就職が決まりました。

菊正宗酒造は、長年培った「発酵技術」を核に、「伝統と革新による価値創造へ」というビジョンを掲げる会社で、主力商品に昔ながらの手作り製法「生酛(きもと)づくり」で造る清酒があります。この製法は時間と手間がかかるため、現在では採用する蔵がわずかしかないのですが、菊正宗酒造では、なぜ自社でこれを受け継ぐのか、その良さはどこにあるのか、丹念に調べたうえで継承しており、その妥協のない姿勢に深く共感しました。「古いものだから残さなければ」ではなく、価値を検証して見極める姿勢は、歴史学研究にも通じると思います。その意見を面接でも伝えたところ、担当の方は深くうなずいてくださいました。

史学科で培った「問いを探して考える能力」と、趣味の日本酒愛、この2つが最後にうまく結びつき、自分の強みを発揮できそうな企業と出会うことができて、振り返ってみれば幸せな就職活動でした。「好き」を仕事にできる喜びをかみしめています。安村先生のおっしゃる「正しく問いかける」姿勢を大切に、生涯を通じて糧となるような思考力を身に付けようと努力してきた結果のご縁だと思います。

就職後は、自社商品を酒店やスーパーマーケットなどの小売業へ販売する営業職の担当になる予定です。将来的には商品開発にも関わり、日本酒の魅力を多くの人に伝えていきたいと考えています。青学での経験が、営業やその後の仕事にどれだけ活用できるのか、楽しみながら挑戦していきたいと思います。

ゼミ研修旅行で訪れた香川県の父母ヶ浜(ちちぶがはま)。潮だまりに映し出される「天空の鏡」が神秘的

※各科目のリンク先「講義内容詳細」は2023年度のものです。

文学部 史学科

青山学院大学の文学部は、歴史・思想・言葉を基盤とし、国際性豊かな5学科の専門性に立脚した学びを通じて、人間が生み出してきた多種多様な知の営みにふれ、理解を深めることで、幅広い見識と知恵を育みます。この「人文知」体験によって教養、知性、感受性、表現力を磨き、自らの未来を拓く「軸」を形成します。
歴史学は、歴史史料を読み解き過去を再構成する、科学的・実証的な学問です。難解な史料との「格闘」は、事実に基づいて物事を判断し、自分の意見を述べる力につながります。また、「いま」とは異質な過去に気づくことは、「いま」とは違う未来を構想し、創り出す出発点にもなります。史学科では、日本史・東洋史・西洋史・考古学の視点から、多角的に学びを深めます。

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