研究者への道に導いたのは、青学での選択肢の広い学び
理工学研究科 理工学専攻
機能物質創成コース博士前期課程2年

OVERTURE
高校時代から物理が好きだった長井さんは、大学での幅広い学びを通じて生物にも関心を広げるようになりました。三井敏之教授の研究室で生物物理学の研究に取り組んだ結果、その成果が評価されて「第21回国際生物物理会議(IUPAB2024)」でStudent and Early Career Researcher Poster Awardを受賞。これらの実績が認められ、青山学院大学の2024年度学生表彰も受賞しました。
幅広いカリキュラムが、物理と生物の学びを後押し
物理学への興味が強くなったのは、高校生の頃に物理選択に進んだことがきっかけでした。物理学では、一見まったく異なる現象が同じ数式で説明できることがあり、そうした現象の共通点を見つけて数式などで普遍化して説明できることに魅力を感じていました。大学でも物理学を学びたいと考えていましたが、一方でまだ十分に物理のことを理解していないからこそ、他の分野にも興味を持つ可能性があるとも考えていました。青山学院大学の理工学部を志望したのは、物理学以外にも幅広い分野の基礎を学んだうえで、選択肢を狭めず徐々に専門性を高められるカリキュラムに魅力を感じたからです。
大学で扱う物理学は身の回りのさまざまな現象に即しており、学部での学びを通じてより好きになりました。例えば、「生体センシング」や「先端デバイス」の授業では、色覚やMRIなどを物理学の視点から掘り下げ、物理学を基礎としている身近な技術の背景に触れられる面白さがありました。自分が興味を持っていた有機ELディスプレイについて先生に質問した際には、丁寧に解説していただき、身近なものに対する視野が広がる感覚を味わうことができました。
その一方で、大学で触れた分野の中で特に印象が変わったのが生物学です。高校生の頃は暗記科目という印象が強く、物理学とは対照的に感じていました。しかし実際には、生命現象が物理や化学の原理に支えられ、驚くほど精緻な仕組みで成り立っていることを知り、その奥深さに引き込まれました。
興味を育み、学びを深め、挑戦を支える研究室
私が学部4年次から博士前期課程まで所属していた三井敏之先生の研究室では、DNAや細胞、心臓といった生体試料に対して物理的なアプローチで研究を行う生物物理学をテーマとして扱っています。物理学と生物学の両方を学べる研究室を探していたので、三井研究室を見つけたときには「ここしかない!」と思ったのを今でも覚えています。その中で私は「心臓を構成する主な細胞である心筋細胞と線維芽細胞の働き」をテーマに選びました。これらの細胞の働きには、細胞が接着している周りの環境の「硬さ」が影響していることが明らかになってきています。私は、物理で学んだ材料学の知識を生かして、その環境の硬さを変えると細胞の働きにどのような変化が起きるかを観察するというアプローチを試みました。ところが、いざ実験をしてみると生物学の深い理解が必要だと感じる場面が多く、想定していなかった現象や解析結果につまずくこともありましたが、何が原因なのか、どうしたら解決するのかという本質を常に考えることで、先に進むことができました。
研究室で実験中の様子(ニワトリ胚解剖)
また、研究を進めるうえでは、研究室のメンバーや先生方と議論することも大きな支えになりました。三井研究室では、先生方との距離が近く、教授や学生が活発な議論を行うことがよくあります。三井先生や助教の守山裕大先生は自室を持たれていますが、三井先生はよく学生の部屋に顔を出してくださりますし、守山先生は学生と同じ部屋にいらっしゃいます。そのため、普段から自然と会話が生まれる距離感で接することができ、いつでも話ができる環境になっています。4年次に研究を始めた頃を振り返ると、疑問に思ったことをすぐ質問できる環境があったからこそ、自分自身の成長も加速したのだと思います。このように恵まれた環境の中で、より一層研究にのめり込むようになりました。博士前期課程への進学を現実的に考えるようになったのも、本格的に研究室配属が決まった4年次頃です。それまでは進学を特に考えておらず就職活動を行っていましたが、3年次の後期に研究室の配属先と特別給付奨学金の制度を知り、その対象者に自分が入っていたことで大学院進学を意識し始めました。
研究室に所属する前までは、「研究」といえばノーベル賞や理化学研究所等の研究機関で研究者が本格的に行うものというイメージがあり、研究は飛び抜けて頭の良い人だけができるものだと思っていました。けれども、研究を続ける中で、研究内容やその成果が先達による小さな発見の積み重ねによって築かれてきたことが現代の知識を形成し、そしてそれが誰かの役に立っていると感じました。それと同時に、世の中にはまだ解明されていないことが数多く存在することにも気が付きました。その時に初めて、「自分も研究者になれるかもしれない」と現実的に考えられるようになったのです。
研究内容や理科の面白さを人に伝えることが楽しい
いろいろな学会に参加して自分の研究の魅力を人に伝えた経験も、研究への意欲を高めることにつながりました。2024年に開催された第21回国際生物物理会議では、自ら立候補してポスター発表に参加し、結果として若手研究者に与えられる「IUPAB2024 Student and Early Career Researcher Poster Award」を受賞できました。このとき発表したのは、材料学の知識を生かして線維芽細胞の新たな働きを解明した研究です。線維芽細胞は周囲の硬さにとても敏感で材料の調整が難しいため、適切な培養環境づくりと解析方法の確立に苦労しましたが、追究した研究結果が認められたことはこの上ない喜びでした。また、国際学会では、発表を聞きに来てくださった方との深い議論を英語で行う必要がありますが、英語の勉強にも前向きに取り組めたのは、「自分が感じた研究の魅力を人に伝えたい」という強い思いが根底にあったからだと感じています。
学会でのポスター発表
こうした「伝えること」の楽しさは、学部時代に課外活動として参加した中学生向けの学校ボランティアでも感じていました。物理の課題に取り組む生徒をサポートしたり、質問に答えたりする際には、相手の目線に立ち、身近な現象を用いてわかりやすく伝える工夫を大切にしていました。この経験を通して実感したのが、「自分が楽しいと思っていることは、自然と相手にも伝わる」ということです。私自身、今後も学会発表など、研究成果を共有する機会は数多くあると思います。これからも自分の「楽しい」という気持ちを大切にしながら、積極的に発信していきたいと考えています。
進路に迷う人にこそおすすめできる、選択肢の多い学びの環境
将来は、物理と生物の知見を融合させた研究を通じて、研究者として新たな発見に貢献したいと考えています。高校生の頃は「やりたいことを見つけなさい」と言われることも多いと思いますが、無理に見つける必要はありません。私の場合、理工学部での学びを通して、基礎的な実験や実習に取り組み、次第に高度な専門知識を身に付けながら段階的にステップアップしていきました。そうした中で、物理と生物を融合した研究に出会い、自然と関心が深まり、自分の進む道がはっきりしていったのです。これまでに培ってきた物理と生物の知識を生かしながら、どこまで成果を出せるか、自分自身に挑戦したいという思いが強くなっています。
今こうして研究者を志していることも、高校当時の自分には想像もつかないことです。大学での学びがあったからこそ巡り合えた選択肢でした。そして自身の興味に沿った挑戦をすることができました。だからこそ、「まだやりたいことが見つかっていない」と感じている人には、選択肢の多い環境に身を置くことをおすすめしたいと思います。さまざまな分野に触れる中で、少しずつ興味の幅が広がり、自分らしい道を進むことができるようになるはずです。今後は、京都大学大学院生命科学研究科に進学し、一層、生物よりの研究に没頭する予定です。細胞集団運動などの基礎的な生命科学を探求する研究室に所属するため、生物に特化した研究設備が整った環境で、自身の研究に取り組めることを楽しみにしています。どれだけの成果を出せるのか、自分自身の力を試してみたいという気持ちでいます。
2024年度学生表彰授与式
理工学部 物理科学科
青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
物理学はシンプルな根源原理を理解することによって、幅広い科学分野に応用できる学問です。物理科学科では、基礎物理学をはじめ、固体、宇宙、生物といった対象が絞られた分野、さらには超伝導、ナノテクノロジーなどの最先端応用分野まで、さまざまな階層・スケールサイズの物理学をカバーします。充実した設備環境での実験・演習形式の授業により、理解を深め実践力を高めます。
