海外ボランティアで
得られた2つの成長が
専門分野の学びも変えた
OVERTURE
今なお混乱のさなかにあるウクライナ情勢。2022年6月には、公益社団法人日本財団と日本財団ボランティアセンターが共催するウクライナ避難民支援ボランティアプログラムに本学からも学生たちが参加しました。
現地での活動から半年が過ぎて改めて感じる自らの成長とは。今回はボランティア参加メンバーの一人である正木篤志さんをご紹介します。
「自分の目で確かめたい」とボランティアの現場に飛び込む
「現地で起こっている事実を見極めたい」という思いから、私はウクライナ避難民支援ボランティアへの参加を決めました。2022年当時、報道を通じてウクライナの惨状を知った私は、自分にも何か力になれることはないかと考えて、まずはマスコミやSNSなどで情報を入手することを試みました。ですがそこでは新旧の情報や真偽の定かではない情報が錯綜しており、何が事実か分からない状況でした。そこで「実態を知るためには、現地に行って自分の目で確かめるのが一番良いのではないか」と考えていたところ、インターネット上でボランティア募集の記事を見つけ迷わず応募しました。ボランティア審査に合格してからは、出入国用の書類の書き方や持ち物などについて大学のシビックエンゲージメントセンターに相談し具体的な準備を進めていきました。私はこれまでも家族ぐるみで地域のボランティア活動などに参加してきましたが、これほど大規模かつ戦争に直結した内容のボランティア活動は初めての経験です。なお私が参加した学生ボランティアチームは総勢15人から編成されていましたが、その中で理系学部の学生は私だけだったことが印象的でした。
予想とは大きく異なっていた現地の姿
ボランティア活動の拠点となったのは、ウクライナとの国境付近にあるポーランドのプシェミシェルという町です。この町に設けられた避難民用の一時滞在施設で、私たちのチームは1週間にわたって避難民の方々の受け入れ手続きや支援物資の配布などを行いました。
現地に到着してまず驚いたのは、事前に思い描いていたイメージと実際の様子が大きく異なっていたことです。事前には重苦しく悲惨な雰囲気を予想していましたが、実際に一時滞在施設を訪れると、子どもたちも元気に走り回るなどかなり明るい雰囲気だったのです。とはいえ、深夜になっても眠れずにいる子どももいて、やはり避難民の方々は大きな不安を抱えていることも後に感じました。また現地では言葉の壁があり、ウクライナ語を話せない私は当初かなり苦労しました。さらに、一口に避難民といってもその民族はさまざまであり、彼らを対象として、文化の違いや歴史を背景とした人種差別的な言動が見られたことにも大きなショックを受けました。
予想外だったという点では、自分自身についての発見もありました。ボランティア活動は昼夜二交代制の12時間連続勤務というハードなものでしたが、私は体調もメンタルも常に快調に活動できたので、自分自身の「適応力の高さ」という長所に気付くことができました。
ボランティア活動は多忙でしたが、それだけに大きなやりがいがありました。特に避難民の方々にチャイやハンバーガーなどの夜食を提供する夜間シフトでは、仲間と協力して積極的に仕事を進められ大きな達成感を得られました。子どもたちと仲良くなって皆でボール遊びをしたことも楽しい思い出です。ボランティアプログラムには近隣都市の視察なども含まれていたので、ポーランドの古都クラクフでは買い物などをして街に親しむことができました。
ボランティアで得られた2つの変化
これらの経験を通じて、私は自分自身に2つの大きな変化を感じています。
1つは、ものごとをしっかりと調べて正しい情報にたどり着けるような力を得られたことです。たとえばある情報に触れた際、以前の私だったらそれを疑ったり検証したりすることはせず、そのまま信じていたように思います。ですが今回のボランティアでは「人やメディアを通じて得ていた情報と、実態は大きく異なっていた」という経験が数多くありました。そのため現在では、何か情報に触れた時には「それは本当だろうか」とまず立ち止まって考えられるようになりました。そしてできるだけ現地に赴いたり当事者の声を聞くなどし、しっかりと一次情報に触れることを心がけるようになりました。ウクライナの状況に関しても、現地で親しくなったウクライナ人の方と連絡を取り合うことで、現在でもリアルな情報を得ています。こうして検証の重要性を学んだことで、正しい情報を得るためのスキルが得られたように思います。
もう1つは自主性を得られたことです。ボランティアの現場では明確な担当業務が決まっておらず「気付いた人が動く」スタイルだったため、自発的に仕事を見つけて達成していく経験を積みました。また着任当初は苦労していた言葉の問題に関しても、翻訳機を駆使するとともに仲間と協力して簡単なウクライナ語リストを作るなど工夫を重ね、期間後半には避難民の方々とかなりスムーズにやりとりできるようになっていました。これらの経験から私は自発的に動くことの大切さを肌で感じました。
専門分野の学びにも生きるボランティア経験
この2つの変化は「物理学」という私の専門分野の学びにも生かされています。私は宇宙の成り立ちや地球上とは異なる物理法則などに大きなロマンを感じており、将来的には宇宙物理学の学びを目指しています。本学の理工学部に入学したのも「ここでなら先進的な宇宙物理学を学べる」という理由からです。
高校までの物理学では、すでに正解の決まっている問題を解くことが学びの中心でした。しかし大学入学後は自ら研究テーマを設定し、試行錯誤しながらその解への道筋を見つけていく必要があります。この着想と検証のプロセスに「物事を調べる力」「自主性」が非常に役立っています。また授業後には自分から友人に声を掛けてミニ勉強会を開くなど、普段からも積極的に行動できるようになりました。
また、今回のボランティアを通じて語学学習の大切さも再認識しました。大学で履修した必修科目の「English Core」はスピーキングがメインなので、読み書き中心に英語を学んでいた高校時代に較べて大幅に会話力が伸びていたことを現地でも感じました。しかしながら自分の英語力に不甲斐なさを感じる場面も多かったので、さらに授業での学びを活用し、将来のためにも英語力を磨いていきたいと思います。
私がもしボランティアに参加していなかったら、さまざまなできごとに対して受け身の姿勢だったかもしれません。ですが現地での経験を通じて、自ら「知ろう、活動しよう」と行動することの大切さを学びました。これらの成長を糧に、学びの場面でも生活面においても積極的に行動していきたいと思います。
理工学部 物理科学科
青山学院大学の理工学部は数学、物理、化学といったサイエンスと、テクノロジーの基礎から最先端を学ぶ環境を整備しています。国際レベルの研究に取り組む教員のもと、最新設備を駆使した実験、演習、研究活動の場を提供するとともに、独自の英語教育を全7学科統一で実施。未来志向のカリキュラムにより、一人一人の夢と可能性を大きく広げます。
物理学はシンプルな根源原理を理解することによって、幅広い科学分野に応用できる学問です。物理科学科では基礎物理学をはじめ、固体、宇宙、生物といった対象が絞られた分野、さらには超伝導、ナノテクノロジーなどの最先端応用分野まで、さまざまな階層・スケールサイズの物理学をカバーします。充実した設備環境での実験・演習形式の授業により、理解を深め実践力を高めます。